瀬尾せお旧記きゅうき

『瀬尾せお旧記きゅうき』（せおきゅうき） - “若州わかす三方みかた郡ぐん岩屋いわや村むら瀬尾せのお家かの旧記きゅうきなり、伴ばん信友のぶともの跋文ばつぶんを附ふす” -『改定かいてい史籍しせき集しゅう覧らん総そう目め解題かいだい』より

• 底本ていほん: 近藤こんどう瓶びん城じょう 編へん『史籍しせき集しゅう覧らん』第だい13冊さつ,近藤こんどう出版しゅっぱん部ぶ,明治めいじ39. 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション:info:ndljp/pid/1920348
• Webブラウザ上じょうでキーワード検索けんさくしやすくするために、「龍りゅう」を除のぞく旧きゅう字じを新字しんじに変換へんかんし、いくつかの異体いたい字じを常用漢字じょうようかんじに変換へんかんしている。

 

【 NDLJP:157】

 

瀬尾せお旧記きゅうき

 

瀬尾せおと申さる名字みょうじは元もと亀かめ元もと己おのれ^{（庚かのえイ）}午うま年ねん四よん月がつ廿にじゅう一いち日にち

一いち信長のぶなが公こう経けい西にし近江おうみ若州わかす熊川くまがわへ御ご入いれ泊とまり御供ごくう秀吉ひでよし公家くげ康かん公也きみや若州わかす高浜たかはま城主じょうしゅ逸見いつみ験しるし河守こうもり同どう子息しそく帯刀たてわき允まこと参上さんじょう仕つかまつ候こうと被ひ申さる上じょう

一いち信長のぶなが公こう御ご悦えつ有ゆうて一番いちばん御ご帳面ちょうめんに記き若州わかす大将軍だいしょうぐんと御お仰おおせ有ゆうて翌日よくじつ瓜生うりゅう城主じょうしゅ松宮まつみや玄蕃げんば允まこと舘だてへ御ご入いり

一いち西津にしづ内藤ないとう筑前ちくぜん守もり易えき羽わ兵庫ひょうご​本ほんマヽ​​守もり​​　​麻生野あその金川かながわ右みぎ衛門えもん大夫たいふ参上さんじょう有ゆう

一いち信長のぶなが公こう御大おんたい悦えつ有ゆうて是ぜより佐柿さがき粟屋あわや越えつ中舘なかだてへ御ご移うつり

一いち三方みかた熊谷くまがや大膳だいぜん允まこと藤井ふじい山県やまがた下野げや守もり此外国士こくし堺さかい谷だに迄まで御お迎むかえ参上さんじょう被ひ申さる也

一いち信長のぶなが公こう御大おんたい悦えつ有ゆうて佐柿さがきへ御ご移うつり先手せんては逸見いつみ駿河するが守まもる同どう子息しそく帯刀たてわき允まこと其外御供ごくう多おおし

一いち天神てんじん馬場先ばばさきき大槻おおつきへ御付おつき被ひ成なり候こう処しょに御ご馬うま高鳴たかな身み振ふ少すこしも先さききへ不ふ行くだり諏訪すわ馬場先ばばさきに而駿河守こうもり落馬らくば腹はら痛いたみ騒動そうどうするなり

一いち信長のぶなが公こう御馬おんまより御下おしも有ゆうて両社りょうしゃ之の御おとかめと思召おぼしめし別当べっとうへ御ご使者ししゃ立りつ也

一いち大坊だいぼう^{（当時とうじ有ゆう之の）}早速さっそく参上さんじょう被ひ申さる上じょう畏かしこて御座ぎょざ有ゆう時じに出陣しゅつじん之の門もん出しゅっか様さま之の儀ぎ神前しんぜんとかめと存そんるなり早はやく御宝みたから楽らくを頼よりゆきと御ご信心しんじんに被ひ仰おおせ出で畏かしこて候こう

