乳腺にゅうせん（読よみ）ニュウセン（英語えいご表記ひょうき）mammary gland
corpus mammae［ラテン］

哺乳類ほにゅうるいでは，産うみ出だされた幼児ようじはみずから食物しょくもつをとるようになるまで，母親ははおやの乳ちちmilkで哺育ほいくされる。この乳汁にゅうじゅうを分泌ぶんぴつする哺乳類ほにゅうるいに特有とくゆうの腺せんが乳腺にゅうせんである。皮膚ひふ腺せんの一種いっしゅで，発生はっせい，構造こうぞうとも汗腺かんせんに似にており，汗腺かんせんの変化へんかしたものとも考かんがえられる。雄ゆうでは痕跡こんせき的てきであるが，雌めすでは性的せいてき成熟せいじゅくとともに発達はったつし，さらに妊娠にんしんにより著いちじるしく発達はったつして乳ちちの分泌ぶんぴつが可能かのうとなり，新生児しんせいじの哺育ほいくにあたる。最もっとも原始げんし的てきな哺乳類ほにゅうるいの単たん孔あな類るいのうち，カモノハシでは多数たすうの乳腺にゅうせんが集合しゅうごうして平坦へいたんな皮膚ひふ面めんに直接ちょくせつ開口かいこうし，ハリモグラでは生殖せいしょく時期じきには開口かいこう部ぶがややくぼみを生しょうじ，乳ちち囊 mammary pouchを形成けいせいする。その他たの哺乳類ほにゅうるいでは乳頭にゅうとうnippleが形成けいせいされ，幼児ようじの哺乳ほにゅうに適てきした形態けいたいとなる。構造こうぞう上じょうは複ふく合あい胞状腺せんであり，分泌ぶんぴつ様式ようしきからは分泌ぶんぴつ物ぶつが細胞さいぼう質しつの一部いちぶとともに排出はいしゅつされる離はなれ出で分泌ぶんぴつ腺せんである。発生はっせい過程かていでの乳腺にゅうせんの形態けいたい形成けいせいは，胎生たいせい期きに表皮ひょうひ細胞さいぼうが集あつまった乳腺にゅうせん原はら基はじめに始はじまるが，乳腺にゅうせん上皮じょうひは脂肪しぼう前駆ぜんく組織そしきの作用さようを受うけて初はじめて乳腺にゅうせんとしての発生はっせいを進行しんこうすることが知しられている。
執筆しっぴつ者しゃ：町田まちだ 武生たけお

ヒトの乳腺にゅうせん

ヒトの乳腺にゅうせんは15～20個この腺せん葉はからなり，それらは脂肪しぼう組織そしきと結合けつごう組織そしきとでできた支ささえ帯たいで隔へだてられて，乳頭にゅうとうを中心ちゅうしんに放射状ほうしゃじょうに配列はいれつしている。各かく腺せん葉はから発はっする各かく1本ほんの導管どうかんは末端まったん近ちかくで紡錘形ぼうすいけいの〈乳ちち管かん洞ほら〉という拡張かくちょう部ぶを作つくったのち乳頭にゅうとうの先さきに別々べつべつに開ひらいている。乳腺にゅうせん自身じしんは分岐ぶんきした細ほそい管かんから成なり，この管かん系けいの上皮じょうひは立方りっぽう状じょうの細胞さいぼうから成なる。この管かんの先端せんたん部ぶでは，上皮じょうひの外側そとがわを，筋すじ上皮じょうひ細胞さいぼうと呼よばれる特殊とくしゅな平滑へいかつ筋すじ細胞さいぼうが籠かご状じょうに包つつんでいる。妊娠にんしん中ちゅうの乳腺にゅうせんでは，この管かん系けいの先端せんたんが細胞さいぼう分裂ぶんれつして円柱えんちゅう状じょうの分泌ぶんぴつ細胞さいぼうとなり，分娩ぶんべん後ごは乳汁にゅうじゅうの脂肪しぼうとタンパク質たんぱくしつ（カゼイン）を盛さかんに産さん生せいし放出ほうしゅつする。乳児にゅうじが乳頭にゅうとうを吸すうと，そこに分布ぶんぷする神経しんけいが刺激しげきされ，興奮こうふんが視床ししょう下部かぶに達たっし，オキシトシンというホルモンが下垂かすい体たい後葉こうようの血管けっかん中ちゅうに放出ほうしゅつされる。オキシトシンは血液けつえきとともに乳腺にゅうせんに到来とうらいし，その筋すじ上皮じょうひ細胞さいぼうを収縮しゅうしゅくさせるので，乳腺にゅうせんの管かん腔内にたまっている乳汁にゅうじゅうがほとばしり出でる。これを俗ぞくに〈ちばな〉が走はしるという。乳腺にゅうせんの発達はったつは青春せいしゅん期きになって急きゅうに進すすみ，妊娠にんしんするに及およんで内分泌ないぶんぴつ的てき作用さようで分泌ぶんぴつの準備じゅんびがととのえられ分娩ぶんべんによって分泌ぶんぴつを始はじめる。乳腺にゅうせんの発達はったつを促うながすのは卵胞らんぽうホルモン（エストロゲン）という女性じょせいホルモンである。分娩ぶんべんとともに脳下垂体のうかすいたいから催乳ホルモン（プロラクチン）が出でて，このホルモンによって乳汁にゅうじゅうの分泌ぶんぴつが開始かいしされる。哺乳ほにゅう期きの終おわりになると，腺せんの分泌ぶんぴつ部ぶは再ふたたび萎縮いしゅくして，その一部いちぶは消失しょうしつするが，その後ごも妊娠にんしんごとに活動かつどうを起おこす。しかし老年ろうねんになると終末しゅうまつ部ぶは全部ぜんぶ消失しょうしつして，導管どうかんばかりになる。男子だんしの乳腺にゅうせんは終生しゅうせいおおむねこの状態じょうたいにとどまるが，青春せいしゅん期きには性せいホルモンの作用さようで多少たしょう活動かつどう状態じょうたいに入はいるらしく，乳腺にゅうせんの痛いたみを訴うったえる者ものが少すくなくない。
→乳ちち　→乳房ちぶさ（ちぶさ）
執筆しっぴつ者しゃ：藤田ふじた 恒太郎つねたろう＋藤田ふじた 恒夫つねお