牡丹ぼたん亭てい

崑こん曲きょくにおける『牡丹ぼたん亭てい』

『牡丹ぼたん亭てい』（ぼたんてい、拼音: mǔdāntíng）は、明代あきよの劇げき作家さっか湯ゆ顕あらわ祖その代表だいひょう作さく。55幕まく。「牡丹ぼたん亭てい還かえ魂たましい記き」、「還かえ魂たましい記き」ともいう。明代あきよ後期こうきの伝奇でんきの最高さいこう傑作けっさくとされ、夢ゆめの中なかの恋愛れんあいと死者ししゃの再生さいせいを扱あつかう。

概要がいよう

湯ゆ顕あらわ祖そは「玉茗ぎょくめい堂どう四よん夢ゆめ」と呼よばれる4本ほんの戯曲ぎきょくを書かいたが、『還かえ魂たましい記き』はその2番目ばんめの作品さくひんで、湯ゆ顕あらわ祖そが故郷こきょうの臨川りんせんに隠居いんきょしたのとほぼ同どう時期じきの万まん暦れき26年ねん（1598年ねん）に脱だつ稿こうした。題辞だいじでは男女だんじょの恋愛れんあいの「情じょう」を「理り」と対比たいひさせ、杜もり麗うらら娘むすめを究極きゅうきょくの情じょうによって生なまと死し・現実げんじつと夢ゆめを超越ちょうえつした者ものとする。

かつては原作げんさくが存在そんざいしないと考かんがえられていたが、岩城いわき秀夫ひでおの研究けんきゅうによると、話はなし本ほん「杜もり麗うらら娘むすめ記き」を元もとにしている。もとの話はなし本ほんでは柳やなぎ夢ゆめ梅うめは南みなみ雄つよし府ふ尹いんの子こで、前任ぜんにん者しゃの娘むすめである杜もり麗うらら娘むすめが自宅じたくに埋うめられているのを知しって両親りょうしんや役所やくしょと相談そうだんの上うえで棺かんを掘ほりだし、彼女かのじょが蘇生そせいした後のちはとんとん拍子びょうしに話はなしが進すすんで大団円だいだんえんで終おわるのに対たいして、『牡丹ぼたん亭てい』では広州こうしゅうから南みなみ安やすまで旅たびした上うえで法ほうを犯おかして棺かんを掘ほりだし、その後ごも幾多いくたの困難こんなんを重かさねる。

劇げきは全部ぜんぶで55齣こま（日本語にほんごでは「幕まく」と訳やくされることが多おおい）から構成こうせいされる。

南みなみ宋そうの時代じだいの物語ものがたりだが、かなり時代じだい錯誤さくご的てきな箇所かしょが多おおい（たとえば、金かねの完かん顔がお亮あきらが宋そうを滅ほろぼそうとして、賊ぞくの李り全あきらに淮安を攻撃こうげきさせるが、完かん顔がお亮あきらは12世紀せいきの人物じんぶつ、李り全あきらは13世紀せいきの人物じんぶつである。また33齣こまでは大明だいめい律りつを引ひいている）。

情じょうをテーマとし、生なまと死し・夢ゆめと現実げんじつを巧たくみに交錯こうさくさせ、美うつくしい曲きょく辞じを持もつ『牡丹ぼたん亭てい』は後世こうせいに強つよい影響えいきょうを及およぼした。『紅べに楼ろう夢ゆめ』第だい23回かいでも林はやし黛まゆずみ玉だまが『牡丹ぼたん亭てい』第だい10齣こま（夢ゆめで杜もり麗うらら娘むすめが柳やなぎ夢ゆめ梅うめと契ちぎりを結むすぶ回かい）の曲きょく辞じに心しんを奪うばわれている。

日本語にほんご訳やく

• 宮原みやはら民平みんぺい訳わけ「還かえ魂たましい記き」（『国くに訳やく漢文かんぶん大成たいせい』文学部ぶんがくぶ 第だい10巻かん）1921年ねん
• 鈴木すずき彦次郎ひこじろう・佐々木ささき静しず光ひかり共ども訳やく「還かえ魂たましい記き」（『支ささえ那な文学ぶんがく大観たいかん』第だい2・3巻かん）1926年ねん
• 岩城いわき秀夫ひでお訳やく「還かえ魂たましい記き」（平凡社へいぼんしゃ『中国ちゅうごく古典こてん文学ぶんがく大系たいけい』第だい53巻かん 戯曲ぎきょく集しゅう（下した））1971年ねん

