視学しがく制度せいど

視学しがく制度せいど（しがくせいど）は、広義こうぎでは近代きんだい国家こっかの教育きょういく行政ぎょうせいにおける指導しどう監督かんとく制度せいどであるが^[1]、本ほん項こうでは戦前せんぜんの大日本帝国だいにっぽんていこくの制度せいどについて取扱とりあつかう。

視学しがく制度せいどの性格せいかく

当初とうしょは、見識けんしきの高たかい教師きょうしが一般いっぱん教師きょうしを指導しどうし資質ししつを高たかめるという教育きょういく的てきな面めんを持もっていたが、明治めいじ20年ねん（1887年ねん）代だいから教員きょういん、教育きょういく事務じむの監督かんとくを主おも任務にんむとする教育きょういく行政ぎょうせい的てきな性格せいかくに変化へんかした。また視学しがくは次第しだいに教員きょういんの人事じんじや思想しそう統制とうせいに大おおきな影響えいきょう力りょくを持もつ存在そんざいとなり、教育きょういく現場げんばで恐おそれられるようになった^[1]。

制度せいどの変遷へんせん

中央ちゅうおう視学しがく機関きかん

日本にっぽんの視学しがく制度せいどの嚆矢こうしは、1872年ねん（明治めいじ5年ねん）に公布こうふされた学制がくせいにより、同年どうねん11月がつ13日にち（10月13日にち）、第だい一大いちだい学区がっく本部ほんぶの東京とうきょうに設置せっちされた督とく学がく局きょくに配置はいちとなった督とく学がくである。督とく学がくのほか附属ふぞく官員かんいんが配置はいちされ、大学だいがく区内くないの学事がくじを指導しどう監督かんとくし、その内容ないようを文部省もんぶしょうに報告ほうこくする働はたらきを行おこなった。督とく学がく局きょくは全国ぜんこくに置おかれた八やっつの大だい学区がっくに設置せっち予定よていであったが、経済けいざい的てき理由りゆうなどにより、1873年ねん7月がつ3日にち、文部省もんぶしょう内ないに合併がっぺい督とく学がく局きょくが設置せっちされた^[2]。同年どうねん8月がつ12日にち、督とく学がくのもとに視学しがく（大中おおなか少しょう）が置おかれた^[3]。1874年ねん4月がつ12日にち、合併がっぺい督とく学がく局きょくは一いち局きょくに統合とうごうされ文部省もんぶしょうの外局がいきょくとなり^[2]、1877年ねん1月がつ12日にちに廃止はいしされた^[4]。

1885年ねん2月がつ、文部省もんぶしょう第だい二に局きょくに、全国ぜんこくを区画くかくした六ろく地方ちほう部ぶを置おき、それぞれに部長ぶちょう一いち名めいと属官ぞっかん数すう名めいを配置はいちし地方ちほうの視学しがく事務じむを担当たんとうする制度せいどを新設しんせつした。同年どうねん7月がつ、地方ちほう部ぶは五いつつに減げんじられ、同年どうねん12月がつ、視学しがく部ぶを設置せっちした。1886年ねん2月がつ、文部省もんぶしょう官制かんせいが制定せいていされ五ご人にんの視学しがく官かんが置おかれた。1887年ねん10月、普通ふつう学務がくむ局きょくが新設しんせつされ、その第だい一いち課かから第だい五ご課かの各かく課長かちょうが視学しがく官かんを兼務けんむして全国ぜんこくを分担ぶんたんした。1891年ねん8月がつ、文部省もんぶしょう分課ぶんか規程きていが定さだめられ、視学しがく部ぶを置おき、視学しがく官かんと視学しがく委員いいんが配置はいちされた。1893年ねん10月、行政ぎょうせい整理せいりにより視学しがく官かんを廃止はいしして参事官さんじかんが学事がくじ視察しさつを担当たんとうした。1897年ねん10月、文部省もんぶしょうに専任せんにんの視学しがく官かん7人にんが再さい設置せっちされ、1898年ねん10月の行政ぎょうせい整理せいりで、視学しがく官かんが5人にんに削減さくげんされ若干じゃっかんの兼任けんにん視学しがく官かんが置おかれたが、1908年ねん、視学しがく官かんは11人にんに増員ぞういんされた。1913年ねん6月がつ、文部省もんぶしょう官制かんせい改正かいせいにより視学しがく官かんは督とく学がく官かんに改称かいしょうされた^[5]。1942年ねん、督とく学がく官かんは後のちに設置せっちされた社会しゃかい教育きょういく官かん、教学きょうがく官かんと統合とうごうされて教学きょうがく官かんとなった^[1]。

