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Sup35p

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

Sup35pは、出芽しゅつが酵母こうぼSaccharomyces cerevisiae)で翻訳ほんやくもちいられるポリペプチドくさり解離かいり因子いんし(eRF3)である。eRF1(酵母こうぼでの名称めいしょうはSup45)ととも翻訳ほんやく終結しゅうけつふく合体がったい形成けいせいする。このふく合体がったいはリボソームが終止しゅうしコドンにたっすると、合成ごうせいされたばかりのポリペプチドくさり認識にんしきして解離かいりする。eRF1が終止しゅうしコドンを認識にんしきするのにたいし、eRF3はポリペプチドくさり解離かいりをGTP加水かすい分解ぶんかいによりたすける。

Sup35pの機能きのう部分ぶぶんてきうしなわれると、ナンセンス抑圧よくあつとよばれる現象げんしょうこる。これは、終止しゅうしコドンがばされ、カルボキシルはしがわ異常いじょう伸長しんちょうした蛋白質たんぱくしつ合成ごうせいきる現象げんしょうである。Sup35pの完全かんぜん機能きのう喪失そうしつ致死ちしである。

歴史れきし

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Sup35pがプリオンのかたち伝播でんぱすることが、1994ねんリード・ウィックナーによってしめされた。この理由りゆうから、Sup35pは活発かっぱつ研究けんきゅうおこなわれている蛋白質たんぱくしつである。酵母こうぼ細胞さいぼうがプリオンがたのSup35pをゆうするとき、これがもたらす表現ひょうげんがたを[PSI+]という。Sup35pは[PSI+]の細胞さいぼうにおいて、むすめ細胞さいぼう伝播でんぱ可能かのうアミロイド状態じょうたい存在そんざいする。これにより細胞さいぼうない可溶性かようせい機能きのうせいのあるSup35pのりょう減少げんしょうし、ナンセンス抑圧よくあつ翻訳ほんやくにおける終止しゅうしコドンのばし)が発生はっせいする。

Sup35pの遺伝子いでんし過剰かじょう発現はつげんに、[PSI+]表現ひょうげんがた発生はっせい誘導ゆうどうすることがられている。

進化しんかキャパシタンス

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近年きんねん出版しゅっぱんされた一部いちぶ学術がくじゅつ論文ろんぶんにおいて、[PSI+]と[psi-](プリオン状態じょうたい)の変換へんかんおこなわれることが、進化しんか有利ゆうりはたらくかもしれないという報告ほうこくがなされている。しかし、これについては論争ろんそうちゅうである。

スーザン・リンドキストどういち遺伝いでんがたをもつ酵母こうぼ集団しゅうだんが、Sup35pのプリオンをゆうしているかどうかで、ことなる表現ひょうげんがたていすることをしめした。リンドキストの実験じっけんでは、ことなる遺伝いでん背景はいけいをもつ7種類しゅるい酵母こうぼかぶの[PSI+]と[psi-]かぶ用意よういし、さまざまなストレス条件下じょうけんか生育せいいくさせた[1]。ある場合ばあいでは[PSI+]でよりはや成長せいちょうていし、またべつ場合ばあいでは[psi-]においてよりはや成長せいちょうていした。リンドキストは、[PSI+]が進化しんかキャパシターとしてのはたらきをゆうし、ストレス発生はっせい潜在せんざいてき遺伝いでん変異へんいつくりだすことにより、自然しぜん選択せんたくにおける順応じゅんのう促進そくしんされるのではないかと提唱ていしょうした。

この遺伝いでん変異へんい終止しゅうしコドン以外いがいでもき、[PSI+]のときにはin-frame lossが比較的ひかくてきたかかくりつこることもしめされている[2]数理すうりモデルをもちいた研究けんきゅうると、[PSI+]はこの機能きのうのために進化しんかしてきた可能かのうせいがあるという[3]

物理ぶつりがくてき特性とくせい

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Sup35pのC末端まったんには、翻訳ほんやく終結しゅうけつ活性かっせいをつかさどる領域りょういき(Cドメイン)がある。一方いっぽう、N末端まったん領域りょういきにはアミロイド形成けいせい原因げんいんとなる領域りょういきがある(Nドメイン)。Sup35pのなかには「Mドメイン」とばれるなかあいだ領域りょういきがあるが、その機能きのう不明ふめいである。スーザン・リンドキストは、NドメインやMドメインの機能きのう調しらべるためにNやMをふくまないSup35p変異へんいたい発現はつげんするかぶ構築こうちくした[4]

