吉元よしもと由美ゆみの『ひと・もの・こと』

私わたしたちがつくる二ふたつの物語ものがたり

過すぎ去さった過去かこを思おもい出だすとき、何なん度どとなくこの思おもいがよぎることがあります。「もしもあのとき…」と紐解ひもといていくと、限かぎりない人生じんせいの可能かのう性せいがあることに気きづきます。

日々ひび、この瞬間しゅんかんは選択せんたくの連続れんぞくです。コーヒーにしようか、紅茶こうちゃにしようか。これも人生じんせいの選択せんたく。この人ひとと結婚けっこんするかしないか。これも選択せんたくのひとつです。その時々ときどきに何なにを選えらんでいくか。人生じんせいの方向ほうこう性せいを決きめるのは、その時々ときどきの選択せんたくにかかっています。これが、現実げんじつに創造そうぞうする自分じぶんの物語ものがたりになります。

それともうひとつ、私わたしたちが乗のり越こえていくために創つくる物語ものがたりがあります。臨床りんしょう心理しんり学者がくしゃの河合かわい隼雄はやお先生せんせいは、生いきるためには物語ものがたりが必要ひつようであると説といています。生いきていく上うえで、どうしても受うけ入いれがたいことに遭遇そうぐうします。最もっとも受うけ入いれがたいことは、大切たいせつな人ひとの死しでしょう。河合かわい隼雄はやお先生せんせいは著書ちょしょの中なかでこのように述のべています。

４年ねん前まえ、仕事しごと仲間なかまでもあった大好だいすきな友人ゆうじんが癌がんで亡なくなりました。彼女かのじょの死しを私わたしはどうしても受うけ入いれることができなかった。胃腸いちょうの動うごきが止とまってしまい、私わたしは本当ほんとうに食たべ物ものが喉のどを通とおらなくなってしまったのです。でも、長ながい髪かみを美うつくしく巻まき、ステージに立たつときと同おなじように美うつくしくお化粧けしょうが施ほどこされた棺かんの中なかの彼女かのじょを見みたときに、少すこし受うけ入いれることができたのです。

持もって生うまれた才能さいのうを生いかして仕事しごとをし、多おおくの人ひとに感動かんどうを与あたえ、多おおくの人ひとに愛あいされて、多おおくの人ひとを愛あいした彼女かのじょの人生じんせいは、傷きずついたこともたくさんあったかもしれないけれど幸しあわせだったのではないか…。

本人ほんにんがどう思おもっていたのか、それを確たしかめる術じゅつはもうありません。でも、私わたしの中なかで湧わき上あがってきたこの思おもいは、私わたしを救すくってくれたのです。これこそが、乗のり越こえるための物語ものがたりです。「癌がんで亡なくなってしまった」という現実げんじつだけでは、人ひとは悲かなしみを越こえることはできない。その人ひとの人生じんせいと、自分じぶんの人生じんせいが触ふれ合あう物語ものがたりに思おもいを馳はせたときに見みえてくる景色けしきがあるのです。

日常にちじょうの中なかで起おこるシンクロニシティも物語ものがたりを生うみます。（これは大丈夫だいじょうぶ！と言いわれているサイン）（頑張がんばって、というエールなのだ）と思おもうことで、力ちからづけられることがあります。

選択せんたくすることで作つくっていく現実げんじつの物語ものがたり。そして、心しんを支ささえる物語ものがたりと。二ふたつの物語ものがたりを味あじわうことで、自分じぶんらしい人生じんせいという物語ものがたりをつくっていく。年齢ねんれいを重かさねるほどに、その大切たいせつさをじわじわと感かんじるのです。

※記事きじ中ちゅうの写真しゃしんはすべてイメージ

エレガントな終おわり活かつ~50歳さいから、もっと幸しあわせになる~

---

[文ぶん・構成こうせい／吉元よしもと由美ゆみ]