「ファクトチェックってそんなに大おおげさなものではない」　立岩たていわ陽一郎よういちろうさん これは嘘うそニュースではありません

立岩たていわ陽一郎よういちろう 　１９６７年ねん、神奈川かながわ県けん生うまれ。ＮＰＯメディア「ＩｎＦａｃｔ」編集へんしゅう長ちょう、大阪芸大おおさかげいだい短期大学たんきだいがく部ぶ教授きょうじゅ。ＮＨＫでテヘラン特派とくは員いん、イラク駐在ちゅうざい、社会しゃかい部ぶ記者きしゃ、国際こくさい放送ほうそう局きょくデスクを経へて、２０１６年ねん末まつに退職たいしょく、１７年ねん独立どくりつ。「ＩｎＦａｃｔ」をたち上あげて調査ちょうさ報道ほうどう、ファクトチェックの普及ふきゅうに努つとめる。 　フジテレビ、毎日放送まいにちほうそうの情報じょうほう番組ばんぐみでコメンテーターを務つとめる他ほか、新聞しんぶん雑誌ざっしでコラムを執筆しっぴつ。『コロナの時代じだいを生いきるためのファクトチェック』『トランプ王国おうこくの素顔すがお』『ファクトチェックとは何なにか』（共著きょうちょ）など著書ちょしょ多数たすう。

＜手弁当てべんとうでチンタラやってるのは多分たぶん日本にっぽんくらいですよ＞

――ファクトチェックに取とり組くまれるきっかけは何なにだったのでしょうか。

　ＮＨＫ記者きしゃとして在籍ざいせきしていた２０１０年ねん、アメリカに留学りゅうがくした時ときに現地げんちでファクトチェックが始はじまっていて、「こんなことやってるのか」というのは知しっていました。

　２０１６年ねん末まつにＮＨＫを辞やめたあと、すぐに渡米とべいして、翌よく１７年ねん１月がつにトランプ大統領だいとうりょうが就任しゅうにんするんです。そこで私わたしは「トランプ大統領だいとうりょうについて実像じつぞうを伝つたえずにイメージで報ほうじる日本にっぽんの報道ほうどうはおかしい」ということをヤフーに書かいていたんですが、当時とうじ「ＧｏＨｏｏ（ゴフー）」をしていた弁護士べんごしで元もと新聞しんぶん記者きしゃの楊井やぎい人文じんぶん（やない・ひとふみ）さんも、報道ほうどうの中なかに誤あやまった内容ないようがあると日本にっぽん国内こくないから発はっしていたんですね。そうしたところで、楊井やぎいさんから「ファクトチェックという取とり組くみを一緒いっしょにやりませんか」というメールがあったんです。

　※ＧｏＨｏｏ…２０１２年ねん、楊井やぎい人文じんぶん氏しが中心ちゅうしんとなって立たち上あげたマスメディアの報道ほうどうを検証けんしょうするウェブサイト（２０１９年ねんに解散かいさん）。

　ただ、私わたしは当初とうしょは懐疑かいぎ的てきで「日本人にっぽんじんはそんなにファクトを追求ついきゅうする国民こくみん性せいじゃないから無理むりじゃないか」と、楊井やぎいさんに言いいました。ただその年とし、世界中せかいじゅうのファクトチェッカーが数すう百ひゃく人にんくらい集あつまるファクトチェックの世界せかい大会たいかいがスペインで開ひらかれるということで、楊井やぎいさんに誘さそわれて行いったら、世界せかいから集あつまった人達ひとたちが非常ひじょうに熱心ねっしんに取とり組くんでいて、これはやらないといけないと思おもいました。

――当時とうじ、海外かいがいではどのようにファクトチェックが取とり組くまれていたのでしょうか。

　アメリカだけでなく、中南米ちゅうなんべい、ヨーロッパでも活発かっぱつでした。アジアではインドやフィリピンといった英語えいご圏けんを中心ちゅうしんに盛さかんでしたが、特とくに韓国かんこくではこの時期じき、急速きゅうそくにファクトチェックが盛もり上あがりを見みせました。

