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エイジズム

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

エイジズムえい: ageism、agism)とは年齢ねんれいたいする偏見へんけん固定こてい観念かんねん(ステレオタイプ)(年齢ねんれい主義しゅぎともいう)と、それにもとづく年齢ねんれい差別さべつす。くににより意味合いみあいがことなる場合ばあいがあり日本にっぽんでは年次ねんじ主義しゅぎ包含ほうがんする。アメリカでは高齢こうれいしゃたいする差別さべつ老人ろうじん蔑視べっし偏見へんけん場合ばあいおおい。若者わかもの中年ちゅうねんなど年齢ねんれいそう世代せだいたいする偏見へんけんふくまれる。日本にっぽんでは高齢こうれいしゃのみではなく、若者わかもの女性じょせいたいするあつかいも年齢ねんれい年次ねんじにより軽視けいしされる傾向けいこうがある。組織そしきにおいては年功序列ねんこうじょれつ制度せいどがある。

後述こうじゅつするように、1928ねんにアメリカで提唱ていしょうされた「年齢ねんれい差別さべつ(age discrimination)」は雇用こようにおける年齢ねんれい問題もんだい対象たいしょうにしていたため、エイジズムとは区別くべつされる。世界せかい高齢こうれいすす高齢こうれいしゃがマイノリティではなくなった最近さいきんでは、2020ねん12月に国連こくれん総会そうかい採択さいたくされた SDGsだいはん"SDGs 2nd edition,the decade of Healthy Aging2021-2030” においてずはじめにエイジズムとたたかうことが言及げんきゅうされており、高齢こうれいしゃ雇用こよう推進すいしんのほか生涯しょうがいにおける心身しんしん健康けんこうのための活動かつどう推奨すいしょうされている。

定義ていぎ

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エイジズムとは、老年ろうねん医学いがくしゃロバート・バトラー(Robert N Butler)により1969ねん提唱ていしょうされた言葉ことばである。人種じんしゅ差別さべつ主義しゅぎ(レイシズム)やセクシズムならって名付なづけたものである。人口じんこう構成こうせいにおける高齢こうれいしゃ割合わりあいひくかった当時とうじとしをとっているという理由りゆう高齢こうれいしゃたちを組織そしきてきひとつのかたにはめ差別さべつすること」と定義ていぎした。そして、当時とうじエイジズムは以下いかの3つの要素ようそのコンビネーションで構成こうせいされた。

  • 老人ろうじん老齢ろうれい老化ろうかについての偏見へんけんてき態度たいど
  • 老人ろうじんたいする差別さべつてき習慣しゅうかんてき行為こうい
  • 老人ろうじんたいするステレオタイプを存続そんぞくさせる制度せいどやポリシー

たとえば、高齢こうれいしゃ性欲せいよくがなく性的せいてき問題もんだいとは無関係むかんけいであるといった言説げんせつや、個々人ここじん能力のうりょくかんがみず年齢ねんれい理由りゆう役職やくしょく退しりぞくべき、運転うんてん免許めんきょ返納へんのうさせるべきといった言説げんせつがエイジズムに相当そうとうする。また、老年ろうねん社会しゃかい学者がくしゃアードマン・B・パルモア英語えいごばんは、医療いりょう無償むしょう制度せいどのように、高齢こうれいであることを条件じょうけん優遇ゆうぐうすることもエイジズムであるとべ、前者ぜんしゃ否定ひていてきエイジズム、後者こうしゃ肯定こうていてきエイジズムとんだ[1]

ひろ意味いみでは、個々人ここじんがもつ個性こせい人間にんげんせい無視むしして、年齢ねんれい付随ふずいする固定こてい観念かんねん(ステレオタイプ)や年齢ねんれい規範きはん(age norm)をもとに個人こじんまたはある一定いってい年齢ねんれい集団しゅうだんいちめんてきとらえること。また、その観念かんねんもとづく差別さべつ行為こういえる。

