「日本にっぽん映画えいが界かいを励はげましたい」。そんな想おもいから、1978年ねん、日本にっぽんアカデミー賞しょう協会きょうかい設立せつりつメンバーとなり、象徴しょうちょうとなる「映画えいが神像しんぞう」と、優秀ゆうしゅう賞しょう、最優秀さいゆうしゅう賞しょう受賞じゅしょう者しゃに贈おくられるブロンズをつくられた流りゅう政之まさゆき先生せんせいが、2018年ねん7月がつ7日にち、逝去せいきょされました(享年きょうねん95)。「映画えいが神像しんぞう」は、1979年ねんの第だい2回かいから授賞じゅしょう式しきの舞台ぶたい上じょうで受賞じゅしょう者しゃを見守みまもり続つづけてきました。世界せかい的てきなアーティストである流りゅう先生せんせいが、なぜ日本にっぽん映画えいが界かいを応援おうえんしてくださることになったのか？流りゅう先生せんせいは「映画えいが神像しんぞう」にどんな想おもいを込こめられたのか？流りゅう先生せんせいのこれまでつまびらかにされることのなかった側面そくめんをご紹介しょうかいします。(取材しゅざい協力きょうりょく:株式会社かぶしきがいしゃ桜さくら製作所せいさくしょ代表だいひょう取締役とりしまりやく 永見ながみ宏ひろし介かい)

日本にっぽんアカデミー賞しょう協会きょうかいが発足ほっそくした1978年ねんは、映画えいがの入場にゅうじょう者しゃ数すうが10年ねん前まえの半分はんぶん近ちかくに減へり、それまで圧倒的あっとうてきな興行こうぎょう力りょくを誇ほこっていた日本にっぽん映画えいがのシェアも、数すう年ねん前まえより外国がいこく映画えいがと逆転ぎゃくてんするようになっていました。そんな折おり、映画えいが界かいを盛もり上あげる一助いちじょとなればと考案こうあんされたのが日本にっぽんアカデミー賞しょうです。米べい映画えいが芸術げいじゅつ科学かがくアカデミーの公認こうにんを取とってのスタート。それでも最初さいしょはアメリカの二番煎にばんせんじと言いわれてしまう懸念けねんもありました。だからこそ、ブロンズは後世こうせいに残のこる、唯一ゆいいつ無二むにのものにしたい。そう思おもった協会きょうかい設立せつりつメンバーは、ロックフェラー家かの誘さそいで渡米とべいし、ニューヨークの世界せかい貿易ぼうえきセンター広場ひろばの彫刻ちょうこくを完成かんせいさせたばかりの流りゅう政之まさゆき先生せんせいに白羽しらはの矢やを立たてたのです。

当時とうじ、香川かがわ県けん庵治おうじ村むら(現げん高松たかまつ市し)にスタジオを構かまえられていた流りゅう先生せんせいに連絡れんらくを取とり、東京とうきょうで打うち合あわせをすることになった設立せつりつメンバーは、指定していの場所ばしょで先生せんせいがいらっしゃるのを待まっていました。アポイントメントはすぐ取とれたにもかかわらず、流ながれ先生せんせいは現あらわれず、待まつこと3時じ間あいだ。「やあ、待またせたね」、そう言いって飄々ひょうひょうと登場とうじょうされた流りゅう先生せんせいのお人柄ひとがらは、業ごうを煮にやしつつ待まっていた人々ひとびとの心しんをほぐした。ブロンズについての考かんがえを共有きょうゆうしたところで、流ながれ先生せんせいは「考かんがえておくよ。一度いちど、ぜひ四国しこくのスタジオに遊あそびにいらっしゃい」と言葉ことばを残のこして帰かえって行いかれたそうです。時ときは流ながれ、「できたよ」という連絡れんらくが入はいります。どんなアイデアになったのか？プレゼンを楽たのしみに四国しこくのスタジオに向むかった設立せつりつメンバーは、スタジオに置おかれた大小だいしょう様々さまざまな彫刻ちょうこくを見学けんがくしながら、アイデアを聞きく時ときを待まちました。打うち合あわせの時ときと同様どうよう、プレゼンはなかなか始はじまりません。ついに「一体いったい、どういうものを考かんがえていただいたのですか？」と切きり出だした途端とたん、流ながれ先生せんせいはスタジオの一いち画かくにあった彫刻ちょうこくの覆おおいを外はずされました。現あらわれたのは、大おおきな彫刻ちょうこく。毎年まいとし授賞じゅしょう式しきの舞台ぶたい上じょうに、そして通常つうじょうは有楽町ゆうらくちょうマリオンに展示てんじされている「映画えいが神像しんぞう」だったのです。

