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「座席からしばらく立ち上がれないような傑作」映画評論家・宇野維正&森直人と編集長がネタバレありで『ミッシング』のすごさを語る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「座席からしばらく立ち上がれないような傑作」映画評論家・宇野維正&森直人と編集長がネタバレありで『ミッシング』のすごさを語る

コラム

座席ざせきからしばらくがれないような傑作けっさく映画えいが評論ひょうろん宇野うの維正&もり直人なおと編集へんしゅうちょうがネタバレありで『ミッシング』のすごさをかた

オリジナル作品さくひん中心ちゅうしんに、映画えいがファンを魅了みりょうしてきた吉田よしだめぐみ監督かんとく最新さいしんさくミッシング』が公開こうかいちゅうだ。突然とつぜん失踪しっそうしたおさなむすめさが家族かぞくかれらをうメディアの日々ひびつづったほんさくは、それぞれの立場たちば事件じけん人々ひとびと内面ないめんにスポットをてたヒューマンドラマ。自身じしん母親ははおやになった石原いしはらさとみの主演しゅえんさくとしてもおおきく注目ちゅうもくびているほんさくだが、なんと上映じょうえいかん257かんのうちやく半数はんすう劇場げきじょうで、公開こうかい月曜日げつようび動員どういんすうが、公開こうかい週末しゅうまつ(きむにち)のいずれかの動員どういんすう上回うわまわるという、“異例いれい”ともえる活況かっきょうせている。

 【写真を見る】早くも"今年の傑作”と評判の『ミッシング』。映画評論家たちはどう見た?
写真しゃしんる】はやくも"今年ことし傑作けっさく”と評判ひょうばんの『ミッシング』。映画えいが評論ひょうろんたちはどうた?[c]2024「missing」Film Partners

MOVIE WALKER PRESSでは、これまで『ミッシング』特集とくしゅう強力きょうりょくプッシュしてきたが、今回こんかい吉田よしだ監督かんとく作品さくひん造詣ぞうけいふかく、ほんさくでも監督かんとく取材しゅざいおこなってきた映画えいが評論ひょうろん宇野うの維正、もり直人なおと両氏りょうしまねいて座談ざだんかい開催かいさい自身じしん吉田よしだ監督かんとく作品さくひんのファンであるMOVIE WALKER PRESS編集へんしゅうちょう下田しもだ桃子ももこくわわり、様々さまざま角度かくどから『ミッシング』の魅力みりょくかす。

以降いこう、ネタバレ(ストーリーの核心かくしんれる記述きじゅつ)をふくみます。未見みけんほうはご注意ちゅういください。

吉田よしだ監督かんとくいまさくはじめて、メディアの問題もんだいにガッツリんだなとおもいました」(もり)

失踪した娘を捜す母親の沙織里(石原さとみ)と夫の豊(青木崇高)
失踪しっそうしたむすめさが母親ははおや沙織里さおり(石原いしはらさとみ)とおっとゆたか(青木あおきたかしだか)[c]2024「missing」Film Partners

下田しもだ「『ミッシング』、たあと座席ざせきからしばらくがれないような傑作けっさくでした。編集へんしゅう部員ぶいんや、宣伝せんでんほうはなしていても、ついねつはいってしまうんですが…。夫婦ふうふ関係かんけいだけでなく、メディアがわもしっかりえがかれているのもほんさく魅力みりょくなので、特集とくしゅうでは笠井かさいしん輔さんに“報道ほうどうマンの葛藤かっとうを、鈴木すずきおさむさんにや“テレビのこわさと魔力まりょくかたっていただきました。でも、まだまだつたえたりないなって。そこで、吉田よしだ監督かんとく作品さくひんとしての『ミッシング』の魅力みりょくを、ネタバレありでたっぷりかたっていただきたいです。まず、宇野うのさんはどうごらんになりましたか?』

宇野うの最初さいしょから核心かくしんめいたことをうと、吉田よしだ監督かんとくがコメディテイストを意図いとてきはいした『空白くうはく』があって、これは長年ながねんにわたって共同きょうどう脚本きゃくほんかれていた仁志にしはらりょうさんが2016ねんくなられたことをけた喪失そうしつ物語ものがたり大切たいせつじんがいない日々ひびをどうおくっていくかがテーマだったじゃないですか。そのかみ見返みかえりをもとめる』をはさんで、またこのテーマにかえったことにちょっとびっくりしたという」

もりたしかに『ミッシング』は基本きほんてきに『空白くうはく』からのながれをいだものとはえますよね。宇野うのさんがおっしゃったように『空白くうはく』は、吉田よしだ監督かんとく親友しんゆうであった仁志にしげんさんをくした喪失そうしつと、万引まんびきした中学生ちゅうがくせいげる途中とちゅうくるまかれて死亡しぼうした実際じっさい事件じけんからがった物語ものがたりです。これは裏話うらばなしですが、じつ吉田よしだ監督かんとく愛知あいちけんかばのぐんで『空白くうはく』をったあとにリップサービスで『かばのぐんさんさく』をつくりたい、みたいなことを口走くちばしったらしいんですよ。だから『ミッシング』のだい1稿こうは『空白くうはく』の続編ぞくへんになっていて、古田ふるた新太あらたさんがえんじた漁師りょうし添田そえたていたそうです」

