「メタバース」と聞いて思い浮かべるのは、3D空間? あるいはVRゴーグルだろうか?それは一部ではあるが、すべてではない。言葉ばかりが先行し、わかっているようで実は多くの人にとって未知の世界というのが、メタバースの現状ではないだろうか。
そんなメタバースの敷居を下げ、誰もが簡単に利用できるサービスとして提供するのが、NTTコノキューのブラウザ版メタバースプラットフォーム「DOOR」だ。企業や自治体、教育機関での活用をサポートするNTTコノキュー マーケティング部門 サービスマネージメントグループの田丸夢里氏と藤井里奈氏に、DOORは一体どのようなサービスなのかを聞いた。
NTTグループのXRアセットを引き継ぎ、サービス化
NTTドコモの100%出資子会社であるNTTコノキューは、NTTグループが持つ仮想現実(Virtual Reality:VR)、拡張現実(Augmented Reality:AR)、複合現実(Mixed Reality:MR)などの“XR”と呼ばれる事業分野のアセットを、まとめて引き継ぐ形で2022年10月から事業を開始した。
現在はメタバース、デジタルツイン、デバイスの3つの事業を展開するが、このうちメタバース事業の中心となっているサービスがDOORだ。
もともとは、持株会社であるNTTが自社イベントなどでオウンドメディアとして使用していたメタバースプラットフォームを一般に開放し、サービス化したもの。本格的なサービス提供はNTTコノキューに移管されてからなので日は浅いが、累計UU数(ユニークユーザー数)は300万人に迫る。2024年2月末時点の累計アクセス数は1,100万PV超。大々的なプロモーションを行っていないにも関わらず、注目度の高さが伺える。
DOORでは、ブラウザ上で誰もが簡単に3D空間を制作し、公開できる。いわば、「メタバース版のホームページビルダーのような制作ツールと、制作したメタバース空間の運用プラットフォームを提供するサービス」と田丸氏。制作された空間は「ルーム」と呼ばれ、2024年2月末時点での制作数はコノキューが制作したものとユーザー制作のものの累計で21万6,800ルームにのぼる。その大半が企業や自治体、教育機関、個人クリエイターなどによるもので、毎月数千ルームというペースで増え続けているという。
「ルームでは、3Dで空間を表現できる。ユーザーがアバターとなってその空間に入室することで、時間や場所といった物理的制約を超えられるだけでなく、写真や動画などの2Dでは伝えることが難しい、物の大きさや質感、臨場感を体験してもらえる。さらに、ルーム内では動画をライブ配信することもでき、周りの人が熱狂している様子や、空気感も一緒に楽しめる」(田丸氏)
現実に展示会のようなイベントを開催しようとすれば、会場利用、運搬、展示にそれぞれコストが発生する上、資材などが大きくて会場に持ち込めない、利用できる時間や足を運べる来場者が限られるといった、さまざまな制約もある。メタバースなら、そうした物理的制約をラクラクと乗り越えられる上に、参加者同士は匿名でコミュニケーションしながら、それでいてリアルと同様に体験を共有できる。
NTTコノキュー マーケティング
部門サービスマネージメントグループ
主査 田丸夢里氏。
NTTコノキューがコンシューマ
向けに
提供するメタバースサービス「XR World」のコンテンツ
企画を
経て、
DOORの
企画、マーケティングを
担当
NTTコノキュー マーケティング
部門サービスマネージメントグループ
藤井里奈氏。
NTTドコモのXR
事業部を
経て、NTTコノキュー
設立当初から「DOOR」を
担当。
いわばオウンドメディアだった「DOOR」のサービス
化にあたり、
事業戦略から
企画、
個別案件対応まで
幅広く
携わる
誰もが簡単に利用でき、空間を作れるプラットフォーム
メタバースプラットフォームをサービスとして開放しているのはDOORだけではないが、藤井氏は「DOORには大きく3つのメリットがある」と話す。(1)ブラウザ1つで利用できること、(2)誰もが簡単に自分で3D空間を作れること、そしてNTTグループならではといえる(3)安心のセキュリティとサポート――の3点だ。以下、それぞれを詳しく見ていきたい。
他社サービスとDOORの
比較。アプリ
不要でブラウザひとつで
利用でき、マルチデバイスに
対応。
誰もが
手軽に
利用できるメタバースサービスとなっている
メリット1ブラウザ1つで利用できる
