海賊かいぞく法ほう

海賊かいぞく法ほう（かいぞくほう、Piracy Act）とは、海賊かいぞく行為こういを処罰しょばつする法律ほうりつである。

英語えいごでPiracy Actと言いった場合ばあいには著作ちょさく権けん侵害しんがいに関かんする法律ほうりつ、俗ぞくに言いう海賊版かいぞくばんソフトなどの販売はんばい行為こういを取とり締しまる法律ほうりつも指さすがここでは船舶せんぱくに対たいする海賊かいぞく行為こういに対たいする法律ほうりつについて記述きじゅつする。

海洋かいよう法ほうに関かんする国際こくさい連合れんごう条約じょうやくの加盟かめい国こくでは同どう条約じょうやく101条じょうに定さだめる海賊かいぞく行為こういの定義ていぎを基本きほんとして同どう行為こういを処罰しょばつする法ほう整備せいびが行おこなわれており、加盟かめいしていない国くににおいてもなんらかの影響えいきょうが見みられる。

海賊かいぞく罪ざいに対たいする処罰しょばつは国際こくさい的てきにも厳きびしく、古ふるくは死刑しけいが科かされ、多おおくの国くにで死刑しけいが廃止はいしされた現代げんだいにおいても長期間ちょうきかんの懲役ちょうえき刑けいか無期むき懲役ちょうえきが科かされる重罪じゅうざいである。近代きんだいでは海賊かいぞく行為こういに対たいして海賊かいぞく罪ざいを適用てきようせずに通常つうじょうの強盗ごうとうや船舶せんぱく往来おうらいに関かんする法律ほうりつで処罰しょばつすることがほとんどであり、アメリカでは100年ねん近ちかく有罪ゆうざい判決はんけつどころか起訴きそすら無なかったほどである。しかし、2000年代ねんだいになってからソマリア沖おきの海賊かいぞくの問題もんだいから各国かっこくとも海賊かいぞく法ほうを見直みなおすようになった。

日本にっぽん

日本にっぽんではソマリア沖おき海賊かいぞくの対策たいさく部隊ぶたい派遣はけんを受うけて、2009年ねん 6月19日にちに「海賊かいぞく行為こういの処罰しょばつ及および海賊かいぞく行為こういへの対処たいしょに関かんする法律ほうりつ」が成立せいりつした。

この法律ほうりつでは、海賊かいぞくの行為こういを、船舶せんぱく（軍艦ぐんかん等とうを除のぞく）に乗船じょうせんした者ものが、私的してき目的もくてきで公海こうかいまたは日本国にっぽんこく領海りょうかい等とうで行おこなう次つぎの7項目こうもくであると定義ていぎしている。

暴行ぼうこう若もしくは脅迫きょうはくを用もちい、又またはその他たの方法ほうほうにより人ひとを抵抗ていこう不能ふのうの状態じょうたいに陥おとしいれて、航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱくを強つよ取とし、又またはほしいままにその運航うんこうを支配しはいする行為こうい
暴行ぼうこう若もしくは脅迫きょうはくを用もちい、又またはその他たの方法ほうほうにより人ひとを抵抗ていこう不能ふのうの状態じょうたいに陥おとしいれて、航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱく内ないにある財物ざいぶつを強つよ取とし、又または財産ざいさん上じょう不法ふほうの利益りえきを得え、若もしくは他人たにんにこれを得えさせる行為こうい
第三者だいさんしゃに対たいして財物ざいぶつの交付こうふその他た義務ぎむのない行為こういをすること又または権利けんりを行おこなわないことを要求ようきゅうするための人質ひとじちにする目的もくてきで、航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱく内ないにある者ものを略取りゃくしゅする行為こうい
強つよ取とされ若もしくはほしいままにその運航うんこうが支配しはいされた航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱく内ないにある者もの又または航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱく内ないにおいて略取りゃくしゅされた者ものを人質ひとじちにして、第三者だいさんしゃに対たいし、財物ざいぶつの交付こうふその他た義務ぎむのない行為こういをすること又または権利けんりを行おこなわないことを要求ようきゅうする行為こうい
前ぜん各号かくごうのいずれかに係かかる海賊かいぞく行為こういをする目的もくてきで、航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱくに侵入しんにゅうし、又またはこれを損壊そんかいする行為こうい
1から4までのいずれかに係かかる海賊かいぞく行為こういをする目的もくてきで、船舶せんぱくを航行こうこうさせて、航行こうこう中ちゅうの他ほかの船舶せんぱくに著いちじるしく接近せっきんし、若もしくはつきまとい、又またはその進行しんこうを妨さまたげる行為こうい
1から4までのいずれかに係かかる海賊かいぞく行為こういをする目的もくてきで、凶器きょうきを準備じゅんびして船舶せんぱくを航行こうこうさせる行為こうい

海賊かいぞく対処たいしょ法ほう第だい3条じょうでは、上記じょうき1から4までに対たいする罰則ばっそくを「無期むきまたは5年ねん以上いじょうの懲役ちょうえき」とし、さらに1と2において人ひとを負傷ふしょうさせた場合ばあいは「6年ねん以上いじょうの懲役ちょうえき」、死亡しぼうさせた場合ばあいは「死刑しけいまたは無期むき懲役ちょうえき」としている。また、5と6に対たいしては「5年ねん以下いかの懲役ちょうえき」、7に対たいしては「3年ねん以下いかの懲役ちょうえき」としている。これにより、日本にっぽんは海賊かいぞく行為こういに対たいする罰則ばっそくとして死刑しけいがありえる世界せかいの中なかでも数少かずすくない国くにとなっている。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく

