水みずのいのち

『水みずのいのち』（みずのいのち）は、日本にっぽんの作曲さっきょく家か髙田三郎さぶろうが作曲さっきょくした混声こんせい合唱がっしょう組曲くみきょく（1964年ねん）。ピアノ伴奏ばんそうを伴ともなう。詩しは高野たかの喜久雄きくおによる。

概説がいせつ

1964年ねん（昭和しょうわ39年ねん）度ど文化庁ぶんかちょう芸術げいじゅつ祭さい参加さんか作品さくひんとして、TBSの委嘱いしょくにより作曲さっきょくされ同どう年度ねんどの芸術げいじゅつ祭さい奨励しょうれい賞しょうを受賞じゅしょうした。1964年ねん11月10日にち、日本にっぽん合唱がっしょう協会きょうかいの演奏えんそう（指揮しき：山田やまだ和男かずお、ピアノ：川村かわむら深雪みゆき）により初演しょえんされた。高田たかだと高野たかののコンビによる合唱がっしょう曲きょくは、『わたしの願ねがい』（1961年ねん）に続つづくものである。

日本にっぽんの合唱がっしょう曲きょくの中なかでは特とくに人気にんきが高たかい作品さくひんである。混声こんせい合唱がっしょう版ばんの楽譜がくふだけでも100刷さつを超こえており、今いまもなお、合唱がっしょう楽譜がくふ売うり上あげの上位じょういに位置いちしている。後のちに、女声じょせい合唱がっしょうや男声だんせい合唱がっしょうにも編曲へんきょくされているが、混声こんせい・女声じょせい・男声だんせい3バージョンが揃そろうことは、NHK全国ぜんこく学校がっこう音楽おんがくコンクールの高等こうとう学校がっこうの部課ぶか題だい曲きょくを除のぞくと、当時とうじとしては異例いれいであった。音楽おんがく評論ひょうろん家かの宇野うの功いさお芳かおるは、『クラシックの名曲めいきょく・名めい盤ばん』（旧版きゅうばん、講談社こうだんしゃ現代新書げんだいしんしょ、1989年ねん）の中なかで、この現象げんしょうを「前代未聞ぜんだいみもん」と書かいている。宇野うのはこの本ほんの締しめくくりに「水みずのいのち」を選えらび、CDには、自分じぶんの指揮しきした女声じょせい合唱がっしょう版ばんを推薦すいせんした。

なお女声じょせい合唱がっしょう版ばんは1966年ねん11月19日にちにCoro Orquideaの演奏えんそう（指揮しき：石井いしい忠吉ただよし、ピアノ：相浦あいうら清子きよこ）により、男声だんせい合唱がっしょう版ばんは1972年ねん4月がつ10日とおかにクローバー・クラブの演奏えんそう（指揮しき：河原かわはら林はやし昭良あきら、ピアノ：横山よこやま恵津子えつこ）により初演しょえんされた。

作曲さっきょく家かの死後しご、イタリア語ごバージョン「L'Anima dell'acqua」、トーマス・マイヤー＝フィービッヒによる管弦楽かんげんがく伴奏ばんそう版ばん、今井いまい邦男くにおによる弦楽げんがく伴奏ばんそう版ばんなども生うまれている。

曲きょくの構成こうせい

以下いかの5つの曲きょくから構成こうせいされている。

1. 雨あめ

   変へんイ長調いちょうちょう。Lento tranquillo。

   終始しゅうし静しずかだが、全すべてのものにしとしとと落おちる雨あめを静しずけさの中なかで表出ひょうしゅつする音楽おんがくであり、全体ぜんたいの序曲じょきょくの雰囲気ふんいきを持もっている。いかなる状況じょうきょうの者ものにもやさしく慈愛じあいの雨あめが降ふり注そそぐ様子ようすを描えがいている。

