目次 防火管理 防火地域 防煙 建物の防火 防火建築 の発達 室内火災の性状 標準火災温度曲線 難燃処理 火災感知器 自動消火設備 防火区画 化 〈災 わざわい 〉という文字 もじ は川 かわ (水 みず )と火 ひ とで構成 こうせい されている。両者 りょうしゃ は,人間 にんげん 生活 せいかつ を豊 ゆた かにした反面 はんめん ,人間 にんげん に自然 しぜん の厳 きび しさを教 おし えることにもなった。火 ひ を利用 りよう した暮 くら しは,火災 かさい を抑止 よくし するくふうを怠 おこた っては成 な りたない。燃 も えやすい家 いえ で都市 とし を造 つく ると大火 たいか でその努力 どりょく は無駄 むだ になるし,火事 かじ の対策 たいさく なしに大 だい 規模 きぼ または高層 こうそう あるいは地下 ちか 何 なん 階 かい もある建物 たてもの を造 つく ると大量 たいりょう 死 し の発生 はっせい も覚悟 かくご しなければならない。火 ひ を防 ふせ ぐという内容 ないよう には次 つぎ の三 みっ つの意味 いみ がある。(1)火災 かさい 予防 よぼう 火事 かじ にならないように火気 かき の管理 かんり を十分 じゅうぶん に行 おこな うこと。〈火 ひ の用心 ようじん 〉という名言 めいげん は,徳川 とくがわ 家康 いえやす の家臣 かしん 本 ほん 多作 たさく 左衛門 さえもん が留守 るす 宅 たく の妻 つま に書 か き送 おく った手紙 てがみ で,〈火 ひ の用心 ようじん 。おせん泣 な かすな。馬 うま 肥 こ やせ〉と書 か いたのが最初 さいしょ といわれる。日本 にっぽん の住宅 じゅうたく 構造 こうぞう を考 かんが えれば,〈用心 ようじん 〉が最 もっと も重要 じゅうよう な予防 よぼう 対策 たいさく の一 ひと つであることは自明 じめい の事実 じじつ である。(2)消火 しょうか ・防火 ぼうか 火事 かじ になっても拡大 かくだい させないよう消火 しょうか したり,防火 ぼうか 区画 くかく を設 もう けて火 ひ を抑 おさ えたりすること。スプリンクラー設備 せつび は有力 ゆうりょく な消火 しょうか 手段 しゅだん であり,防火 ぼうか 戸 ど の閉鎖 へいさ は火炎 かえん や煙 けむり の拡散 かくさん を防 ふせ ぐために不可欠 ふかけつ であることなどがその例 れい である。(3)類焼 るいしょう 防止 ぼうし 隣 となり 棟 とう など外部 がいぶ で発生 はっせい した火災 かさい から自分 じぶん の建物 たてもの を守 まも り,燃 も え移 うつ らせないようにすること。このような性能 せいのう をもった構造 こうぞう を建築 けんちく 基準 きじゅん 法 ほう では防火 ぼうか 構造 こうぞう と称 しょう している。また,類焼 るいしょう する危険 きけん のある敷地 しきち 境界 きょうかい 線 せん などからの範囲 はんい を法律 ほうりつ では延焼 えんしょう のおそれある部分 ぶぶん と定義 ていぎ している。これらは,古来 こらい 大火 たいか に悩 なや まされてきた日本 にっぽん で考 かんが えられた独特 どくとく の表現 ひょうげん である。
防火 ぼうか 管理 かんり 火災 かさい 安全 あんぜん が防火 ぼうか 対象 たいしょう 物 ぶつ の構造 こうぞう やそこに設備 せつび された機器 きき のみでは保証 ほしょう されないことから生 しょう じた対策 たいさく 手法 しゅほう で,防火 ぼうか の面 めん で人間 にんげん が果 は たすべき役割 やくわり に関 かん する内容 ないよう である。消防 しょうぼう 計画 けいかく をたて,消防 しょうぼう 設備 せつび などの保守 ほしゅ ・点検 てんけん の実施 じっし 方法 ほうほう を定 さだ めたり,火気 かき の管理 かんり や避難 ひなん 誘導 ゆうどう ,初期 しょき 消火 しょうか の役目 やくめ を決 き めて避難 ひなん 訓練 くんれん を定期 ていき 的 てき に行 おこな うことなども含 ふく まれる。