天気てんき予報よほうの「ガイダンス」とは？約やく50年ねんの機械きかい学習がくしゅう活用かつようの歴史れきしとAI時代じだいにむけた変化へんか

天気てんき予報よほうの裏側うらがわをお伝つたえするシリーズ第だい2弾だん。実じつは、天気てんき予報よほうでは約やく半はん世紀せいきにわたって機械きかい学習がくしゅうの技術ぎじゅつが使つかわれてきました。天気てんき予報よほうを作成さくせいする流ながれの中なか「ガイダンス」と呼よばれる過程かていで利用りようされ、予報よほう官かんや気象きしょう予報よほう士しが効率こうりつ的てきに天気てんき予報よほうを行おこなう上うえで、なくてはならない技術ぎじゅつの一ひとつです。ガイダンスは、コンピュータがシミュレーションした数値すうち予報よほうデータをより使つかいやすい形かたちに変換へんかんしたり、補正ほせいをして予報よほう精度せいどを高たかめたりするために行おこないます。今回こんかいは、この「ガイダンス」をテーマに天気てんき予報よほうが作つくられる過程かていの一部いちぶをご紹介しょうかいしてきたいと思おもいます。

天気てんき予報よほうガイダンスの概要がいよう

天気てんき予報よほうには”翻訳ほんやく”が必要ひつよう？天気てんき予報よほうのガイダンスとは

前回ぜんかいの記事きじでもお話はなししましたが、天気てんき予報よほうは、大おおきくは以下いかのような流ながれで作つくられています。
①観測かんそくデータを収集しゅうしゅうする
②コンピュータを使つかって計算けいさんする（数値すうち予報よほう）
③出力しゅつりょくされた結果けっかを補正ほせい・加工かこうする（ガイダンス）
④それらのデータをもとに、予報よほう官かんや気象きしょう予報よほう士しが予報よほうする

今回こんかいは③の「ガイダンス」という過程かていについて詳くわしく解説かいせつしていきます。
天気てんき予報よほうのガイダンスとは、数値すうち予報よほうの結果けっかを予報よほう要素ようそへの翻訳ほんやくや統計とうけい的てきな補正ほせいを行おこなう処理しょり、およびその結果けっか作成さくせいされる予測よそく資料しりょうのことです。天気てんき予報よほうをガイド＝支援しえんすることから「ガイダンス」と呼よばれるようになりました。

ガイダンスでは、大おおきく分わけると「数値すうち予報よほうモデルでは直接ちょくせつ計算けいさんしていない要素ようそや形かたちに変換へんかん・加工かこうすること」と「数値すうち予報よほうモデルの誤差ごさを補正ほせいすること」の2つを行おこなっており、前者ぜんしゃのことを「天気てんきの翻訳ほんやく」といいます。「翻訳ほんやく」というと、ある国くにの言語げんごを他たの国くにの言語げんごに変換へんかんするというイメージが強つよいかもしれませんが、表現ひょうげんする形かたちを変かえるという意味いみもあります。

天気てんき予報よほうができるまでのおおまかな流ながれ

ガイダンスによる「翻訳ほんやく」と「補正ほせい」、この2つが必要ひつようになる理由りゆうを、もう少すこし詳くわしくみていきましょう。

「翻訳ほんやく」を行おこなう理由りゆうは、数値すうち予報よほうモデルで計算けいさんするのはある時間じかんの気圧きあつ、風ふう、気温きおん、湿度しつど、降水こうすい量りょうといった一部いちぶの要素ようそだけになるため、数値すうち予報よほうで計算けいさんしていない要素ようそを計算けいさんする必要ひつようがあるからです。例たとえば、天気てんき、降水こうすい確かく率りつ、降雪こうせつ量りょう、発はつ雷かみなり確かく率りつなどがそうです。
また、数値すうち予報よほうの結果けっかはあくまで数値すうちデータの羅列られつでしかないため、天気てんき予報よほうをする上じょうで使つかいやすい・見みやすい形かたちになるよう、最高さいこう・最低さいてい気温きおん、最大さいだい瞬間しゅんかん風速ふうそくといった極きょく値ちや、気温きおんや湿度しつどの時とき系列けいれつデータなどに加工かこうしてあげる必要ひつようがあります。

