STRAWBERRY MOON

いつものようにまだカランとしてる店内てんないになるはずのそこに自転車じてんしゃを並ならべて止とめる。

交かわす言葉ことばもいつも通とおり。

チャンミンが扉とびらを開ひらき「先さきにどうぞ。」とか、ユノが「おぅ、ありがとな。」とか。




チャンミンがシャッターを下おろし鍵かぎをかけ「風呂ふろの用意よういはどうするか。」と聞きけば、ユノがシャワーでいいと答こたえる。

これもまたユノが先さきに入はいることに即そく決きまる。

阿吽あうんの呼吸こきゅうみたいなものがふたりの間あいだにできてきた。


まだまだ互たがいの習慣しゅうかんに首くびを傾かしげることはあっても、そんなことを知しるたびに自分じぶんの中なかに宝物ほうもつが増ふえていくみたいだった。


自分じぶんだけが知しるユノ
自分じぶんだけが知しるチャンミン


…それが増ふえていく。






「僕ぼくは明日あしたの用意よういとかいろいろしておきますね。ユノが出でたら速攻そっこうで浴あびてきますから。」


あんまり遅おそくならないでくださいよ。と言いいながら急きゅうな階段かいだんを上あがっていくチャンミンと

それに頷うなずき、メシ抜ぬきでセックスかな？なんて思おもいながら、それもいいかもと緩ゆるむ顔かおを誤魔化ごまかすように俯うつむき上のぼるユノ。




「聞きいてます？返事へんじくらいしてくださいよ。」


「ん？あぁ、わかった。」



見上みあげれば、振ふり返かえり口こうを尖とがらせるチャンミンがいる。


それが可愛かわいいと思おもうから「頷うなずいたのに。」なんて言いわない。

わかった。ごめん。ごめん。と繰くり返かえしユノは笑わらう。


受うけ入いれられるための準備じゅんびもあるっていうのにな。とも言いわない。

自分じぶん自身じしんも早はやく触ふれ合あいたいと思おもっているから。





君きみが早はやくというから急いそいでシャワーを浴あび準備じゅんびして出でてくれば、テーブルの上うえには俺おれの作つくった料理りょうりが並ならび、買かってきたジュースと酒さけが数すう本ほん置おかれている。

少すこし肩透かたすかし。

すぐにベッドになだれ込こむのかと思おもったのに



「はい。これ着替きがえです。僕ぼくも浴あびてきます。あ、先さきに食たべないでくださいね。」

「待まってるよ。あ、タオル、次つぎのでラス1だぞ。」



渡わたされた服ふくを身みに付つけ始はじめると項垂うなだれてく君きみ
目めの前まえで揺ゆれる旋毛せんもうすら愛あいおしい



「どうした？」

「…はぁ、、洗濯せんたく出来できてなかったことに今いま気きづいたんです…、」



いつもならすぐに洗濯せんたくをする君きみがそうなるってことは、俺おれが店みせに行いったあと大学だいがくのレポートとかで忙いそがしかったんだろうな。と思おもう。

ない時間じかんをやり繰くりしてることは知しってる。
今回こんかいは急きゅうに俺おれが泊とまったり、君きみの生活せいかつペースを崩くずしてるよな。



「悪わるい。な？」

「なにがです？あぁ、もうユノが使つかったのでいいや。貸かしてください。…って、なんでこんなにグッショリなんです？」



これじゃ使つかえないって文句もんくを言いいながらもそのタオルでユノの髪かみを軽かるく拭ふき、もうこの際さいフェイスタオルでいいや。と、悔くやしそうに呟つぶやく

ユノには髪かみをしっかり乾かわかせとお節介せっかいを言いいながら風呂場ふろばへと、


…そんなことよりキスくらいしてけばいいのに、と離はなれてった先さきを恨うらめしげにみやる。


けど…、、

テーブルに並ならぶ俺おれが作つくった料理りょうりたちはタッパーからは出だされ綺麗きれいに皿さらに盛もられている。

自分じぶんの作つくったものがこうして並ならんでいることは嬉うれしい。


こうして俺おれを甘あまやかす。


並ならんでる自分じぶんの作つくった料理りょうり
君きみからのありがとうがちゃんと伝つたわってくる。

食たべる時ときは美味おいしいって言いって食たべてくれるんだろうな。


こうやって、そうやって、俺おれをなんて言いっていいかわからない感情かんじょうの中なかに連つれてくんだ。

擽くすぐったいような甘酸あまずっぱいような
少すこし身悶みもだえするようなこの感覚かんかく。



「いつもあの弁当べんとうで足たりてんのかな。これからは夜食やしょくもつけてやるか、」


それよりも早はやく一緒いっしょに暮くらせる算段さんだんだよな。
それには創業そうぎょう計画けいかく書しょと見積みつもり、

バッグの中なかからノートを引ひっ張ぱりだして動うごかなきゃいけないことをリストアップしてく。

親父おやじのこととかはもう置おいといて
とりあえず出来できることから




「ゆの？集中しゅうちゅうしてます？」

「ぁ、ん、まぁ…、ごめん。」


「いいですよ。そのまま続つづけてていいので動うごかないでくださいね。」

「なに？ピアス？ハズす？」

「赤あかくなったりしてません？」


「ないよ。」



君きみが開あけたピアスの穴あな

気持きもち軽かるくなったかと思おもえばまたいつものように重おもみを感かんじる。



「な？大丈夫だいじょうぶだったろ？」


耳朶じだを優やさしく触さわられ続つづけるからノートを閉とじ首くびを竦すくめ君きみに寄よりかかる。


「なぁ、大丈夫だいじょうぶだったろって。」

「自分じぶんでも確認かくにんしてみます？」


「ん？」



すぐ横よこにある姿見すがたみの中なかにいる俺おれの耳みみには見慣みなれない…



「…これ、」

「今日きょう初はつ給料きゅうりょう日びだったんです。気きに入いりません？」


「気きに入いった。…あ、でも俺おれ…、」



そこで初はじめて気付きづく。

チャンミンに何なにもプレゼントしてこなかったと。
そんなユノの表情ひょうじょうにいち早はやく気付きづきユノのその耳元みみもとで囁ささやく。


『今日きょうはゆのからキスしてもらえます？』と


そこでまたユノは気付きづく。

随分ずいぶんの間あいだ、というか数かぞえるほどしか自分じぶんからキスもしてこなかったな、と



自分じぶんの精せい一いち杯はいの心しんを唇くちびるにのせてチャンミンへ
重かさなり合あうだけで震ふるえるカラダを寄よせて好すきだと伝つたえる。

好すきだ。好すきだ。と、とめどなく。


…せっかくの料理りょうりが、と囁ささやく唇くちびるを軽かるく噛かみ誘さそう。

こんなんでよかったらいくらでも作つくってやるから、と

Category - 君きみが笑わらえば心しんたゆたう