過去 かこ の火災 かさい のほとんどは防火 ぼうか 管理 かんり 上 じょう の欠陥 けっかん が関与 かんよ し,日本 にっぽん の例 れい では千 せん 日 にち ビル(大阪 おおさか ,1972),大洋 たいよう デパート(熊本 くまもと ,1973),川治 かわじ プリンスホテル(栃木 とちぎ ,1980),ホテルニュージャパン(東京 とうきょう ,1982)などの大 だい 惨事 さんじ をひき起 お こしている。一 ひと つのビルが多 おお くの用途 ようと に使 つか われているもの(複 ふく 合 あい 用途 ようと ビル,雑居 ざっきょ ビル )では,出火 しゅっか 時 じ の警報 けいほう が遅 おく れがちであるから,共同 きょうどう 防火 ぼうか 管理 かんり 体制 たいせい の的確 てきかく な運用 うんよう のあり方 かた は防火 ぼうか 上 じょう の重要 じゅうよう な課題 かだい となっている。
防火 ぼうか 地域 ちいき 都市 とし 大火 たいか を抑止 よくし する抜本 ばっぽん 的 てき 手段 しゅだん は都市 とし の不燃 ふねん 化 か である。ロンドン ,パリ,シカゴ,サンフランシスコ など欧米 おうべい の諸 しょ 都市 とし も例外 れいがい ではなく,耐火 たいか 建築 けんちく を増 ふ やすことによって大火 たいか を撲滅 ぼくめつ した。これを可能 かのう としたのが,地域 ちいき に応 おう じて建築 けんちく できる建物 たてもの の防火 ぼうか 上 じょう の構造 こうぞう を決 き めたことである。日本 にっぽん では都市 とし 計画 けいかく 法 ほう にもとづき市町村 しちょうそん が防火 ぼうか 地域 ちいき および準 じゅん 防火 ぼうか 地域 ちいき を指定 してい することとなっている。防火 ぼうか 地域 ちいき は都市 とし の中核 ちゅうかく 的 てき 地域 ちいき で指定 してい されることが多 おお く,建築 けんちく 基準 きじゅん 法 ほう により多 おお くの人々 ひとびと が集 あつ まる一定 いってい 規模 きぼ 以上 いじょう の建物 たてもの は耐火 たいか 建築 けんちく 物 ぶつ としなければならない地域 ちいき であり,火 ひ に弱 よわ い木造 もくぞう の建築 けんちく は原則 げんそく として禁止 きんし されている。準 じゅん 防火 ぼうか 地域 ちいき では,簡易 かんい な耐火 たいか 建築 けんちく 物 ぶつ でも建築 けんちく が可能 かのう である。木造 もくぞう の屋根 やね を瓦 かわら や鋼板 こうはん でふき,外壁 がいへき や軒 のき 裏 うら をセメントモルタル塗 ぬり あるいは不燃材 ふねんざい 料 りょう 張 は りとすれば,かなり類焼 るいしょう を防 ふせ ぐことができる。日本 にっぽん では市街地 しがいち 化 か 区域 くいき に建 た てられる大 だい 部分 ぶぶん の木造 もくぞう 建築 けんちく がこうした防火 ぼうか 木造 もくぞう となっている。過去 かこ に頻発 ひんぱつ した大火 たいか も現在 げんざい ではめったに起 お こらなくなった。1976年 ねん 10月 がつ 29日 にち に発生 はっせい した酒田 さかた 大火 たいか は例外 れいがい 的 てき ともいえる。
防 ぼう 煙 けむり 昭和 しょうわ 30年代 ねんだい 後半 こうはん から40年代 ねんだい にかけては,経済 けいざい の高度 こうど 成長 せいちょう に関連 かんれん して数 すう 多 おお くのビルが建 た てられ,また,石油 せきゆ 化学 かがく の発展 はってん に代表 だいひょう される素材 そざい 産業 さんぎょう の拡充 かくじゅう が多様 たよう な新 あたら しい建築 けんちく 材料 ざいりょう を生 う み出 だ し,多 おお く利用 りよう されたが,そのなかには燃 も えると有毒 ゆうどく ガス を発生 はっせい するものも多 おお かった。その結果 けっか ,煙 けむり に追 お いつめられて死亡 しぼう する惨事 さんじ が続発 ぞくはつ した。煙 けむり 拡散 かくさん の防止 ぼうし は,ビル管理 かんり にかかわる汚染 おせん 空気 くうき の排除 はいじょ とともに,安心 あんしん できるビル生活 せいかつ を営 いとな むための必須 ひっす の条件 じょうけん となっている。