鴻おおとり台だい後記こうき

『鴻おおとり台だい後記こうき』（こうのだいこうき） - “里見さとみ義弘よしひろ、太田おおた三楽さんらく、北条ほうじょう氏康うじやす父子ふしと、こゝに戦たたかひし記事きじなり” -『改定かいてい史籍しせき集しゅう覧らん総そう目め解題かいだい』より

• 底本ていほん: 近藤こんどう瓶びん城じょう 編へん『史籍しせき集しゅう覧らん』第だい13冊さつ,近藤こんどう出版しゅっぱん部ぶ,明治めいじ39. 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション:info:ndljp/pid/1920348
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【 NDLJP:439】

 

鴻おおとり台だい後記こうき

 

相あい摸国北条ほうじょう氏康うじやすト安房あわノ国くに里見さとみ義弘よしひろ合戦かっせんアリ然しかルニ太田おおた美濃みの守武もりたけ州しゅう岩槻いわつきニ在ざいテ謀反ぼうほんヲ企くわだてテ義弘よしひろト一味いちみスルニヨツテ義弘よしひろ義高よしたか父子ふし下総しもふさ国こくヘ発向はっこうシ高野台こうやだい近辺きんぺんニ陣じんヲ張ちょうル此ノ高野台こうやだい古文こぶんニハ国府台こうのだい小お府ふ代だい鴻おおとり岱トモ書しょタリ今いま所しょノ者しゃニ問といヘニ高野台こうやだいト書とがきクト云うんフ見みレハ字面じめんニ合あいタル高だかキ台きだい也武州しゅう江戸えどヨリ北条ほうじょう方かた遠山とおやま丹波たんば守もり富永とみなが三郎左衛門尉等馳参シカラメキノ川かわヲ前ぜんニ隔へだたテヽ備タリ下総しもうさ小しょう金きむヨリ高木たかぎ治部じぶ少しょう輔出向しゅっこうテソサヽヘケル此由小田原おだわらヘ告つげケ来らいルニ因いんテ小田原おだわらノ城しろ留守居るすいトシテ北条ほうじょう幻まぼろし庵あん松田まつだ尾張おわり守もり石巻いしのまき下野げや守もりヲ頭あたまトシテ残ざんシ置おけキ時日じじつヲ移うつりサス氏康うじやす氏し政せい父子ふし出馬しゅつばシ高野台こうやだいヲ中ちゅうニ隔へだたテ相しょう向こうツテ陣じんヲトルカヽリシ所しょニ義弘よしひろ夜中よなかニ尽つきク引退いんたいクヨシ告つげ来らいルニヨツテ氏康うじやす先手せんてノ衆しゅうカラメキノ瀬せヲトリコシ敵てきハ高野台こうやだいヲ二に里程りてい引テ備ヘタリ味方あじかたハコレヲ不知ふち遠山とおやま富永とみなが人数にんずうヲ台たいヘトリノホセ既すんでニ敵てきヲ待受まちうけタル軍ぐんナレハキソヒカカツテ互ニ死しヲ争そうヒ戦せんヒ敵てき方かたニ正木まさき大膳だいぜんサイヲ振ふテ真先まっさきニ進しんミ総そう手てヲ乱みだれシ切きりテカヽル味方みかたクツレ坂ざか中ちゅうニテ遠山とおやま丹波たんば守まもる中条ちゅうじょう出雲いずも守まもる河村かわむら修理しゅうり亮あきらヲ始はじめメ百ひゃく余よ騎き討レ敗軍はいぐんス氏政うじまさ旗本はたもとノ陣じんニアツテ下知げじシテ云うん敵てき勝しょうニ乗じょうテ長途ちょうとヲ過かクコレヲ討ヘシト団扇うちわヲ揚あげケ給きゅうヘハ命いのちハ義ぎニヨツテ軽けいシ面めんヲフラス一いち足そくモ引スマツシクラニ責せめカヽル既すんでニ切きりリクツシ敵てきヲオヒカヘシ首くび四よん五ご十じゅう討取うちとリ本陣ほんじんニ旗きヲ立たてラレタリ大軍たいぐんノ威い敵てきヲ氏政うじまさ旗本はたもとハカリニテ切せつなリ勝かち給きゅうフコト前代未聞ぜんだいみもんノ猛もう大将たいしょうト諸もろ卒そつ感かんシタリ氏康うじやすハ後陣ごじん此義ヲ知ちリ給きゅうハス氏康うじやす諸しょ老ろうヲ召集しょうしゅうメテ曰遠山さん富永とみながヲウタセ無念むねんヤンコトナシ時日じじつヲ移うつりサス一いち戦せんヲ遂とげヘシト評定ひょうじょうトリ〳〵也氏政せいヲヽセケルハ先さき場じょうノ戦たたかえヒニ味方みかたヲ切せつ崩くずしシ敗北はいぼくスルトキニイタツテ我わが郎ろう従したがえ二に人にん敵てきニマキレ入にゅうリ陣中じんちゅうヲ見みテキタレト云うんフテツカハス所しょニ二に人にん見みトヽケカヘツテ申さるスハ敵てき先陣せんじんノ戦たたかえヒニ遠山とおやま富永とみながヲ討トリ其勢ニ高野台こうやだいヘ尽つきクトリ揚あげリ諸しょ勢いきおい入にゅうリ乱らんレ酒宴しゅえんシテ千秋万歳せんしゅうばんぜいヲウタヒ一いち隊たいツヽニヒキワケテ備フヘキ覚悟かくごモナク敵てき来らいルコトヲモ弁べんヘス主ぬしハ所しょ従したがえヲタツ子たつこ従者じゅうしゃハ主人しゅじんノアリ所しょヲモ不知ふち軍法ぐんぽうノ行あるきハカツテナク算ざんヲ乱みだれシタル体たいタラクコレ義弘よしひろカ運うんノ末すえノ災わざわいヲ招クニ非ひヤ味方みかた急きゅうニヨセカクルニ至いたりテハ敵てきノ前まえ勢いきおいハ台だいヲ降くだテ向こうフヘシ次じノ勢いきおいハ半はんニタチ跡あと勢ぜいハ台だいニ残ざんリ三さん所しょニ