ファクトチェックとはなにか？（ＦＩＪのＹｏｕＴｕｂｅチャンネルより）

――しかし、韓国かんこくは英語えいご圏けんではないですよね。それでもファクトチェックが盛さかんになったのは何なにか理由りゆうがあるのでしょうか。

　韓国かんこくの場合ばあい、ＬＩＮＥの親会社おやがいしゃのＮＡＶＥＲが年間ねんかん１０億おくウォン（約やく１．１億おく円えん）の資金しきんを、少すくなくとも３年間ねんかん出だすと決定けっていしたことが大おおきかったと思おもいます。ちょうど世界せかい大会たいかいの最中さいちゅう、韓国かんこくの代表だいひょうと話はなしている席せきで拠出きょしゅつが決きまって喜よろこんでいましたね。

　だけどそれだけではなく、テレビ局てれびきょくを中心ちゅうしんに大手おおてメディアがファクトチェックにこぞって参加さんかしたんです。私わたしもその後ごに韓国かんこくのテレビ局てれびきょくが主催しゅさいする大会たいかいに呼よばれて行いったことがあるんですけど、すごいですよ。公共こうきょう放送ほうそうも民放みんぽうも参加さんかして、大学生だいがくせいや主婦しゅふ、消防しょうぼう隊員たいいんたちといった一般いっぱんのグループがファクトチェックのテレビ企画きかくを作つくって、それが評価ひょうかされるんです。最終さいしゅう選考せんこうに残のこった１０組くみがソウルに集あつまって、各かくテレビ局てれびきょくの社長しゃちょうたちから賞しょうを与あたえられる。

――ちょっと日本にっぽんでは信しんじられないような光景こうけいですね……。

　どうしてこれほど盛さかんになったかというと、１ひとつは、それが良よいか悪わるいかは別べつとして、韓国かんこくでは既存きそんのメディアに対たいする信頼しんらいがそれほどない。政権せいけん交代こうたいで政治せいじが翻弄ほんろうされる中なかで、メディア自身じしんが「論説ろんせつよりもファクト」に立たち返かえっている部分ぶぶんがあるのかなという気きがするんです。

　また海外かいがいでは、グーグルやメタ、それにＮＡＶＥＲといったプラットフォーマーがファクトチェック団体だんたいに資金しきんを出だしています。例たとえばフィリピンのファクトチェック団体だんたいは、メタからの支援しえん金きんでスタッフ数すう人にんの給与きゅうよををまかなっています。誤あやまった情報じょうほうがフェイスブックに載のった場合ばあい、「レッドフラッグ」という警告けいこくの赤あかい旗はたがついて、それをクリックすると「この情報じょうほうは間違まちがいです」みたいなものが出でてくるんです。手弁当てべんとうでチンタラやってるのは多分たぶん日本にっぽんくらいですよ（※）。

（2024年ねん4月がつ1日にち17時じ00分ふん）※立岩たていわ氏しの「手弁当てべんとうで（中略ちゅうりゃく）ですよ」の発言はつげんについて、外部がいぶから「不正確ふせいかくではないか」との指摘してきがありました。この点てんについて立岩たていわ氏しから下記かき補足ほそく説明せつめいがありましたので、追記ついきいたします。
　「一部いちぶに潤沢じゅんたくな資金しきんを有ゆうしているファクトチェック団体だんたいも例外れいがい的てきにあるようですが、ＩｎＦａｃｔなど多おおくの団体だんたいは基本きほん的てきにボランティアベースでファクトチェックに取とり組くんでいます。因ちなみに私わたしはＩｎＦａｃｔに資金しきんを提供ていきょうしていますが、ＩｎＦａｃｔから編集へんしゅう長ちょうとしての報酬ほうしゅうは受うけ取とっていません」

＜飛とんでくるミサイルを１ひとつ１ひとつ迎撃げいげきして撃うち落おとすようには機能きのうしない＞

――立岩たていわさんが代表だいひょう理事りじを務つとめるＮＰＯ「インファクト」では、具体ぐたい的てきにどういう流ながれでファクトチェックを行おこない、公表こうひょうしているんでしょうか。

　楊井やぎいさんと一緒いっしょに立たち上あげたＦＩＪ（ファクトチェック・イニシアティブ・ジャパン）で使つかっている「疑義ぎぎ言説げんせつ収集しゅうしゅうシステム（ＦＣＣ）」「ＣｌａｉｍＭｏｎｉｔｏｒ（クレイムモニター）」があります。Ｘ（旧きゅうＴｗｉｔｔｅｒ）からいろいろと疑義ぎぎのある言説げんせつを自動じどうで検出けんしゅつするツールです。