煙 けむり が危険 きけん な理由 りゆう は次 つぎ の二 ふた つである。(1)見通 みとお し距離 きょり の減退 げんたい 煙 けむり はすすや霧 きり 状 じょう の微粒子 びりゅうし から成 な るため光 ひかり が散乱 さんらん したり透過 とうか しにくくなる。したがって,避難 ひなん 口 こう 誘導 ゆうどう 灯 とう などが見 み つけられずに迷 まよ い脱出 だっしゅつ できなくなる原因 げんいん となる。(2)有毒 ゆうどく ガスの存在 そんざい 火事 かじ のときに噴出 ふんしゅつ する煙 けむり には,一酸化 いっさんか 炭素 たんそ が多量 たりょう に含 ふく まれているし,酸素 さんそ も少 すく ない。また羊毛 ようもう ,アクリル樹脂 じゅし 系 けい 繊維 せんい ,絹 きぬ ,ナイロンなど窒素 ちっそ を含有 がんゆう する製品 せいひん はシアン化合 かごう 物 ぶつ を発生 はっせい する危険 きけん がある。塩化 えんか ビニル樹脂 じゅし などのハロゲン系 けい 物質 ぶっしつ は刺激 しげき 性 せい のガスを発生 はっせい し,この微粒子 びりゅうし は強 つよ い酸性 さんせい を示 しめ し金属 きんぞく を腐食 ふしょく させるおそれもある。こうした煙 けむり を抑止 よくし する方法 ほうほう は次 つぎ の二 ふた つである。(1)排煙 はいえん 圧力 あつりょく 差 さ によって煙 けむり を排除 はいじょ する方法 ほうほう であり,自然 しぜん 排煙 はいえん と機械 きかい 排煙 はいえん とに分 わ けられる。後者 こうしゃ は吸引 きゅういん 式 しき と加圧 かあつ 式 しき とがある。火災 かさい 時 じ に発生 はっせい する煙 けむり の量 りょう は膨大 ぼうだい であり,風 ふう 量 りょう に十分 じゅうぶん 留意 りゅうい してファンを設 もう ける必要 ひつよう がある。(2)遮 さえぎ 煙 けむり シャッター や垂 だ れ壁 かべ を降下 こうか させて煙 けむり の透過 とうか を防止 ぼうし したり,電線 でんせん 管 かん ,給排水 きゅうはいすい 管 かん ,換気 かんき 管 かん ,空調 くうちょう ダクト などが壁 かべ や床 ゆか を貫通 かんつう する部分 ぶぶん の埋 うめ 戻 もど しを行 おこな うことによって煙 けむり の漏出 ろうしゅつ を防 ふせ ぐ方法 ほうほう である。 →火事 かじ 執筆 しっぴつ 者 しゃ :菅原 すがわら 進一 しんいち
建物 たてもの の防火 ぼうか 歴史 れきし 的 てき に木造 もくぞう 建築 けんちく 物 ぶつ の多 おお い日本 にっぽん では,建物 たてもの 自体 じたい が燃 も えることを防 ふせ ぐ対策 たいさく と,隣接 りんせつ の建物 たてもの からの延焼 えんしょう を防 ふせ ぐ対策 たいさく が今日 きょう まで並行 へいこう して発達 はったつ してきた。このため日本 にっぽん では,狭義 きょうぎ に延焼 えんしょう 防止 ぼうし 対策 たいさく を施 ほどこ した建物 たてもの を防火 ぼうか 建築 けんちく と呼 よ び,被災 ひさい しても再 さい 使用 しよう 可能 かのう なことが目的 もくてき である耐火 たいか 建築 けんちく と区別 くべつ している。
防火 ぼうか 建築 けんちく の発達 はったつ 木材 もくざい は,人類 じんるい に文明 ぶんめい をもたらす原動力 げんどうりょく となった火 ひ の燃料 ねんりょう であり,また入手 にゅうしゅ と加工 かこう が容易 ようい な材料 ざいりょう であったため,人間 にんげん の住 じゅう 生活 せいかつ と密接 みっせつ に結 むす びつき,古 ふる くから建物 たてもの の構造 こうぞう 材 ざい ,内装 ないそう その他 た 多方面 たほうめん に使 つか われてきた。そのうえ木材 もくざい に限 かぎ らず,人間 にんげん が住 じゅう 生活 せいかつ において利用 りよう する材料 ざいりょう はたいてい が可燃 かねん 物 ぶつ なので,古代 こだい から出火 しゅっか の危険 きけん は日常 にちじょう 的 てき であった。古代 こだい ローマの建築 けんちく 家 か ウィトルウィウス も,安価 あんか で施工 しこう 性 せい のよい木造 もくぞう 壁 かべ が火災 かさい の際 さい に松明 たいまつ (たいまつ)のように燃 も えることを嘆 なげ き,また,隣接 りんせつ した建物 たてもの からの延焼 えんしょう を防 ふせ ぐために,外壁 がいへき に燃 も えにくい材料 ざいりょう を使用 しよう するよう主張 しゅちょう している。