一いち天神てんじん諏訪すわ両社りょうしゃへ御ご加持かじ武運ぶうん長久ちょうきゅう之の御ご誓願せいがん有あり還かえ而右之の段だん被ひ申さる上じょう

一いち逸見いつみを連れん可か参さんと上意じょうい承うけたまわて御前ごぜんに出だす然しかとも腹はら之の痛いたみ少すこしも不ふ止とめ猶なお以痛いたみつよし

一いち信長のぶなが公こう法印ほういんに御ご頼よりゆき有ゆう此者貴僧きそうに奉たてまつ預あずか度たび存そん候こう大坊だいぼう畏かしこ而駿河かわ供きょうない宿やど房ぼうへ御ご帰かえり也

一いち信長のぶなが公こう打だ立りつへしとて子息しそく^{（帯刀たてわき允まこと）}に父ちち之の役儀やくぎ仰おおせ付づけ御おかちにて橋はしを過すぐさせたまい御ご馬うまに召めす其より皆みな々馬上まけにて佐柿さがきへ御ご入いれ其時より返かえる橋はしと申さる也国士し皆みな々御供ごくうに而粟屋やか舘だてへ御ご入いれ数すう万まん之これ軍勢ぐんぜいに而敦賀が^{（越前えちぜん）}へ押寄手しゅ筒とう山城やましろ主ぬし柴田しばた勝家かついえ木下きのした藤吉とうきち池田いけだ信しん輝てる撃げき之の金崎かねさき城主じょうしゅ朝倉あさくら中務なかつかさ生せい捕と勝かち時じ上のぼる其後に粟屋あわや逸見いつみ国こく中ちゅう攻落せめおとせと御ご上意じょうい也是より　信長のぶなが公こう若州わかす西にし近江おうみしつめんため小勢こぜいにて若州わかすへ御ご帰かえり成願寺じょうがんじ御ご泊とまり法印ほういん御ご対面たいめん有ゆう目出度めでた敬白けいはくす

一いち信長のぶなが公こう貴僧きそう武運ぶうん長久ちょうきゅう之の御ご加持かじに而早速そく手しゅ筒城つつき攻落こうらく金崎かなさき生せい捕と大だい悦えつ甚敷是ぜより若州わかす西にし近江おうみ一見いっけん之のために罷やめ帰がえり候こう以前いぜん預あずか置おけ申さる候こう逸見いつみか父ちちは^{（駿河するが守まもる）}いかゝと御ご尋ひろ有ゆう

一いち法印ほういん畏かしこて快気かいき仕つかまつ剃髪ていはつ之の身みと成なり名めいを永えい薫かおると申さる也と言上ごんじょう有ゆう只今ただいま者しゃ古いにしえの知行ちぎょう処しょにて岩いわ○^（屋や）奥おく三さん百ひゃく石せき所有しょゆう此所に洞ほら湯ゆと申さる取立とりたて之の名主なぬし有ゆう此所へ参まいり候こうと申立もうしたてる尤ゆうと思召おぼしめし心地ごこち扨明朝あさは湯ゆ見みに行くだり湯ゆ之の様子ようす一見いっけんせん貴僧きそうも御ご同道どうどう可か被ひ成なり仰おおせ有ゆう畏かしこり奉まつり明あきら早天そうてんに大槻おおつきより長尾ちょうび過か湯ゆ見みるへ御お着きし奥おく岩屋いわや洞ほら湯ゆ様子ようす忍にんひを以御覧ごらん有ゆう処しょに屋敷やしき厳いわお敷じき木戸きど打だ其下に池いけを堀ほり有ゆうと申さる上のぼる

一いち信長のぶなが公こう御ご腹はら立りつ有ゆうて急せき召めせと御諚ごじょう意い也御使者ししゃ立たつ洞ほら湯ゆには大たいさはき時ときに永えい薫かおる此儀我わが故ゆえなり某ぼう参さんと申さるて参上さんじょう有ゆう