一般にメタバースにアクセスする際には、専用アプリのインストールが必要になることが多い。また、デバイスについてもハイスペックなデバイスの使用が推奨されているケースもある。だがDOORでは、PC、スマートフォン、タブレット、VRゴーグルのいずれでもデバイスを問わず、アプリのインストールが不要。ブラウザだけで3D空間を体験できる。もちろんハイスペックなデバイスを用意する必要もない。ウェブサイトへのアクセスと同様に、QRコードの読み込みやリンクのクリックだけで、「ルーム」にダイレクトにアクセス可能だ。
藤井氏は、「高齢者の方や、企業や自治体・学校で支給されているデバイスを使用する場合など、アプリをインストールするハードルが高い人達も、メタバースに簡単に触れられる」と説明する。
サービスを利用する企業などから最も好評を得ているのも、この「ブラウザひとつで使える点」と藤井氏。「メタバースでイベントを主催する企業様にとって、どれだけの人がきてくれるかも重要であるため、イベントに参加するユーザーに余計な負担を強いることなく、リンクひとつで簡単にルームに飛んできてもらえる点を評価いただいている」という。
ブラウザからアクセスできるということは、ユーザーがメタバースとウェブサイトを簡単に行き来できるということでもある。DOORではルーム内に用意されたリンクから、シームレスにウェブサイトへとユーザーを遷移させることもできる。
たとえば3Dで商品を展示し、実際にその商品が買えるECサイトへと動線を作ることが可能。ウェブサイトを開いてもブラウザのタブから簡単にルームに戻れるので、ユーザーは再びメタバースを楽しむことができる。
また、DOORはVRゴーグルを使った360度の没入体験も提供する。田丸氏によれば、博物館の来場者に向けてVRゴーグルの体験ができるような取り組みを行ったり、VRゴーグルを貸し出して、学校で学生・教員向けのメタバース体験会を実施した事例もあるとのこと。デバイスを問わず簡単にできる体験と、VRゴーグルを用いた本格的な没入体験。どちらも同時に提供できるのが特徴だ。
メリット2誰もが自分で3D空間を作れる
DOORでは、誰もが簡単に、しかも無料で3D空間である「ルーム」を制作できる。ブラウザひとつで体験ができるだけでなく、自ら3D空間を作れるようになっている。田丸氏は、「利用シーン、デザイン等のバリエーションに富んだ豊富なテンプレートも用意しており、それを選択するだけで今までメタバースに触れたことがない人でも簡単にメタバース空間が作れる。オリジナルの空間を作る場合も、ブロックを置いていくような直感的な操作で、さまざまなオブジェクトを配置したり、エフェクトやギミックを追加できる」と話す。
また、藤井氏も「2023年にルームの制作コンテストを開催したところ、初めてDOORに触れた方が1時間程度でオリジナルのガレージ空間を構築した例もある」と、簡単に使える点が大きな特徴と続ける。冒頭の田丸氏の言葉にもあるように、まさに「メタバース版のホームページビルダー」といったツールになっている。
一方で「Blender」など、本格的な3DCGソフトで制作した空間を取り込むことも可能だ。イベントなどの開催規模や利用目的に合わせて機能を拡張する有料オプションや、よりハイクオリティな有料テンプレート、完全オーダーメイドでの空間制作、同時に多くのユーザーが集うイベントの開催をサポートするプランも用意している。
「無料で試すこともできるし、NTTコノキューで空間制作やアバター制作、イベント開催を請け負うこともできる。大規模なイベントでは複数のルームを用意して入室を分散する、サーバーを増強するといったことも可能だ。目的に応じてフレキシブルな活用ができる」と藤井氏は話す。
メリット3 安心のセキュリティとサポート
DOORは前述の通り、もともとはNTTが自社のために開発したものだ。藤井氏は、「『Hubs Cloud』と呼ばれるオープンソースのしくみを機能拡張するとともに、NTTグループのセキュリティ基準に引き上げてサービス化している。万全のサポート体制を整えており、セキュリティ面でもサポート面でも、安心して利用できる」という。
具体的には、不正侵入を検知、防御するIPS/IDSやWAF、ふるまい検知システムに加えて、定期的な脆弱性のチェックや対策、利用規約に基づくルーム監視を実施。サポート面では空間設計から外部連携、イベント規模に応じた拡張など細かなニーズに対応するほか、運用実績の知見に基づく提案なども行われている。
あわせて、「NTTグループのアセットを活かした、総合的なサービスを提供できる」と、田丸氏。たとえば、NTTドコモと連携してメタバース空間を体験するためのタブレットを提供するなど、デバイスも用意できる。もちろん必要に応じて、ネットワーク環境の整備などもあわせて提供可能だ。「メタバースの制作やメタバースイベントの運用だけでなく、デバイスや通信環境も含めたさまざまなサポートが可能です。NTTドコモやNTTコミュニケーションズなど、企業様や自治体様、教育機関様ですでにお付き合いのあるNTTグループの担当者がいれば、そのチームと一緒にご支援できることも強み」という。