このように,他 た の棟 むね からの火災 かさい に延焼 えんしょう しないこと,およびできるだけ出火 しゅっか しにくくすることの二 ふた つが建物 たてもの にとってつねに重要 じゅうよう な課題 かだい であった。
人口 じんこう 稠密 ちゅうみつ な西欧 せいおう の中世 ちゅうせい 都市 とし では,土地 とち をできるだけ有効 ゆうこう に利用 りよう しようと隣地 りんち 境界 きょうかい 線 せん 上 じょう に石造 せきぞう もしくは煉瓦 れんが 造 づくり で構造 こうぞう 壁 かべ が造 つく られ,これが第 だい 1の課題 かだい である延焼 えんしょう 防止 ぼうし のための防火 ぼうか 壁 かべ としての役割 やくわり も果 は たした。パーティ・ウォールparty wallと呼 よ ばれるこの壁 かべ は,土地 とち 所有 しょゆう 者 しゃ 双方 そうほう から同 おな じ幅 はば の敷地 しきち を供出 きょうしゅつ して造 つく るもので,壁 かべ の厚 あつ さ,高 たか さや費用 ひよう の分担 ぶんたん 方法 ほうほう については,規則 きそく で定 さだ められた。ロンドンでパーティ・ウォールの規則 きそく に関 かん する最初 さいしょ の記述 きじゅつ が認 みと められるのは1189年 ねん である。
これに対 たい して,木材 もくざい が豊富 ほうふ で不燃材 ふねんざい 料 りょう に恵 めぐ まれなかった日本 にっぽん では,近世 きんせい に至 いた るまで住宅 じゅうたく の大半 たいはん は木造 もくぞう で,延焼 えんしょう を防 ふせ ぐには隣 となり 棟 とう 間 あいだ の距離 きょり をできるだけとるしかなかった。しかし,土地 とち の利用 りよう 度 ど からみて都市 とし では十分 じゅうぶん な距離 きょり をとることは不可能 ふかのう であり,結果 けっか として江戸 えど では延焼 えんしょう 距離 きょり が2kmに及 およ ぶ火災 かさい が江戸 えど 時代 じだい 250年間 ねんかん に100回 かい 近 ちか くもあった(ロンドンではこの期間 きかん ,同 どう 規模 きぼ の火災 かさい は1666年 ねん のロンドン大火 たいか の1回 かい しか起 お こっていない)。木造 もくぞう での延焼 えんしょう 防止 ぼうし にはほかに,建物 たてもの の外周 がいしゅう を防火 ぼうか 的 てき にする,すなわち木材 もくざい の露出 ろしゅつ 部分 ぶぶん を可能 かのう な限 かぎ り少 すく なくする方法 ほうほう があるが,江戸 えど 時代 じだい に採用 さいよう された瓦葺 かわらぶ き,塗 ぬり 屋 や (建物 たてもの の外部 がいぶ に厚 あつ さ3~5cm程度 ていど に土 ど を塗 ぬ り回 まわ したもの)などの方策 ほうさく は,飛火 とびひ による延焼 えんしょう は減 げん じたであろうものの,結局 けっきょく ,隣 となり 棟 とう からの延焼 えんしょう は防 ふせ げず,火災 かさい 実験 じっけん から得 え られた温度 おんど 曲線 きょくせん を利用 りよう した科学 かがく 的 てき な防火 ぼうか 構造 こうぞう の提案 ていあん は,昭和 しょうわ 初期 しょき に至 いた るまでなされなかった。