アメリカでは海賊かいぞく行為こういの刑事けいじ告発こくはつはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく憲法けんぽう第だい1条じょう第だい8節せつ10で認証にんしょうされており建国けんこく当時とうじから海賊かいぞくに対たいする法ほう制度せいどが存在そんざいしていた。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく憲法けんぽう第だい1条じょう第だい8節せつ10: 第だい8節せつ　連邦れんぽう議会ぎかいは次つぎの権限けんげんを有ゆうする; 10 公海こうかいにおける海賊かいぞく行為こうい及および他たの重罪じゅうざい、並ならびに国際こくさい法ほうに反はんする犯罪はんざいを定義ていぎし、処罰しょばつすること

アメリカでは第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん以来いらい100年ねん近ちかく適用てきよう例れいが無なかったが2009年ねんにソマリア海賊かいぞくが海賊かいぞく法ほうで起訴きそされることになった。最高さいこう刑けいは無期むき懲役ちょうえきである。

イギリス

中世ちゅうせいイギリスにおいては海賊かいぞく行為こういは大逆だいぎゃく罪ざいとして首吊くびつり・内臓ないぞう抉えぐり・四よっつ裂さきの刑けいが科かせられていた、イギリスで記録きろくに残のこるもっとも古ふるい海賊かいぞく罪ざいの死刑しけい囚しゅうは1241年ねんに執行しっこうされたトーマス・ミルホーンである。その後ご、海賊かいぞく法ほう(Piracy Act)が1698年ねんに制定せいていされると海賊かいぞく罪ざいは大逆だいぎゃく罪ざいから分離ぶんりされた海賊かいぞく法ほうはその後ご1717年ねん、1721年ねん、1837年ねん、1837年ねんの改訂かいていを経へて1850年ねんに制定せいていされた海賊かいぞく法ほう(Piracy Act 1850)が1998年ねんまで有効ゆうこうであった。

イギリスでは海賊かいぞく罪ざいに対たいする司法しほう裁判さいばん権けんは警察けいさつではなく海軍かいぐんにあり、海賊かいぞくの死刑しけい執行しっこうは処刑しょけいドック(en:Execution Dock)と呼よばれるロンドンのテムズ川がわの干潮かんちょう線せんよりも下したにある場所ばしょで海軍かいぐんによって行おこなわれていた。これは干潮かんちょう線せんよりも下したは地面じめんであっても満潮まんちょう時じには水没すいぼつするため海軍かいぐん管轄かんかつの場所ばしょとされていたことによる。海賊かいぞくは1830年ねんまで400年ねん以上いじょうにわたって処刑しょけいドックで公開こうかい処刑しょけいさてきた。この中なかにはウィリアム・キッド（キャプテン・キッド）などの有名ゆうめいな海賊かいぞくも数多かずおおく含ふくまれていた。処刑しょけいドックは桟橋さんばしの上うえに作つくられていたことから処刑しょけい桟橋さんばしとも呼よばれ、海賊かいぞくは桟橋さんばしの上うえで処刑しょけいされるという話はなしが後世こうせいまで残のこる原因げんいんとなった。海賊かいぞくの中なかでも比較的ひかくてき罪つみの軽かるい物ものは鞭打むちうち刑けいが執行しっこうされ処刑しょけいドックから少すこし離はなれた場所ばしょにある鞭むち打だ桟橋さんばし(Wapping New Stairs)で執行しっこうされていた。

最後さいごに海賊かいぞく罪ざいで死刑しけいが執行しっこうされたのは1830年ねん12月16日にちにジョージ・デイビスとウィリアム・ワッツの2人ふたりでこれを最期さいごにウィリアム4世せいによって海軍かいぐんによる死刑しけいは廃止はいしされ処刑しょけいドックも廃止はいしになった。このため、1850年ねんに制定せいていされてからは海軍かいぐんが所轄しょかつしていた海賊かいぞく罪ざいは事実じじつ上じょう死文しぶん化かしており1880年ねんには法務大臣ほうむだいじんが海賊かいぞく罪ざいで起訴きそしないように通達つうたつを出だしていた。

1998年ねんに死刑しけい制度せいどが完全かんぜん廃止はいしされるまで海賊かいぞく罪ざいには最高さいこう刑けいで死刑しけいがあった、海賊かいぞく罪ざい、国家こっか反逆はんぎゃく罪ざい、軍隊ぐんたい内部ないぶの犯罪はんざいの三みっつがイギリス最後さいごの死刑しけいが適用てきようされる犯罪はんざいだった。

2009年ねん現在げんざいでは海賊かいぞく罪ざいは海洋かいよう法ほうに関かんする国際こくさい連合れんごう条約じょうやく第だい百ひゃく一いち条じょう海賊かいぞく行為こういの定義ていぎと Merchant Shipping and Maritime Security Act 1997の第だい26節せつに基もとづいて処罰しょばつされる。

参考さんこう法令ほうれい

起訴きその問題もんだい

海賊かいぞく罪ざいで起訴きそするためには容疑ようぎ者しゃが海賊かいぞくであることを証明しょうめいしなければならないが船舶せんぱくに接近せっきんしただけで海賊かいぞくであると断定だんていすることは難むずかしく、船舶せんぱくに武装ぶそうして乗のり込こんでからでなければ逮捕たいほ起訴きそすることは難むずかしい。このため、海賊かいぞくと思おもわれる船舶せんぱくを拿捕だほしても多おおくの場合ばあいは釈放しゃくほうしている。

ソマリア海賊かいぞくの場合ばあいなど構成こうせい員いんに未成年みせいねん者しゃも多おおく、少年しょうねん法ほうの適用てきよう年齢ねんれいだった場合ばあいにどうするかという問題もんだいもはっきりしていない。

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