地方ちほう視学しがく機関きかん

道庁どうちょう府県ふけん

督とく学がく局きょくが学制がくせいのとおり設置せっちされなかったため地方ちほう教育きょういく行政ぎょうせい機関きかんの重要じゅうよう性せいが増まし、府県ふけんの学事がくじは庶務しょむ課か学務がくむ係がかりで担当たんとうしていたが1875年ねん4月がつ8日にちに学務がくむ課かが設置せっちされた^[2]。その後ごの変遷へんせんを経へて、1890年ねん10月の『地方ちほう官かん官制かんせい』改正かいせいにより学務がくむは内務ないむ部ぶ第だい三さん課かの担当たんとうとなり、1897年ねん5月、第だい三さん課かに文部省もんぶしょう費ひで地方ちほう視学しがくが道庁どうちょう府県ふけんに2～3名めいずつ設置せっちされた。1899年ねん6月『地方ちほう官かん官制かんせい』改正かいせいで第だい三さん課かは教育きょういく学芸がくげいの専務せんむとなり、同どう課長かちょうは新設しんせつの道庁どうちょう府県ふけん視学しがく官かん（地方ちほう視学しがく官かん）が兼務けんむし、下部かぶに内務省ないむしょう費ひによる道庁どうちょう府県ふけん視学しがくを配置はいちした。1905年ねん4月『地方ちほう官かん官制かんせい』改正かいせいにより道庁どうちょう府県ふけん視学しがく官かんが廃止はいしされた^[6]。しかし再さい設置せっちの要望ようぼうが強つよく、1913年ねん6月がつ、理事りじ官かん兼務けんむの府県ふけん視学しがく官かんが設置せっちされ、1924年ねん12月、地方ちほう事務じむ官かん兼務けんむとなった。1928年ねん3月、専任せんにんの府県ふけん視学しがく官かんの設置せっちが認みとめられた^[7]。

郡ぐん

郡ぐんにおいては1878年ねん7月がつ公布こうふの『府県ふけん官職かんしょく制せい』で郡ぐん長ちょうに教育きょういく行政ぎょうせい権けんが与あたえられ、1881年ねん1月『学務がくむ担任たんにんノ者しゃ事務じむ事項じこう』により学務がくむ担任たんにん書記しょきが制度せいど化かされた。1890年ねん5月郡ぐん制せいの改正かいせいを受うけ、同年どうねん10月がつ公布こうふの第だい二に次じ小学校しょうがっこう令れいで新しん郡ぐん制せい施行しこうの郡ぐんに郡ぐん視学しがくを設置せっちすることとなるが、全国ぜんこくに設置せっちされたのは1900年ねん4月がつに各かく郡ぐんに一いち名めいの郡ぐん視学しがくを地方ちほう費ひにより必置したときからであった。1926年ねん7月がつ郡ぐん制せいの完全かんぜん廃止はいしに伴ともない郡ぐん視学しがくも廃止はいしされた^[8]。

巡回じゅんかい訓導くんどう・小学しょうがく督とく業ぎょう

1873年ねんから1883年ねんまで小学校しょうがっこうの教育きょういく内容ないよう・方法ほうほうの指導しどう監督かんとく機関きかんとして、巡回じゅんかい訓導くんどうと呼よばれるものが自主じしゅ的てきに設置せっちされた。名称めいしょうは一定いっていしていなかったが「巡回じゅんかい訓導くんどう」の名称めいしょうを用もちいている府県ふけんが最多さいたであった。一時いちじは20数すう府県ふけんに設置せっちされていたが、財政ざいせい的てきな理由りゆうと、郡ぐんに学務がくむ担任たんにん書記しょきが置おかれたことなどにより設置せっちは数すう県けんに激減げきげんした。1883年ねん8月がつ、文部省もんぶしょうは小学しょうがく教員きょういんの指導しどう監督かんとく機関きかんとして督とく業ぎょう訓導くんどうの設置せっちを勧すすめ、1884年ねん3月がつ、名称めいしょうを小学しょうがく督とく業ぎょうと改称かいしょうした。その設置せっちは任意にんいであったので、全すべての府県ふけんに設置せっちされなかったが最もっとも多おおく置おかれていたのは1885年ねんで、20数すう府県ふけんで総数そうすう91名めいが在任ざいにんしていた。1887年ねん9月がつ、文部省もんぶしょうが区く町村ちょうそん費ひで小学しょうがく督とく業ぎょうを設置せっちしないよう指令しれいを出だして激減げきげんし、その役割やくわりは郡ぐん視学しがくに引ひき継つがれた^[9]。