「FCC」「ClaimMonitor」を使つかったファクトチェック支援しえんシステム（FIJより）

――怪あやしい投稿とうこうが自動じどうで検出けんしゅつできるんですか。

　Ｘにいろんな意見いけんが出でる中なかで「嘘うそだ」とか「これは信しんじられない」とかいう投稿とうこうをＡＩが拾ひろって持もってくるんです。自動じどう検出けんしゅつなので、例たとえば「大谷おおや選手せんしゅが結婚けっこんします」という投稿とうこうに「嘘うそだと言いってくれ！」というコメントが出でたとしたら、それは「嘘うそ」として検出けんしゅつしてしまいます。そういう意味いみでは万能ばんのうでも完璧かんぺきでもないから、そこから先さきは人間にんげんが選えらんで調しらべていく。その作業さぎょうをインファクトでするということです。


Ｘから疑義ぎぎのある情報じょうほうを自動じどうで収集しゅうしゅうする「ClaimMonitor」。「影響えいきょう大だい」は広ひろく拡散かくさんされている状況じょうきょうを示しめしている。

――「疑義ぎぎのある投稿とうこう」と言いっても、非常ひじょうに多おおく検出けんしゅつされると思おもうのですが、そこからファクトチェック対象たいしょうを選えらぶ基準きじゅんはあるのでしょうか。

　ファクトチェック対象たいしょう候補こうほが、インファクトに参加さんかしているメンバーから「Ｔｒｅｌｌｏ（トレロ）」（注ちゅう：タスク管理かんりツール）で上あがってきます。それを我々われわれが検証けんしょうの可否かひを判断はんだんして、そこから実際じっさいの確認かくにん作業さぎょうに進すすみます。その後ごは私わたしを含ふくめた２、３人にんのデスクがチェックして、何なん度どもやり取とりしながら書かき直なおしてもらい、最後さいごに私わたしがもう一度いちどチェックをしてインファクトに掲載けいさいという感かんじです。

――かなり手間てまのかかる作業さぎょうですね。検出けんしゅつから掲載けいさいまでどれくらい時間じかんがかかるのでしょうか。

　検証けんしょうに時間じかんがかかるタイプだと１週間しゅうかんくらいですね。

――逆ぎゃくに最短さいたんだとどれぐらいですか。

　例たとえば、以前いぜん安倍あべ元もと総理そうりが生いきていた頃ころに、保守ほしゅ系けいのアカウントが投稿とうこうした「安倍あべさんが『総理そうりの座ざに戻もどる用意よういがある』と言いった」という虚偽きょぎ情報じょうほうは、安倍あべさんの事務所じむしょに確認かくにんを取とるだけなので、数時間すうじかんでできました。


【FactCheck】安倍あべ元もと首相しゅしょうが「岸田きしだ政権せいけんでは北朝鮮きたちょうせんから国民こくみんを守まもれない 私わたしはいつでも総理そうりの座ざに戻もどる用意よういがある」と発言はつげんしたとの虚偽きょぎ情報じょうほうが拡散かくさん（画像がぞうをクリックすると検証けんしょう記事きじに飛とびます）

――最長さいちょうで１週間しゅうかんということは、ファクトチェックにあまり時間じかんはかけられないですね。

　ファクトチェックは、飛とんでくるミサイルを１ひとつ１ひとつ迎撃げいげきして撃うち落おとすようにフェイクニュースを撲滅ぼくめつするツールとしては機能きのうしないです。フェイクニュースを作つくるのは１０秒びょう、１５秒びょうでできてしまいますが、ファクトチェックはそういうわけにいかないですから。

＜リベラルとか保守ほしゅとか関係かんけいないですよね、フェイクを流ながす人ひとたちは＞

――インファクトではこれまで国内こくないのさまざまな偽にせ情報じょうほうを精査せいさしてこられましたが、日本にっぽんの現状げんじょうはどうでしょうか。先さきほどのお話はなしだと、海外かいがいとの温度おんど差さがかなり大おおきいように感かんじられますが。