一方 いっぽう ,第 だい 2の課題 かだい である出火 しゅっか を防止 ぼうし する方法 ほうほう として,近世 きんせい 以前 いぜん では,表面 ひょうめん をわざと炭化 たんか させた木材 もくざい を使 つか うなど,裸 はだか 火 ひ の影響 えいきょう を受 う ける部分 ぶぶん を不燃 ふねん 化 か することと,土間 どま へかまどを作 つく って調理 ちょうり するなど,火 ひ 床 ゆか を生活 せいかつ の中心 ちゅうしん から分離 ぶんり させて出火 しゅっか の場合 ばあい の被害 ひがい を小 ちい さくする以外 いがい に方法 ほうほう がなかった。近代 きんだい には,利用 りよう できる材料 ざいりょう の増加 ぞうか ,機械 きかい 力 りょく ・技術 ぎじゅつ 力 りょく の進展 しんてん から上述 じょうじゅつ の手法 しゅほう に加 くわ えて新 あたら しい防火 ぼうか 手法 しゅほう が発達 はったつ した。たとえば,可燃 かねん 材料 ざいりょう に化学 かがく 的 てき な処理 しょり をして燃 も えにくくすること(難 なん 燃 もえ 処理 しょり )や,人 にん がいなくても火災 かさい を見 み つけたり(火災 かさい 感知 かんち 器 き ),自動的 じどうてき に消 け してしまう(自動 じどう 消火 しょうか 設備 せつび )などの手法 しゅほう である。以上 いじょう の防火 ぼうか 手法 しゅほう をまとめて表 ひょう に示 しめ す。
ところで,現代 げんだい では建物 たてもの の高層 こうそう 化 か に伴 ともな い,従来 じゅうらい の防火 ぼうか 手法 しゅほう だけでは解決 かいけつ できない新 あら たな問題 もんだい が生 しょう じている。すなわち,火災 かさい により発生 はっせい する煙 けむり の問題 もんだい である。高層 こうそう ビルでは,人 にん ・エネルギーの移動 いどう および空気 くうき 調和 ちょうわ のために,エレベーター,階段 かいだん ,ダクトなど建物 たてもの 内 ない に縦 たて 方向 ほうこう の経路 けいろ が多 おお く,これらを通 つう じて煙 けむり が上方 かみがた に伝播 でんぱ し,たとえ火炎 かえん は及 およ ばなくとも,死亡 しぼう 者 しゃ の出 で る火災 かさい が増加 ぞうか している。このため,防火 ぼうか に加 くわ えて防 ぼう 煙 けむり が今後 こんご の問題 もんだい として重要 じゅうよう となっている。以下 いか ,建物 たてもの 火災 かさい の特性 とくせい と,表 ひょう の防火 ぼうか 手法 しゅほう のうち重要 じゅうよう なものについて説明 せつめい する。
室内 しつない 火災 かさい の性状 せいじょう 室内 しつない 火災 かさい の進行 しんこう 過程 かてい は火 ひ が小 ちい さな火元 ひもと からしだいに育 そだ っていく時期 じき (成長 せいちょう 期 き ),内装 ないそう 材 ざい などが着火 ちゃっか し急激 きゅうげき に燃焼 ねんしょう 量 りょう が増大 ぞうだい し,温度 おんど が急上昇 きゅうじょうしょう する時期 じき (フラッシオーバーflush over),それに続 つづ く最盛 さいせい 期 き の3段階 だんかい に大 おお きく分 わ けることができる。
成長 せいちょう 期 き は一般 いっぱん には,原因 げんいん →無 む 炎 ほのお 着火 ちゃっか →発 はつ 炎 えん 着火 ちゃっか →出火 しゅっか に至 いた る過程 かてい で,燃焼 ねんしょう 性状 せいじょう は火元 ひもと および可燃 かねん 物 ぶつ の種類 しゅるい ,配置 はいち により決 き まるため千差万別 せんさばんべつ である。たとえば,布団 ふとん の中 なか のタバコの火 ひ からの出火 しゅっか は何 なん 時 じ 間 あいだ もかかるが,石油 せきゆ こんろの転倒 てんとう による出火 しゅっか は瞬間 しゅんかん である。火災 かさい が成長 せいちょう し,火炎 かえん が天井 てんじょう に達 たっ するほどになると,炎 ほのお からの放射 ほうしゃ や可燃 かねん 性 せい ガスの増加 ぞうか により,燃焼 ねんしょう が加速度 かそくど 的 てき に増大 ぞうだい し,室 しつ 全体 ぜんたい が火炎 かえん に包 つつ まれるような状態 じょうたい となる。