縁故えんこ主義しゅぎ

縁故えんこ主義しゅぎ（えんこしゅぎ）またはネポティズム（英えい: nepotism）とは、血縁けつえんを持もつ縁故えんこ者しゃを優先ゆうせんさせる態度たいど。

社会しゃかい学がくの分野ぶんやにおいては、同族どうぞく・同郷どうきょう者しゃに限かぎらず同おなじ共同きょうどう体たいに属ぞくする人間にんげんの意見いけんばかりを尊重そんちょうし、排他はいた的てきな思想しそうに偏かたよる内うち集団しゅうだん偏向へんこうのことを指さす。一般いっぱんに、権力けんりょく者しゃはしばしば縁故えんこ者しゃを自みずからの側近そっきんや部下ぶかとして配はいすることで知しられる。

カトリック教会きょうかいにおける縁故えんこ主義しゅぎ

カトリックには、古ふるくから聖職せいしょく者しゃ制度せいどというものがあるが、カトリックの聖職せいしょく者しゃは結婚けっこんしたり跡継あとつぎの子供こどもを作つくる事ことは認みとめられていないだけでなく、いかなる性的せいてき活動かつどうも慎つつしむものとされている（いくつか理由りゆうづけはあるが、そのひとつには信仰しんこう組織そしきが 世襲せしゅう制せいによって いつしか自分じぶんの子供こどもばかりを偏愛へんあいする者ものたちの巣窟そうくつのようになってしまうような事態じたいを防止ぼうしする意図いともあった）。

だが、中世ちゅうせいヨーロッパではカトリック聖職せいしょく者しゃは様々さまざまな特権とっけんを持もつようになっていて、特とくに司教しきょうや修道院しゅうどういん長ちょう、枢機卿すうききょうといった上級じょうきゅうの聖職せいしょく者しゃは、世俗せぞく諸侯しょこうと変かわらない権力けんりょくを持もつまでになってしまった。そのような状態じょうたいになったところ、親族しんぞくの子供こども、中なかでも甥おいに様々さまざまな便宜べんぎを与あたえたり、実質じっしつ的てきな後継こうけい者しゃとする事ことが行おこなわれるようになってしまったので、これを（批判ひはんも込こめて）「nepotismo ネポティズモ」と呼よぶことが始はじまった。イタリア語ごの「nepote」「nipote」は「孫まご」と「甥おい姪めい」の両方りょうほうを指さす語かたりで、 平ひらたく言いえば「甥おいっ子こ主義しゅぎ」「姪めいっ子こ主義しゅぎ」といった表現ひょうげんである。

また、ローマ教皇きょうこうに就任しゅうにんした際さいには、自身じしんの支持しじ基盤きばん強化きょうかを兼かねて甥おいや縁故えんこ者しゃを枢機卿すうききょうに取とり立たてる例れいがしばしば見みられた。この時ときおじによって枢機卿すうききょうに任命にんめいされた人物じんぶつの中なかには、自みずからが教皇きょうこうとなった例れいもある（ピウス2世せいとピウス3世せい、シクストゥス4世せいとユリウス2世せいなど）。

さらには、公的こうてきには結婚けっこん・妻帯さいたいが禁きんじられていたカトリックの聖職せいしょく者しゃが、密ひそかに儲もうけてしまった庶子しょしを「甥おい」と偽いつわることまでもあった。ルネサンス期きになると、そうした反則はんそくが半なかば公然こうぜんと行おこなわれるようになってしまった。

その代表だいひょう例れいとしてしばしば挙あげられるのが、教皇きょうこうアレクサンデル6世せいの庶子しょし、チェーザレ・ボルジアである。また、パウルス3世せいも実みの孫まごアレッサンドロ・ファルネーゼを14歳さいにもかかわらず枢機卿すうききょうに任命にんめいした。

縁故えんこ主義しゅぎ禁止きんしの明文化めいぶんか

1692年ねんに教皇きょうこうインノケンティウス12世せいが教皇きょうこう勅書ちょくしょ「ロマーヌム・デチェット・ポンティフィチェム」（Romanum decet Pontificem）を発布はっぷし、教皇きょうこうが、親族しんぞくに財産ざいさん、土地とち、利益りえきを与あたえる事ことの禁止きんしを明文化めいぶんかしたことにより、カトリック教会きょうかいの縁故えんこ主義しゅぎは終焉しゅうえんを迎むかえた。

中国ちゅうごくの縁故えんこ主義しゅぎ

能力のうりょく主義しゅぎの典型てんけいである科挙かきょ制度せいど導入どうにゅう後ごの中国ちゅうごくの官僚かんりょう界かいでは、科挙かきょの試験しけん監督かんとくとなった官僚かんりょう（すなわち実質じっしつ的てきに受験生じゅけんせいの合否ごうひの帰趨きすうを決けっする立場たちばの存在そんざい）と疑似ぎじ的てきな「師弟してい関係かんけい」を結むすぶ朋党ほうとうが出現しゅつげんし、自みずからの党とうを強化きょうかするための党争とうそうが頻発ひんぱつした。また権力けんりょくを握にぎった皇帝こうていの外戚がいせきや宦官かんがんも、一族いちぞくを引ひき立たてて権力けんりょくを掌握しょうあくすることがあった。現在げんざいの中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくでも太子たいし党とうと呼よばれる血縁けつえん・婚姻こんいん関係かんけいで結むすばれた派閥はばつがテクノクラート的てきな党とう官僚かんりょうを擁ようする共きょう青あお団だんとよく比較ひかくされる。

社会しゃかい主義しゅぎ国こくの縁故えんこ主義しゅぎ

「階級かいきゅうのない社会しゃかい」を標榜ひょうぼうすることが多おおいながらも、実際じっさいには党とうによる強力きょうりょくな指導しどう性せいを重視じゅうしする社会しゃかい主義しゅぎ国こくでは、人材じんざい登用とうようには上位じょうい者しゃの承認しょうにんと任命にんめいが不可欠ふかけつ（猟官りょうかん制せいも参照さんしょうのこと）であるため、ノーメンクラトゥーラ制せいによる人材じんざい登用とうようが行おこなわれた。

しかし、上位じょうい者しゃが縁故えんこを優先ゆうせんすることが多おおくなり、縁故えんこ主義しゅぎの温床おんしょうとなった。ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク政権せいけんでは特とくに縁故えんこ主義しゅぎが跋扈ばっこし、妻つまエレナを筆頭ひっとうにチャウシェスクの親族しんぞくが要職ようしょくに就ついた。北朝鮮きたちょうせんでは最高さいこう指導しどう者しゃの白頭はくとう血統けっとうが重視じゅうしされ、最高さいこう指導しどう者しゃの三さん代だい世襲せしゅうが行おこなわれた。

日本にっぽんの縁故えんこ主義しゅぎ

日本にっぽんでは腐敗ふはい打破だはを目指めざした新しん自由じゆう主義しゅぎ改革かいかくや小しょう選挙せんきょ区く制せい導入どうにゅうがむしろ世襲せしゅう議員ぎいんや忖度そんたくを増加ぞうかさせたと言いわれている。

関連かんれん項目こうもく

• 縁故えんこ採用さいよう
• 縁故えんこ資本しほん主義しゅぎ - クローニー・キャピタリズム
• 偶像ぐうぞう
• 派閥はばつ
• 外戚がいせき
• 世襲せしゅう
• 差別さべつ
• 汚職おしょく
• 偏見へんけん
• 腐敗ふはい
• コネ
• 蔭かげ位い制せい