Sup35pは201アミノ酸あみのさんから蛋白質たんぱくしつである[5]。CドメインにはPQGGYQQ-YNという5かい完全かんぜん(+1かい不完全ふかんぜん)オリゴペプチド反復はんぷく配列はいれつがある。この遺伝子いでんし改変かいへん変異へんいたいもちいた実験じっけんによれば、このリピートの反復はんぷく回数かいすうえると、[PSI+]の発生はっせい促進そくしんされるという。実際じっさい、この反復はんぷく配列はいれつを2かい追加ついかした変異へんいかぶにおいては、[psi-]から[PSI+]の変換へんかんが5,000ばい促進そくしんされた[6]。PMN2という優性ゆうせいてき変異へんいたいでは、2かい反復はんぷく配列はいれつないのグリシンがアスパラギンさん置換ちかんされており、[PSI+]が維持いじ不能ふのうになる表現ひょうげんがたこす。

Nドメインには43%というたか割合わりあいで、グルタミンとアスパラギンがふくまれている。通常つうじょう酵母こうぼ蛋白質たんぱくしつではこれらのアミノ酸あみのさんがたったの9%しかふくまれていないことをかんがえると、この数値すうち非常ひじょうたかい。Nドメインは114アミノ酸あみのさんからり、プリオン形成けいせい領域りょういき(PrD)という名前なまえてられている。Sup35pの過剰かじょう発現はつげんは[PSI+]の発生はっせいこす。

NMドメインおよびCドメインは、ともにSup45pとの結合けつごう部位ぶいゆうしている。また、Sup35pはSup45pと結合けつごうするため、[PSI+]の細胞さいぼうではSup45pの蛋白質たんぱくしつもSup35pと同様どうよう凝集ぎょうしゅうする[7]

アデニン経路けいろ

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[psi-]と[PSI+]の表現ひょうげんがたちがいは、細胞さいぼうのアデニン合成ごうせいのう妨害ぼうがいすることにより判別はんべつ容易よういにすることができる。P-リボシルアミノイミダゾール(略称りゃくしょう:AIR、酵母こうぼアデニン合成ごうせい経路けいろのアデニン前駆ぜんくたい)が赤色あかいろ物質ぶっしつ蓄積ちくせき誘導ゆうどうし、コロニーのいろとして裸眼らがん判別はんべつできるようになる。酵母こうぼでアデニン経路けいろ関与かんよするADE2遺伝子いでんしまたはADE1遺伝子いでんしなかにナンセンス変異へんい導入どうにゅうすると、P-リボシルアミノイミダゾールまたはP-リボシルアミノイミダゾールカルボキシレート(略称りゃくしょう:CAIR)がそれぞれ蓄積ちくせきする。CAIRがつぎ前駆ぜんくたい変換へんかんされるための触媒しょくばい存在そんざいしないとき、CAIRはAIRに逆行ぎゃっこう変換へんかんされる。そのために、どちらの変異へんいたいも[psi-]かぶでは赤色あかいろ物質ぶっしつ蓄積ちくせきすることとなる。[PSI+]かぶでは、これらの変異へんいがあろうがなかろうが、白色はくしょくていす。これから、[PSI+]のeRF3は機能きのうかけしっしていることがかんがえられる[8]

この現象げんしょうは、[psi-]かぶではアデニン合成ごうせい酵素こうそ途中とちゅうまでしか翻訳ほんやくされないためにアデニン合成ごうせい完結かんけつすることができないことにもとづいている。細胞さいぼうが[PSI+]になると、ナンセンス変異へんいばしがこるため、アデニン合成ごうせい酵素こうそ翻訳ほんやく完遂かんすいされてアデニン合成ごうせい正常せいじょうおこなわれる。

関連かんれん項目こうもく

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出典しゅってん

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  1. ^ True, Heather L., and Susan L. Lindquist. "A yeast prion provides a mechanism for genetic variation and phenotypic diversity." (2000) Nature 407 477-483
  2. ^ Giacomelli M, Hancock AS, Masel J, (2007). “The conversion of 3' UTRs into coding regions”. Molecular Biology & Evolution 24: 457–464. doi:10.1093/molbev/msl172. PMID 17099057. 
  3. ^ Masel J, Bergman A, (2003). “The evolution of the evolvability properties of the yeast prion [PSI+]”. Evolution 57 (7): 1498–1512. PMID 12940355. 
  4. ^ Parham, Steven M., Catarina G. Resende, and Mick F. Tuite. Nature Publishing Group : science journals, jobs, and information. Web. 26 Dec. 2009. <http://www.nature.com/emboj/journal/v20/n9/full/7593711a.html>.
  5. ^ "Crystal structure of S.pombe eRF1/eRF3 complex." Protein Data bank. Web. <http://www.pdb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=3E20>.
  6. ^ http://www.nature.com/emboj/journal/v20/n9/full/7593711a.html
  7. ^ "Interaction between yeast Sup45p (eRF1) and Sup35p (eRF3) polypeptide chain release factors: implications for prion-dependent regulation -- Paushkin et al. 17 (5): 2798 --." Molecular and Cellular Biology. Web. 28 Dec. 2009. <http://mcb.asm.org/cgi/content/abstract/17/5/2798>.
  8. ^ http://www.phys.ksu.edu/gene/GENEFAQ.html>.