貝原かいばら益軒えきけん

貝原かいばら益軒えきけん肖像しょうぞう（1700年ねん頃ごろ）

貝原かいばら 益軒えきけん（かいばら えきけん、1630年ねん12月17日にち（寛永かんえい7年ねん11月14日にち） - 1714年ねん10月5日にち（正徳まさのり4年ねん8月がつ27日にち））は、江戸えど時代じだいの本草学ほんぞうがく者もの（現代げんだいで言いう薬学やくがく者しゃ）、儒学じゅがく者もの。 50年間ねんかんに多おおくの著述ちょじゅつを残のこし、経学けいがく、医学いがく、民俗みんぞく、歴史れきし、地理ちり、教育きょういくなどの分野ぶんやで先駆せんく者しゃ的てき業績ぎょうせきを挙あげた。

生涯しょうがい・人物じんぶつ

貝原かいばら益軒えきけん座像ざぞう（福岡ふくおか市し中央ちゅうおう区く金龍きんりゅう寺てら）

筑前ちくぜん国こく（現在げんざいの福岡ふくおか県けん）福岡ふくおか藩はん士し、黒田くろだ藩はんの祐筆ゆうひつであった貝原かいばら寛斎かんさいの五ご男おとことして生うまれる。名なは篤信とくしん、字じは子こ誠まこと、号ごうは柔やわ斎とき、損そん軒のき（晩年ばんねんに益軒えきけん）、通称つうしょうは久兵衛きゅうべえ。

1648年ねん（慶安けいあん元年がんねん）、18歳さいで福岡ふくおか藩はんに仕つかえたが、1650年ねん（慶安けいあん3年ねん）、2代だい藩主はんしゅ黒田くろだ忠之ただゆきの怒いかりに触ふれ、7年間ねんかんの浪人ろうにん生活せいかつを送おくることとなる。1656年ねん（明あかり暦れき2年ねん）27歳さい、3代だい藩主はんしゅ光之みつゆきに許ゆるされ、藩はん医いとして帰き藩はん。翌年よくねん、藩はん費ひによる京都きょうと留学りゅうがくで本草学ほんぞうがくや朱子学しゅしがく等ひとしを学まなぶ。このころ木下きのした順じゅん庵あん、山崎やまざき闇斎あんさい、松永まつなが尺じゃく五ご、向井むかい元もと升ます、黒川くろかわ道祐どうゆうらと交友こうゆうを深ふかめる。また、同どう藩はんの宮崎みやざき安貞やすさだが来訪らいほうした。7年間ねんかんの留学りゅうがくの後のち、1664年ねん35歳さいの時とき、帰き藩はんし、150石せきの知行ちぎょうを得え、藩はん内ないでの朱子学しゅしがくの講義こうぎや、朝鮮ちょうせん通信使つうしんしへの対応たいおうを任まかされ、また佐賀さが藩はんとの境界きょうかい問題もんだいの解決かいけつに奔走ほんそうするなど重責じゅうせきを担になった。40歳さいのとき4代だい藩主はんしゅ黒田くろだ綱つな政せいから荒津あらつ東浜ひがしはま(現在げんざいの荒戸あらと1丁目ちょうめ)に屋敷やしきを与あたえられ、生涯しょうがいの住すまいとした。

藩はん命いのちにより『黒田くろだ家か譜ふ』を編纂へんさん。また、益軒えきけんの上申じょうしんから黒田くろだ藩はんが1688年ねん（元禄げんろく元年がんねん）に『筑前ちくぜん国こく続ぞく風土記ふどき』の編纂へんさんを認みとめている。

1699年ねん、70歳さいで役やくを退しりぞき著述ちょじゅつ業ぎょうに専念せんねん。著書ちょしょは1712年ねん（正徳しょうとく2年ねん）に上梓じょうしした『養生ようじょう訓くん』を始はじめ、生涯しょうがいに60部ぶ270余よ巻かんに及およぶ。退役たいえき後ごも藩はん内ないを隈くまなく巡検じゅんけんして『筑前ちくぜん国こく続ぞく風土記ふどき』の編纂へんさんを続つづけ、1703年ねん（元禄げんろく16年ねん）に藩主はんしゅに献上けんじょうしている。