一方いっぽうで「補正ほせい」が必要ひつようになる理由りゆうは、数値すうち予報よほうの結果けっかには誤差ごさが含ふくまれているからです。数値すうち予報よほうに誤差ごさが生しょうじる原因げんいんにはいくつかありますが、一貫いっかん性せいのある誤差ごさ（系統けいとう誤差ごさ）と、そうではない誤差ごさ（ランダム誤差ごさ）に分わけることができます。
前者ぜんしゃはいわゆるその数値すうち予報よほうモデルのクセのようなもので、統計とうけい的てきに「こういう時ときにはこうなりやすい」というだいたい決きまった傾向けいこうがあります。数値すうち予報よほうモデルと実際じっさいの地形ちけいの違ちがいに起因きいんするものがその一ひとつで、例たとえば、数値すうち予報よほうでは実際じっさいの地形ちけいよりもなめらかに地形ちけいが表現ひょうげんされがちな分ぶん、地形ちけい性せいの降水こうすいが弱よわく表現ひょうげんされたり、実際じっさいは陸りくである場所ばしょが海うみとして扱あつかわれることで気温きおんの日ひ変化へんかは緩ゆるく、風ふうは強つよく表現ひょうげんされたりします。おおよその傾向けいこうが決きまっているため、その傾向けいこうを考慮こうりょして補正ほせいしてあげることができるというわけです。
図ずはその例れいで、A付近ふきんの風向ふうこうが数値すうち予報よほうモデル（左上ひだりうえ）では周辺しゅうへんと同おなじような風向ふうこう・風速ふうそくになってしまっていますが、ガイダンス（左下ひだりした）によって実際じっさいの風ふう（中ちゅう下か）に近ちかい状態じょうたいに補正ほせいできており、地形ちけいの複雑ふくざつさによる風ふうの変化へんかを適切てきせつに表現ひょうげんできていることがわかります。

このように「ガイダンス」は、数値すうち予報よほうで作成さくせいしたデータを、天気てんき予報よほうを行おこなう上うえでより適切てきせつかつ使つかいやすくするための役割やくわりを担になっています。

地形ちけいの違ちがいによる系統けいとう誤差ごさをガイダンスで補正ほせいした例れい

約やく50年ねん前まえから機械きかい学習がくしゅうを活用かつよう！天気てんき予報よほうガイダンスの手法しゅほう

天気てんき予報よほうのガイダンスには、AIの一いち分野ぶんやである機械きかい学習がくしゅうが使つかわれています。気象庁きしょうちょうでガイダンスの運用うんようが始はじまったのが1977年ねんなので、天気てんき予報よほうの世界せかいでは、実じつは約やく半はん世紀せいきも前まえから機械きかい学習がくしゅうが使つかわれていたことになります。

「数値すうち予報よほうの翻訳ほんやくや補正ほせい」を具体ぐたい的てきにどうやっているかというと、過去かこの数値すうち予報よほうの予報よほう結果けっかと実際じっさいの観測かんそくデータとの間あいだで統計とうけい的てきな関係かんけい式しきを作成さくせいし、それを予測よそく式しきとして最新さいしんの数値すうち予報よほうの結果けっかに適用てきようすることで翻訳ほんやくや補正ほせいを行おこないます。つまり、機械きかい学習がくしゅうによって過去かこのデータからある一定いっていのルールを見出みいだすことで、その数式すうしき化かしたルールを最新さいしんの数値すうち予報よほうにあてはめて算出さんしゅつできるというわけです。

ガイダンスの作成さくせい方法ほうほうの概念がいねん図ず（上うえ：一括いっかつ学習がくしゅう型がた、下した：逐次ちくじ学習がくしゅう型がた）

予測よそく式しきの作成さくせい方法ほうほうには、過去かこ数すう年ねん分ぶんのデータから予測よそく式しきを算出さんしゅつする「一括いっかつ学習がくしゅう型がた」と、数値すうち予報よほうを行おこなうたびに毎回まいかいデータを取とり込こんで予測よそく式しきを更新こうしんする「逐次ちくじ学習がくしゅう型がた」があります。

