Sup35p は、出芽 しゅつが 酵母 こうぼ (Saccharomyces cerevisiae )で翻訳 ほんやく に用 もち いられるポリペプチド鎖 くさり 解離 かいり 因子 いんし (eRF3)である。eRF1(酵母 こうぼ での名称 めいしょう はSup45)と共 とも に翻訳 ほんやく 終結 しゅうけつ 複 ふく 合体 がったい を形成 けいせい する。この複 ふく 合体 がったい はリボソームが終止 しゅうし コドンに達 たっ すると、合成 ごうせい されたばかりのポリペプチド鎖 くさり を認識 にんしき して解離 かいり する。eRF1が終止 しゅうし コドンを認識 にんしき するのに対 たい し、eRF3はポリペプチド鎖 くさり の解離 かいり をGTP加水 かすい 分解 ぶんかい により助 たす ける。
Sup35pの機能 きのう が部分 ぶぶん 的 てき に失 うしな われると、ナンセンス抑圧 よくあつ とよばれる現象 げんしょう が起 お こる。これは、終止 しゅうし コドンが読 よ み飛 と ばされ、カルボキシル端 はし 側 がわ が異常 いじょう に伸長 しんちょう した蛋白質 たんぱくしつ の合成 ごうせい が起 お きる現象 げんしょう である。Sup35pの完全 かんぜん な機能 きのう 喪失 そうしつ は致死 ちし である。
Sup35pがプリオンの形 かたち で伝播 でんぱ することが、1994年 ねん にリード・ウィックナー によって示 しめ された。この理由 りゆう から、Sup35pは活発 かっぱつ に研究 けんきゅう が行 おこな われている蛋白質 たんぱくしつ である。酵母 こうぼ 細胞 さいぼう がプリオン型 がた のSup35pを有 ゆう するとき、これがもたらす表現 ひょうげん 型 がた を[PSI+]という。Sup35pは[PSI+]の細胞 さいぼう において、娘 むすめ 細胞 さいぼう に伝播 でんぱ 可能 かのう なアミロイド の状態 じょうたい で存在 そんざい する。これにより細胞 さいぼう 内 ない で可溶性 かようせい で機能 きのう 性 せい のあるSup35pの量 りょう が減少 げんしょう し、ナンセンス抑圧 よくあつ (翻訳 ほんやく における終止 しゅうし コドンの読 よ み飛 と ばし)が発生 はっせい する。
Sup35pの遺伝子 いでんし は過剰 かじょう 発現 はつげん 時 じ に、[PSI+]表現 ひょうげん 型 がた の発生 はっせい が誘導 ゆうどう することが知 し られている。
近年 きんねん 出版 しゅっぱん された一部 いちぶ の学術 がくじゅつ 論文 ろんぶん において、[PSI+]と[psi-](非 ひ プリオン状態 じょうたい )の変換 へんかん が行 おこな われることが、進化 しんか で有利 ゆうり に働 はたら くかもしれないという報告 ほうこく がなされている。しかし、これについては論争 ろんそう 中 ちゅう である。
スーザン・リンドキスト は同 どう 一 いち 遺伝 いでん 型 がた をもつ酵母 こうぼ の集団 しゅうだん が、Sup35pのプリオンを有 ゆう しているかどうかで、異 こと なる表現 ひょうげん 型 がた を呈 てい することを示 しめ した。リンドキストの実験 じっけん では、異 こと なる遺伝 いでん 背景 はいけい をもつ7種類 しゅるい の酵母 こうぼ 株 かぶ の[PSI+]と[psi-]株 かぶ を用意 ようい し、さまざまなストレス条件下 じょうけんか で生育 せいいく させた[ 1] 。ある場合 ばあい では[PSI+]でより速 はや い成長 せいちょう を呈 てい し、また別 べつ の場合 ばあい では[psi-]においてより速 はや い成長 せいちょう を呈 てい した。リンドキストは、[PSI+]が進化 しんか キャパシターとしての働 はたら きを有 ゆう し、ストレス発生 はっせい 時 じ に潜在 せんざい 的 てき な遺伝 いでん 変異 へんい を創 つく りだすことにより、自然 しぜん 選択 せんたく における順応 じゅんのう が促進 そくしん されるのではないかと提唱 ていしょう した。
この遺伝 いでん 変異 へんい は終止 しゅうし コドン以外 いがい でも起 お き、[PSI+]の時 とき にはin-frame lossが比較的 ひかくてき 高 たか い確 かく 率 りつ で起 お こることも示 しめ されている[ 2] 。数理 すうり モデルを用 もち いた研究 けんきゅう に拠 よ ると、[PSI+]はこの機能 きのう のために進化 しんか してきた可能 かのう 性 せい があるという[ 3] 。
Sup35pのC末端 まったん には、翻訳 ほんやく 終結 しゅうけつ 活性 かっせい をつかさどる領域 りょういき (Cドメイン)がある。一方 いっぽう 、N末端 まったん 領域 りょういき にはアミロイド形成 けいせい の原因 げんいん となる領域 りょういき がある(Nドメイン)。Sup35pの真 ま ん中 なか には「Mドメイン」と呼 よ ばれる中 なか 間 あいだ 領域 りょういき があるが、その機能 きのう は不明 ふめい である。スーザン・リンドキストは、NドメインやMドメインの機能 きのう を調 しら べるためにNやMを含 ふく まないSup35p変異 へんい 体 たい を発現 はつげん する株 かぶ を構築 こうちく した[ 4] 。
Sup35pは201アミノ酸 あみのさん から成 な る蛋白質 たんぱくしつ である[ 5] 。CドメインにはPQGGYQQ-YNという5回 かい 完全 かんぜん (+1回 かい 不完全 ふかんぜん )オリゴペプチド反復 はんぷく 配列 はいれつ がある。この遺伝子 いでんし の改変 かいへん 変異 へんい 体 たい を用 もち いた実験 じっけん によれば、このリピートの反復 はんぷく 回数 かいすう が増 ふ えると、[PSI+]の発生 はっせい が促進 そくしん されるという。実際 じっさい 、この反復 はんぷく 配列 はいれつ を2回 かい 追加 ついか した変異 へんい 株 かぶ においては、[psi-]から[PSI+]の変換 へんかん が5,000倍 ばい 促進 そくしん された[ 6] 。PMN2という優性 ゆうせい 的 てき 変異 へんい 体 たい では、2回 かい 目 め 反復 はんぷく 配列 はいれつ 内 ない のグリシンがアスパラギン酸 さん に置換 ちかん されており、[PSI+]が維持 いじ 不能 ふのう になる表現 ひょうげん 型 がた を引 ひ き起 お こす。