^{（脱だつカ）}前ぜん士しノ戦せんヲ跡あとノ士卒しそつ見物けんぶつスルヨリ外がいノコトアルヘカラス前まえノ一いち隊たいハ蟷螂かまきりカ斧おの彼かれレヲ切せつリクツスニ至いたりリテハ跡あとハナヲ然しかラン此度ノ合戦かっせんニ於テハ氏政うじまさ前ぜん陣じんトノ給きゅうヒケリ氏康うじやすカサネテ今朝けさ辰たつノ刻こくノ戦せんヲ考こうルニ敵てきハ東方とうほうニ陣じんシ出いずル日びノ光ひかりヲ輝てるカス所しょニ味方みかた西にしヨリ向こうフテ劔つるぎ先さきヲ争そうフコトコレ孤こ虚きょノ弁わきまえヘアラサルカ故こ遠山とおやま富永とみなが勝利しょうりヲ失しつヒタリ然しかルニ今こんハヤ未みノ刻こくモ過かキ東ひがしノ敵てきハ入はいれル日びニシテ味方みかたノ後陣ごじん影かげキエヌ時じノ占うらない言げん事ごとヲ得えタリ其上当年とうねんハ甲子きのえね也甲子こハ殷いんノ紂カホロホサレ武たけ王おうハ勝しょうル年ねんナリ義弘よしひろハ紂ニ同意どういシ氏康うじやすハ武たけ王おうニ比ひシテ彼かれレヲ討ンシカノミナラス先祖せんぞノ吉例きちれいヲヲシ早さ雲くも氏し茂しげるハ永えい正ただし元年がんねん甲子きのえね九きゅう月がつハ武たけ州立しゅうりつ河原かわはらニ於テ上杉うえすぎ民みん部ぶ大輔だいすけ顕定あきさだト合戦かっせんシ打だ勝かちテ顕定あきさだ敗軍はいぐんス従したがえテ父ちち氏綱うじつな大だい永なが四年甲申正月十三日武州江戸ニ於テ上杉うえすぎ修理しゅうり太夫たゆう朝興ともおきト合戦かっせんシテ打だ勝かつ朝興ともおきヲ追討ついとうス就中なかんづく今年ことし今月こんげつハ甲子きのえね正月しょうがつ八はち日にちニ当とうル吉例きちれいナリサテ又また天文てんもん七なな年ねん戊つちのえ戌いぬ十じゅう月がつ七なな日にちコノ国府台こうのだいニ至いたりテ小しょう弓ゆみノ御所ごせ義明よしあきト一いち戦せんシテ打だ勝かちヲ義明よしあきヲ亡ほろびス甚以テ戦せんノ場所ばしょヲカヘスイカテカ先例せんれいヲタノマサランヤアマツサヘ孤こ虚きょ支ささえ干ひ相応そうおうスル事ごと【 NDLJP:440】我わがニ天てんノメクミスル所しょ也時刻こくヲ移うつりスヘカラストテ無二むにノ一いち戦せん治定じじょうス然しかルニ台だいヨリ東北とうほくハ節ぶし所しょニテヨセトコロ悪あくシ諸しょ勢いきおいヲ二に手てニワケ両りょう旗本はたもと先陣せんじん也氏政せい軍兵ぐんびょうヲ率りつシ台だいヨリ南みなみ三さん里さと下かヘウチマハリ台だいヲトリマキ敵てきヲモラサスウチトルヘキテタテナリ折節おりふし霞かすみタツテ台だいヘ近きんクトリヨルトイヘトモ敵てきハコレヲ不知ふち義弘よしひろ下知げじシテ曰今朝あさ辰たつノ刻こくノ合戦かっせん思おもえノマヽニ勝利しょうりヲ得え富永とみなが遠山とおやまハ安房あわ上総かずさノ合戦かっせんニ何なん時じモ先陣せんじんニサヽレタル両りょう大将たいしょうヲ打だトリケレハ敵てきハヲクレヲトリ先陣せんじんノ備ハサソ引退いんたいキヌラン暁天ぎょうてんニカラメキノ瀬せヲトリコシ此ノ勢いきおいニ明日あしたヒト合戦かっせんシ尽つきク打だ亡ほろびサンコト手しゅノ内うちニアリト触さわラルヽ日びモクレカヽリ小雨こさめソヽキケレハ少しょうシ労ろうヲヤスメンタメニ鎧よろいヲ脱だつキ馬ばニ水草みずくさカイ明日あしたノ合戦かっせんヲ心しんカケ今いまヲ由よし断だんスルコソ運命うんめいツクル時刻じこくナレ比ひハ永なが禄ろく七なな年ねん甲子きのえね正月しょうがつ八はち日にち申さるノ刻こくニ至いたりテ氏政うじまさ軍兵ぐんびょう近々ちかぢかト押ヨセ鯨波げいはヲトツト揚あげク氏康うじやすハ直ちょくニセメカヽリ亦また鬨かちどきノ音おとヲ二に所しょニアケヲメキサケンテ責せめカヽル義弘よしひろ按外ノ仕合しあいト驚おどろきキ台きだいヲ折おりクタリテ鬨かちどきノ音おとヲ合ごうセ両方りょうほうヘ分ぶんツテ拒こばめキケル鉄炮てっぽう矢やサケヒノ音おん天地てんちヲヒヽカシ首くびヲ取とツトラレツ血ちケフリヲ出でシ半時はんときハカリハ勝負しょうぶモ未見みけんエサリシカ義弘よしひろツイニウチマケテ尽つきク敗北はいぼくス突伏切伏きりふせ追討ついとうスルコト将はた基もとタヲシニ異いナラス敵てき方かた討死うちじにノ人々ひとびとニハ正木まさき弾正だんじょう左衛門尉さえもんのじょう父子ふし勝山かつやま豊ゆたか前ぜん守もり父子ふし秋末あきすえ将すすむ監かん里見さとみ民みん部ぶ少しょう輔同兵衛ひょうえ尉じょう正木まさき左近さこん太夫たゆう次男じなん平たいら六平ろくへい七なな菅野かんの神かみ五郎ごろう加藤かとう左ひだり馬うま允まこと父子ふし長南ちょうなん七郎鳥井信濃守父子佐貫伊賀守多賀越後ヲ始はじめメ五ご千せん余よ騎き打だ死しス上総かずさ国こくシイツカエノ本子もとこリワタ此外ノ城しろ々此ノ勢いきおいニ皆みな尽つきク城じょうヲ開ひらけキテ落行ヌ此度ノ合戦かっせんハ氏し康かん氏政うじまさ両りょう旗本はたもとニテ切せつ勝しょうタリ北条ほうじょう新三郎しんざぶろう河かわ越こしヨリ馳はせ来らいリ粉こな骨こつヲ尽つきス同どうク源げん三同上総守父子氏康末子助五郎新太郎若輩タリトイヘ𪜈比類ひるいナキ走はしメクリ諸しょ士しノ忠節ちゅうせつ挙きょテ記きカタシ

