栄養えいよう塩しお

栄養えいよう塩しお（えいようえん）とは、生物せいぶつが普通ふつうの生活せいかつをするために必要ひつような塩類えんるいのこと。一般いっぱんに無機むき態たいを指さす。 無機むき態わざと有機ゆうき態たいを含ふくめ栄養えいよう塩類えんるいともいう。対象たいしょうとなる生物せいぶつにより内容ないようが異ことなり、

• 植物しょくぶつプランクトン
• 作物さくもつとしての植物しょくぶつ
• 動物どうぶつとしてのヒト

の三みっつに分わかれる。

植物しょくぶつプランクトンあるいは植物しょくぶつにおいては、栄養えいよう要求ようきゅうの主体しゅたいは塩しおとして供給きょうきゅうされる無機むきであり、その生育せいいくにおいて重要じゅうような要素ようそとなっている。水産すいさん学がくを中心ちゅうしんに用もちいられ、農学のうがくにおいても見みられる言葉ことばで、なお、塩しおは水溶液すいようえき中ちゅうではイオンの状態じょうたいに分わかれて存在そんざいし、植物しょくぶつプランクトンあるいは植物しょくぶつが栄養えいようとして吸収きゅうしゅうする時ときはこのイオンの形かたちとなるため、栄養えいよう塩しおと呼よぶ場合ばあい、個別こべつのイオンをさすこともある。また、栄養えいよう塩しおを種類しゅるい別べつに扱あつかう場合ばあい、対象たいしょうとなるイオンを構成こうせいする元素げんそのうち、その中心ちゅうしんとなるものの名前なまえで扱あつかわれることも多おおい。

人体じんたいに必要ひつような栄養素えいようそとしてのミネラル、あるいはミネラルを多おおく含ふくむ食塩しょくえんという意味いみで用もちいられることもある。

水産すいさん

一般いっぱんに水域すいいきでは植物しょくぶつプランクトンが基礎きそ生産せいさんを担になっており、植物しょくぶつプランクトンの増殖ぞうしょくは栄養えいよう塩しおの多寡たかに左右さゆうされる。植物しょくぶつプランクトンに必要ひつような栄養えいようは、窒素ちっそ・リン・珪素けいそ（珪藻けいそうおよび珪質鞭むち毛虫けむしが要求ようきゅう）および微量びりょう金属きんぞく類るいである。 この場合ばあい、窒素ちっそはアンモニア態たい窒素ちっそ、硝酸しょうさん態たい窒素ちっそあるいは亜あ硝酸しょうさん態たい窒素ちっそとして、リンはリン酸さん態たいリンとして、珪素けいそはオルトケイ酸さんとしての形態けいたいのものが中心ちゅうしんであり、通常つうじょうこれらの塩しおを総称そうしょうして栄養えいよう塩しお、または微量びりょう金属きんぞく類るいと特とくに区別くべつして多量たりょう栄養えいよう塩しお（Macronutrients）と呼よぶ。 栄養えいよう塩しおは、水産すいさん業ぎょうにおいて、植物しょくぶつプランクトンだけでなく海苔のりやワカメといった海藻かいそうの生育せいいくや、赤潮あかしおの発生はっせい要因よういんの一ひとつであることなど、水域すいいきの一いち次じ生産せいさんに深ふかく関係かんけいしており、水域すいいきの生態せいたい系けいや生物せいぶつ多様たよう性せい・生産せいさん性せいに影響えいきょうする非常ひじょうに重要じゅうような条件じょうけんの一ひとつとなっている。なお、農業のうぎょうで重要じゅうような栄養えいよう塩しおとは異ことなり、カリウムは含ふくまれない。これは海水かいすい中ちゅうにはイオンとして多量たりょうに存在そんざいしており、不足ふそくする心配しんぱいがないからである。

指標しひょうとして表示ひょうじする場合ばあい、窒素ちっそ分ぶんをDIN（Dissolved Inorganic Nitrogen; 溶存ようぞん無機むき窒素ちっそ）、リン分ぶんをDIP（Dissolved Inorganic phosphorous; 溶存ようぞん無機むき燐りん、あるいはDissolved Inorganic phosphate; 溶存ようぞん無機むき燐酸りんさん）、また、珪素けいそ分ぶんをDSi （Dissolved Si; 珪酸けいさん態たい珪素けいそ）とされる。 海洋かいようや湖沼こしょうにおける水域すいいきの環境かんきょう基準きじゅんの指標しひょうとして、全ぜん窒素ちっそ（Total Nitrogen; TN）と全ちょんリン（Total PhosphateまたはTotal Phosphorous; TP）が用もちいられ、水域すいいきの利用りよう目的もくてきに応おうじて望のぞましい濃度のうどが位置いちづけられている。なお、全ぜん窒素ちっそと全ぜんリンには無機むき態わざと有機ゆうき態たいが含ふくまれている。

栄養えいよう塩類えんるいを数値すうちで表あらわす際さいに、水産すいさんではmg/lやμみゅーM等とうの単位たんいが用もちいられている。窒素ちっそとリンについて、mg/lとμみゅーMの換算かんさんは下したの通とおり。

 Ｎ原子げんし量りょう 14.01
 Ｎ1mg/l＝71.37μみゅーM
 Ｐ原子げんし量りょう 30.97
 Ｐ1mg/l＝32.28μみゅーM

農業のうぎょう

農学のうがくにおいても用もちいられるが、ほぼ同様どうようの事柄ことがらを指さす無機むき養分ようぶん、無機むき栄養えいようといった用語ようごを用もちいるか、これらを指さして単たんに栄養えいよう、あるいは養分ようぶんなどと呼よぶことが多おおい。人為じんい的てきに供給きょうきゅうする栄養えいよう塩しおとして肥料ひりょう（無機むき肥料ひりょう）がある。植物しょくぶつの生育せいいくに必要ひつような養分ようぶんとしては、窒素ちっそ、リン、カリウムがあり、続つづけてカルシウム、マグネシウム、硫黄いおうなども比較的ひかくてき重要じゅうようとされる。

輸送ゆそう

窒素ちっそ、リンなどの栄養えいよう塩しおは河かわ道内どうないにおいて流水りゅうすい中ちゅうの濁にごりである浮遊ふゆう微細びさい粒子りゅうしに吸着きゅうちゃくされ輸送ゆそうされる。水中すいちゅうの浮遊ふゆう微細びさい粒子りゅうしと栄養えいよう塩しおの濃度のうどにおける相関そうかんは浮遊ふゆう微細びさい粒子りゅうしのうち粒つぶ径みちが0.075mm~0.005mm程度ていどのシルトがもっとも高たかい。栄養えいよう塩しおは降雨こううや洪水こうずい時じなど濁にごりの発生はっせいに伴ともなって上流じょうりゅうから下流かりゅうへ輸送ゆそうされる。