Nドメインには43%という高 たか い割合 わりあい で、グルタミンとアスパラギンが含 ふく まれている。通常 つうじょう の酵母 こうぼ の蛋白質 たんぱくしつ ではこれらのアミノ酸 あみのさん がたったの9%しか含 ふく まれていないことを考 かんが えると、この数値 すうち は非常 ひじょう に高 たか い。Nドメインは114アミノ酸 あみのさん から成 な り、プリオン形成 けいせい 領域 りょういき (PrD)という名前 なまえ が充 あ てられている。Sup35pの過剰 かじょう 発現 はつげん は[PSI+]の発生 はっせい を引 ひ き起 お こす。
NMドメインおよびCドメインは、ともにSup45pとの結合 けつごう 部位 ぶい を有 ゆう している。また、Sup35pはSup45pと結合 けつごう するため、[PSI+]の細胞 さいぼう ではSup45pの蛋白質 たんぱくしつ もSup35pと同様 どうよう に凝集 ぎょうしゅう する[ 7] 。
[psi-]と[PSI+]の表現 ひょうげん 型 がた の違 ちが いは、細胞 さいぼう のアデニン合成 ごうせい 能 のう を妨害 ぼうがい することにより判別 はんべつ を容易 ようい にすることができる。P-リボシルアミノイミダゾール(略称 りゃくしょう :AIR、酵母 こうぼ アデニン合成 ごうせい 経路 けいろ のアデニン前駆 ぜんく 体 たい )が赤色 あかいろ の物質 ぶっしつ の蓄積 ちくせき を誘導 ゆうどう し、コロニーの色 いろ として裸眼 らがん で判別 はんべつ できるようになる。酵母 こうぼ でアデニン経路 けいろ に関与 かんよ するADE2遺伝子 いでんし またはADE1遺伝子 いでんし の中 なか にナンセンス変異 へんい を導入 どうにゅう すると、P-リボシルアミノイミダゾールまたはP-リボシルアミノイミダゾールカルボキシレート(略称 りゃくしょう :CAIR)がそれぞれ蓄積 ちくせき する。CAIRが次 つぎ の前駆 ぜんく 体 たい に変換 へんかん されるための触媒 しょくばい が存在 そんざい しないとき、CAIRはAIRに逆行 ぎゃっこう 変換 へんかん される。そのために、どちらの変異 へんい 体 たい も[psi-]株 かぶ では赤色 あかいろ の物質 ぶっしつ が蓄積 ちくせき することとなる。[PSI+]株 かぶ では、これらの変異 へんい があろうがなかろうが、白色 はくしょく を呈 てい す。これから、[PSI+]のeRF3は機能 きのう 欠 かけ 失 しっ していることが考 かんが えられる[ 8] 。
この現象 げんしょう は、[psi-]株 かぶ ではアデニン合成 ごうせい 酵素 こうそ が途中 とちゅう までしか翻訳 ほんやく されないためにアデニン合成 ごうせい が完結 かんけつ することができないことに基 もと づいている。細胞 さいぼう が[PSI+]になると、ナンセンス変異 へんい の読 よ み飛 と ばしが起 お こるため、アデニン合成 ごうせい 酵素 こうそ の翻訳 ほんやく が完遂 かんすい されてアデニン合成 ごうせい が正常 せいじょう に行 おこな われる。
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^ Giacomelli M, Hancock AS, Masel J, (2007). “The conversion of 3' UTRs into coding regions”. Molecular Biology & Evolution 24 : 457–464. doi :10.1093/molbev/msl172 . PMID 17099057 .
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^ Parham, Steven M., Catarina G. Resende, and Mick F. Tuite. Nature Publishing Group : science journals, jobs, and information. Web. 26 Dec. 2009. <http://www.nature.com/emboj/journal/v20/n9/full/7593711a.html >.
^ "Crystal structure of S.pombe eRF1/eRF3 complex." Protein Data bank. Web. <http://www.pdb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=3E20 >.
^ http://www.nature.com/emboj/journal/v20/n9/full/7593711a.html
^ "Interaction between yeast Sup45p (eRF1) and Sup35p (eRF3) polypeptide chain release factors: implications for prion-dependent regulation -- Paushkin et al. 17 (5): 2798 --." Molecular and Cellular Biology. Web. 28 Dec. 2009. <http://mcb.asm.org/cgi/content/abstract/17/5/2798 >.
^ http://www.phys.ksu.edu/gene/GENEFAQ.html >.