3時間じかん待またされたことも型破かたやぶりでしたが、彫刻ちょうこくが既すでに完成かんせいしていたことにも度肝どぎもを抜ぬかれた設立せつりつメンバー。「たぶんこの作品さくひんに値あたいする予算よさんは取とっていないでしょう。ですからこれは差さし上あげます」と彫刻ちょうこくはその場ばで協会きょうかいに寄贈きぞうされました。

依頼いらいされた瞬間しゅんかん、流ながれ先生せんせいは「このブロンズは米べいアカデミー賞しょうの“オスカー”に匹敵ひってきする、日本にっぽんアカデミー賞しょうのシンボル。永遠えいえんなるものをつくらなければいけない」と考かんがえたそうです。実際じっさい、ことあるごとに「この映画えいが賞しょうを100年ねん続つづくものに」と口くちにされていました。

流ながれ先生せんせいの作品さくひんには、それぞれ印象いんしょう的てきな名前なまえが付ついています。名前なまえがついて初はじめて作品さくひんはコンプリートすると考かんがえていらしたからだそうです。日本にっぽんアカデミー賞しょうの栄さかえある受賞じゅしょう者しゃに贈おくられるブロンズは、流ながれ先生せんせいによって「映画えいが神像しんぞう The God of Cinema」と名付なづけられました。

流ながれ先生せんせいは、ただ彫刻ちょうこくをつくるのみのアーティストではありません。大おおきくは町まちそのものを設計せっけいし、そのシンボルとして彫刻ちょうこくをつくる。また、戦争せんそうや災害さいがいで失うしなわれた命いのちの鎮魂ちんこんのために、スペースをつくり、彫刻ちょうこくを置おく。樺太からふとからの引ひき揚あげ者しゃを受うけ入いれた奥尻おくしり島とうの「彫刻ちょうこく公園こうえん 北きた追つい岬みさき」や、淡路あわじ市し北淡ほくだん震災しんさい記念きねん公園こうえん「べっちゃないロック」もそのひとつ。流りゅう先生せんせいの彫刻ちょうこくには、いつもそんな想おもいが込こめられているのです。

「映画えいが神像しんぞう」も然しかり。彫刻ちょうこくは普段ふだん、直接ちょくせつ触ふれて質感しつかんを感かんじられるよう、囲がこいをせずに設置せっちされています。そして、一いち年ねんの成果せいかを見届みとどけるために、授賞じゅしょう式しき会場かいじょうへと移動いどうさせるわけです。映画えいが界かいの発展はってんを願ねがって。

そんな「映画えいが神像しんぞう」は現在げんざい、東京とうきょう都と有楽町ゆうらくちょうマリオン、北海道ほっかいどう札幌さっぽろシネマフロンティア、福岡ふくおか県けんＴ・ジョイ博多はかたの3カ所かしょに置おかれています。

【第だい4回かい】
どの賞しょうを　もらえばいい
どの賞しょうを　ことわればいい
明治めいじいらい日本にっぽんには　賞しょうをことわったりすると
反骨はんこつ　純粋じゅんすいの芸術げいじゅつ家かとありがたがる　貧乏びんぼう根性こんじょうもあったが
星ほしの数かずほどある賞しょう　すべてをことわるなら　いざしらず
どれを　どれと　くわけするのは　忙いそがしいことだし
芸術げいじゅつ家かには　できることでない
もともと　賞しょうは　つくられた作品さくひんを　楽たのしむ人ひとたちの　よろこび
芸術げいじゅつ家かだけの　もので　なし
いわば　町方まちかたの　ごひいきの　くれる　ご祝儀しゅうぎのような
いきなもの　なのである

【第だい22回かい】
ブロンズの名誉めいよある寸法すんぽう

受賞じゅしょうブロンズの大おおきさは、大たいきすぎもならず、また立派りっぱ過すぎてもいけない。ブロンズが大おおきく見みえすぎると、それだけに受賞じゅしょう者しゃは小ちいさく見みえ、それに感激かんげきの授賞じゅしょう式しきで、ブロンズが重おもすぎると、ブロンズを手てに振ふりかざすこともできないのである。なにせ舞台ぶたいでの受賞じゅしょうとは、このうえもなく心しんに重おもいものだけに、ブロンズの寸法すんぽうを気きにかけてはいけない。それにブロンズを受うけ止とめる人間にんげんによって、ブロンズが大おおきくも見みえ小ちいさくも見みえるもので、まことに受賞じゅしょうのブロンズの寸法すんぽうとは不可思議ふかしぎなものなのである。