一括いっかつ学習がくしゅう型がたの場合ばあい、常つねに同おなじ予測よそく式しきを使つかい続つづけますが、数値すうち予報よほうモデルを更新こうしんした場合ばあいなどは傾向けいこうが変化へんかするため、数すう年ねん分ぶんデータを蓄積ちくせきした上うえで予測よそく式しきを更新こうしんしなければなりません。よってデータが蓄積ちくせきされるまでの間あいだ、古ふるい予測よそく式しきを使つかい続つづけなければならず、精度せいどが低下ていかするという問題もんだいがありました。
その問題もんだいを解決かいけつする方法ほうほうとして1996年ねん頃ごろから逐次ちくじ学習がくしゅう型がたが用もちいられるようになりました。日々ひび学習がくしゅうするという面めんも含ふくめて、逐次ちくじ学習がくしゅう型がたの方ほうが優位ゆういなように思おもえるでしょう。ただ、逐次ちくじ学習がくしゅう型がたはモデルの変更へんこうや季き節ぶし変化へんかに柔軟じゅうなんに対応たいおうできる一方いっぽうで、稀まれな現象げんしょうは苦手にがてだったり、予測よそく式しきが常つねに変化へんかするので予報よほう官かんにとっては扱あつかいにくいといった課題かだいもあります。
そのほか、一括いっかつ学習がくしゅう型がたと逐次ちくじ学習がくしゅう型がたのメリット・デメリットを、簡単かんたんに表ひょうにまとめました。同おなじ機械きかい学習がくしゅうといっても、こうしたメリット・デメリットに合あわせて、要素ようそごとに一括いっかつ学習がくしゅう型がたと逐次ちくじ学習がくしゅう型がたを使つかい分わけて運用うんようしています。

ガイダンスの一括いっかつ学習がくしゅう型がたと逐次ちくじ学習がくしゅう型がたのメリット・デメリット

さらに、一括いっかつ学習がくしゅう型がたはロジスティック回帰かいき、線形せんけい重じゅう回帰かいき、診断しんだん手法しゅほう、逐次ちくじ学習がくしゅう型がたはニューラルネットワーク、カルマンフィルタと、手法しゅほうごとにさらに細こまかく分類ぶんるいすることができます（表ひょう）。
線形せんけい重じゅう回帰かいきは、逐次ちくじ学習がくしゅう型がたが生うまれるまでは最もっとも多おおく使つかわれていた手法しゅほうです。現在げんざいの主流しゅりゅうはカルマンフィルタやニューラルネットワークですが、確かく率りつ予報よほうではロジスティック回帰かいきが使つかわれています。

一口ひとくちに天気てんき予報よほうを翻訳ほんやくや補正ほせいをするといっても、料理りょうりと同おなじように、ひとつひとつ素材そざい（要素ようそ）の特性とくせいに合あわせてやり方かたを変かえているのです。

ガイダンスの手法しゅほう一覧いちらん

天気てんき予報よほうガイダンスの課題かだい

先さきほど、天気てんき予報よほうのガイダンスでは、翻訳ほんやく・補正ほせいするための手法しゅほうを得意とくい・不得意ふとくいによって使つかい分わけていることをお話はなししました。ただ、それでもやはりガイダンスではうまくできないこともあります。
ガイダンスでは系統的けいとうてきな誤差ごさを補正ほせいしていますが、逆ぎゃくに言いえばランダムな誤差ごさの補正ほせいはできません。例たとえば、前線ぜんせんや台風たいふうの位置いちのずれなどはガイダンスが苦手にがてとする代表だいひょう的てきなものです。これには風ふうや水蒸気すいじょうきなど複数ふくすうの要因よういんが絡からみ合あって起おこり、その都度つど影響えいきょうする要因よういんも異ことなります。系統けいとう誤差ごさに代表だいひょうされる地形ちけいの違ちがいのように明確めいかくな傾向けいこうが見みいだせるもののみ、ガイダンスの補正ほせいは有効ゆうこうです。

また、逐次ちくじ学習がくしゅう型がたの場合ばあい、変化へんかに柔軟じゅうなんに対応たいおうできる分ぶん、もとのデータにエラーが含ふくまれていると、それを反映はんえいして悪わるい方向ほうこうに予測よそく式しきが変かわってしまい、予報よほう精度せいどが落おちてしまうという不安定ふあんていさを抱かかえています。そのため、エラーが取とり込こまれないように常時じょうじ監視かんしを行おこなう必要ひつようがあります。

ガイダンスによる翻訳ほんやく・補正ほせいは必かならずしも万能ばんのうではありません。最終さいしゅう的てきには、これらの点てんを踏ふまえた上うえで、予報よほう官かんや気象きしょう予報よほう士しが判断はんだんして天気てんき予報よほうを作成さくせいする必要ひつようがあります。