一いち信長のぶなが公こう仰おおせ未み兵乱へいらん之の砌みぎり牢ろう人じんを抱かかえ申さる段だん不心得ふこころえ謀反ぼうほん之の企くわだて其科重おもし人々ひとびと取廻とりまわす

一いち大坊だいぼう謹而御ご上意じょうい之の御ご儀ぎ併拙僧そう預あずかり也弟子分こぶんにて御座ぎょざ候こう外がい之の意趣いしゅ無む御座ぎょざと御願ごがん有ゆう猶なお以武運うん長久ちょうきゅうと被ひ申さる上じょう御ご捨免有ゆう此者は弓馬きゅうば之の道みち嗜と聞きく此度之の慰に的まと一いち手て見物けんぶつせんと仰おおせ出でさるゝ【 NDLJP:158】俄にわかに的てき山やま築ちく馬場ばばを拵こさえける早々はやばやとかくにわ花菱はなびし三さんまひ色しょくこかたの紋もんを二ふたつ并にかく也【カクニハ鉄炮てっぽうノ目当めあてヲ角かくト云うんト同どうシ家紋かもん折敷おしきノ内うちニ花菱はなびしヲヱカキタルヲ用ようヒ来らいレルハ此的ノ形かたち也トイヘリ】是ぜ立りつる御ご持じ弓ゆみに以前いぜん二に筋すじ相しょう添御出だし有永ありなが薫かおる的場まとばに掛かかり早速さっそく^{（サソクト訓くんカ）}をふみ花菱はなびし之の只ただ中ちゅう射通いとおし次じの矢や同どう矢やつほを通とおす

一いち信長のぶなが公こう祗候しこう之の侍さむらい衆しゅ一いち度どに誉ほまれ給きゅうへ此矢二筋之吉凶天晴手柄此悦に瀬尾せお^{（セヲト訓くん）}と云うん名字みょうじを被ひ下した逸見いつみを除のけ瀬尾せお永ひさし薫かおる真清まきよと名乗なのり也此所しょ的場まとばと申さる此時より云うん其先は河上かわかみと申さる候こう也

一いち信長のぶなが公こう御ご盃さかずきに御ご弓箭きゅうせん的矢まとや二に筋すじ添永薫かおるに被ひ下した頂戴ちょうだい仕つかまつ御ご暇ひま退出たいしゅつす此箭甲斐がい国こく了りょう海うみと云うん名作めいさく之の矢や也是代だい々重宝ちょうほう也

一いち信長のぶなが公こう熊川くまかわ御ご通とおり朽木くちき御ご入海いりうみ津つ^{（江え州しゅう）}にて御ご勢いきおい揃そろい【志こころざし云うん遠敷おにゅう郡ぐん鈴すず岳だけ堡不詳しょう誰だれ所しょ拠よりどころ一云鳥羽右兵衛今尋ルニ此山三田みた村むらニアリ】鳥羽とば兵衛ひょうえ御前ごぜんに被ひ召若州しゅう北方きたかた郡ぐん之の武士ぶし不ふ残ざん越前えちぜんに発心ほっしん也汝郡ぐん中ちゅうを可か守もりとて逸見いつみ知行ともゆき之これ内ない岩屋いわや三さん百石鳥羽兵庫弟兵衛に被ひ下した難なん有ゆうと罷やめ帰がえり鈴ケ峰すずがみねに城しろを立たて三田みたに舘たてを拵こさえ北方きたかた郡ぐんを守護しゅごすなり