「DOOR」のさまざまな活用事例
DOORにはすでに、個性豊かなルームが多数公開されている。藤井氏は、法人の事例で特に活用が広がっているのは、「自治体、教育、エンターテインメントの3つの業界」と話す。そのいくつかのルームを覗いてみれば、メタバースがどのようなものでどんな風に活用できるのか、その一端を体験できる。
たとえば、「バーチャル首里城」(※リンククリックで当該ルームに遷移します)での体験は、まさにメタバースならではのものだ。ご存じのように首里城は、2019年に発生した火災で正殿などが焼失。現在は再建に向けた復元工事が行われているため、現地で本物を見ることはかなわない。しかしメタバースでなら、その姿をさまざまな角度と距離から見ることができる。
田丸氏は「観光資源でいえば、たとえば施設内の普段は立ち入れないエリアや現存していない歴史的建造物を3DCG化し、バーチャル観光を提供するといったこともできる。物理的制限やリアルではできないことを超えられるのは、メタバースのメリットだ」と補足する。
観光客向け、
修学旅行生向けに
制作されたバーチャル
首里城
前述のように、ルーム内にはさまざまなリンクも設置できるため、そこを入り口に観光情報にアクセスする、といった仕掛けもできる。鹿児島県日置市の事例では、バーチャルなエントランス空間に、観光やイベント、キャンペーンなどの情報をパネルで表示し、そこから市内の観光スポットを再現したほかのルームやウェブサイトにアクセスできるようになっている。
鹿児島県日置市のメタバース
空間「
ネオ日置」では、
観光やイベント
情報を
随時掲載し、
日置市の
観光スポットを
再現したルームも
自治体の活用事例では上述した観光での活用のほか、自治体、学校、地元の消防署が合同で、メタバースで防災訓練を実施した例もある。コロナ禍に開催された東京都内の自治体のバーチャル防災訓練では、防災動画の視聴のほか、クイズ大会なども実施している。「バーチャルでなら、実際に災害の現場を再現して、避難経路を体験するといったこともできる。防災訓練などでの活用余地は広い」(藤井氏)
また、教育関連では、県外から足を運べない学生に向けて、大学の雰囲気や取り組みを発信するバーチャルオープンキャンパスを実施。明光義塾と一緒にメタバースで全国14校の大学合同説明会を開催した事例もあるという。
このほか、不登校児童向けに空間を開放し、メタバースで授業を受けたり、匿名で話せる取り組みなども行われている。
2023
年3
月には
明光ネットワークジャパンらと
共同で、
学生向けのイベントを
開催した
エンターテインメントでは、バーチャルライブの開催やアーティストの展示会、ファンとのコミュニケーションの場としても活用されている。田丸氏は、「2Dのオンラインライブではほかのファンの動きが見えないが、3Dではファン同士がお互いに拍手したり一緒に踊ったりと、空間を共有できる。好きなVTuberとアバターを介して同じ空間に立つことも可能だ。いわゆるオフ会なのかオン会なのか、VTuberやバーチャルアイドルが『トークイベント』や『チェキ会』、『ツーショットトーク』を開催し、ファンとアバター姿で触れ合う場として活用している事例もある。ファンにとってもかなりインパクトがある体験になっているようだ」と説明する。
また、企業がDOORを活用し、ユーザー向けのイベントを開催する例もあるという。主催者とユーザーの間でクイズ大会や外部ツールも活用しながらオークションのような参加型の催しが展開できるほか、主催者とユーザー、ユーザー同士など、さまざまな方向のコミュニケーションができるのも、メタバースという場を共有できるからこそだろう。
今後の取り組みについて藤井氏は、「メタバースは大いに可能性のある市場。触ったことがない人もまだたくさんいると思うので、そのきっかけがDOORであればうれしい。そのためにも業種、業態を問わず、メタバースで何ができるのか、どんな活用の仕方ができるのか、ビジネスサポート的なところも含めて提供していきたい」と話す。
また、田丸氏も「自治体支援、教育支援に引き続き取り組んでいく同時に、メタバースの啓蒙活動ではないが、誰もが簡単にメタバース利用できる・作れるプラットフォームとして、多くの人にメタバースを体験いただくための取り組みを、さらに強化していきたい」と続けた。
DOORのホームページはこちら