ゲッツ・ヴェルナー

ゲッツ・ヴェルナー（Götz Wolfgang Werner、ゲッツ・W・ヴェルナー、1944年ねん2月がつ5日にち - 2022年ねん2月がつ8日にち）は、ドイツの実業じつぎょう家か。ハイデルベルク生うまれで、ドラッグストア・チェーン「デーエム」の創業そうぎょう者しゃ、監査かんさ役やく。デーエムの最高さいこう経営けいえい責任せきにん者しゃを35年間ねんかん務つとめる。2003年ねん10月がつ以後いご、カールスルーエ大学だいがくの「起業きぎょう者しゃ精神せいしん育成いくせいのための学部がくぶ横断おうだん研究所けんきゅうじょ」で教鞭きょうべんをとる。また、EHI小売こうり研究所けんきゅうじょの会長かいちょう、GLS銀行ぎんこうの監査かんさ役やくでもある。

企業きぎょう家か

ゲッツ・ヴェルナーは、薬剤師やくざいしが続つづく家いえの三さん代目だいめの第だい五ご子しとして生うまれた。プロイセン出身しゅっしんの彼かれの母ははは、大学だいがくで心理しんり学がくを学まなんだ。ヴェルナーは、コンスタンツのボーデン湖このそばのビジネススクールに通とおったのち、1961年ねんから1964年ねんまで薬剤師やくざいしの教育きょういくを受うけた。ハイデルベルクでボート競技きょうぎを始はじめ、休やすみにはボートを漕こぐようになったが、熱中ねっちゅうのあまり、最終さいしゅう的てきには1963年ねんの二人ふたり乗のり漕艇そうていのドイツ選手権せんしゅけんに出場しゅつじょうするまでになった。その後ご、いくつかのマーケティング企業きぎょうで徹底的てっていてきに専門せんもん的てきな経験けいけんを得えたのち、1968年ねんにハイデルベルクにある両親りょうしんのドラッグストアに入社にゅうしゃした。しかし、家業かぎょうは倒産とうさんしたので、カールスルーエの大だいドラッグストア・カルロスで働はたらき始はじめた。ヴェルナーは、売うり上あげを立たて直なおした後のち、経験けいけんある専門せんもん家かとして、ディスカウント販売はんばいの原理げんりを導入どうにゅうすることを経営けいえい者しゃに提案ていあんしたが、彼かれの革新かくしん的てきなアイデアは却下きゃっかされた。

彼かれは経営けいえい者しゃの下したから去さり、自分じぶんでビジネスを始はじめた。1973年ねんに、カールスルーエで、彼かれの最初さいしょのドラッグストアを設立せつりつした。新あたらしい会社かいしゃの名前なまえは、"Drogeriemarkt" (薬屋くすりや市場いちば) の略りゃくデーエムから取とった。1976年ねん、ヴェルナーはオーストリアに進出しんしゅつし、現在げんざいは、漕艇そうていでペアを組くんでいたギュンターバウアーがデーエム-オーストリアを率ひきいている。1978年ねんにはドイツ国内こくないに100店舗てんぽ以上いじょうを有ゆうしていた。2007/2008年度ねんどには、ヨーロッパ9カ国かこくで2024支店してんを数かぞえるまでになった。デーエムは約やく30700名めいの従業じゅうぎょう員いんを抱かかえ、2007/2008年度ねんどの売うり上あげは47億おくユーロである。2005年ねんに、マネージャーマガジン誌しは、ヴェルナーの資産しさんが10億おく5千せん万まんユーロあり、ドイツの長者ちょうじゃ番付ばんづけで78位いにあたると見積みつもった。2003年ねん、ヴェルナーは、ラインホルト・ヴュルトの後継こうけいとして、カールスルーエ大学だいがくの起業きぎょう者しゃ精神せいしん育成いくせいのための学部がくぶ横断おうだん研究所けんきゅうじょの教授きょうじゅに任命にんめいされた。2008年ねん5月がつにヴェルナーはデーエムの執行しっこう役員やくいんから監査かんさ役やくに退しりぞいている。デーエムに27年ねん務つとめたエーリッヒハルシュが後任こうにんに就ついた。ヴェルナーの長男ちょうなんクリストフ（1973年ねん生うまれ）と、デーエムの初期しょきの取締役とりしまりやくは、アメリカのグラクソスミスクライン製薬せいやく会社かいしゃの監査かんさ役やくに残のこる。これは、デーエムが「世襲せしゅうの会社かいしゃではない」ことを示しめすためである。ヴェルナーは再婚さいこんしており、妻つまベアトリスとの間あいだに７人にんの子供こどもがいる。

しかし2022年ねん2月がつ8日にち、76歳さいにて死去しきょした。

ビジネスコンセプト

まず、ヴェルナーは、食料しょくりょう品ひんのディスカウントストアのやり方かた（セルフサービス、まとめ買がいするほど安やすく売うる)をドラッグストアに適用てきようして大おおきく拡大かくだいした。1973年ねんに、ドラッグストアの商品しょうひんの安売やすうり規制きせいが廃止はいしされ、チャンスが到来とうらいした。そのようなときには、組織そしきは革新かくしん的てきで果敢かかんなものだったが、次第しだいに官僚かんりょう主義しゅぎと組織そしきの硬直こうちょく化かが進すすんでいることがわかってくる。1990年代ねんだい初はじめには、ヴェルナーは徐々じょじょに、組織そしきを改革かいかくしていった。支店してんの責任せきにんと自律じりつ性せいはより高たかめられた。今日きょうでは、デーエムの支店してんは、品しな揃そろえ、勤務きんむ計画けいかくから上司じょうしの一部いちぶそして給与きゅうよをまでも自みずからで決定けっていする。従業じゅうぎょう員いんに意思いし決定けっていの裁量さいりょうを与あたえたという柔軟じゅうなん性せいが、低てい価格かかくで競争きょうそう力りょくのある製品せいひんと、さらには従業じゅうぎょう員いんと顧客こきゃくの満足まんぞく度どの高たかさにつながっているとアナリストは分析ぶんせきする。

