遺書いしょ

ハインリヒ・フォン・クライストの遺書いしょ（自殺じさつメモ）

尼あま港みなと事件じけんで処刑しょけいされる直前ちょくぜんに監獄かんごくの壁かべに書かかれた遺書いしょ（1920年ねん5月24日にち）
「大正たいしょう九きゅう年ねん五ご月がつ24日にち午后ごご12時じ忘ルナ」

遺書いしょ（いしょ）とは、死後しごのために書かきのこした文書ぶんしょのことで、かきおき、遺言ゆいごん状じょうとも言いう。「ゆいしょ」「ゆいじょ」とも。英語えいごでは死しにつつある者ものが書かき残のこす書面しょめんをwill、testament、farewell note、自殺じさつする者ものが書かき残のこす書面しょめんをsuicide noteあるいはsuicide letterと区別くべつする。後者こうしゃの場合ばあい「自殺じさつメモ」と邦訳ほうやくすることがある。

概要がいよう

遺書いしょは残のこされる家族かぞく・友人ゆうじん・知人ちじんなどに個人こじん的てきなメッセージを送おくる手紙てがみの意味合いみあいが強つよい。自殺じさつ者しゃの場合ばあい、その中なかでなぜ自分じぶんが自殺じさつするのかという理由りゆうが語かたられることが多おおい。特とくにいじめに関かんするものでは、これを元もとにした裁判さいばんが行おこなわれる場合ばあいがある。大病たいびょうや事故じこなどで死しを覚悟かくごした際さいにも遺書いしょを残のこす場合ばあいがあり、日本航空にほんこうくう123便びん墜落ついらく事故じこでは死しを覚悟かくごした乗員じょういん・乗客じょうきゃくによる遺書いしょが多数たすうみられた。

遺書いしょはその性質せいしつ上じょう直筆ちょくひつで書かかれるものであるが、法律ほうりつ上じょうは遺言ゆいごん書しょの作成さくせいは公正こうせい証書しょうしょ遺言ゆいごんとして代筆だいひつさせることも可能かのうである。現代げんだいではワープロソフトを用もちいて作成さくせいすることもできるが遺言ゆいごん書しょの場合ばあいは自筆じひつでの作成さくせいが必要ひつようである（民みん967、968）。ワープロソフトによって執筆しっぴつされた遺書いしょでは、偽装ぎそう自殺じさつによる殺人さつじんが疑うたがわれる事例じれいもある。また、自殺じさつする者ものは直筆じきひつの遺書いしょをあえて自殺じさつ現場げんばに残のこすことによって、彼かれ・彼女かのじょの死後しごに死体したいを発見はっけんした者ものは、自殺じさつした者ものの死因しいんは自殺じさつであり、殺人さつじんや事故死じこしや変死へんしなどではないことを客観きゃっかん的てきに証明しょうめいしようとする場合ばあいがある。

日本にっぽんでは有名ゆうめいなものに、円谷つぶらや幸吉こうきちのものなどがある。

遺書いしょ的てき著作ちょさく

著述ちょじゅつ家かが死しを覚悟かくごした際さい、その思想しそうなどを遺書いしょの意味いみを込こめて書かく例れいがある。日本にっぽんでは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんの頃ころ、出征しゅっせいになりそうな若手わかての科学かがく者しゃがそのような書物しょもつを書かいた例れいがある。たとえば、岩田いわた久二きゅうじ雄ゆうは海南かいなん島とうへの赴任ふにんが決きまったとき、その出発しゅっぱつ前まえに「自然しぜん観察かんさつ者しゃの手記しゅき」という本ほんを出だしているが、これは今西いまにし錦司きんじが「思おもい残のこしのないように」書かいておくことを勧すすめたことを自伝じでんに書かいている（岩田いわた、1976）。今西いまにし自身じしんも、同どう時期じきに『生物せいぶつの世界せかい』などを出版しゅっぱんしたが、その序文じょぶんには「私わたしの命いのちがもしこれまでのものだとしたら、私わたしはせめてこの国くにの一隅いちぐうに、こんな生物せいぶつ学者がくしゃも存在そんざいしていたということを、なにかの形かたちで残のこしたいと願ねがった」とあり、同所どうしょの文庫ぶんこ版ばんの解説かいせつでは上山うえやま春平しゅんぺいが「一種いっしゅの遺書いしょとしての意味いみを持もっていた」と指摘してきしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 岩田いわた久二きゅうじ雄ゆう、『昆虫こんちゅう学がく五ご十じゅう年ねん あるナチュラリストの回想かいそう』、（1976）、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ（中公新書ちゅうこうしんしょ）
• 今西いまにし錦司きんじ、『生物せいぶつの世界せかい』、（1972）、講談社こうだんしゃ（講談社こうだんしゃ文庫ぶんこ）

関連かんれん項目こうもく

• 自殺じさつ
• ダイイング・メッセージ
• 辞世じせいの句く
• 遺言ゆいごん（遺言ゆいごん書しょ）
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