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つよいきおいおと

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

つよいきおいおと英語えいご: emphatic consonants)とは、セム特徴とくちょうてき子音しいんぐんで、言語げんごによって咽頭いんとう(または軟口蓋なんこうがい)した子音しいん、または放出ほうしゅつおんとしてあらわれる。日本語にほんご名称めいしょう一定いっていせず、強調きょうちょうおんつよおん[1]などともばれる。

セム語学ごがく用語ようごであって、音声おんせいがく用語ようごではない。

ラテン・アルファベットで表記ひょうきする場合ばあいは、実際じっさいにどう発音はつおんされるかにかかわらず、慣習かんしゅうとして ṣ ṭ のように文字もじしたドットくわえることでつよいきおいおとあらわす(ドットをくわえた文字もじがすべてつよいきおいおとあらわすわけではない)。

アラビア[編集へんしゅう]

フスハーでは (ص‎)、(ط‎)、(ظ‎)、(ض‎)、q(ق‎) の5つがつよいきおいおとである[1]。このうち q口蓋垂こうがいすいおんであり、それ以外いがいの4つは咽頭いんとう(または軟口蓋なんこうがい)をともなう子音しいんである。

本来ほんらいそれぞれ [ð][(d)ɮ]咽頭いんとうしたおとであった[2]

伝統でんとうてき名称めいしょうでは咽頭いんとうにあたる発音はつおんをタフヒーム(تفخيم‎)とぶが、これは [x ɣ]ふくむ。また qのぞく4つの咽頭いんとう子音しいんをムトバカ(مطبقة‎、おおわれたおと)とぶ。

国際こくさい音声おんせい記号きごうでは、以下いかのいずれかのかた表記ひょうきする(ただし q はそのまま [q]しるす)。

  • 咽頭いんとうまたは軟口蓋なんこうがいをあらわす記号きごう使つかって [ᵴ][ᵵ] のようにく。
  • 咽頭いんとうをあらわす記号きごう使つかって [sˤ][tˤ] のようにく。
  • 軟口蓋なんこうがいをあらわす記号きごう使つかって [sˠ][tˠ] のようにく。

アーンミーヤでは、通常つうじょう 区別くべつはされず、方言ほうげんによって [dˤ] または [ðˤ] のどちらかに発音はつおんされる(フスハーからの借用しゃくようのぞく)。マルタには咽頭いんとうおと存在そんざいしない。

ヘブライ[編集へんしゅう]

ヘブライつよいきおいおと文字もじうえでは q(ק‎)、(ט‎)、(צ‎) の3種類しゅるいがあるが、現在げんざいのヘブライではたん[k][t][ts]発音はつおんされる。中世ちゅうせいティベリアしき発音はつおんではアラビア同様どうよう咽頭いんとうおとであったようである。古代こだいにどのようなおとであったかはあきらかでないが、動詞どうしのヒトパエルがた再帰さいき相互そうご動作どうさあらわす)で、だいいち語根ごこん場合ばあいt同化どうかして になる現象げんしょうからかんがえて、やはり咽頭いんとうおとであった可能かのうせいたかい。

現代げんだいアラム[編集へんしゅう]

現代げんだいアラムには、子音しいんレベルではなく単語たんごレベルで咽頭いんとうきる方言ほうげんがある[3]

アムハラみなみアラビア[編集へんしゅう]

アムハラなどのエチオピア・セム諸語しょごでは、つよいきおいおと放出ほうしゅつおんとしてあらわれる。この特徴とくちょうふるくからられていたが、隣接りんせつするクシ影響えいきょうによるものとかんがえられることがおおかった。しかしクシ隣接りんせつしない現代げんだいみなみアラビア諸語しょごでも放出ほうしゅつおんあらわれることから、現在げんざいではふるくからある特徴とくちょうかんがえられるようになってきている。

エチオピアのしょ言語げんごでは [kʼ] [tʼ]ひろくみられ、[sʼ]おおくの言語げんごられる[4][pʼ]ゲエズアムハラなどにられるが、おおくはギリシアからのふる借用しゃくようであり、セム祖語そごにはさかのぼらない。ゲエズには [dʼ]正確せいかくおと不明ふめい、アラビア対応たいおう)もあるが、アムハラなどの現代げんだいエチオピア諸語しょごでは [sʼ] または [tʼ]変化へんかしている[5]

アッカド[編集へんしゅう]

アッカドつよいきおいおとがどのように発音はつおんされていたかはあきらかでないが、おな語根ごこんのなかに2つのつよいきおいおとがある場合ばあい、アッカドでは1つをのぞいてつよいきおいおとになるという特徴とくちょうがあるため、つよいきおいおと咽頭いんとう子音しいんではなく放出ほうしゅつおんであった可能かのうせいたか[6]

ベルベル[編集へんしゅう]

ベルベルはセムではないが、セムとおなじアフロ・アジア語族ごぞくぞくし、アラビア同様どうよう咽頭いんとう子音しいんつ。

セム祖語そご[編集へんしゅう]

セム祖語そごでは、アラビア同様どうように5種類しゅるいつよいきおいおとがあったとかんがえられる。伝統でんとうてきなセム祖語そごさい構では、そのおともアラビアのものとよくたものがかんがえられており、たとえばベルクシュトレッサーは θしーた̣ δでるた̣ ṣ qδでるたðおなじ)の 5つのつよいきおいおとてており、アラビアθしーた̣ に、δでるた̣わっただけである[7]。ただしこのさい構には θしーた̣ δでるた̣ にのみゆうごえ無声むせい対立たいりつがあるという不自然ふしぜんさがのこる。

最近さいきんではアラビアはヘブライ・アラムなどとおな中央ちゅうおうセムぞくし、セム祖語そごたいする改新かいしんおおいとかんがえられるようになってきた。つよいきおいおとかんしても咽頭いんとうきるのが中央ちゅうおうセムだけであることから、放出ほうしゅつおん本来ほんらいで、咽頭いんとうあたらしいとかんがえられる。また、アラビア摩擦音まさつおん一部いちぶやぶおと由来ゆらいし、さらにアラビア ふるくは側面そくめん摩擦音まさつおんまたは側面そくめんやぶおとだったとかんがえられるようになった。ヒューナーガードはセム祖語そごつよいきおいおとt' θしーた' tɬ' ts' k'さい構している[8]θしーた' tɬ'ð' dɮ'かれることもあるが、つよいきおいおとゆうごえ無声むせい対立たいりつはないのでおなじことになる)。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 言語げんごがくだい辞典じてん』の「セム語族ごぞく」のこう
  2. ^ 言語げんごがくだい辞典じてん』の「アラビアしょ方言ほうげん」のこう、p.474
  3. ^ Odisho, Edward Y. (1988). The Sound System of Modern Assyrian (Neo-Aramaic). Otto Harrassowitz Verlag. p. 146 
  4. ^ 言語げんごがくだい辞典じてん』の「エチオピア・セム諸語しょご」のこう
  5. ^ 言語げんごがくだい辞典じてん』の「ゲエズ」のこう
  6. ^ 言語げんごがくだい辞典じてんまき6 術語じゅつごへんの「異化いか」のこう
  7. ^ Bergsträsser, Gotthelf (1928). Einführung in die semitischen Sprachen. Sprachproben und Grammatische Skizzen. Max Hueber 
  8. ^ Huehnergard, John (1995). Semitic Languages. Civilizations of the Ancient Near East. 4. Charles Scribner's Sons. pp. 2117-2134. http://www.academia.edu/234637/1995_Semitic_Languages