復原ふくげん性せい

復原ふくげん性せい（ふくげんせい）とは、ヨットをはじめとする船舶せんぱくにおいて、波なみや風ふうの力ちから、旋回せんかい時じの遠心えんしん力りょくで船体せんたいが傾かたむけられた際さいに、どの程度ていどの角度かくどまで転覆てんぷくせずに持もちこたえ、外部がいぶからの応力おうりょくが減げんじた際さいにもとの姿勢しせいに復元ふくげん出来できるかを示しめす言葉ことば。復原力ふくげんりょくとも言いう。ちなみに「復元ふくげん」ではなく「復原ふくげん」と表記ひょうきする。

復原ふくげん性せいが高たかいほど、激はげしく傾かたむいた状態じょうたいからでも元もとの姿勢しせいに戻もどれるバランスを持もっていると言いえる。外洋がいようヨットなどでは、復原力ふくげんりょくが180度どを越こえるものさえ存在そんざいする。つまり、完全かんぜんに転覆てんぷくして上下じょうげが逆さかさまにひっくり返かえった状態じょうたいからでも、外部がいぶの力ちからに頼たよる事こと無なく、自然しぜんに元もとの姿勢しせいに戻もどれるバランスを持もっているという事ことになるが、ヨットの場合ばあいは、セーリング時じに横滑よこすべりを防ふせぐためのセンターボードが船底ふなそこにつけてあり、その下部かぶに重おもいバラスト（錘おもり）を入いれる事ことで、復原力ふくげんりょくを生うみ出ださせる事ことが出来できるために、このような構造こうぞうを実現じつげんする事ことが可能かのうになっている。

船底ふなそこから水中すいちゅうにぶら下さがったセンターボードなどを持もたない普通ふつうの船舶せんぱくでは、ここまで極端きょくたんな復原力ふくげんりょくを持もたせる事ことは難むずかしい。

浮心（CB）と重心じゅうしん（CG）の位置いち関係かんけいによる船ふねの安定あんてい性せいの図ず、ボトムヘビー（左ひだり）とトップヘビー（右みぎ）

基本きほん的てきには、船体せんたいの重心じゅうしんの高たかさと、浮力ふりょくの中心ちゅうしん（浮心）との位置いち関係かんけいによって復原力ふくげんりょくは変化へんかする。船体せんたいが傾かたむくと、水中すいちゅうに没ぼっしている部分ぶぶん（つまり、その時点じてんでの浮力ふりょくを生うみ出だしている部分ぶぶん）の形状けいじょうや体積たいせきが変化へんかするので、自然しぜんと浮力ふりょくの中心ちゅうしんである浮心の位置いちも移動いどうする。移動いどうした浮心から鉛直えんちょく方向ほうこうに伸のばした線せんと、初期しょき状態じょうたいの浮心と重心じゅうしんとを結むすんだ垂線すいせんとが交まじわる位置いちを「メタセンター」と呼よび、重心じゅうしん点てんからメタセンターまでの距離きょりを「メタセンター高だかさ」と呼よんで、この数値すうちが復原力ふくげんりょくを示しめす一ひとつの目安めやすとなっている。傾かたむきが極端きょくたんでなければメタセンターの位置いちは一定いっていだと見みなせるので、重心じゅうしんがメタセンターより下したにあるほど復原力ふくげんりょくが高たかいとも考かんがえる事ことが出来できる。

復原ふくげん性せいを向上こうじょうさせる手段しゅだんとしてバルジの装着そうちゃくがある、バルジがあると船体せんたいが傾かたむいたときに水没すいぼつしている部分ぶぶんの体積たいせきが大おおきくなり重心じゅうしん点てんからメタセンターまでの距離きょりが長ながくなるため復原ふくげん性せいが向上こうじょうする。もう一ひとつは船底ふなそこにバラストを搭載とうさいして重心じゅうしんを下さげることだが、これは排水はいすい量りょうと水みずの抵抗ていこうが増大ぞうだいして安定あんてい性せいと引ひき替かえに速度そくど低下ていかや燃費ねんぴの悪化あっかなどのマイナス要因よういんが多おおい。

メタセンターと重心じゅうしんの距離きょりが離はなれていると復原力ふくげんりょくは強つよくなるが左右さゆうに傾斜けいしゃしやすい船体せんたいを強つよい復原力ふくげんりょくでふり戻もどす構造こうぞうになるため、左右さゆうに激はげしく揺ゆれるようになり安定あんてい性せいは損そこなわれる。 友とも鶴づる事件じけんで転覆てんぷくした軍艦ぐんかんは重心じゅうしんの上昇じょうしょうに対処たいしょするために船体せんたいの断面だんめん形状けいじょうを工夫くふうしてメタセンター高たかさを高たかくして復原力ふくげんりょくを確保かくほしようとしたが、結果けっかとしてうまくいかなかった。

船ふねが極端きょくたんに傾かたむいてメタセンター高たかさが減少げんしょうするほど復原力ふくげんりょくは低下ていかしていく。メタセンター位置いちが重心じゅうしんよりも下したに移動いどうしてメタセンター高たかさが負まけの値ねになった時ときには、もはや船体せんたいを復原ふくげんさせる力ちからは働はたらかず、加重かじゅうはより船ふねを傾かたぶかせる方向ほうこうへと働はたらく事ことになって、そのまま転覆てんぷくする。

トップヘビーとボトムヘビー

重心じゅうしんが高たかい位置いちにあり復原ふくげん性せいが低下ていかしている状態じょうたいをトップヘビーという。船舶せんぱくにおいては積荷つみになどを高たかい位置いちに積載せきさいすることでトップヘビーとなることがある。トップヘビーに対たいして、重心じゅうしんが低ひくく復原ふくげん性せいが高たかい状態じょうたいをボトムヘビーという。

関連かんれん項目こうもく

• 友とも鶴づる事件じけん - 復原力ふくげんりょく不足ふそくに起因きいんする軍艦ぐんかん転覆てんぷく事故じこ。
• セウォル号ごう沈没ちんぼつ事故じこ - 過か積載せきさいとバラスト水すい調整ちょうせい不良ふりょうによるフェリー転覆てんぷく事故じこ。大だい規模きぼ海難かいなんに発展はってんした。
• 船舶せんぱく工学こうがく 復原ふくげん性せいを決定けっていする重要じゅうよう事項じこう。