これがフラッシオーバーで,この時期 じき に至 いた ると,消火 しょうか は容易 ようい でないし,火災 かさい 室 しつ から噴出 ふんしゅつ する煙 けむり は多量 たりょう のうえに,不完全 ふかんぜん 燃焼 ねんしょう による一酸化 いっさんか 炭素 たんそ を含 ふく み毒性 どくせい も高 たか い。このため,後述 こうじゅつ する火災 かさい 感知 かんち 器 き や自動 じどう 消火 しょうか 設備 せつび は,当然 とうぜん フラッシオーバー以前 いぜん に作動 さどう しなければならない。また,建物 たてもの 内 ない での延焼 えんしょう を防 ふせ ぐためにも,出火 しゅっか 部分 ぶぶん の避難 ひなん が完了 かんりょう し,防火 ぼうか 区画 くかく の扉 とびら など開口 かいこう が閉 と ざされるのも,フラッシオーバーまででなければならない。
フラッシオーバー後 ご ,燃焼 ねんしょう は供給 きょうきゅう される酸素 さんそ (空気 くうき )の量 りょう によって左右 さゆう される。すきまが多 おお く,また屋根 やね などが焼 や け落 お ちる木造 もくぞう 建築 けんちく では,開口 かいこう の増加 ぞうか に応 おう じて燃焼 ねんしょう 量 りょう が増加 ぞうか し,温度 おんど 上昇 じょうしょう は激 はげ しいが,そのぶん早 はや く燃 も え尽 つ きて温度 おんど 降下 こうか が始 はじ まる(図 ず 1)。これに対 たい して周壁 しゅうへき や天井 てんじょう などが不燃材 ふねんざい でできた耐火 たいか 建築 けんちく では,窓 まど など一定 いってい 面積 めんせき の開口 かいこう 部 ぶ から温度 おんど 差 さ 換気 かんき によって流入 りゅうにゅう する空気 くうき 量 りょう で燃焼 ねんしょう 量 りょう が制限 せいげん されるため,わずかずつ室温 しつおん の上昇 じょうしょう する最盛 さいせい 期 き が長 なが く続 つづ く結果 けっか となる(図 ず 2)。
標準 ひょうじゅん 火災 かさい 温度 おんど 曲線 きょくせん 日本 にっぽん では木造 もくぞう 家屋 かおく が圧倒的 あっとうてき 多数 たすう を占 し めるため,隣 となり 棟 とう 間 あいだ の延焼 えんしょう をいかに防 ふせ ぐかが建築 けんちく 防火 ぼうか ,都市 とし 防火 ぼうか にとっての重要 じゅうよう な課題 かだい であった。これに対 たい し,標準 ひょうじゅん 的 てき な木造 もくぞう 家屋 かおく での火災 かさい 温度 おんど を定 さだ め,これを用 もち いて隣 となり 棟 とう が火炎 かえん ・熱気 ねっき 流 りゅう から受 う ける熱量 ねつりょう を推定 すいてい する方法 ほうほう が以下 いか のように定 さだ められ,これに従 したが って延焼 えんしょう を防 ふせ ぐための防火 ぼうか 構造 こうぞう が開発 かいはつ された。まず,1930年代 ねんだい に数 すう 多 おお くの実物 じつぶつ 大 だい 木造 もくぞう 家屋 かおく の火災 かさい 実験 じっけん が行 おこな われ,図 ず 3の標準 ひょうじゅん 火災 かさい 温度 おんど 曲線 きょくせん が求 もと められ,さらに実験 じっけん 結果 けっか を検討 けんとう して,任意 にんい の間隔 かんかく での隣 となり 棟 とう の壁面 へきめん 温度 おんど と上述 じょうじゅつ の温度 おんど 曲線 きょくせん の関係 かんけい が定 さだ められた(図 ず 4)。図 ず 4から任意 にんい の隣 となり 棟 とう 間隔 かんかく と高 たか さにおける壁面 へきめん 温度 おんど の変化 へんか を求 もと めることができる。たとえば3m離 はな れた裸 はだか 木造 もくぞう の家屋 かおく が火災 かさい になった場合 ばあい ,高 たか さ1.8m(図 ず 中 ちゅう の●印 しるし )での壁面 へきめん 温度 おんど は図 ず 3の3級 きゅう の火災 かさい 温度 おんど 曲線 きょくせん に従 したが って変化 へんか する。