下田しもだ「『ミッシング』の構想こうそうは『空白くうはく』のクランクアップのおもいついたもので、当時とうじ沙織里さおり(石原いしはらさとみ)のおとうとサイドが主人公しゅじんこう物語ものがたりだったと監督かんとくかたっています。かばのぐんさんさく可能かのうせいがあったかも、というのもうなづけます。おっとゆたか(青木あおきたかしだか)は漁師りょうしという設定せっていだし、沙織里さおりたちが情報じょうほう提供ていきょうけてかう大事だいじなエピソードで、かばのぐん登場とうじょうしますね」

豊は漁師など、吉田監督の前々作『空白』とのつながりも多数感じられる
ゆたか漁師りょうしなど、吉田よしだ監督かんとく前々まえまえさく空白くうはく』とのつながりも多数たすうかんじられる[c]2024「missing」Film Partners

もり「まずは延長線えんちょうせんじょうがったという起点きてんはやはり重要じゅうようだとおもいます。ただ、『空白くうはく』の続編ぞくへんというかたちだと物語ものがたり限定げんていてきになってしまうので、やはり別個べっこあたらしい物語ものがたりとしてつむぎだすことにしたという経緯けいいがあったらしいです。そして『ミッシング』にはメディアというテーマがおおきくっかってきた。これにかんするキーパーソンが、企画きかくつらねた河村かわむら光庸みつのぶさんですね。スターサンズの代表だいひょう取締役とりしまりやくであり、『新聞しんぶん記者きしゃ』など政治せいじてき社会しゃかいてき主題しゅだいいかける話題わだいさく次々つぎつぎ製作せいさくされていた河村かわむらさんは、はん権力けんりょく立場たちばからメディアの問題もんだいつよ興味きょうみをおちだった。残念ざんねんながら河村かわむらさんは2022ねん6がつ急逝きゅうせいされてしまったわけですが、おそらく吉田よしだ監督かんとくはその遺志いしぐべく“河村かわむらカラー”を真正面ましょうめんからけたんじゃないでしょうか。『空白くうはく』もたしかにメディアの問題もんだいあつかってはいましたが、ひとつの事件じけんをきっかけにこるまけ連鎖れんさてき人間にんげんぐんぞうげきえがくなかで、現代げんだいだとSNSやメディアにれずにはいられない、といった程度ていど比重ひじゅうだったとおもう。『かみ見返みかえりをもとめる』もYouTuberをあつかっていましたが、どちらかといえばかれらの自意識じいしき問題もんだいがテーマでした。だからぼくは『ミッシング』で、はじめて吉田よしだめぐみ輔はメディアの問題もんだいにガッツリんだなとおもいました」

行方不明になった当日、ライブに行っていたことは、沙緒里が自分を自責し続ける要因にもなる
行方ゆくえ不明ふめいになった当日とうじつ、ライブにっていたことは、すないとぐちさと自分じぶん自責じせきつづける要因よういんにもなる[c]2024「missing」Film Partners

宇野うの「そのながれとはべつのラインで、石原いしはらさとみさんが吉田よしだ監督かんとく作品さくひんたいとすうねんまえからアプローチしていた。そこに『空白くうはく』がたか評価ひょうかされて、その延長えんちょうじょうでなにかできないかみたいなはなし合流ごうりゅうしていったと。そうかんがえると、単純たんじゅん作家さっかてき動機どうきだけにもとづいた作品さくひんではないんでしょうね」

もり「あとおもしろかったのは、沙織里さおりかつしてるアイドルのグループめいが“BLANK(ブランク)”ってこと。これはセルフオマージュというか、『空白くうはく』からのユニバースてきなつながりをしめ記号きごうですね」

下田しもだむすめ行方ゆくえ不明ふめいになったときあしはこんでいたのがBLANKのライブで、彼女かのじょ育児いくじ放棄ほうきだとSNSでめられる原因げんいんにもなります。しかも、後半こうはんのシリアスなシーンで偶然ぐうぜんカーステレオからながれるのが、よりによってBLANKで…。わらいしたくなるすごくいいシーンなんですが。新曲しんきょく名前なまえ、『マスターピース』でしたよね(笑)かっこわらい

宇野うの「なるほどね!」

沙緒里は、娘の美羽が失踪した日にライブに行っていたことで“育児放棄”だと誹謗中傷される
すないとぐちさとは、むすめ美羽みわ失踪しっそうしたにライブにっていたことで“育児いくじ放棄ほうき”だと誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうされる[c]2024「missing」Film Partners