市町村しちょうそん

学制がくせいにより学区がっく取締とりしまりが設置せっちされた。学区がっく取締とりしまりは専任せんにんが原則げんそくであったが、実際じっさいには一般いっぱん行政ぎょうせい官かんの区長くちょう、戸長こちょう兼務けんむがかなりの数かずを占しめていた^[2]。1879年ねん9月の第だい1次じ教育きょういく令れいでは学区がっく取締とりしまりが廃止はいしされ、学事がくじの巡視じゅんしは文部省もんぶしょう吏員りいんが行おこなった^[1]^[8]。その後ご、町村ちょうそんの学事がくじを指導しどう管理かんりするため1880年ねん12月の第だい2次じ教育きょういく令れいで学務がくむ委員いいんが設置せっちされた。1885年ねん8月がつ第だい3次じ教育きょういく令れいで学務がくむ委員いいんが廃止はいしされ、1890年ねん10月がつ、第だい二に次じ小学校しょうがっこう令れいで再さい設置せっちされたが、市町村しちょうそん長ちょうの補助ほじょ的てきな役割やくわりであった。学務がくむ委員いいんは戦後せんごの学制がくせい改革かいかくまで存続そんぞくした^[10]。

戦後せんごの制度せいど

1946年ねん、文部省もんぶしょうの教学きょうがく官かんは視学しがく官かんに改称かいしょうされ、戦後せんごの民主みんしゅ化かに反はんするとの批判ひはんを受うけているが、職務しょくむ内容ないようを変更へんこうして現在げんざいまで存続そんぞくしている^[1]^[11]。地方ちほう視学しがく機関きかんは指導しどう主事しゅじが設置せっちされ廃止はいしされた^[1]。

脚注きゃくちゅう

^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f 神田かんだ「視学しがく制度せいど」
^ ^a ^b ^c ^d #平田ひらた地方ちほう視学しがく制度せいど25頁ぺーじ。
^ 「大小だいしょう監かんヲ廃はいシ視学しがく書記しょきヲ置おけキ教員きょういん等とう次じ学位がくい称号しょうごう改定かいてい」
^ 「督とく学がく局きょくヲ廃はいス」
^ 『学制がくせい百ひゃく年ねん史し』422-424頁ぺーじ。
^ #平田ひらた地方ちほう視学しがく制度せいど26、32頁ぺーじ。
^ #平田ひらた地方ちほう視学しがく制度せいど32頁ぺーじ。
^ ^a ^b #平田ひらた地方ちほう視学しがく制度せいど26頁ぺーじ。
^ #平田ひらた地方ちほう視学しがく制度せいど27-28頁ぺーじ。
^ #平田ひらた地方ちほう視学しがく制度せいど26-27頁ぺーじ。
^ 文部もんぶ科学かがく省しょう組織そしき規則きそく（平成へいせい13年ねん1月がつ6日にち文部もんぶ科学かがく省令しょうれい第だい1号ごう）、22条じょう、35条じょう。

参考さんこう文献ぶんけん

神田かんだ修おさむ「視学しがく制度せいど」『新しん教育きょういく学がく大だい事典じてん 3』第一法規出版だいいちほうきしゅっぱん、1990年ねん、384-385頁ぺーじ。
石戸谷いしとや哲夫てつお「視学しがく制度せいど」『教育きょういく学がく大だい事典じてん 3』第一法規出版だいいちほうきしゅっぱん、1978年ねん、116-117頁ぺーじ。
山本やまもと正ただし身み『日本にっぽん教育きょういく史し』慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく出版しゅっぱん会かい、2014年ねん。ISBN 978-4-7664-2131-6。
海うみ後ご宗むね臣しん編へん『臨時りんじ教育きょういく会議かいぎの研究けんきゅう』東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい、1960年ねん。
平田ひらた宗はじめ史し「わが国くにの地方ちほう視学しがく制度せいどの成立せいりつ過程かてい」『福岡教育大学ふくおかきょういくだいがく紀要きよう第だい27号ごう第だい4分冊ぶんさつ』福岡教育大学ふくおかきょういくだいがく、1977年ねん、25-34頁ぺーじ。
『学制がくせい百ひゃく年ねん史し』文部省もんぶしょう、1972年ねん。
太政官だじょうかん「大小だいしょう監かんヲ廃はいシ視学しがく書記しょきヲ置おけキ教員きょういん等とう次じ学位がくい称号しょうごう改定かいてい」文部省もんぶしょう・布告ふこく第だい二に百ひゃく九きゅう十じゅう六ろく号ごう、明治めいじ6年ねん8月がつ12日にち国立こくりつ公文書こうぶんしょ館かん請求せいきゅう番号ばんごう：本館ほんかん-2A-009-00・太たい00240100
太政官だじょうかん「督とく学がく局きょくヲ廃はいス」明治めいじ10年ねん1月がつ12日にち国立こくりつ公文書こうぶんしょ館かん請求せいきゅう番号ばんごう：本館ほんかん-2A-009-00・太たい00240100