厳島いつくしま（読よみ）イツクシマ

広島ひろしま湾わんの西南せいなんにあり、対岸たいがんと大野おおの（おおの）ノ瀬戸せとで隔へだたり、周囲しゅうい約やく三さん〇キロ。最高峰さいこうほうは弥山みせん（みせん）で、その北きた麓ふもとの、御手洗みたらい（みたらい）川かわが海うみに注そそぐ付近ふきんに厳島いつくしま神社じんじゃが鎮座ちんざ。神社じんじゃの周辺しゅうへん西にしと東ひがしを中心ちゅうしんに門前もんぜ町まちが発達はったつした。

地名ちめいはまず「日本にっぽん後ご紀き」弘ひろし仁じん二に年ねん（八はち一いち一いち）七なな月がつ一いち七なな日にち条じょうに「伊都いと岐島神しん」と神かみ名めいとしてみえ、島しまの名なであると同時どうじに神かみの名なであったことが知しられる。一方いっぽう、厳島いつくしまは宮島みやじまともよばれるが、これは時代じだいが下くだり、年代ねんだいのはっきりしているものでは「高倉たかくら院いん厳島いつくしま御幸みゆき記き」の治ち承うけたまわ四よん年ねん（一いち一いち八はち〇）三さん月がつ二に五ご日にちに「宮島みやじまちかくなりにけりと、きよき心しんをおこす」とみえるのが早はやい。ほかに「伊い津つ岐島」（長ちょう寛ひろし勘かん文ぶん）、「伊い調ちょう島とう」（今昔こんじゃく物語ものがたり集しゅう）、「伊い津つ久島くしま」（山やま槐えんじゅ記き）などとも記しるされる。

平清盛たいらのきよもりの厳島いつくしま信仰しんこうにまず注目ちゅうもくされる。清盛きよもりは久安ひさやす二に年ねん（一いち一いち四よん六ろく）から途中とちゅう一いち時期じきを除のぞいて保ほ元もと元年がんねん（一いち一いち五ご六ろく）までの間あいだ安芸あき守まもるに在任ざいにんしたが、その間あいだに現地げんちの在庁ざいちょう官かん人じんや社寺しゃじと関係かんけいが生しょうじ、とりわけ安芸あき国一くにいち宮みやの実質じっしつを備そなえつつあった厳島いつくしまと結むすばれる端緒たんしょがあったと思おもわれる。永なが暦れき元年がんねん（一いち一いち六ろく〇）八はち月がつ、清盛きよもりは自みずから厳島いつくしまに参詣さんけい、この時ときすでに清盛きよもりにとって厳島いつくしま神しんに対たいする帰かえり敬けいは熱烈ねつれつなものがあった。その後ご、治ち承うけたまわ四よん年ねん一いち〇月がつまでに文献ぶんけんで明あきらかなものだけで一いち〇回かいの厳島いつくしま参詣さんけいをしており、異常いじょうなまでの信仰しんこうを寄よせている。

中世ちゅうせいの厳島いつくしまで注目ちゅうもくされるのは、神主かんぬし職しょくがそれまで一いち手てに掌握しょうあくしていた地方ちほう豪族ごうぞくの佐伯さえき氏しを離はなれて鎌倉かまくら御家人ごけにんの手てに移うつったことと、社家しゃけの厳島いつくしま常住じょうじゅうが始はじまったことである。根強ねづよい勢力せいりょくをもつ佐伯さえき氏し一族いちぞくのなかに承久じょうきゅうの乱らんに際さいして京都きょうと方かたに味方みかたしたものがあったので、幕府ばくふは神主かんぬし職しょくを佐伯さえき氏しより没収ぼっしゅうして周防すおう前ぜん司つかさ藤原ふじわら親実ちかざねに与あたえた。その後ご、天文てんもん一いち〇年ねん（一いち五ご四よん一いち）までおよそ一いち六ろく代だい三さん〇〇年ねん余あまりの間あいだ、親実ちかざねの子孫しそんが世襲せしゅうした。神主かんぬし家かは南北なんぼく朝あさから室町むろまち初期しょきにかけて、安芸あき国こくの屈指くっしの勢力せいりょくをもち、領地りょうち拡大かくだいを図はかったが、結局けっきょく大内おおうち氏しの勢力せいりょく圏けんに含ふくまれて被官ひかん関係かんけいを結むすび、近隣きんりんの武田たけだ氏しをはじめとする国人くにびと勢力せいりょくに対抗たいこうした。しかし自みずから在地ざいちに強力きょうりょくな領主りょうしゅ権けんをうちたてることはできず、大内おおうち氏し・武田たけだ氏しの両りょう勢力せいりょくの間あいだに介在かいざいし、さらに尼子あまこ・毛利もうり・吉川よしかわ・村上むらかみ諸氏しょしらの盛衰せいすいに応おうじて対応たいおうを強しいられた。永えい正ただし五ご年ねん（一いち五ご〇八はち）一いち二に月がつ、神主かんぬし興きょう親おやは、大内おおうち義興よしおきに従したがって京都きょうと滞在たいざい中ちゅう病没びょうぼつし、その正統せいとうが絶たえた後のち、神主かんぬし職しょくを競きそえ望もちする神領しんりょう衆しゅの小方おがた加賀かが守まもると友田ともた上野うえの介かい興きょう藤ふじの勢力せいりょくが数すう年間ねんかん対峙たいじしたが、大だい永なが三さん年ねん（一いち五ご二に三さん）興きょう藤ふじが武田たけだ氏しの援助えんじょを得えて神主かんぬし職しょくを得えた。