彼かれのこの驚おどろくべき経営けいえい方針ほうしんは、全国ぜんこく的てきな注目ちゅうもくを浴あびた。ヴェルナーが強調きょうちょうする、非ひ権威けんい的てきなリーダーシップの概念がいねんは、理解りかいと尊重そんちょうの価値かち観かんに基もとづいており、内部ないぶでは「対話たいわによるリーダーシップ」と呼よばれている。対話たいわは命令めいれいより好このまれるのだ。従業じゅうぎょう員いん間あいだの協力きょうりょくを促進そくしんし、同時どうじに人格じんかく形成けいせいにも役立やくだつ、ヴェルナーのこの驚おどろくべき方法ほうほうの底そこには「新あたらしいアイデアに寛容かんように」という考かんがえがある。とりわけ労働ろうどう心理しんり学がく上じょうの研究けんきゅうによれば、ほとんどの職場しょくばいじめの被害ひがい者しゃは、「新あたらしい経験けいけんにオープン」だったという驚おどろくべき事実じじつが確認かくにんされている。初はじめてデーエムに来きた店長てんちょうは、この変化へんかに対応たいおうするのに面食めんくらう。ヴェルナーは人格じんかく形成けいせいの原則げんそく、自信じしんと創造そうぞう事業じぎょう理念りねんを唱となえる公然こうぜんの人智じんち学者がくしゃである。だからこそ、彼かれは、従業じゅうぎょう員いんに関かんして重要じゅうようなことは人件じんけん費ひでなく、「賃金ちんぎんを伴ともなった」「創造そうぞう的てきな仕事しごと」をしているかどうかである、と信しんじている。そして、報奨ほうしょう金きんや賞与しょうよの仕組しくみは、従業じゅうぎょう員いんのモチベーションに永続えいぞく的てきな「不信ふしん感かん」を植うえ付つけると信しんじている。しかし、四半期しはんき末まつごとに、その計画けいかくが達成たっせいされたか上回うわまわった支店してんの従業じゅうぎょう員いんに、可変かへん額がくのいわゆる「期末きまつ成果せいか報奨ほうしょう金きん」を支払しはらっている。

いくつかの賞しょうを受賞じゅしょうしている彼かれの訓練くんれんのコンセプトには特徴とくちょうがある。全すべての研修生けんしゅうせい（ヴェルナーは<<研修けんしゅう状態じょうたい>>と呼よぶ）は8日間にちかん2回かいのシアタープロジェクトを受講じゅこうする。そこでは、専門せんもん家かの支援しえんを受うけながら、「共同きょうどう作業さぎょうとコミュニケーションに関かんするスキル、問題もんだい解決かいけつ能力のうりょく、他者たしゃへの共感きょうかん、目標もくひょうの策定さくていおよび柔軟じゅうなんな行動こうどう」の練習れんしゅうを行おこなう。この目標もくひょうは、この「学習がくしゅうする組織そしき」によって実現じつげんされるビジネスモデルに慣なれることである。それは、絶たえず変化へんかする市場いちばに対たいして、安定あんていして柔軟じゅうなんかつ効率こうりつ的てきに行動こうどうするためである。情熱じょうねつ的てきな漕こぎ手しゅヴェルナーは、「恒久こうきゅう的てきな急流きゅうりゅう」を乗のり切きる方法ほうほうをわかりやすく示しめしている。

ヴェルナーの事業じぎょう計画けいかくや、無条件むじょうけんのベーシックインカムについての考かんがえに対たいする、メディアの好意こうい的てきなコメントは次つぎのようなものだ。

"ああ、大だい成功せいこうを夢見ゆめみ、行動こうどうしそして収おさめたデーエムを率ひきいたゲッツ・ヴェルナーのような人ひとが政府せいふにいたらどんなに素敵すてきなことだろう" - Tagesspiegel, 2006年ねん6月がつ24日にち "ゲッツ・ヴェルナーは人気にんき者しゃ。彼かれが話はなすことになれば、ホールは満員まんいんになる - ハンブルクもシュトゥットガルトもベルリンも"。- die tageszeitung, 2006年ねん11月27日にち

社会しゃかい貢献こうけん

自身じしんが1982年ねんにそのコンセプトを発明はつめいした、ドイツにおける無条件むじょうけんのベーシック・インカムを支持しじしている。ベーシックインカムの財源ざいげんは、段階だんかい的てきに廃止はいしされる所得しょとく税ぜいと、それに同期どうきして50%以上いじょうに増税ぞうぜいされる「消費しょうひ税ぜい」としての付加ふか価値かち税ぜいに求もとめる。2005年ねん11月に彼かれは将来しょうらいのための新あらたなイニシアティブ事業じぎょうを設立せつりつした。

福祉ふくしや文化ぶんかへの貢献こうけん

ヴェルナーは、ヘルマンヘッセ賞しょう、エジプト・アレキサンドリアのストリートチルドレンのためのデイセンターあるいはシェルター、子供こどものための無料むりょうの音楽おんがくレッスンなどの文化ぶんか的てき社会しゃかい的てきプロジェクトを助成じょせいしている。

著書ちょしょ

• 『ベーシック・インカム　基本きほん所得しょとくのある社会しゃかいへ』（現代書館げんだいしょかん、2007年ねん）
• 『すべての人ひとにベーシック・インカムを』（現代書館げんだいしょかん、2009年ねん）