特色とくしょく

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エイジズムの具体ぐたいてき特色とくしょくとして、まず心身しんしん能力のうりょくたいする否定ひていてき見方みかた仕事しごとおそい・不正確ふせいかくである、認知にんち能力のうりょく問題もんだいがあるひとし)があるが、研究けんきゅうによってだい多数たすう高齢こうれいしゃ記憶きおくりょく判断はんだんりょく正常せいじょうであることが証明しょうめいされている[1]。また、かんがかた古風こふう頑固がんこであるといった心理しんりてき側面そくめんのステレオタイプがあるが、これらはパーソナリティ指向しこうせい影響えいきょうおおきく、すべてが老化ろうかによってしょうじるものとはいがたい[1]

高齢こうれいしゃおおくを一方いっぽうてき経済けいざいてき困窮こんきゅうしゃ做しあわれむ風潮ふうちょうや、メディアのなかでステレオタイプてき高齢こうれいしゃ嘲笑ちょうしょうてきえが言葉ことばのエイジズムもおおられる現象げんしょうである[1]。エイジズムは、年齢ねんれいよわい障害しょうがいときには性的せいてき意味いみむすびつけることによってしょうじる場合ばあいもある。パルモアは高齢こうれいしゃ同士どうし結婚けっこんする場合ばあいしょうじる家族かぞく反応はんのうれいに、高齢こうれいしゃ恋愛れんあいせいたいする偏見へんけん差別さべつ最大さいだいのエイジズムであるとべている[1]

また差別さべつことなるてんは、差別さべつ対象たいしょうしゃが、固定こていてきではなく時間じかん経過けいかよわい)とともに差別さべつするがわから差別さべつされる立場たちばになる可能かのうせいつという特色とくしょくがある。

近年きんねんには、カリシュ(Richard A Kalish ,PhD)が主張しゅちょうする「New Ageism」つまり福祉ふくし医療いりょうにおけるサービス提供ていきょうしゃによる高齢こうれいしゃたいするネグレクトや、あかちゃん言葉ことばエルダースピーク英語えいごばん、パトロナイジングスピーチ[2])を発生はっせいさせる思考しこう形式けいしき対応たいおう注目ちゅうもくされつつある[3]

医療いりょう現場げんばにおけるエイジズム

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病院びょういんなどにおいて、看護かんご高齢こうれい患者かんじゃたいし「おじいちゃん、おばあちゃん」とびかけたり,子供こども相手あいてのようにはなしかけたりする場面ばめんおおくみられる。場合ばあいによっては「言葉ことばによる暴力ぼうりょく」となりうるが,実際じっさい医療いりょう従事じゅうじしゃにはエイジズムとは認識にんしきされていないことがおおい。老人ろうじん相手あいてだからと看護かんごがタメこう赤子あかご言葉ことば使つかってよいとめつけることは、典型てんけいてきなエイジズムとえる。このような言葉ことばづかいは2010年代ねんだいなかばの時点じてんすで本来ほんらい介護かいご現場げんばなどであってはならないことと否定ひていされている[4]。さらに、お年寄としよりだからといって過剰かじょう世話せわをしぎることによって、ぎゃく患者かんじゃ自主じしゅせいそこない、治療ちりょう回復かいふくさまたげとなってしまうれいなどがげられる[5]

研究けんきゅうでは、看護かんご高齢こうれいしゃとの接触せっしょく経験けいけんすくないなかで、専門せんもんしょく養成ようせいこう卒業そつぎょうしたらすぐに現場げんば障害しょうがい高齢こうれいしゃせっするような環境かんきょうにおいて、「元気げんきだったころ」の姿すがたがきわめてイメージしにくいため、看護かんご実習じっしゅう時点じてんから否定ひていてき老人ろうじんかん強化きょうかされていくという。実践じっせん現場げんばにおけるエイジズムをなくすためには、日常にちじょうてき障害しょうがい高齢こうれいしゃおおせっする専門せんもんしょくほど、高齢こうれいしゃたいする否定ひていてき偏見へんけんをもちやすい傾向けいこうがあることを専門せんもんしょくみずからがよく認識にんしきしておく必要ひつようがある[6]