　こんなことを言いうと責任せきにん転嫁てんかなんですけど、韓国かんこくと違ちがって日本にっぽんは政権せいけん交代こうたいをしないので、ファクトチェックをしても上滑うわすべりしている感かんじはあります。日本にっぽんの場合ばあい、自分じぶんが好すきな政党せいとうにとって都合つごうの良よい情報じょうほうにみんなが乗のるっていう。

――ああ……。

　例たとえば、さっき保守ほしゅ系けいアカウントの話はなしをしましたけど、共産党きょうさんとうの支持しじ者しゃがフェイクニュースを流ながさないわけでもないんですよ。

　今いまから５年ねんほど前まえ、当時とうじの安倍あべ総理そうりが国民こくみんを愚弄ぐろうする発言はつげんを言いったかのように国会こっかいの動画どうがを切きり貼はりした動画どうがが拡散かくさんしたんです。それに対たいして私わたしがファクトチェックをして「言いっていない」と判定はんていしたことがありました。そうしたら、割わりと著名ちょめいな人ひとたちからも「いや、安倍あべはそう思おもってるはずだ」と批判ひはんされて。


立岩たていわさんの指摘してきポスト。拡散かくさん元もとのアカウントは既すでに凍結とうけつされていた。

　しかし、ファクトチェックとしては、「安倍あべさんがそう思おもっているかどうか」ではなく、「国会こっかいでその発言はつげんしたかどうか」が問とわれているわけです。だからリベラルとか保守ほしゅとか関係かんけいないですよね、フェイクを流ながす人ひとたちは。

　最近さいきんで言いえば、「岸田きしだ首相しゅしょうはテレビで総裁そうさい選せんへの思おもいなどをふんぞり返かえりながらベラベラ喋しゃべっていたか？」っていう記事きじも批判ひはんされたんですよ。



【FactCheck】岸田きしだ首相しゅしょうはテレビで総裁そうさい選せんへの思おもいなどをふんぞり返かえりながらベラベラ喋しゃべっていたか？（画像がぞうをクリックすると検証けんしょう記事きじに飛とびます）

　我々われわれは「ややミスリード」と結論けつろん付つけたんですが、これもまた有識者ゆうしきしゃとされる人ひとたちから「ベラベラ喋しゃべってたんだから事実じじつじゃないか」という話はなしになるわけですね。しかも「権力けんりょくを監視かんしするのがファクトチェックであって、権力けんりょくを擁護ようごしてどうするんだ」みたいなことまで言いわれたんです。　

　結果けっかとしてファクトチェックが権力けんりょくを監視かんしすることはあるでしょう。その役割やくわりを否定ひていするわけではありません。しかし「権力けんりょくを監視かんしするためにファクトチェックをする」という立たち位置いちを、少すくなくともインファクトでは取とらない。どのような立場たちばであろうと純粋じゅんすいに事実じじつを追求ついきゅうしていくのであって、権力けんりょく監視かんしを目的もくてきにしてしまうと、権力けんりょくでない側がわの嘘うそを黙認もくにんするということになりかねません。

――世間せけんが抱いだくファクトチェックと、本来ほんらいあるべきファクトチェックの間あいだで認識にんしきにズレがあるようですね。

　ファクトチェックってそんなに大おおげさなものではないんですよ。「事実じじつを確認かくにんする」という当あたり前まえのことをみんなでやりましょうっていうことですから。もっと謙虚けんきょに事実じじつを確認かくにんするというところに立たち位置いちを取とらないと、社会しゃかいの分断ぶんだんを加速かそくさせてしまいます。

――ＳＮＳ上じょうでの偽にせ情報じょうほう対策たいさくとして、Ｘでは疑義ぎぎのある投稿とうこうをユーザーが指摘してきできる「コミュニティノート」を設もうけています。ファクトチェックという観点かんてんから見みて、コミュニティノートは有効ゆうこうでしょうか。

　最近さいきんはそれほど変へんな内容ないようはないですが、当初とうしょのコミュニティノートは政府せいふを批判ひはんするような発言はつげんに対たいして、政府せいふの情報じょうほうを元もとにチェックをして擁護ようごする、少すこし偏かたよった内容ないようが多おおくて、「これは何なにだろうな」っていう感かんじでした。ただ、最近さいきんは割わりとニュートラルな内容ないようが多おおくみられるという印象いんしょうです。

