起業きぎょうした知人ちじんから聞きいた、ずっと忘わすれられない言葉ことばがある。

同おなじように数すう年ねん後ご、社員しゃいんが家いえを買かうと言いってきた時ときにも、本気ほんきかと腰こしを抜ぬかしそうになったらしい。もちろん顔かおに出ださず、励はげましたと言いっていた。

生々なまなましい話はなしで、起業きぎょうして会社かいしゃをやっていくって本当ほんとうに大変たいへんなことだと思おもった。

片岡かたおか（堤つつみ真一しんいち）ら漁師りょうしたちから贈おくられた営業えいぎょうスーツを見みつめて、６５万まん円えんの自腹じばらを決きめた和佳わか（奈緒なお）の姿すがたに、友人ゆうじんのそんな言葉ことばを思おもい出だしていた。

食くい詰つめたシングルマザー・和佳わかがやってきた、山口やまぐち県けんのとある漁村ぎょそん・汐しおヶ崎さき。

漁獲ぎょかくが落おち、魚さかなの消費しょうひ量りょうも落おち、寂さびれゆく故郷こきょうを憂うれう漁師りょうしの片岡かたおかから、和佳わかは「浜はまの建たて直なおしが出来できるような事業じぎょうを考かんがえてほしい」と頼たのまれる。

経営けいえいの経験けいけんなし、魚さかなの知識ちしきもなし。あるのは根性こんじょうとフットワーク、そして息子むすこたちが生いきる未来みらいによりよい社会しゃかいを残のこしたいという願ねがいのみ。

そんなヒロインが奮闘ふんとうする『ファーストペンギン！』（日本にほんテレビ系けい　水曜すいよう２２時じ）。　

和佳わかは漁協ぎょきょうを通とおさずに鮮魚せんぎょを直販ちょくはんで届とどける『お魚さかなボックス事業じぎょう』を始はじめるものの、既得きとく権益けんえきを手放てばなさない漁協ぎょきょうの横槍よこやりや、漁師りょうし達たちからの反発はんぱつで事業じぎょうは一向いっこうに軌道きどうに乗のらない。

いざ直販ちょくはん事業じぎょうが始はじまると漁師りょうし達たちの魚さかなの梱包こんぽうは乱雑らんざつで、クレームとその対応たいおうで和佳わかと漁師りょうし達たちはまたしても空中くうちゅう分解ぶんかい寸前すんぜんになってしまう。

獲えった魚さかながどんな料理りょうりになるのかを見みせれば、漁師りょうし達たちのモチベーションが上あがるかもしれないと、和佳わかは全員ぜんいんの旅費りょひ６５万まん円えんを自腹じばらで借金しゃっきんして、船団せんだん丸まるの面々めんめんを高級こうきゅうフレンチに連つれて行いく。

今回こんかい、４話わではその『フレンチ出張しゅっちょう』と同時どうじ進行しんこうで、船団せんだん丸まるの漁師りょうし・山中やまなか篤あつし（梶原かじはら善よし）と、その息子むすこたくみ（上村うえむら侑）のすれ違ちがう親子おやこ関係かんけいが描えがかれる。

昭和しょうわ生うまれの漁師りょうしらしく何なにごとも深ふかく考かんがえない篤とくと、一いち度どは就職しゅうしょくしたものの、東京とうきょう暮くらしが合あわずに地元じもとに帰かえってきて根ね腐ぐされしたような生活せいかつを送おくる息子むすこのたくみ。

物語ものがたりは１０年ねん前まえの話はなしだが、おそらく日本にっぽん全国ぜんこく、今いまもどこにでもある親子おやこのありようだと思おもう。

若わかい世代せだいはSNS等とうを通とおして、地元じもとに戻もどってからも選えらべたはずなのに選えらべなかった、あるいは選えらばなかった人生じんせいを横目よこめで見みつづける。親おやの世代せだいはそんな若わかい世代せだいの焦燥しょうそうを腫はれ物もののように持もて余あます。