右みぎノ趣おもむきハ氏し康かんヨリ合戦かっせんノ翌日よくじつ小田原おだわらノ城代しろだい伯父おじ幻まぼろし庵あんヘ一いち戦せんノ始はじめ中ちゅう終おわりヲカキノセツカハサル状じょうノ文言もんごんヲ写うつしシ侍さむらいルモノ也

太田おおた美濃みの守まもるハ二に百ひゃく騎きハカリニテ馳はせ参まいシ舎人とねり村むらヲハシメ一いち人にんモ不ふ残ざんウタレ美濃みの守まもるハ二にヶ所かしょ手負ておい東ひがしヲサシテニケユキヌ其節ノ落書らくがき

　ヨシ弘ひろしカタノム弓箭きゅうせんノ岩いわツキテカラキウキメニ太田おおた美よしノハテトソ読タル氏康うじやす云うん此度ノ合戦かっせんニ累年るいねんノ宿望しゅくぼうヲ達たちス然しかルニ謀反ぼうほんノ張本人ちょうほんにん太田おおた美濃みの守まもる討モラスコト無念むねん千せん万まん義弘よしひろハ討死うちじにノ沙汰さたアリトイヘトモ首くび未みキタラスト件けんノ状じょうニ記きセリ然しかル処しょニ義弘よしひろ馬ばニハナレケルニ安西あんざい伊予いよ守もり馬うまヨリ飛ひテヲリ義弘よしひろヲ乗じょうセ主従しゅうじゅう二に人にん上総かずさ山さんヘワケ入にゅうケルハナレ馬ばヲハ落人おちうど見付みつけテ乗じょうテ行ぎょうタリ義弘よしひろノ乗馬じょうばヲ見みテヤカテ討死うちじに必定ひつじょうノ沙汰さたアリケレハ房州ぼうしゅう討モラサレノ者しゃトモ主君しゅくんヲ討セイキカイアルヘカラストニケユク道どうスカラ寺てら々ヘ尋ひろヨツテ皆みな出家しゅっけシ一いち人にんモ入道にゅうどうセヌハナカリケリ三さん日にちスキテ義弘よしひろカツサヲワケ出でテ房州ぼうしゅうヘ帰きケリ時じニ氏康うじやす高野台こうやだいニ旗きヲタテ

　敵てきヲ討コヽロノマヽニ高野台こうやだいユフヘ詠えいシテ勝浦かちうらノ里さとトヨメリ合戦かっせんコトニ狂歌きょうかヲ記きシ侍さむらいル皆みなコレ氏康うじやす氏し政せい興きょうシテヨミ給きゅうヘルニヨツテ皆みな人じんヲホエ侍さむらいル

爰ニ里見さとみ越前えちぜん守まもる忠弘ただひろ息いきニ長ちょう九郎くろう弘次ひろじトテ生年せいねん十じゅう五ご才さい初陣ういじんナリシカ月毛つきげノ駒こまニ乗じょうリ母衣ほろヲカケ弓ゆみヲ持じテ只ただ一いち騎きハルカニ落行テ相しょう摸国住人じゅうにん松田まつだ左京さきょう進康のぶやす吉よしコレヲ見みテアツハレ大将たいしょうタリ優曇華うどんげト馬ばニムチ打だテ追ついカケ押並テムスト組ぐみンテトウト落タリ康吉やすきち剛つよしノ者しゃナリケレハ物ぶつノ【 NDLJP:441】数かずトモセス組ぐみフセ首くびヲトラントセシカハ容顔ようがん美麗びれいニシテ花はなノ如クノ小人こども也イカテカ刀がたなヲタテン助じょケハヤト思おもえケルニ味方みかた雲霞うんかノ如ク馳はせ来らいリテ首くびヲ奪だつヒトラントス力りょく不ふ及首打だ落シサスカニ猛もうキ康吉やすきちモ涙なみだニクレテ前後ぜんこうニ迷フツラツラ思おもえケルハ我わがカヽルウキ目めニアフ事ごと弓箭きゅうせんニタツサハルカ故こナリ百ひゃく年ねんノ栄耀えいようモ風前ふうぜんノ塵ちり一念いちねんノ発心ほっしんハ命いのち後ごノ灯ひトス凡三界輪廻四生皆是無明之眠中忘想ノ夢ゆめソカシ此度ノ仕合しあいコソ発心ほっしんノ種たねナラメト帰国きこくニ不ふ及山寺てらヘ入にゅうリ出家しゅっけ入道にゅうどうシ名めいヲハ浮世うきよト改あらためメ墨染すみぞめノ衣ころもニ身みヲ纒まといヒ一筋ひとすじニ里さと見長みなが九郎くろう弘次ひろじノ跡あとヲトフ皆みな人じんコレヲ見みテソレ道心どうしんヲ発はつストイフハ世よ中ちゅうノ常つねナキコトハリヲ知ちリテ名利みょうりヲ捨ル心こころヨリヲコル朝あさニハ紅べにノ顔かおセアリトイヘトモ夕ゆうヘニハ白骨はっこつトナルヨロツ心こころニ任にんセヌアタナル世よヲ観みスルカ故こ也古今ここん集しゅうニモ