登場とうじょう人物じんぶつ

• 杜もり宝たから - 南みなみ安やす（今いまの江西えにし省しょう贛州市しの一部いちぶ）の太守たいしゅ。
• 甄氏 - 杜もり宝たからの妻つま。
• 杜もり麗うらら娘むすめ - 杜もり宝たからのひとり娘むすめ。
• 春香はるか - 杜もり麗うらら娘むすめの侍女じじょ。
• 陳ちん最良さいりょう - 杜もり麗うらら娘むすめの家庭かてい教師きょうし。
• 石道いしみち姑しゅうと - 道みち姑しゅうと（道教どうきょうの尼あま）。杜もり麗うらら娘むすめの死後しごは梅花ばいか庵あんを守まもる。
• 癩かったい頭あたま黿 - 石道いしみち姑しゅうとの甥おい。
• 柳やなぎ夢ゆめ梅うめ - 広州こうしゅうの書生しょせい。
• 韓かん子こ才ざい - 柳やなぎ夢ゆめ梅うめの友人ゆうじん。
• 郭かく駝 - 柳やなぎ夢ゆめ梅うめの園丁えんてい。
• 苗なえ舜しゅん賓まろうど - 広州こうしゅうに欽差官かんとして派遣はけんされ、柳やなぎ夢ゆめ梅うめと知しり合あう。後のちに科挙かきょの試験しけん官かんに任命にんめいされる。
• 李り全あきら - 賊ぞくの頭領とうりょう、金かね朝あさによって溜ため金きん王おうとされる。
• 楊氏 - 李り全あきらの妻つまで豪傑ごうけつ。

あらすじ

南みなみ宋そうの時代じだい、広州こうしゅうの柳やなぎ春はる卿きょうは、夢ゆめで美女びじょが梅うめの木この下したに立たち、私わたしたちは御ご縁えんがございます、と話はなし掛かけるのを聞きき、名前なまえを柳やなぎ夢ゆめ梅うめと改あらためた。

一方いっぽう、南みなみ安やす太守たいしゅである杜もり宝たからの一人娘ひとりむすめの杜もり麗うらら娘むすめは美貌びぼうで知しられ、家庭かてい教師きょうしの陳ひね最良さいりょうに詩経しきょうを習ならっていた。気晴きばらしのため侍女じじょの春香はるかとともに花園はなぞのを訪おとずれる。杜もり麗うらら娘むすめがうたた寝ねをすると、夢ゆめの中なかで柳やなぎの枝えだを持もった青年せいねんと出会であい、牡丹ぼたん亭ていの傍かたわら芍薬しゃくやく欄らんの辺あたりで契ちぎりを交かわす。杜もり麗うらら娘むすめは夢ゆめの青年せいねんとの恋煩こいわずらいで衰弱すいじゃくし、自画像じがぞうを残のこして重陽ちょうようの日ひに死しんでしまう。時ときを同おなじくして杜もり宝たからは金きむと国境こっきょうを接せっする淮揚の安やす撫なで使しに任命にんめいされて揚あげ州しゅうに赴任ふにんすることになった。杜もり麗うらら娘むすめの遺体いたいはその遺言ゆいごんに従したがって梅うめの木この下したに葬ほうむられ、側がわには梅花ばいか庵あんが建たてられて陳ひね最良さいりょうと石道いしみち姑しゅうとがそこで彼女かのじょを供養くようすることに決きめられた。冥土めいどでの審判しんぱんにより、杜もり麗うらら娘むすめは夢ゆめの中なかの青年せいねんを探さがすことが許ゆるされた。

柳やなぎ夢ゆめ梅うめは科挙かきょを受うけるため都との臨安へ向むかう途中とちゅう、病気びょうきにかかり、陳ちん最良さいりょうの助たすけにより梅花ばいか庵あんで養生ようじょうしている時ときに杜もり麗うらら娘むすめの自画像じがぞうを見みつける。部屋へやに絵えを掛かけて置おくと、毎晩まいばん、杜もり麗うらら娘むすめが現あらわれるようになり、柳やなぎ春はる卿きょうは彼女かのじょを愛あいするようになる。杜もり麗うらら娘むすめは柳やなぎ夢ゆめ梅うめに、実じつは自分じぶんはこの世よの者ものではないと打うち明あけ、再生さいせいの手助てだすけを頼たのんだ。杜もり麗うらら娘むすめの墓はかを掘ほり返かえし、棺かんを開ひらくと杜もり麗うらら娘むすめは生いき返かえった。

二人ふたりは仮かり祝言しゅうげんをあげ、ともに都とに上のぼり、柳やなぎ夢ゆめ梅うめは科挙かきょ試験しけんを受うけたが、賊ぞくの李り全あきらが淮安を攻撃こうげきする事件じけんが発生はっせいしたために結果けっか発表はっぴょうが延期えんきされてしまう。杜もり宝たからは李り全あきらを宋そうに帰順きじゅんさせることに成功せいこうし、その功績こうせきにより平たいら章あきら（宰相さいしょう）に任命にんめいされる。

柳やなぎ夢ゆめ梅うめは、杜もり宝たからから結婚けっこんの許ゆるしを得えようとするが、信用しんようされず、墓はかを暴あばいた罪人ざいにんとして拷問ごうもんを受うけるが、そこに柳やなぎ夢ゆめ梅うめが科挙かきょに状じょう元もとで合格ごうかくしたという知しらせがくる。皇帝こうていの裁さばきの結果けっか、杜もり麗うらら娘むすめは亡霊ぼうれいでなく再生さいせいしたことが証明しょうめいされ、晴はれて二に人にんは結むすばれた。

外部がいぶリンク

• 中国ちゅうごく祭祀さいし演劇えんげき関係かんけい写真しゃしん資料しりょうデータベース （公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん東洋文庫とうようぶんこ）