ジャック・アダマール

ジャック・アダマール

ジャック・サロモン・アダマール（Jacques Salomon Hadamard、1865年ねん12月8日にち - 1963年ねん10月17日にち）は、フランスの数学すうがく者しゃである。1896年ねんに素数そすう定理ていりを証明しょうめいしたことで知しられる。

経歴けいれき

アダマールはフランスの高等こうとう師範しはん学校がっこうで、エミール・ピカールのもとで学まなんだ。歴史れきし的てきにユダヤ人じんであったアダマールは、義兄ぎけいであったアルフレド・ドレフュスの冤罪えんざい事件じけん（いわゆるドレフュス事件じけん）に個人こじん的てきに関かかわった。これ以降いこう政治せいじ的てきな活動かつどうを行おこなうようになり、ユダヤ運動うんどうに対たいする忠実ちゅうじつな支持しじ者しゃとなった（ただし、彼かれ自身じしんは無む神かみ論ろん者ものであることを告白こくはくしている）。

アダマールは、1896年ねんからボルドー大学だいがく教授きょうじゅ、1909年ねんコレージュ・ド・フランス、ソルボンヌ大学そるぼんぬだいがく教授きょうじゅを務つとめ、1912年ねんからエコール・ポリテクニーク、1920年ねんからエコール・サントラル・パリで教鞭きょうべんを執とった。

彼かれは偏へん微分びぶん方程式ほうていしきの理論りろんにおいて、適切てきせつ問題もんだいのアイデアを導入どうにゅうした。また体積たいせきに関かんするアダマールの不等式ふとうしき、またアダマール変換へんかんやアダマール行列ぎょうれつにもその名なを残のこしている。量子りょうし計算けいさんにおけるアダマール・ゲートもこの行列ぎょうれつを用もちいる。

彼かれの学生がくせいには、モーリス・フレシェ、ポール・レヴィ、シュレーム・マンデルブロ、アンドレ・ヴェイユらがいる。

創造そうぞう性せいについて

著書ちょしょ『数学すうがくにおける発明はつめいの心理しんり』で、アダマールは数学すうがく的てき思考しこうプロセスを記述きじゅつするために（心理しんり学がく研究けんきゅうの方法ほうほうとしての）内観ないかんを用もちいた。言語げんごと認識にんしきを識別しきべつする他ほかの著者ちょしゃと異ことなり、彼かれは自身じしんの数学すうがく的てき思考しこうを言葉ことばを用もちいずに、しばしば問題もんだいに対たいする解法かいほう全体ぜんたいを表現ひょうげんするイメージを伴ともなって表現ひょうげんしている。彼かれは1900年ねん当時とうじの指導しどう的てきな物理ぶつり学者がくしゃ100人にんに対たいして、彼かれらがどのように自分じぶんの業績ぎょうせきを成なし得えたかを調査ちょうさした。多おおくの回答かいとうはアダマールの方法ほうほうと全まったく同おなじであり、また数学すうがく的てき概念がいねんを色いろとして捉とらえているという回答かいとうもあった。

アダマールはカール・フリードリッヒ・ガウスやヘルマン・フォン・ヘルムホルツ、アンリ・ポアンカレといった数学すうがく者しゃ／理論りろん物理ぶつり学者がくしゃの経験けいけんを、「突如とつじょとして自身じしんの内うちから沸わき上あがってくるもの」として完全かんぜんな解法かいほうを認識にんしきできた結果けっか、と表現ひょうげんしている。同様どうようの主張しゅちょうはデニス・ブライアン、G. H. ハーディ、ファン・デル・ヴェルデン、ハロルド・リュエグ、アウグスト・ケクレ、ニコラ・テスラなど多おおくの著述ちょじゅつでも見みられる。

アダマールは5段階だんかいからなるグレアム・ウォーラスの創造そうぞう過程かていモデルのうち、4つのステップを持もつような思考しこう過程かていを記述きじゅつした。このうち最初さいしょの3段階だんかいは、ヘルムホルツによっても提唱ていしょうされている。

• 準備じゅんび段階だんかい
• 孵化ふか段階だんかい
• 啓示けいじ段階だんかい
• 検証けんしょう段階だんかい

著名ちょめいな精神せいしん科か医いカール・ユングの同僚どうりょうであったマリー＝ルイーズ・フォン・フランツは、このような無意識むいしき下かでの科学かがく的てき発見はっけんにおいて、「常つねに繰くり返かえされる重要じゅうような要素ようそは、（中略ちゅうりゃく）完璧かんぺきな解法かいほうが直感ちょっかん的てきに認識にんしきされるという同時どうじ性せいであり、それは後のちに（直感ちょっかん的てきにではなく）論証ろんしょう的てきに検証けんしょうされる」と述のべている。彼女かのじょはユングの「元もと型かたは（中略ちゅうりゃく）それらがイメージやアイデアを組織そしき化かする能力のうりょくを通つうじてのみそれら自身じしんを明示めいじし、それは常つねに、後のちになって初はじめてわかるような無意識むいしきの過程かていである」という言葉ことばに基もとづき、「元もと型かたもしくはイメージ」として解法かいほうが示しめされると考かんがえた。

著作ちょさく

• Jacques Hadamard, The Psychology of Invention in the Mathematical Field (Dover, 1954) ISBN 0-486-20107-4 (Princeton University Press, 1945)
  • 邦訳ほうやく『数学すうがくにおける発明はつめいの心理しんり』 ISBN 4622051389
• Jacques Hadamard, The Mathematician's Mind: The Psychology of Invention in the Mathematical Field (Princeton, 1996) ISBN 0-691-02931-8

関連かんれん項目こうもく

• カルタン–アダマールの定理ていり
• コーシー-アダマールの定理ていり
• アダマール積せき
• アダマール力学りきがく系けい
• アダマールの不等式ふとうしき
• アダマールの三さん円えん定理ていり
• アダマール多様たよう体たい
• アダマール行列ぎょうれつ
• アダマール空間くうかん
• オストロフスキー-アダマールの空隙くうげき定理ていり
• アダマール有限ゆうげん部分ぶぶん積分せきぶん

References

• Denis Brian Einstein: A Life (John Wiley and Sons, 1996) ISBN 0-471-11459-6
• C. G. Jung The Collected Works of C. G. Jung. Volume 8. The Structure and Dynamics of the Psyche. (Princeton, 1981) ISBN 0-691-09774-7
• Robert Kanigel The Man Who Knew Infinity: A Life of the Genius Ramanujan (Washington Square Press, 1992) ISBN 0-671-75061-5
• Marie-Louise von Franz, Psyche and Matter (Shambhala, 1992) ISBN 0-87773-902-1