　世よノウキメミエヌ山路やまじヘイランニハ思おもえフ人じんコソホタシナリケレトヨミシニ家かヲ捨妻子こヲ捨世ヲ遁レ山やまニ入にゅうル康吉やすきちカ心しんノ程ほどコソアリカタケレ昔むかしシ熊谷くまがい次郎じろう直実なおみ敦盛あつもりヲ討テ穢土えどヲ悲ミ世よヲ遁レハヤト思おもえヒ西国さいこくノ軍ぐん静しずリ黒谷くろたにノ法然ほうねん上人しょうにんノ御ご弟子でしトナリ入道にゅうどうシ蓮はちす生せい坊ぼうト名付なづけタリ今更いまさら康吉やすきちカ弘次ひろじヲウチテ出家しゅっけ遁世とんせいスル事ごと時じ替かえリ人じん異いナレトモ其志ハ同どうシヤサシカリケル次第しだい也

鴻おおとり台だい後記こうき終おわり

　評ひょう高野台こうやだい之の古いにしえ戦せん言げん曰

夫おっと兵へい凶きょう噐也戦せん逆徒ぎゃくと也不得とく止とめ用よう之の其利如何いかトナレハ敵てき勝則かつのり閱亡円まどか勝則かつのり敵てきヲ討然則そくイツレカ無む非ひ死地しち故こ兵へい者しゃ国こく之の大事だいじ死生しせい之の地ち存亡そんぼう之の道みち也誠ニ将はたハ国こく之の司つかさ命いのち也雖然しか天下てんか乱らんレ民みん困窮こんきゅうニ及ヒ悪逆あくぎゃくノ政せいヲナシ人民じんみん此日イツカ亡ほろびント哀あい則そく其君トシテ窮民きゅうみんヲ救すくえハサル者しゃ討ス是ぜハ亦また可也かなり凡天下か者しゃ天下でんか之の天下てんか也天下かノ利りヲ同どうフスル時じハ何事なにごとニカ敵てきアルヘシ本ほん天下てんか敵てきナキ也古語ご曰敵非ひ敵てき鬩非閱云々昔むかし明王みょうおう賢けん君くん用兵ようへいコト全ぜん以非人じん欲ほっ之の私わたし為ため戦せん安やす民みん也既ニ武たけト云うんフ字じハ戈ほこ止とめト書とがきタリ然しかニ戈ほこヲ便びんトシ国こくヲ取とント欲よく一いち戦せんヲ企くわだて士卒しそつヲ亡ほろびス事ごと不仁ふじんノ至いたり也義弘ひろ公こう北条ほうじょうノ領りょう知ちヲ伐きリ執とント欲よくス道どうニ非ひス皆みな私欲しよくヲ以ノ一いち戦せんナレハ敗軍はいぐんノ事理じりノ当然とうぜん也王者しゃノ兵へいヲ用もちいユル行ぎょうトシテ勝しょうストイフ事ごとナシ是ぜ仁者じんしゃ敵てきナキ故こナリ後ご漢かん光武みつたけ帝みかど一度毎用兵鬚髪白クナルト云うんリ故こナフシテ軍兵ぐんびょうヲ亡ほろびスコト悲ムヘキコト也然ルニ義弘よしひろ公人こうじん欲よくヲ以軽ク兵へいモノヲ用もちいヒ多た討死うちじにコレ将しょうノ罪つみ也古人じん曰有武ありたけ無文むもん則そく安やす至いたり強きょう有ゆう文ぶん無む武則たけのり流りゅう柔やわ故こ志こころざし道どうハ文武ぶんぶ之の道みち須臾しゅゆモ離はなれルヘカラス義弘よしひろ公文こうぶんヲ根ねトシ武ぶヲ枝葉えだはトシテ戦せん給きゅうハヽ当とうラストイヘトモ遠どおカラス又また氏康うじやす公おおやけ是非ぜひニ不ふ及一いち戦せんアリト云うんヘトモ王者おうじゃノ用兵ようへい^{（以下いか不ふ可読かどく）}所以ゆえん論敵ろんてき不ふ討勝利しょうり有可ゆか上兵かみへいハ討謀有ゆう唯ただ任にん怒いか仁じん将しょうノ無心むしん合戦かっせんナレハ軍兵ぐんびょうヲ多たク討トリ勝かち給きゅうフ異朝いちょうトモニ其罪ニヨツテ亡ほろびルコト記きニ不ふ及氏康かん公こう終おわりニ子孫しそんニ至いたりテ秀吉ひでよし公こうノ為ためニ亡ほろび