1714年ねん（正徳まさのり4年ねん）に没ぼっするに臨のぞみ、辞世じせいの漢詩かんし2首しゅと和歌わか「越こし方かたは一夜いちや（ひとよ）ばかりの心地ここちして 八はち十じゅう（やそじ）あまりの夢ゆめをみしかな」を残のこしている。墓所はかしょは福岡ふくおか市し金龍きんりゅう寺てらにあり福岡ふくおか県けん指定してい史跡しせきである。

1911年ねん（明治めいじ44年ねん）6月1日にち、贈おく正せい四よん位い。

著書ちょしょ

『大和やまと本草ほんぞう』（国立こくりつ科学かがく博物館はくぶつかんの展示てんじ）

幼少ようしょうのころに虚弱きょじゃくであったことから、読書どくしょ家かとなり博識はくしきとなった。ただし書物しょもつだけにとらわれず自分じぶんの足あしで歩あるき目めで見み、手てで触さわり、あるいは口くちにすることで確たしかめるという実証じっしょう主義しゅぎ的てきな面めんもあった。

多おおくの人ひとに読よまれるよう、平易へいいな文体ぶんたいを用もちいた著書ちょしょがある。『大だい和俗わぞく訓くん』の序じょに「高こうきに登のぼるには必かならず麓ふもとよりし、遠とおきにゆくには必かならず近ちかきよりはじむる理りあれば」とみえるように、庶民しょみんや女子じょし及および幼児ようじなどを対象たいしょうにした幅広はばひろい層そう向むけの教育きょういく書しょを著あらわした。

中国ちゅうごくで出版しゅっぱんされた『本草ほんぞう綱目こうもく』に訓点くんてんを付つけ、自みずからの経験けいけんから記述きじゅつを加くわえた『大和やまと本草ほんぞう』を1709年ねん（宝永ほうえい6年ねん）に発行はっこう。これまで中国ちゅうごくから伝つたわる薬草やくそうを和名わみょうに換かえるのが主体しゅたいであった本草学ほんぞうがくに、実用じつよう的てき観点かんてんからの記述きじゅつを加くわえ、博物学はくぶつがくへ展開てんかいされる始はじまりとされ、以後いごは植物しょくぶつの形状けいじょうや生態せいたい、日用にちようへの可能かのう性せいなどに本草学ほんぞうがくの関心かんしんが向むけられることとなった。

思想しそう書しょとしては、1712年ねん（正徳しょうとく2年ねん）の『自じ娯集』。学問がくもんの功こうは思おもえにありとして、教義きょうぎ、道徳どうとく、教育きょういく等とうの意見いけんを著あらわした『慎まき思おもえ録ろく』、朱子学しゅしがくへの観念かんねん的てき疑問ぎもん等とうを著あらわした『大だい擬なずらえ録ろく』などがある。

本ほん草書そうしょ

• 『花はな譜ふ』- 1694年ねん（元禄げんろく7年ねん)
• 『菜さい譜ふ』- 1704年ねん（宝永ほうえい元年がんねん）
• 『大和やまと本草ほんぞう』- 1709年ねん（宝永ほうえい6年ねん)刊行かんこう、和装わそう本ほん

教育きょういく書しょ

• 『養生ようじょう訓くん』
• 『大だい和俗わぞく訓くん』
• 『和俗わぞく童子どうじ訓くん』
• 『五常ごじょう訓くん』
• 『家いえ道どう訓くん』

紀行きこう文ぶん

• 『和かず州しゅう巡覧じゅんらん記き』

貝原かいばら益軒えきけん学習がくしゅうの碑いしぶみ

父ちちの知行ちぎょう地ちで、益軒えきけんが幼年ようねんを過すごした福岡ふくおか県けん飯塚いいづか市しに「貝原かいばら益軒えきけん学習がくしゅうの碑いしぶみ」がある。

