毎日新聞彦根通信部に単身赴任中の私(62)は2022年秋、直腸S状部にステージⅢbのがんが見つかり、開腹手術と抗がん剤治療を経験した。副作用との闘い、新型コロナウイルス感染など約1年間の苦労を随時ルポしてきたが、その後はほぼ通常の生活に戻り、しばらく連載を休んでいた。実のところ、もうがんを忘れたい気持ちもあったのだが、各方面から「経過は順調か」「続きが読みたい」などの声が次々寄せられた。「知の巨人」立花隆氏には及ぶべくもないが、やはり記者の端くれとして再発可能性もあるこの病気と正面から向き合い、その不安も希望も世に発信していこうと思い直した。【伊藤信司】
「3月18日、大腸ポリープ切除手術に来てください。あっ、それと3月に入ったらお酒はやめてくださいね。まあ近ごろはノンアルコールもいろいろ出てますから」。昨年夏の経過観察で約7ミリの新たなポリープが見つかり、自宅近くの千葉県船橋市立医療センターで内視鏡手術をすることになった。日程打ち合わせの際、看護師からそう告げられた。でも簡単に言ってほしくなかった。風呂上がりにビールが飲めなくなる――。それは一大事だった。開発者には申し訳ないが、ノンアルビールとは似て非なるものだ。
前にも書いたが22年夏、下痢などで病気の予感はあったが、医者にビールを止められるのが嫌で、精密検査を先送りしてしまったほどだ。抗がん剤治療中こそ副作用で飲食もままならなかったが、体調の回復に従って、晩酌が単身赴任生活の何よりの慰めになっていた。
もっとも左党には耳が痛いニュースも相次いでいる。…