主題しゅだい（読よみ）シュダイ

研究けんきゅうや論文ろんぶんあるいは芸術げいじゅつ作品さくひんなど人間にんげんの精神せいしん的てき作物さくもつの中心ちゅうしんとなる題目だいもくをいう。〈テーマ〉（ドイツ語ごThema，英語えいごtheme，フランス語ふらんすごthème）の訳語やくごでもあるが，これはギリシア語ごtithenaiに由来ゆらいし，〈置おかれたもの〉を意味いみしている。人間にんげんが思想しそうを展開てんかいするときには集あつめた素材そざいを自分じぶん独自どくじの観点かんてんから統一とういつするが，その統一とういつの中心ちゅうしんに置おかれるものこそ主題しゅだいにほかならない。芸術げいじゅつ作品さくひんは，もとより素材そざいに形成けいせい作用さようをほどこして成なるものである。その素材そざいは題材だいざいと媒材ばいざい（油彩ゆさい画がならば油絵具あぶらえのぐのごとき表現ひょうげん手段しゅだん）に2分ふんされるが，題材だいざいは主題しゅだいと置おきかえられるほど両者りょうしゃは密接みっせつに結むすばれている。ことに美術びじゅつにおける主題しゅだいとはほとんど題材だいざいをさすとみなしてよかろう。

　文芸ぶんげいでは表現ひょうげんの目標もくひょうと見定みさだめられた思想しそう内容ないようが主題しゅだいといわれる。ここでは主題しゅだいは題材だいざいそのものでなく，作者さくしゃ独自どくじの観点かんてんから素材そざいをとらえなおすところに一定いっていの意味いみ連関れんかんとして主題しゅだいが浮うかびあがり，かかる主題しゅだいはモティーフ（執筆しっぴつ動機どうき）やプロット（物語ものがたりの筋すじ）によって具体ぐたい的てきに展開てんかいされる。したがって主題しゅだいは実在じつざい世界せかいの構造こうぞうを見みつめる作者さくしゃの世界せかい観かんを反映はんえいするものでもあり，世界せかいおよび読者どくしゃに対たいする作者さくしゃの態度たいどいかんによっては〈テーマ小説しょうせつ〉などと呼よばれる傾向けいこう性せいの強つよい作品さくひんの生しょうじることもある。これは一定いっていの主題しゅだいがあからさまに掲かかげられ，すべての内容ないようがこれに従属じゅうぞくせしめられる類るいのものをいう。なお文芸ぶんげい研究けんきゅうには主題しゅだい学がくthématologieと呼よばれる分科ぶんかがあるが，これは文芸ぶんげい作品さくひん相互そうごの関係かんけいを主題しゅだいの面めんから追究ついきゅうする意図いとをもち，比較ひかく文学ぶんがくにおいて重要じゅうような一いち部門ぶもんとなっている。
執筆しっぴつ者しゃ：細井ほそい 雄介ゆうすけ

音楽おんがくにおける主題しゅだい

音楽おんがくでは一般いっぱんに主題しゅだいとは，楽曲がっきょくの一部いちぶないし全体ぜんたいの構成こうせい基盤きばんであると同時どうじに，しばしば固有こゆうの性格せいかく的てき相貌そうぼうを有ゆうし，それ自体じたいである程度ていど完全かんぜんな音楽おんがく的てき表現ひょうげんを成立せいりつさせる主要しゅよう楽想がくそうをいう。楽曲がっきょくの冒頭ぼうとうをはじめいたるところで提示ていじあるいは再現さいげんされ，ときには変奏へんそうされ展開てんかいされて（特とくに主題しゅだいに含ふくまれる部分ぶぶんモティーフへの分割ぶんかつ・展開てんかいを〈主題しゅだい労作ろうさく〉という）全体ぜんたいの性格せいかくを決定けっていし，楽曲がっきょくに統一とういつ性せいを与あたえる。音楽おんがくの各かく要素ようそ（旋律せんりつ，リズム，和声わせい，音色ねいろ，デュナーミク等とう）の相互そうご作用さようによって総体そうたい的てきかつ明確めいかくに規定きていされ，ある程度ていどまとまった形態けいたいを示しめす点てんでモティーフとは区別くべつされる。音楽おんがく用語ようごとしての〈主題しゅだい〉は，16世紀せいきイタリアのG.ツァルリーノに始はじまるが，上記じょうきの定義ていぎに特とくに対応たいおうするのは，調しらべ性せいが確かく立りっし拍はく節ぶし法ほうや楽節がくせつ構造こうぞうが整備せいびされ，作曲さっきょく家かの個性こせい的てき表現ひょうげんが尊重そんちょうされるようになった18世紀せいき（特とくに古典こてん派は）以後いごの音楽おんがくである。主題しゅだいは時代じだいやジャンル，形式けいしきによってそのあり方かたは多様たようであるが，必かならずしもオリジナルであるとは限かぎらず，また楽曲がっきょく中ちゅうの数かずも一定いっていでない。20世紀せいきにおいては，新あたらしい技法ぎほうの開拓かいたくや音楽おんがく観かんの変化へんかに伴ともなって，主題しゅだい概念がいねんそのものが再さい検討けんとうを迫せまられている。なお，フーガなどの模倣もほう対位法たいいほう楽曲がっきょくの主題しゅだいをサブジェクトsubject（ポイントpointともいう）という。
執筆しっぴつ者しゃ：土田つちた 英三郎えいざぶろう