親族しんぞく

益軒えきけんは39歳さいの時とき、知人ちじんで秋月しゅうげつ藩はん医師いしである江月えつき道どう達たちの姪めいで、当時とうじ17歳さいの初子はつねと結婚けっこんした。初子はつねは後のちに「東ひがし軒のき」と号ごうした。初子はつねは和歌わかが巧たくみで、益軒えきけんに伴ともない漫遊まんゆうし、紀行きこう文ぶんや「女おんな大学だいがく」等とうを内助ないじょした。実子じっしには恵めぐまれなかったが、仲なかのよい夫婦ふうふであったという。初子はつねも益軒えきけんと同おなじく病弱びょうじゃくで、貝原かいはら家かに残のこされていた用よう薬やく日記にっきには、病気びょうきの治療ちりょうなどでしばしば漢方薬かんぽうやくを調合ちょうごうしていたことが記録きろくされている。妻つまは益軒えきけんに先立さきだつことおよそ8か月げつ・益軒えきけんが没ぼっする前年ぜんねんに亡なくなった。享年きょうねん62。

益軒えきけんの兄あにの貝原かいばら楽らく軒のきは、筑前ちくぜん福岡ふくおか藩はんで浦うら奉行ぶぎょうを務つとめ「貝原かいばら義よし質しつ教訓きょうくん書しょ」を著あらわした。

楽らく軒のきの息子むすこの貝原かいばら好古よしふるは、後のちに益軒えきけんの養子ようしとなった。好古こうこは藩はん命いのちで益軒えきけんの「筑前ちくぜん国こく続ぞく風土記ふどき」編集へんしゅうに助力じょりょくしたり、「日本にっぽん歳時記さいじき」を著あらわしたりしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 貝原かいばら益軒えきけん『養生ようじょう訓くん』（貝原かいばら守一しゅいち校訂こうてい、土曜どよう社しゃ、2018年ねん）
• 貝原かいばら益軒えきけん『養生ようじょう訓くん・和俗わぞく童子どうじ訓くん』石川いしかわ謙けん校訂こうてい（岩波いわなみ文庫ぶんこ、1961年ねん（昭和しょうわ36年ねん）、ワイド版ばん1991年ねん）
• 貝原かいばら益軒えきけん『口語こうご 養生ようじょう訓くん』松宮まつみや光伸みつのぶ訳註やくちゅう（日本にっぽん評論ひょうろん社しゃ、2000年ねん（平成へいせい12年ねん））
• 「人生じんせい訓くん 貝原かいばら益軒えきけん『家いえ道どう訓くん』を読よむ」 斎藤さいとう茂しげる太ふとし、三笠みかさ書房しょぼう、1984年ねん

関連かんれん文献ぶんけん

• 『慎まき思おもえ録ろく　現代げんだい語ご訳やく』伊藤いとう友信とものぶ訳やく、講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、1996年ねん
• 『養生ようじょう訓くん　全ぜん現代げんだい語ご訳やく』伊藤いとう友信とものぶ訳やく、講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、1982年ねん
• 『養生ようじょう訓くん ほか』松田まつだ道雄みちお訳わけ、中公ちゅうこうクラシックス、2005年ねん。他たは楽らく訓くん・和俗わぞく童子どうじ訓くん
  • 旧版きゅうばん『養生ようじょう訓くん』松田まつだ道雄みちお訳やく、中公ちゅうこう文庫ぶんこ、改版かいはん2020年ねん
  • 旧版きゅうばん『大だい和俗わぞく訓くん・和俗わぞく童子どうじ訓くん』同どう、中公ちゅうこう文庫ぶんこ、1974年ねん
• 『大だい和俗わぞく訓くん』 石川いしかわ謙けん校訂こうてい、岩波いわなみ文庫ぶんこ
• 『養生ようじょう訓くん』 城島じょうしま明彦あきひこ訳わけ、致知出版しゅっぱん社しゃ、2015年ねん

外部がいぶリンク

• 貝原かいばら益軒えきけんアーカイブ（中村学園なかむらがくえん 電子でんし図書館としょかん）
• 近代きんだいデジタルライブラリー - 日本にっぽん倫理りんり彙編. 巻まき之の8 (愼まき思おもえ錄ろく、大だい疑うたぐ錄ろく、五常ごじょう訓くん)
• 貝原かいばら益軒えきけん関連かんれんの著作ちょさく (新しん日本にっぽん古典こてん籍せき総合そうごうデータベース)