もり「ブランク(空白くうはく)がマスターピース(傑作けっさく)というきょくをやっているっていう(笑)かっこわらい。あと、これはぼく勝手かって見方みかたですが、『ミッシング』は2021ねん公開こうかいされた春本しゅんぽん雄二郎ゆうじろう監督かんとくの『由宇ゆう天秤てんびん』へのアンサーのようだともかんじたんです。まけ連鎖れんさてきころがっていく群像ぐんぞうげきで『空白くうはく』と印象いんしょうもあった作品さくひんなのですが、おおきくちがったのがメディアの問題もんだいんだかか。『由宇ゆう天秤てんびん』はテレビ局てれびきょくのディレクターが主人公しゅじんこうで、SNS問題もんだいふくめメディアろんてき映画えいがでもありました。あと、『由宇ゆう天秤てんびん』で梅田うめだまことひろしさんがえんじた女子高じょしこうせいわかいおとうさん・哲也てつやと、『ミッシング』で石原いしはらさとみさんえんじる沙織里さおりはある意味いみている。沙織里さおり自分じぶんどもが姿すがたした時間じかん、アイドルグループのかつをしていたというがあって、印象いんしょうもヤンママっぽい。ようするに育児いくじ放棄ほうきじゃないかと誤解ごかいされやすいおかあさんでもある。『由宇ゆう天秤てんびん』の哲也てつやも、いかにもネグレクトしてそうなイメージをたれちゃいがちな父親ちちおやぞうだったんですね。どちらもヤフコメてき目線めせんだと『絶対ぜったいアイツがわるいんだよ!』とたたかれそうなキャラクターで」

沙緒里への取材を続ける記者・砂田(中村倫也)
すないとぐちさとへの取材しゅざいつづける記者きしゃ砂田すなだ(中村なかむらりん也)[c]2024「missing」Film Partners

宇野うの前作ぜんさくかみ見返みかえりをもとめる』でえがいたYouTubeの自己じこ承認しょうにん欲求よっきゅう問題もんだいもそうでしたけど、いまさくえがいたネットの匿名とくめいみのおろかさも、普通ふつう映画えいが作家さっかだったら義憤ぎふんにじみでるようなかんじでえがきがちだけど、吉田よしだ監督かんとく正義せいぎかんみたいなものをはいして純粋じゅんすい人間にんげん滑稽こっけいさをあらわしたさくげきのネタとしてあつかってるクールさがありますよね」

もり「よくわかります。吉田よしださんがやるといわゆる風刺ふうしげきにはならないんですよね。社会しゃかい風刺ふうしってどうしてもイデオロギッシュだし、世界せかい図式ずしきてき整理せいりして解析かいせきしていく作業さぎょうになりますけども、吉田よしだ監督かんとくはあくまで人間にんげんる。それも多義たぎてき視座しざで、包括ほうかつてきに。だから宇野うのさんがおっしゃったように、いくらシリアスな事態じたいでも“どこかおもしろがっている”かんじがはいる。それは吉田よしだ監督かんとくの“人間にんげんる”なかに、滑稽こっけいさという要素ようそかならふくまれているということですね。だからたとえば『ヒメアノ~ル』がそうですけど、登場とうじょう人物じんぶつへの距離きょりかた次第しだいでコメディにもホラーにも変化へんかする。あと『空白くうはく』のとき吉田よしだ監督かんとく本人ほんにんが『今回こんかいわらいを封印ふういんしました』とってましたが、ぼく本当ほんとうかなあ?とおもっていて(笑)かっこわらい。というのは、スーパーのまえ古田ふるた新太あらたさんがずっとってるだけの描写びょうしゃって、ある意味いみブラックコメディじゃないですか。ただ、そのてんうと『ミッシング』は、なるだけわらいにかたぶかないよう、本気ほんき封印ふういん意識いしきしているがしました。まあ、れちゃってるところは随所ずいしょにありますけどね(笑)かっこわらい。だから今回こんかい吉田よしだ監督かんとくらしい作品さくひんであると同時どうじに、これまでのかれ映画えいがにはないあたらしい感触かんしょくぼくにはすごくおおきかったです」


宇野うの維正
映画えいがジャーナリスト。「リアルサウンド映画えいが」アドバイザー。YouTube「MOVIE DRIVER」を更新こうしんちゅう。「MOVIE WALKER PRESS」「そうえん」などで連載れんさいちゅう著書ちょしょに「1998ねん宇多田うただヒカル」(新潮社しんちょうしゃ)、「くるりのこと」(新潮社しんちょうしゃ)、「小沢おざわ健二けんじ帰還きかん」(岩波書店いわなみしょてん)、「2010s」(新潮社しんちょうしゃ)、「ハリウッド映画えいが終焉しゅうえん」(集英社しゅうえいしゃ)など。最新さいしんかん映画えいが興行こうぎょう分析ぶんせき」(blueprint)2024ねん6がつ発刊はっかん予定よてい

もり直人なおと
映画えいが評論ひょうろん。1971ねん和歌山わかやままれ。著書ちょしょに『シネマ・ガレージ』(フィルムアートしゃ)、編著へんちょに『21世紀せいき/シネマX』(フィルムアートしゃ)ほか。「週刊文春しゅうかんぶんしゅん」「朝日新聞あさひしんぶん」などで執筆しっぴつ。 YouTubeチャンネル『活弁かつべんシネマ倶楽部くらぶ』MC担当たんとう

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