幼児ようじ二に人にんを育児いくじ中ちゅうの知人ちじんが、「あのドラマを見みていたら、子供こどもたちがチョメチョメとかニャンニャンとか覚おぼえてしまって。意味いみも分わからず面白おもしろがって連呼れんこするの。あれはチビたちのいないところで見みなきゃ」とため息いきをつくのであった。

「なるほどねえ」と頷うなずきつつ、幼児ようじの心しんを捉とらえる昭和しょうわの流行りゅうこう語ごが持もつ破壊はかい力りょくや生命せいめい力りょくに感心かんしんする。そして、その生命せいめい力りょくをあのドラマは鮮あざやかに映うつし出だしている。

言いうまでもなく、あのドラマとは昭和しょうわと令れい和わの世よを描えがくタイムスリップコメディ『不適切ふてきせつにもほどがある！』（TBS系けい　金曜きんよう２２時じ）である。

昭和しょうわ６１年ねんを生いきる中学校ちゅうがっこうの体育たいいく教師きょうし・小川おがわ市郎いちろう（阿部あべサダヲ）。生徒せいとからつけられたあだ名なは『地獄じごくのオガワ』。そのあだ名なそのままにガサツで粗暴そぼうな男おとこである。

性別せいべつ・マイノリティへの配慮はいりょは皆無かいむ、だが男気おとこぎと昔気質むかしかたぎの優やさしさはある。妻つまと５年ねん前まえに死別しべつし、高校生こうこうせいの一人娘ひとりむすめ・純子じゅんこ（河合かわい優ゆう実み）を育そだてている。

そんな小川おがわ市郎いちろうが偶然ぐうぜん現代げんだいにタイムスリップしてしまう。配慮はいりょのない小川おがわの言動げんどうは現代げんだいで騒動そうどうを引ひき起おこすが、時ときに膠着こうちゃく（こうちゃく）している現代げんだいの問題もんだいを解決かいけつする。

一方いっぽう、小川おがわとは逆ぎゃくに令れい和わから昭和しょうわにタイムスリップしている親子おやこがいた。

社会しゃかい学者がくしゃの向坂さきさかサカエ（吉田よしだ羊ひつじ）とその息子むすこのキヨシ（坂元さかもと愛あい登とう）である。

研究けんきゅうの一環いっかんでやってきたらしいサカエだが、親子おやこが現代げんだいに帰かえる間際まぎわ、純子じゅんこに一目惚ひとめぼれしたキヨシが帰かえりたくないと熱望ねつぼうして残のこることになってしまう。

それぞれの時代じだいで違ちがう価値かち観かんに困惑こんわくしつつ、小川おがわと向坂さきさか親子ちかこは様々さまざまな人々ひとびとに出会であう。

今週こんしゅうのメインテーマは、働はたらき方かた改革かいかくは本当ほんとうに人々ひとびとを幸福こうふくにしているのか、である。

令れい和わで小川おがわが出会であったのはシングルマザーの犬島いぬじま渚なぎさ（仲なか里依りえ紗しゃ）。テレビのバラエティ番組ばんぐみのアシスタントプロデューサーで育休いくきゅうから復帰ふっきしたばかりである。

育児いくじは大変たいへんだが、仕事しごとへの意欲いよくは高たかい。そんな彼女かのじょを働はたらき方かた改革かいかくによる上司じょうし・部下ぶかとの断絶だんぜつと、その分ぶんの仕事しごとのしわ寄よせが悩なやませる。

配慮はいりょされているはずなのに、なぜか苦くるしさばかりが増ふえる。

意欲いよくを持もって仕事しごとをしたくても、意欲いよくを受うけ止とめてくれる相手あいてがいない。

脚本きゃくほん家か・宮藤くどう官かん九きゅう郎ろうの鋭するどい聴覚ちょうかくは、働はたらき方かた改革かいかくの狭間はざまに落おちた人ひとたちの、言葉ことばにならない深ふかいため息いきを捉とらえたのだと思おもう。

象徴しょうちょう的てきなのが「独ひとりで抱かかえ込こまないでね」「出来できることがあったらなんでも言いってね」といった、よくある親切しんせつかつ配慮はいりょに満みちた言葉ことばである。

そう、親切しんせつだしありがたいが、現実げんじつにはあまり問題もんだいを解決かいけつしない不思議ふしぎな言葉ことばである。

その「役やくにたない」言葉ことばを、クドカンは小川おがわの一ひとつのセリフできちんと機能きのうさせる。

独ひとりで抱かかえ込こむ人ひとは希望きぼうをうまく言葉ことばに出来できないのだとしたら、それを言葉ことばにさせる為ためにスイッチを切きり替かえる。

そして他人たにんに配慮はいりょのない、距離きょり感かんの近ちかすぎる昭和しょうわの男おとこがそのスイッチになった。

最終さいしゅう的てきに「働はたらき方かたなんて自分じぶんで決きめさせろ」という結論けつろん、排はいすべきは同調どうちょう圧力あつりょくという展開てんかいは実じつに鮮あざやかで胸むね熱ねつだった。

初回しょかいで驚おどろかされたミュージカルの場面ばめんも、２話わ目めになって、不思議ふしぎと「きたきた！」という感かんじで楽たのしみになってきた。

今回こんかいは渚なぎさの元夫もとお・谷口たにぐちを演えんじた柿澤かきざわ勇人はやとがメインで朗々ろうろうと歌うたい踊おどり、突然とつぜんミュージカルが始はじまる違和感いわかんも粉々こなごなに吹ふき飛とばす豪華ごうかさだった。

このミュージカルのシーンは、公式こうしきHPにまとめてアップしてあり、作つくり手しゅの力ちからの入いれようが伝つたわってくる。

おそらくこの調子ちょうしで、回かいを追おうごとにミュージカルの場面ばめんは楽たのしみになっていくだろう。

もう一ひとつ、２話わ目めで興味深きょうみぶかく思おもったのが、令れい和わから昭和しょうわにやってきた少年しょうねん・キヨシが意外いがいなほどに昭和しょうわを楽たのしんでいる描写びょうしゃである。

純子じゅんこへの想おもいを賭かけてムッチ先輩せんぱい（磯村いそむら勇いさむ斗と）とタイマンを張はり、ダチとして認みとめられ、短たんランを譲ゆずり受うけてイケてるヤンキーにクラスチェンジ。

愉快ゆかいなムッチ先輩せんぱいを演えんじる磯村いそむら勇いさむ斗とは、こんなにコメディにハマるのかと驚おどろくほどの快かい演えんじである。

それは、SNSなんかまだどこにもない、人ひとの悪意あくいも善意ぜんいも単純たんじゅんで野蛮やばんな昭和しょうわ時代じだい。

でもその単純たんじゅんで野蛮やばんな時代じだいが変かわっていく必要ひつようがあったから、今いまの社会しゃかいがあるはずである。

そして昭和しょうわよりずっと柔やわらかで優やさしいはずの令れい和やわでも、人々ひとびとの多おおくは幸福こうふくに見みえない。

宮藤くどう官かん九きゅう郎ろうの優やさしいけれども容赦ようしゃない目めは、笑わらいと涙なみだの物語ものがたりの中なかでその一端いったんを暴あばくだろう。

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[文ぶん・構成こうせい／grape編集へんしゅう部ぶ]