　ファクトチェックで一番いちばん大事だいじなのは何なにかと言いうと、「それが再生さいせいできるかどうか」ということ。つまり、情報じょうほうについて明示めいじされたデータを読よんだ人ひとが同おなじように追つい体験たいけんできないといけません。結論けつろんだけ出だしてもそれはファクトチェックではない。

　ファクトチェックについて、私わたしは必かならずしもジャーナリストがやらなければならないことだとは思おもっていません。どちらかと言いうと、市民しみん社会しゃかいが健全けんぜんであるために、市民しみん自身じしんがファクトチェッカーになるほうが大事だいじだと思おもいますから、そういう意味いみではコミュニティノートという考かんがえ方かたには全まったく反対はんたいというわけではありません。

　今いま私わたしが一番いちばん懸念けねんしているのは、内閣ないかく官房かんぼうや総務そうむ省しょうがファクトチェッカーに関心かんしんを示しめしていることです。私わたしのところにも問とい合あわせが来きます。

――「懸念けねん」ですか。国くにがファクトチェックに高たかい関心かんしんを持もつようになったという意味いみでは良よい話はなしだと思おもいますが……。

　政府せいふがネット上じょうの誤あやまった情報じょうほうや誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうに関心かんしんを持もつ。これは良よいです。政府せいふが主催しゅさいしてシンポジウムを開ひらく。これに私わたしが参加さんかするのもやぶさかではない。

　問題もんだいなのは、例たとえば政府せいふがファクトチェッカーにお金かねを出だす。これが一番いちばんあり得えるわけです。ファクトチェッカーってみんなお金かねがないから、非常ひじょうに魅力みりょく的てきな提案ていあんなんです。誰だれだってお金かねがあった方ほうが楽らくなわけで、自分じぶんのことでなかったとしても、子こどもの学費がくひとかい出いだしたらキリがない。しかし魅力みりょく的てきだからこそやめてほしい。

＜「我々われわれがやる」にこだわるのではなく、多おおくの人ひとたちに「やってもらう」＞

――「フェイクニュース」という言葉ことばが話題わだいになった２０１６年ねんの米べい大統領だいとうりょう選せんから８年ねんが経たち、今年ことしまた大統領だいとうりょう選せんを迎むかえます。この間あいだ、生成せいせいＡＩなどフェイクに関かんする技術ぎじゅつが大おおきく進歩しんぽしました。

　フェイクニュースを１ひとつ１ひとつ撃墜げきついするようなファクトチェックを目指めざしていないという意味いみで言いえば、基本きほん的てきに我々われわれがすることに変かわりはありません。ただ、ディープフェイクのようなものをファクトチェックできるのか、という懸念けねんはあります。

　※ディープフェイク…ＡＩの深層しんそう学習がくしゅう（ディープラーニング）によって作つくり出だされる偽にせ動画どうがや音声おんせい。政治せいじ家から著名ちょめい人じんになりすまして偽にせ情報じょうほうを作つくり出だす巧妙こうみょうなディープフェイクが新あらたな問題もんだいになりつつある。

　だから、「我々われわれがやる」ということにこだわるのではなく、多おおくの人ひとたちにファクトチェックをやってもらうことが、さらに重要じゅうようになっていくのかなと思おもいます。一般いっぱん市民しみんの中なかにも、ＡＩを駆使くししたりフェイク動画どうがを見破みやぶったりできる人ひともいるはずじゃないですか。そういう人ひとたちにファクトチェックを任まかせる。技術ぎじゅつ革新かくしんというのはフェイクニュースを流ながす側がわにも都合つごうは良よいが、逆ぎゃくにファクトチェックする側がわにも有用ゆうようなので、我々われわれも考かんがえないといけない。　

――進歩しんぽした技術ぎじゅつをどう使つかうか、という問題もんだいですね。

　政府せいふ関係かんけい者しゃから「フェイクニュース対策たいさくで何なにかできませんか」と聞きかれたときに、私わたしは「政府せいふの金かねでディープフェイクを見破みやぶるツールを作つくってほしい」と提案ていあんしました。我々われわれには開発かいはつするお金かねも技術ぎじゅつもないけど、政府せいふに本腰ほんごしを入いれてツールを作つくって提供ていきょうしてもらい、それを我々われわれが使用しようする。ファクトチェックに金かねを出だすのは困こまるけど、そういう支援しえんはありがたい。