信長のぶなが公こうは海津かいづより刀根とね山越やまごえを越前えちぜんに御ご入いれ也

一いち永えい禄ろく御ご捨免有ある永なが禄ろく十じゅう一いち長年ながねんより之これ貢みつぎを請取うけとり村中むらなか清水しみずの下したに屋敷やしき作づくり洞ほら湯ゆ​にカ​​を​​　​娘むすめを連れん閑居かんきょ有ゆう比ひは元もと亀かめ元もと庚午こうご十じゅう一いち月がつに洞ほら湯ゆを立たて除じょ瀬尾せお永ひさし薫かおる其子瀬尾せお庄司しょうじ^{（以下いか継つぎ筆ひつト見みユ）}其子瀬尾せのお喜き西にし其子瀬尾せのお六ろく兵衛ひょうえ其子瀬尾せお善よし大夫たいふ其子瀬尾せお治おさむ左衛門さえもん其子瀬尾せお善よし大夫たいふ其子瀬尾せお善よし大夫たいふ其子瀬尾せお善よし大夫たいふ

　以上いじょう

右みぎ若州わかす三方みかた郡ぐん岩屋いわや村むら百姓ひゃくしょう瀬尾せお善よし大夫たいふ自じ先祖せんぞ所伝しょでん襲かさね旧記きゅうき也今請見其書文辞ぶんじ拙劣せつれつ訛なまり字じ不ふ尠殆似に不ふ可読かどく予よ就匆々写うつし之の一いち随ずい本書ほんしょ不意ふい改あらため聊加朱墨しゅずみ便びん看み読本とくほん書しょ所しょ記き之の矢や鏃現存げんそん為ため神しん祀まつ之これ且擬目的もくてき之の絵え以折敷おしき内ない花菱はなびし及鱗形がた為ため家紋かもん云うん爾しか又蔵またぞう若狭わかさ守護しゅご武田たけだ元信もとのぶ与あずか逸見いつみ弾正だんじょう忠ちゅう書翰しょかん一通為先祖之証書臨写附于下

　寛政かんせい十じゅう二に年ねん九きゅう月がつ在ざい小浜おばま城じょう下書したがき之の　　　　　　　　　　伴ばん信友のぶとも

〈書中しょちゅうニ見みエタル畧系〉

　　逸見いつみ駿しゅん河守こうもり　​剃髪ていはつ称たたえ永えい蕭しょう　依よ信長のぶなが命いのち​​──────────​​改あらため逸見いつみ称しょう瀬尾せお永ひさし薫かおる真清まきよ​帯刀たてわき允まこと​後ご瀬尾せお庄司しょうじ​​──────────​​　​喜き西にし^{以下いか畧}

〈若狭わかさ志こころざし云うん逸見いつみ昌あきら経けい大飯おおい郡ぐん高浜たかはま城主じょうしゅ官かん駿河するが守まもる出自しゅつじ与あずか武田たけだ氏し相しょう同どう故こ世々せぜ為ため武田たけだ家か執事しつじ云々うんぬん天正てんしょう元年がんねん織田おだ侯こう滅めつ朝倉あさくら義景よしかげ三年撃越前国兵昌経病死無嗣云々コレラハ右みぎ永えい薫かおるカ元もと亀かめヨリ後ごノ事ことナリ右みぎノ記き混こんシタル伝でんモアルカ後ごニ考こうヘシ但ただし元もと亀かめ元年がんねん信長のぶなが云々うんぬんノ事こと国吉くによし籠城ろうじょう次第しだいソノ外がい実記じっきニ合あいヘリ〉

昨日きのう午うま刻こく新城しんじょう狼煙のろし当とう城見しろみヘ候こう可か然しか堺さかい目め無む異い儀ぎ候こう哉自右みぎ京きょう亮あきら方田ほうだ辺べよりの状じょう進しん候こう哉尚々不可ふか有ゆう油断ゆだん候こう又また我わが等ひとし事こと久村ひさむら可か申さる候こう恐々きょうきょう謹言きんげん

　　六月ろくがつ三さん十じゅう日にち　　　　　　　　　　　元信もとのぶ^{花押かおう}

　　　　　　　　　　弾正だんじょう忠ただし殿どの

右みぎ以以武辺ぶへん叢書そうしょ本ほん再さい校了こうりょう

　明治めいじ三さん十じゅう五ご年ねん一いち月がつ　　　　　　　　　　　　　　　　近藤こんどう圭けい造づくり

 

 

▲