武蔵坊むさしぼう弁慶べんけい生誕せいたん伝説でんせつ

武蔵坊むさしぼう弁慶べんけい生誕せいたん伝説でんせつ（むさしぼうべんけい せいたんでんせつ）は、紀きの国くに（和歌山わかやま県けん）に伝つたわる武蔵坊むさしぼう弁慶べんけいの生誕せいたんに関かんする伝説でんせつの1つである。

弁慶べんけいの母はは弁べん吉きちについて

弁慶べんけいの母はは弁べん吉きちは、紀州きしゅう田た那な部ぶ(和歌山わかやま県けん田辺たなべ市し)の郷士ごうしである誕象という男おとこが熊野くまの権現ごんげんに祈いのって授さづけてもらった娘むすめだったが、二十歳はたちになっても結婚けっこん相手あいてに恵めぐまれなかった。

そのことを悲かなしんだ両親りょうしんは、出雲いずもの国くにの結むすびの神かみ(安来やすぎ市し西松井にしまつい町まち)の出雲いずも路ろ幸神こうじん社しゃに祈いのって良縁りょうえんを得えさせようと考かんがえ、弁べん吉きちを出雲いずも国こくへ旅たび出ださせた(熊野くまの権現ごんげんのお告つげとする説せつあり)。

出雲いずも路ろ幸神こうじん社しゃに到着とうちゃくした弁べん吉きちは七なな日にち七なな夜や参詣さんけいを続つづけ、夢ゆめで枕木山まくらぎさんの長海ながみ村むらで七なな年間ねんかん住すむことで願ねがいはかなうとのお告つげを得える。

弁べん吉きちはお告つげに従したがい長海ながみ村むらに住すみ着つき、三さん年ねん経へた頃ころ山伏やまぶしが来訪らいほう、山伏やまぶしは出雲いずもの神かみの縁結えんむすびにより弁べん吉きちの夫おっととなる事ことに決きまったと告つげ立たち去さった。

この後のち弁わきまえ吉きちは身篭みごもり、つわりのため鍬くわを食たべる。村人むらびとの鍬くわを盗ぬすんで食たべ続つづけ、十じゅう本ほん目めの時とき村むらの子供こどもに見みつかってしまい、半分はんぶん程ほど食たべ残のこしてしまった。

或あるいは、10本ほん目めの半分はんぶんを食たべた所ところで、弁慶べんけいが出でてきたと解釈かいしゃくすることもできる。

その後ご、1151年ねん (仁平にだいら元年がんねん)3月がつ3日にちに、弁慶べんけいが誕生たんじょうした。

弁慶べんけいの父ちちについては、『懐ふところ橘たちばな談だん』上じょう（続々ぞくぞく群ぐん書しょ類従るいじゅう第だい9所収しょしゅう）の「枕木まくらぎ」の項目こうもくでは熊野くまの大社たいしゃの別当べっとう弁べん斎ときとなっているが、「天狗てんぐ」や「山伏やまぶし」の説せつが大半たいはんである。

弁慶べんけいの出生しゅっしょうから出奔しゅっぽんまで

産うまれたばかりの弁慶べんけいは長髪ちょうはつに髪かみは長ながく、歯はも生はえ揃そろい、左ひだりの肩かたには「摩利まり支ささえ天てん」、右みぎの肩かたには「大だい天狗てんぐ」の文字もじが刻きざまれ、顔かおの色いろは黒くろく鉄色てついろだった。但ただし、母ははが鉄てつを食たべ残のこしたからか、喉のどの四よん寸すん四方しほうだけは普通ふつうの肌はだになっていた。

母はは弁べん吉きちは自みずからが鍬くわを食たべて産うんだ事ことと弁慶べんけいの様相ようそうが普通ふつうの赤子あかごとは違ちがう事こともあり、自みずからの手てで井戸いどを掘ほり水すいを汲くみ、それを生湯うぶゆに使つかった。

「弁慶べんけい」と言いう名前なまえに関かんして、母ははの弁べん吉きちは弁慶べんけいのことを初はじめ「弁わきまえ太ぶと」と名付なづけた。

弁慶べんけいが子こどもの頃ころ、悪戯いたずらが過すぎ村人むらびとに憎にくまれた為ため、母はは弁べん吉きちは中海なこみにある小島こじまへ弁慶べんけいを捨すてた。後のちにこの小島こじまは弁慶島べんけいじま(野原のはら町まち)と呼よばれる事ことになる。

弁慶島べんけいじまに於おいて弁慶べんけいは父ちちである山伏やまぶしと出会であい、脱出だっしゅつの助言じょげんを得え、砂すなを海中かいちゅうに落おとして海うみに渡わたり道どうを作つくりようやく脱出だっしゅつした。

修行しゅぎょうに行いく前まえ、弁べん太ふとしは鬼おに若わかと改名かいめいする。

その後ご、枕木山まくらぎさんにある華蔵寺けぞうじ(けぞうじ)、福原ふくはらの澄水すんず寺てら(ちょうすいじ)、出雲いずもの鰐淵わにぶち寺てら(がくえんじ)に立たち寄より修行しゅぎょうをして母ははの元もとへと戻もどった。

修行しゅぎょうが終おわると鬼おに若わかは弁慶べんけいと改名かいめいした。

成長せいちょうした弁慶べんけいはある時とき出雲いずもの別所べっしょで鍛冶たんや屋やをしている叔父おじに薙刀なぎなたを作つくってくれるよう注文ちゅうもん。三さん年ねん後ごに出来上できあがった薙刀なぎなたは鉄てつ丸まるも切きることのできるすばらしい切きれ味あじだった。

そこで叔父おじが注文ちゅうもんが有あればいくらでも作つくると話はなした事ことで、他人たにんにも作つくられては堪たまらないと思おもった弁慶べんけいは叔父おじを切きり殺ころし、出奔しゅっぽんしようとした。

その時折ときおり悪わるく母はは弁べん吉きちが病気びょうきに罹かかり、際さいの際さい(いまわのきわ)に最期さいご近ちかくなった母はは弁べん吉きちは彼かれを枕元まくらもとへ呼よび、「菩提ぼだいを弔とむらおうと思おもうのなら、紀州きしゅう国こくに行いき、誕象一門いちもんを訪たずねよ。そして、武士ぶしになるのなら田た那な部ぶを、また法師ほうしになるなら武蔵坊むさしぼうと名乗なのるように」と遺言ゆいごんして亡なくなった。

そこで弁慶べんけいは長海ながみ神社じんじゃに参詣さんけいし、書状しょじょうを書かき置おいて出雲いずも地方ちほうを去さり京都きょうとへ上のぼり、後のちに源みなもと頼朝よりともの弟おとうとである牛ぎゅう若わか丸まると運命うんめいの出合であいをした。牛うし若わか丸まるはその後ご義経よしつねと改あらためている。

弁慶べんけいまつり

毎年まいとし10月がつの最終さいしゅう日曜日にちようびに鰐淵わにぶち寺てらにおいて開催かいさいされる。

関連かんれん項目こうもく

• 武蔵坊むさしぼう弁慶べんけい
• 源義経みなもとのよしつね