そこで,延焼 えんしょう しないためには,たとえ壁面 へきめん の温度 おんど が木材 もくざい の発火 はっか 危険 きけん 温度 おんど である260℃以上 いじょう に上 あ がっても,モルタル塗 ぬり などで木材 もくざい 部分 ぶぶん の温度 おんど は260℃以下 いか に保 たも たれるような構造 こうぞう の壁 かべ 体 たい とすればよい。この考 かんが え方 かた は,〈建築 けんちく 物 ぶつ の木造 もくぞう 部分 ぶぶん の防火 ぼうか 試験 しけん 方法 ほうほう 〉(JIS A 1301)の基本 きほん となっている。ただし注意 ちゅうい しなければならないのは,延焼 えんしょう の原因 げんいん となる火炎 かえん の接触 せっしょく ,熱 ねつ 放射 ほうしゃ ,飛火 とびひ の3要素 ようそ のうち,飛火 とびひ は上述 じょうじゅつ の考 かんが え方 かた では考慮 こうりょ されていないことである。
難 なん 燃 もえ 処理 しょり 裸 はだか 火 ひ の周囲 しゅうい にある可燃 かねん 物 ぶつ が小 ちい さな火種 ひだね では燃 も え出 だ さないようなものであれば,タバコの火 ひ の不 ふ 始末 しまつ など不 ふ 注意 ちゅうい による火災 かさい の進展 しんてん は抑 おさ えられるし,燻 いぶし 焼 やか している間 あいだ に発見 はっけん され,消火 しょうか される確 かく 率 りつ も増 ま す。この意味 いみ で宿泊 しゅくはく 施設 しせつ などのシーツやカーテンに難 なん 燃 もえ (防 ぼう 炎 えん )処理 しょり が行 おこな われることは宿泊 しゅくはく 部分 ぶぶん からの失火 しっか 率 りつ を下 さ げる効果 こうか がある。
難 なん 燃 もえ 処理 しょり のおもな方法 ほうほう としては,不燃 ふねん 性 せい で熱 ねつ 伝導 でんどう 率 りつ の小 ちい さい皮膜 ひまく を表面 ひょうめん に設 もう ける方法 ほうほう と,可燃 かねん 材料 ざいりょう に薬剤 やくざい を添加 てんか して化学 かがく 的 てき 作用 さよう により発 はつ 炎 えん 燃焼 ねんしょう を防 ふせ ぐ方法 ほうほう がある。ただし,材料 ざいりょう そのものが不燃 ふねん になるわけではないので,火災 かさい が拡大 かくだい し,大 おお きな放射 ほうしゃ 源 げん になってしまうと難 がた 燃 もえ 処理 しょり に多 おお くを期待 きたい することはできない。
火災 かさい 感知 かんち 器 き 統計 とうけい 的 てき に出火 しゅっか 場所 ばしょ は無人 むじん もしくは人 ひと がいても就寝 しゅうしん 中 ちゅう である場合 ばあい が多 おお い。このため,火災 かさい の発生 はっせい をいちはやく人 ひと に知 し らせ,初期 しょき 消火 しょうか ,消防署 しょうぼうしょ への通報 つうほう 等 とう で被害 ひがい を減 へ らそうとする設備 せつび が火災 かさい 感知 かんち 器 き である。火災 かさい により発生 はっせい する熱 ねつ ,煙 けむり のどちらを感知 かんち するかにより構造 こうぞう 的 てき に熱 ねつ 感知 かんち 器 き と煙 けむり 感知 かんち 器 き の2種類 しゅるい に分 わ かれ,一般 いっぱん に煙 けむり 感知 かんち 器 き のほうが,熱容量 ねつようりょう の影響 えいきょう を受 う ける熱 ねつ 感知 かんち 器 き より作動 さどう 時期 じき が早 はや いといわれている。感知 かんち 器 き の感度 かんど は高 たか いほうが早期 そうき に火災 かさい を発見 はっけん できるが,日常 にちじょう 生活 せいかつ にはストーブからの発熱 はつねつ ,会議 かいぎ 室 しつ での喫煙 きつえん など火災 かさい 初期 しょき と類似 るいじ の現象 げんしょう が多 おお く,感度 かんど を上 あ げると非 ひ 火災 かさい 報 ほう (火災 かさい でないのに感知 かんち 器 き が作動 さどう すること)が増 ふ えるなど,早期 そうき 発見 はっけん と日常 にちじょう の利便 りべん さとが相反 あいはん する結果 けっか となる。この矛盾 むじゅん を解決 かいけつ し,情報 じょうほう の確度 かくど を上 あ げるために,複数 ふくすう のセンサーをもつ感知 かんち 器 き や情報 じょうほう の時間 じかん 変化 へんか のパターンを判別 はんべつ する手法 しゅほう などが開発 かいはつ されている。