【第だい29回かい】
日本にっぽんアカデミー賞しょうがつくられた時とき、ポスターをあれこれとつくったが、派手はでなものはくりかえし長ながくつづかないと言いう哲学てつがくから今いまの統一とういつ規格きかくになり、大おおきからず小ちいさからず、神像しんぞうのまわりに受賞じゅしょう者しゃの作品さくひんたちの組くみ合あわせ、地色じいろだけを毎年まいとしかえていくと言いうかんたんな形かたちになった。そのころは地味じみじゃないか　小ちいさくないかということもあったが、その地味じみさ故ゆえか人々ひとびとを飽あきさせることなくつづき、今いまではつくられたポスターも24年ねんで2万まん枚まいをこえ、この調子ちょうしでは百ひゃく年ねんをむかえることも遠とおくないようである。

【第だい33回かい】
日本にっぽんアカデミー賞しょうの影かげにかくれて
忘わすれられそうなものといえば、映画えいが神像しんぞうの包つつみ箱ばこ

賞しょうをはじめるころは
ブロンズの映画えいが神像しんぞうのやりくりもたいへんだが
そこはやはり奥おくゆかしい日本にっぽんの賞しょうとなるもの、ほうっておけず
これを作つくるにあたって、当時とうじ四国しこくさぬきの職方しょくかたたちを集あつめた
「さぬき民みん具ぐ連れん」の名人めいじんたちに頼たのんだ

地味じみながら味あじわいのある楢ならの木き箱ばこができあがり
これならどこの賞しょうにも負まけぬ。とジョージ・ナカシマのおすみ付つき
たかが箱はこというなかれ
受賞じゅしょう者しゃの名なをとどめて、記録きろくされるにちがいない

材質ざいしつをまもり、形かたちをまもり、日本にっぽんアカデミー賞しょうの伝統でんとうを守まもる
受賞じゅしょうのあとで、この包つつみ箱ばこの手てざわりのあたたかさに
触ふれてほしいものである

【第だい34回かい】
日本にっぽんアカデミー賞しょうの祖そ形がたとも言いうべき「映画えいが神像しんぞう」が
1979年ねん、北海道ほっかいどう立りつ近代きんだい美術館びじゅつかんロビーに展示てんじされ
それからのち、1986年ねんから東京とうきょう 有楽町ゆうらくちょうのマリオン ロビーに飾かざられている

2003年ねんより「映画えいが神像しんぞう 北海道ほっかいどう」が札幌さっぽろシネマフロンティアに置おかれ
そしていままた、九州きゅうしゅうの人々ひとびとにより、博多はかたにもと言いう運動うんどうがひろがり
「映画えいが神像しんぞう 九州きゅうしゅう」が置おかれようとしている

「映画えいが神像しんぞう」が、これほどのひろがりをもってきたことの素晴すばらしさは
色々いろいろな賞しょうの中なかにあって特異とくいなものであろう

これからも「映画えいが神像しんぞう」は、日本にっぽんアカデミー賞しょうのこれからの歴史れきしを守まもり続つづけ
映画えいが人じんのプライドと、観客かんきゃくの声援せいえんによって支ささえられるものである

【第だい35回かい】
自然しぜんの脅威きょうい、荒あれた経済けいざいがくりかえしやってくる中なかで
どんなに苦くるしくても、映画えいがは勇気ゆうきをあたえてくれる

そして、日本にっぽんアカデミー賞しょうも永遠えいえんであり
映画えいがと言いう歴史れきしを守まもりつづけ
人々ひとびとの生いきていることの意味いみを教おしえてくれるだろう

今年ことしで35回かい目めとなる日本にっぽんアカデミー賞しょうも
日本にっぽんに育そだった大おおいなる文化ぶんかであり、活動かつどう写真しゃしん屋やの魂たましいである
いい映画えいがをみせつづけ、守まもりつづけるためにも
今いまこそ意地いじのみせどころである

※メッセージは、改行かいぎょうなども含ふくめ掲載けいさい時じのままご紹介しょうかいしています

彫刻ちょうこく家か。1923年ねん長崎ながさき県けん長崎ながさき市し生うまれ。巨大きょだいな御影石みかげいしを使つかい、自然しぜんと融合ゆうごうし圧倒的あっとうてきかつ存在そんざい感かんのある作品さくひん群ぐんは、世界せかい各国かっこくの美術館びじゅつかんに収蔵しゅうぞう、展示てんじ。唯ただ一いち無二むにの彫刻ちょうこく家かとしてその名なを知しらしめている。1978年ねん日本にっぽんアカデミー賞しょう協会きょうかい創設そうせつのメンバーとして、受賞じゅしょう者しゃに贈おくられるブロンズを制作せいさく。第だい1回かいより今日きょうまでその魂たましいのこもったブロンズが受賞じゅしょう者しゃの功績こうせきを讃たたえ続つづけている。
2018年ねん7月がつ7日にち逝去せいきょ　享年きょうねん95