出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
百姓読み(ひゃくしょうよみ)、または慣用読み(かんようよみ)とは、漢字を偏または旁(つくり)から類推して我流に読むこと[1]。
音や訓の慣習によらず我流の読み方をすることとして、大正時代の書籍に記載があり[2]、誤読として扱われる。田舎者、また、情緒を解さない者をののしっていう語としての「百姓」[3]から、漢字の読み方を知らない教養のない者が読んでしまうことによる。
例えば「垂涎(すいぜん)」を「延(えん)」の読みから類推して、「すいえん」と読んだり、「鍼」の読みは「しん」であるが、これを「感」から「かん」、「減」から「げん」などと読んでしまうこと。
例語 |
本来の読み |
百姓読み |
解説
|
洗滌 |
せんでき |
せんじょう |
百姓読みが誤りと意識されている例。 ただし、「同音の漢字による書きかえ」の「洗浄」は「せんじょう」の読み方に基づく。
|
矛盾 |
むじゅん |
ほことん[2] |
大正時代の百姓読み例。 誤読ではなく故意だとの指摘あり。(ホコトン#誤読か故意かを参照)
|
絢爛 |
けんらん |
じゅんらん[2] |
大正時代の百姓読み例。
|
口腔 |
こうこう[4] |
こうくう |
百姓読みが誤りと意識されている例。 ただし、医学界では「口孔」と区別するために「こうくう」の読みを採用している[5][6]。
|
矜持 |
きょうじ |
きんじ |
百姓読みが誤りと意識されている例。
|
輸贏 |
しゅえい |
ゆえい |
本来の読みと百姓読みが両立している例。 ただし、「運輸」「輸送」などでは「うんゆ」「ゆそう」の読みが一般化。
|
消耗 |
しょうこう |
しょうもう |
百姓読みが慣用音として一般化した例[7]。 ただし、「心神耗弱」は「しんしんこうじゃく」。
|
円匙 |
えんし |
えんぴ |
百姓読みが専門用語として定着した例。
|
輸入 |
しゅにゅう |
ゆにゅう |
|
輸出 |
しゅしゅつ |
ゆしゅつ |
|
漏洩 |
ろうせつ |
ろうえい |
|
捏造 |
でつぞう |
ねつぞう |
|
稟議 |
ひんぎ |
りんぎ |
|
- ^ 日本国語大辞典、第17巻(ひち-ほいん)、p.123、日本大辞典刊行会、小学館、ISBN 978-4095220178、1976年4月15日第1版第2刷
- ^ a b c 松野又五郎(松野孤城)「第六章 重箱読みと湯桶読み百姓読み」『国語国文の常識』六合館、1925年、32頁。 (オンライン版、国立国会図書館デジタルコレクション)
ただし、同書には「百姓」に関する差別的表現はなされていない。
- ^ 日本国語大辞典、第17巻(ひち-ほいん)、p.122、第4語義、日本大辞典刊行会、小学館、ISBN 978-4095220178、1976年4月15日第1版第2刷
- ^ 公用文改善の趣旨徹底について p.3 最下段 「口腔(x)→口こう」、内閣閣甲第16号、内閣官房長官から各省庁次官宛て、1952年4月4日
- ^ ゆれる「腔」の読み 医学をめぐる漢字の不思議、漢字文化資料館、西嶋佑太郎、2019年12月10日、大修館書店
- ^ 西嶋佑太郎、「医学用語の考え方、使い方」、p.100 第4章医学用語各論 7.「腔」を「クウ」と読むのは間違いなのか、ISBN 978-4498148222、中外医学社、2022-05-20
- ^ [1] 常用漢字表(2010年11月30日内閣告示)本表「モ-ヤ」のページ 「耗」の欄