ほう制度せいど

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厚生こうせい労働省ろうどうしょうは、平成へいせい28ねん4がつ1にち、「障害しょうがいしゃ差別さべつ解消かいしょうほうもとづく対応たいおう要領ようりょう対応たいおう指針ししんについて」のなか医療いりょう関係かんけい事業じぎょうしゃけガイドラインを公開こうかいした[7]。そのなかで、看護かんごなどの医療いりょう関係かんけいしゃが(病気びょうきやケガをしている=障害しょうがいをもつ)患者かんじゃたいして、

  • 本人ほんにん無視むしして、支援しえんしゃ介助かいじょしゃ付添つきそいしゃのみにはなしかけること
  • 大人おとな患者かんじゃたいして、幼児ようじ言葉ことばせっすること
  • わずらわしそうな態度たいどや、患者かんじゃきずつけるような言葉ことばをかけること
  • 診療しんりょうとうたって患者かんじゃ身体しんたいへの丁寧ていねいあつかいをおこたること

差別さべつみとめ、法律ほうりつ違反いはんとした。

年齢ねんれい差別さべつ(Age discrimination)との相違そうい

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欧米おうべいでは、ageismとage discriminationことなった意味いみ使つかわれている[8]

年齢ねんれい差別さべつage discrimination)という言葉ことばは、20世紀せいき初頭しょとうにはすでに使つかわれており、1927ねん9月27にちづけニューヨークタイムスかみ`YEARS PROVEHANDICAP TOWOMEN IN BUSINESS’における記事きじることができる。そこではおも女性じょせいかんして年齢ねんれいわかものしょくについているため、連邦れんぽう当局とうきょく年齢ねんれいよりもはたらもの個性こせい能力のうりょく重視じゅうしすべきことがべられている。こうしたてんから欧米おうべいでは、一般いっぱんage discriminationおも雇用こよう問題もんだいから使つかわれはじめた用語ようごであるため、経済けいざいてき意味合いみあいで使つかわれる傾向けいこうがある。

それにたいし1969ねん提唱ていしょうされたエイジズムは、当時とうじさらに複雑ふくざつした年齢ねんれい問題もんだい対応たいおうしてまれた概念がいねんといえる。現代げんだいでは ‘ism’ つまり個人こじんてき固定こてい観念かんねんなどをもと雇用こよう問題もんだいばかりでなく、社会しゃかいてき文化ぶんかてきさらに個人こじんてき領域りょういきまでのよりひろ意味いみ使つかわれている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b c d e 日本にっぽん老年ろうねん行動こうどう学会がっかいへん)『高齢こうれいしゃの「こころ」事典じてん中央ちゅうおう法規ほうき 2000ねん ISBN 4-8058-1895-6 pp.384-385.
  2. ^ 池田いけだ理知りち五十嵐いがらし紀子のりこへん)『よくわかるヘルスコミュニケーション』 ミネルみねるァ書房ぁしょぼう <やわらかアカデミズム<わかる>シリーズ> 2016ねんISBN 978-4-623-07786-1 pp.70-71.
  3. ^ Richard A Kalish The new ageism and the failure models: A polemicThe Gontrogical society of America 1979
  4. ^ イノウ『世界一せかいいちわかりやすい 介護かいご業界ぎょうかいのしくみとながれ だい4はん』(2015ねん、ソシム)ISBN 978-4-883-37986-6
  5. ^ Peron, Emily P.; Ruby, Christine M. (2011–2012). “A primer on medication use in older adults for the non-clinician”. Generations. 
  6. ^ エイジズムと社会しゃかい福祉ふくし実践じっせん 専門せんもんしょく高齢こうれいしゃかん実践じっせんへの影響えいきょう 北海道大学ほっかいどうだいがく大学院だいがくいん教育きょういくがく研究けんきゅう博士はかせ 2018ねん7がつ8にち閲覧えつらん
  7. ^ 障害しょうがいしゃ差別さべつ解消かいしょうほうもとづく対応たいおう要領ようりょう対応たいおう指針ししんについて 医療いりょう関係かんけい事業じぎょうしゃけガイドライン 2018ねん7がつ8にち閲覧えつらん
  8. ^ John Macnicol Age Discrimination - An historical and contemporaary analysis Cambridge university press 2006 p6〜p7

関連かんれん項目こうもく

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