自動 じどう 消火 しょうか 設備 せつび 駐車 ちゅうしゃ 場 じょう のように初期 しょき 消火 しょうか に失敗 しっぱい すると大 だい 火災 かさい になる可能 かのう 性 せい の高 たか い場所 ばしょ や,大型 おおがた 計算 けいさん 機 き 室 しつ や美術館 びじゅつかん のようにひとたび火災 かさい になれば致命 ちめい 的 てき な損害 そんがい を受 う ける場所 ばしょ には,火災 かさい の感知 かんち と同時 どうじ に消火 しょうか が行 おこな われる設備 せつび が必要 ひつよう である。このような火災 かさい 感知 かんち と消火 しょうか の両方 りょうほう の機能 きのう をもつ設備 せつび を自動 じどう 消火 しょうか 設備 せつび といい,噴出 ふんしゅつ させる消火 しょうか 剤 ざい の種類 しゅるい により分類 ぶんるい される。19世紀 せいき 後半 こうはん から穀物 こくもつ 倉庫 そうこ などに設置 せっち された歴史 れきし をもつスプリンクラー設備 せつび は,統計 とうけい 的 てき にも信頼 しんらい 性 せい の高 たか いものである。その他 た ,駐車 ちゅうしゃ 場 じょう などに使 つか われる泡 あわ 消火 しょうか 設備 せつび ,二酸化炭素 にさんかたんそ 消火 しょうか 設備 せつび ,計算 けいさん 機 き 室 しつ などに使 つか われるハロゲン化物 ばけもの 消火 しょうか 設備 せつび などがある。 →消火 しょうか 設備 せつび
防火 ぼうか 区画 くかく 化 か 初期 しょき 消火 しょうか に失敗 しっぱい して火災 かさい がある程度 ていど 大 おお きくなった段階 だんかい では,延焼 えんしょう を防 ふせ ぐ最 もっと も有効 ゆうこう な方法 ほうほう は,耐火 たいか 構造 こうぞう の床 ゆか ,壁 かべ ,天井 てんじょう で出火 しゅっか 部分 ぶぶん を取 と り囲 かこ み,火災 かさい を建物 たてもの の一部分 いちぶぶん に閉 と じ込 こ めることである。このためには,あらかじめ建物 たてもの も耐火 たいか 構造 こうぞう の床 ゆか ,壁 かべ でいくつかのブロック(防火 ぼうか 区画 くかく という)に分 わ けておく必要 ひつよう がある。これを建物 たてもの の防火 ぼうか 区画 くかく 化 か といい,欠陥 けっかん なく行 おこな われれば延焼 えんしょう を防 ふせ ぐだけでなく,高層 こうそう ビルの火災 かさい で人命 じんめい にとって最大 さいだい の脅威 きょうい である煙 けむり の伝播 でんぱ も防 ふせ ぐことができるので,単純 たんじゅん かつ確実 かくじつ な防火 ぼうか 手法 しゅほう のきめ手 て といえる。ところで,防火 ぼうか 区画 くかく を形成 けいせい する隔壁 かくへき は建物 たてもの の内部 ないぶ を区切 くぎ るのであるから,前述 ぜんじゅつ のパーティ・ウォールとは異 こと なり,人 にん の出入 でい り,また空気 くうき 調和 ちょうわ 用 よう のダクト,給排水 きゅうはいすい 管 かん などのために開口 かいこう 部 ぶ が必 かなら ずできる。この開口 かいこう 部 ぶ が火災 かさい 時 じ に閉鎖 へいさ されないと,とくに垂直 すいちょく 方向 ほうこう につながった区画 くかく (階段 かいだん 室 しつ ,エレベーターシャフト,ダクト・配管 はいかん のためのシャフト)は容易 ようい に煙 けむり の伝播 でんぱ 経路 けいろ となるため,この区画 くかく の開口 かいこう 部 ぶ の処理 しょり には十分 じゅうぶん な注意 ちゅうい が必要 ひつよう である。一般 いっぱん に,人間 にんげん の出入口 でいりぐち には防火 ぼうか 戸 ど が,またダクトには熱 ねつ ,煙 けむり を感知 かんち して流 ながれ 路 ろ を閉 と じる防火 ぼうか ダンパーが設置 せっち される。執筆 しっぴつ 者 しゃ :辻本 つじもと 誠 まこと