今回こんかいとりわけ、たくみに東京とうきょうで何なにがあったのかと問とう、若手わかて漁師りょうしの永沢ながさわ（鈴木すずき伸之のぶゆき）との会話かいわが印象深いんしょうぶかかった。

問といかける永沢ながさわに、特とくに何なにがあったわけじゃないが、東京とうきょうでの生活せいかつひとつひとつに疲つかれたのだとたくみは自嘲じちょう気味ぎみに応こたえる。

学歴がくれきや教養きょうようや社会しゃかい常識じょうしき、地元じもとの暮くらしで存分ぞんぶんに得えられなかったものが、都会とかいでの彼かれを疲弊ひへいさせたのだと思おもう。

さりとて帰かえってきても、さびれゆく土地とちの、さびれるだけの理由りゆうがもう見みえてしまっていて、やるせなさは行いき場ばがない。

地方ちほうで生いきていく若者わかものの焦燥しょうそうや、それでも捨すてられぬ愛着あいちゃくがよく描えがかれたエピソードだと思おもう。

高級こうきゅうフランス料理りょうり店てんでの魚さかな料理りょうりを通つうじて、たくみは鮮魚せんぎょボックスへの和佳わかの情熱じょうねつ（彼女かのじょはそれを『ロマン』という言葉ことばで表現ひょうげんする）と漁師りょうしたちの魚さかなへの誇ほこりに触ふれ、浜はまでの生いき方かたに小ちいさな希望きぼうを見出みいだす。

大おおきな転機てんきがあるわけではないが、ひとつひとつそこで生いきる理由りゆうを見みつけて、いつか誇ほこりになっていく。

それは土地とちの良よいところも悪わるいところも見みつめながら、地方ちほう都市としで生うまれて暮くらしていく多おおくの人々ひとびとへ、真心まごころのこもった静しずかなエールに思おもえた。

ここぞという時ときには強烈きょうれつなリーダーシップを発揮はっきする一方いっぽう、時ときに説明せつめいの言葉ことばが足たりない和佳わかと、キレやすい荒あらくれ漁師りょうしたちをつないでいるのは、まだ若わかい漁師りょうしの永沢ながさわ一希かずきである。

大おおきな体からだを縮ちぢめるように和佳わかの話はなしを聞きき、一いち晩ばん中ちゅう子供こどもに寄より添そって、時ときには親子おやこ喧嘩けんかの仲裁ちゅうさいに入はいって殴なぐられる。しかも殴なぐられても激げきすることもない。

そんな心しん優やさしい漁師りょうしに、劇団げきだんEXILEの鈴木すずき伸之のぶゆきがぴたっとはまっている。

鈴木すずき伸之のぶゆきは、昨年さくねんの『恋こいです！～ヤンキーくんと白しろ杖つえガール』（日本にほんテレビ系けい）でも、いかつい外見がいけんに反はんし、繊細せんさいで思おもいやりのある青年せいねんを好演こうえんしていた。

あの大柄おおがらな体からだからにじみ出でるような優やさしさには不思議ふしぎな説得せっとく力りょくがあり、これから物語ものがたりの中なかでどんな役割やくわりを果はたすのか、楽たのしみである。

立たち上あげの時期じきを経へて、事業じぎょうが順調じゅんちょうに走はしり出だすとき、仕入しいれや人件じんけん費ひ、経費けいひがかさみ始はじめる。

しかしもどかしいかな、それが収益しゅうえきに変かわるのは大抵たいていその少すこし後ごなのである。

和佳わかと漁師りょうしたちにも、避さけて通とおれないシビアな資金繰しきんぐりの問題もんだいが降ふりかかろうとしている。

倒たおれた自転車じてんしゃと何気なにげなく渡わたしたチラシは、この先さきどこに繋つながってくるだろうか。

幾いくつもの点てんを浮うかべ、物語ものがたりは中盤ちゅうばんに入にゅうろうとしている。

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[文ぶん・構成こうせい／grape編集へんしゅう部ぶ]