2. 水みずたまり

   ト長調とちょうちょう。Moderato。

   ややリズミックな音楽おんがくで、全体ぜんたいの中なかでスケルツォ的てきな役割やくわりを果はたしている。降ふり注そそいだ雨あめが命いのちを持もち、少すこしずつ動うごき出だす前触まえぶれのような美うつくしさを持もつが、水みずたまりの泥どろに人間にんげん社会しゃかいの醜みにくさを写うつし、また水みずたまりの水面すいめんが美うつくしい空そらを写うつすことで、人ひとの焦こがれる気持きもちを表現ひょうげんしている。

3. 川かわ

   変へんロ短調たんちょう。Risoluto。

   拍子ひょうしが頻繁ひんぱんに変化へんかするRisolutoと、8分ぶんの12拍子ひょうしに固定こていされるAndante mossoから構成こうせいされ、前者ぜんしゃでは語かたり手てからの疑問ぎもん、呼よびかけ（あるいは命令めいれい）が呈示ていじされる（なお作曲さっきょく者しゃは「演奏えんそう上じょうの注意ちゅうい」において、最初さいしょの疑問ぎもんを「怒いかりをふくんだffである」としている）。逆巻さかまく川かわの激流げきりゅうが、人間にんげんたちの生いきる悲かなしみや憧あこがれといったものを代弁だいべん的てきに歌うたい上あげるメロディと詩しは美うつくしく、強つよく印象いんしょうに残のこる。中学ちゅうがく・高校こうこうの合唱がっしょう部ぶや合唱がっしょう発表はっぴょうではこの曲きょくのみを単独たんどくで取とり上あげて演奏えんそうすることも多おおい。

4. 海うみ

   ニ長調ちょうちょう。Adagietto。

   たゆたう大おおきな海うみの描写びょうしゃであり、激はげしく動うごく部分ぶぶんはなく、全すべてを湛たたえて受うけ入いれていく海うみの静しずかなさまを表出ひょうしゅつする。なお、作曲さっきょく者しゃは「演奏えんそう上じょうの注意ちゅうい」などで、終盤しゅうばんで繰くり返かえされる海うみからのメッセージについて、大だい自然しぜんが人類じんるいへ詰問きつもんするように歌うたって欲ほしいという要望ようぼうを記しるしている。

5. 海うみよ

   ニ短調たんちょうで始はじまる。Andante。

   海うみに戻もどった水みずのいのちが再ふたたび空そらに昇のぼり、雨あめとなり川かわとなり、また輪廻りんねを繰くり返かえす生せいの悲かなしみや喜よろこびを表出ひょうしゅつする。全曲ぜんきょくの中なかでこの曲きょくのみ長大ちょうだいな曲きょくとなっており（速度そくどにもよるが、演奏えんそうに7分ふん程度ていどを要ようする）、曲きょくも起伏きふくに富とんだスケールの大おおきい構成こうせいになっている。「水みずのいのち」が再ふたたび空そらに昇のぼり、再ふたたび新あらたな水みずのいのちとして生うまれていく姿すがたをニ長調ちょうちょうで称となえて終おわる。

「海うみ」は詩集ししゅう『独楽こま』所収しょしゅう。「水みずたまり」「川かわ」はそれぞれ、詩集ししゅう『存在そんざい』の同名どうめい詩しから、詩人しじんにより改作かいさくされたものである。

参考さんこう文献ぶんけん

• 国立音楽大学くにたちおんがくだいがく附属ふぞく図書館としょかん高田たかだ三郎さぶろう書誌しょし作成さくせいグループ編へん『人物じんぶつ書誌しょし大系たいけい31　高田たかだ三郎さぶろう』日外にちがいアソシエーツ、1995年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽんの合唱がっしょう作品さくひん100選せん

外部がいぶリンク

• 慶應義塾けいおうぎじゅくワグネル・ソサィエティー男声だんせい合唱がっしょう団だん -　「演奏えんそうライブラリー」にて、さまざまな男声だんせい合唱がっしょう版ばん「水みずのいのち」を聴きくことができる。