　　　下総しもうさ国安くにやす国山くにやま総そう寧やすし寺てら来由らいゆ之の事こと

開山かいさん通どおり玄げん和尚おしょうハ道元どうげん和尚おしょう六世之的伝也寺ヲ四よんヶ所かしょ開ひらけク丹波たんば永沢寺えいたくじ越前えちぜん龍泉寺りゅうせんじ能登のと妙高みょうこう菴下【 NDLJP:442】総そう総そう寧やすし寺てら也

当とう寺てらハ常法じょうほう幢之地ち也門前ぜんニ坂ざかアリ法王ほうおう坂ざかト云うんナラハセリ内ないニ石棺せっかんアリ法王ほうおうノ棺かんト云うん伝でんヘタリ此両事ごと拠よりどころナシ徴ちょうトスヘキ書しょモナシ考こうヘカラス

○氏康うじやすハ氏綱うじつなノ子こ早さ雲くもノ孫まご北条ほうじょう家か至いたり此甚盛もり領りょう関せき八はち州しゅう○義弘よしひろ馬頭ばとう義よし豊ゆたかノ男おとこ号ごう兵庫ひょうご頭領とうりょう上総かずさ安房あわ○義高よしたか号ごう太郎たろう義弘よしひろノ嫡○太田おおた美濃みの守康もりやす正せい入道にゅうどう号ごう三さん楽らく○遠山とおやま丹波たんば守まもる直ちょく景けい江戸えど城代じょうだい○富田とみた三郎左衛門尉家居葛西他本作四郎左衛門未知孰是○加か羅ら鳴な起おこり在ざい松戸まつど渡わたり○正木まさき大膳だいぜん亮あきら時じ綱つな里見さとみ家か先さき隊たい之の将はた也○氏綱うじつなハ早さ雲くも氏し茂しげるノ嫡子ちゃくし号ごう左京さきょう太夫たゆう大だい永なが中入なかいり江戸えど此時上杉うえすぎ朝興ともおき移うつり于川越かわごえ天文てんもん七年戊戌他本作天文六年丁酉未知孰是○小しょう弓ゆみ下総しもふさ地名ちめい又また作さく生実いくみ左衛門さえもん督とく義明よしあき者しゃ鎌倉かまくら基はじめ氏し六代左馬頭政氏之二男居小弓故称小弓御所○安西あんざい伊い予よ守実もりざね元もと一説いっせつ実じつ元もと自称じしょう義弘よしひろ力戦りきせん数すう回かい而死実じつ元もと建けん紀きの信之のぶゆき功こう之の際さい義弘よしひろ遂とげ遁干房州ぼうしゅう云うん○葛かずら浦うら行徳ぎょうとく之の入江いりえ也

　　右みぎ国府台こうのだい戦記せんき及鴻台だい後記こうき以水戸みと彰あきら考こう舘だて本ほん一いち校了こうりょう　　　　　近藤こんどう瓶びん城じょう

　　明治めいじ三さん十じゅう五年一月以東京帝国大学本再校了　　　　　　　近藤こんどう圭けい造づくり

 

 

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