――理想りそう的てきな連携れんけいですね。

　加くわえて政府せいふが自みずからそのツールを使つかってファクトチェックをしないことも大事だいじです。当事とうじ者しゃが自分じぶんたちのためにファクトチェックをしても第三者だいさんしゃ性せいがありませんから。

――政府せいふがファクトチェックをしてはいけない、と。

　戦前せんぜん、内務省ないむしょうや逓信ていしん省しょう、陸海りくかい軍ぐんも含ふくめた「情報じょうほう局きょく」という、情報じょうほうを統制とうせいする統合とうごう組織そしきがあったんです。その情報じょうほう局きょくが作つくった文書ぶんしょでは、今いまで言いうフェイクニュースに惑まどわされないよう、国民こくみんに正ただしい情報じょうほうを与あたえないといけないと、ファクトチェックの重要じゅうよう性せいを説といていました。

　※情報じょうほう局きょく…１９４０（昭和しょうわ１５）年ねんに発足ほっそくした内閣ないかく直属ちょくぞくの情報じょうほう機関きかん。

　しかしその同おなじ人じんたちが、「日本にっぽんはずっと戦争せんそうに勝かち続つづけている」という誤あやまった情報じょうほうを大本営だいほんえいとして発表はっぴょうしたわけです。だからどんなにきれいごとを言いったところで、政府せいふというのはやはり当事とうじ者しゃであって、自分じぶんたちに都合つごうの悪わるい情報じょうほうは出ださない。場合ばあいによっては自みずからフェイクニュースを出だしてしまう。だから政府せいふはファクトチェッカーになれないわけです。

　政府せいふがファクトチェックに関心かんしんを持もつことを良よいことだと捉とらえる見方みかたも理屈りくつとしてないわけではないですが、私わたしはそこに怖こわさを感かんじます。かなり厳密げんみつに見みないと「関心かんしんを持もってくれているからうれしい」という単純たんじゅんな話はなしではない。

――ファクトチェックの担にない手ては政府せいふではなく、市民しみん一いち人にん一人ひとりだということですね。

　ファクトチェックがどれほど大変たいへんかということは、経験けいけんした人ひとが一番いちばん分わかるじゃないですか。理想りそう論ろんですが、ファクトチェックの経験けいけん者しゃが増ふえていけば、ファクトの重要じゅうよう性せいやフェイクを作つくる怖こわさを理解りかいして、フェイクニュースを流ながすことに抑制よくせい的てきになってくれるのではないかと考かんがえています。

――ありがとうございました。

（※今日きょう４月がつ１日にちはエイプリルフールです。）

【インファクトへの寄付きふのお願ねがい】 　私わたしたちインファクトは、思想しそうや立場たちばの違ちがい、対立たいりつや分断ぶんだんを乗のり超こえ、事実じじつ（fact）と公正こうせい（fairness）にこだわり、より良よい社会しゃかいを実現じつげんするためのヒントを提供ていきょうするメディアでありたいと考かんがえています。 　そのため、独自どくじの調査ちょうさで重要じゅうような事実じじつを掘ほり起おこす調査ちょうさ報道ほうどう、社会しゃかいに広ひろまっている言説げんせつ・情報じょうほうの真偽しんぎを検証けんしょうするファクトチェック報道ほうどうに重点じゅうてんをおいて情報じょうほう発信はっしんしています。 　認定にんていNPO法人ほうじんへのご寄付きふは、税制ぜいせい上じょうの優遇ゆうぐう措置そちがあります。ぜひご寄付きふで私わたしたちの活動かつどうを支ささえてください。 　インファクトへの活動かつどう支援しえんはこちらから

（2024年ねん4月がつ1日にち7時じ25分ふん）※記事きじ初出しょしゅつ時じ、『「ファクトチェックは誰だれからお金かねをもらおうが、政府せいふと一緒いっしょにやろうが関係かんけいない」と言いっているファクトチェック団体だんたいもあります。』との文言もんごんがありましたが、この部分ぶぶんにつきまして「確認かくにんせずに話はなしたもので、そうした事実じじつは無ないとの指摘してきを受うけました」と、立岩たていわ氏しから削除さくじょの要請ようせいがあったため削除さくじょしました。また立岩たていわ氏しからは読者どくしゃのみなさまにお詫わびしたいとの言葉ことばがありました。編集へんしゅう部ぶからもお詫わび申もうし上あげます。