TIFFティーンズ映画教室5年間の歩み、講師を務めた映画監督が一堂に会してトーク
2022年10月31日 20:38
7 映画ナタリー編集部
TIFFティーンズ映画教室のスペシャルトークショーが10月30日に東京・有楽町micro FOOD&IDEA marketで行われ、特別講師として参加してきた映画監督の諏訪敦彦、大九明子、三宅唱、瀬田なつき、早川千絵、MCとしてこども映画教室代表の土肥悦子が登壇した。
TIFFティーンズ映画教室は、映画監督を講師に迎えた子供向けの映画制作ワークショップ。ティーンが主体となってプロット作りや撮影、編集などの映画作りの全工程を担い、完成作品は東京国際映画祭で上映される。2017年にスタートし、これまでに諏訪、大九、杉田協士、三宅、瀬田、早川が各年の特別講師として参加してきた。今年は早川が講師を務め、青・赤・黄の3つのチームに分かれた18人の生徒による映画「これで良かった、かな。」「夏を覗く」「おばけとぼくと」が完成した。
今回、初めて2021年までの各年から講師がセレクトした1作を上映。会場には今年の生徒や過去の参加者たちが集い、講師陣と一緒にそれぞれの映画教室を振り返った。
1作目は諏訪が講師を務めた2017年の「1人ぼっちBOX」。本作は謎の「ひょっとこ」のお面を被った男に追いかけられる中学生女子の恐怖と葛藤の物語だ。初開催となった2017年、諏訪は脚本を用意し、撮影、編集と続く通常のプロダクションの流れをあえて崩したことを述懐。自作でも台本を使用せず、即興的に撮り進めていく諏訪は「準備ができたら撮影に入るのではなくて、とにかく何かを撮影しながら考えていくプロセスのほうがいい」と直感的に判断したそう。タイトルの「1人ぼっちBOX」という言葉はガードレールの落書きを引用。主人公がひょっとこと遭遇する寂れた歩道橋も物語ができあがる前にロケ地として選ばれた。「お面も参加者の子が『何か使えないか?』と持ってきてくれたもの。近くを散歩して面白いものを見つけて撮ってきてもらう。そこから映画を考えていきました」と明かす。
この年の参加者は「ひょっとこに追いかけられるところまでは、すごく順調でした。でも主人公が追い詰められてから撮影が止まってしまった」と、物語の展開を作り出せず苦戦したことを回想。諏訪も「最初にあったのは、変な存在と出会って追いかけられる、どこに行っても同じ場所に帰ってきてしまう無限ループというシンプルなアイデア。『なんでこの子は追いかけられるのか?』といったことを考えられていなかった。そこから再び話し合って、後半の展開につながる友達の裏切りといった主人公の境遇がだんだんとできあがった。そのプロセスは苦しいけど、すごくクリエイティブだった気がします」と創作過程の一端を述べる。
さらに諏訪は、刑事を演じようとした別チームでの印象的な出来事を紹介。「刑事を演じたい子に一度、記者会見の即興をしてもらって映像を撮りました。でも、みんなに意見を聞いても刑事には見えない。なんで刑事に見えないんだろう?と話し合って、今度は別の子に被害者の遺族を演じてもらいました。そっちはみんなが『(本物に)見える』と。じゃあ、なんで刑事には見えなかったんだろうね?と話し合うと、結局、結論は『中学生の刑事はいない』という単純なことでした」と思い返す。「そこで僕も映画って理解することと、信じることは別なんだと気付いた。子供が刑事を演じたら、観る人は刑事とは理解するけど、信じることはない。子供が刑事を演じて、観客が“理解する”のは“子供映画”。だから、まず最初に『君たちは子供映画を作りたいか、普通の映画をやりたいか』を選んでもらって、信じることができる映画を作ることになりました」と続けた。
2018年の作品からは、親友にある嘘をついてしまった中学生の日常の変化を描いた「15の夏 優しい嘘はだれを幸せにするのか」を上映。講師の大九は「青春の真っ只中にいる子たちが青春映画を撮るのは、意外にありそうでない。諏訪監督の言葉を借りると、信じられる映画。主人公の女の子は、裏切ってしまった親友に恋をしているようにも見える。不安定なものを丁寧にそっと差し出した作品」と感想を述べる。この年の教室では、子供たちに向けて最初に「映画作りを楽しむのはもちろん大事だけど、とにかく自分が面白いと思うものをプレゼンして“面白い映画”を作るのを目指してください。妄想を爆発させましょう」と語ったそう。最初に出された宿題は、近くにいる人を観察して絶対に話しかけずに、その人の背景を妄想した物語を作ること。「シナリオのスタート地点になるような絵を描いてもらって、その人の絵を見ながら物語を語ってもらいました。次の宿題では、その人を買い物に行かせる。どのような場所で何を買うのかを考えてもらって。その人を動かしたら映画になるよね、と。とても静かな子がものすごく破天荒な妄想を持ってくる。ワクワクする楽しい経験でした」と振り返った。
2019年からは同級生の男子4人組の日常風景を捉えた一編「四人間」を上映。杉田の出席は叶わず、トークにはチームリーダーを務めた小林和貴が出席した。杉田が出したお題は「自分たちに似合う映画」で、ワークショップでは「隣にいる人に似合うセリフ」を考えたそう。小林は「『四人間』も4人が毎日過ごしていそうな日常をそのまま切り取ったような映画。何か起こりそうで何も起こらない」と紹介。劇中では、ある男の子が友人に相談を持ちかけるが、寝不足な友達は実は寝ていて話を聞いていなかった、というささいな誤解を生む出来事がつづられる。参加者は「お題の“似合う映画”をちゃんと守っていて。寝ているのも、その人が寝坊しそうというイメージからでした」とコメント。ラストでは、微妙な誤解を特に喧嘩もせず解消した男子たちがスタジオで、がむしゃらに楽器を奏でふざけ合う。4人の関係と楽しい空気を伝える魅力あふれる瞬間となっており、小林と参加者曰く、現場では楽しくて撮影が止まらず、10分近くカメラを回していたという。
コロナ禍が始まった2020年からは、映画教室における制作の工程すべてがオンラインで進められた。上映された「某マンションとほんの小さな音楽について。-OTO-」は、とあるマンションの別々の部屋に住む4人が壁越しに繰り広げる人間模様を描いた作品で、久しぶりに鑑賞した講師の三宅は「すげえ面白かった」と吐露。さらに「本当はこの年の講師はやりたくなかった。パンデミックが始まって、オンラインで映画なんて作れないと思っていました」と素直に述べつつ、教室ではまず最初に、火星に取り残された宇宙飛行士のサバイバルを描いたマット・デイモン主演の「オデッセイ」を観てもらったことを振り返る。「全員がマット・デイモンである。なんらかのトラブルが発生しているから、それぞれが離れたところにいながら、それを解決してほしい」とお題を与え、手探りの状態でのオンライン映画制作が始まった。
慣れないリモートでの打ち合わせや撮影は負担が大きいため、作業時間は1日3時間という制約が設けられた。代わりに撮影日数は増えたものの、例年よりは確実に時間が少なかったという。撮影もカメラを回すときだけ、各自がパソコンの前を離れ作業に当たった。上映作に「某マンションとほんの小さな音楽について。-OTO-」を選んだ理由について、三宅は「悩みましたけど、ほかの3本は画面の中でなんらかオンラインで会話をする場面があった。この作品だけはなくて、実際は離れた場所にいるのに同じマンションに住んでいるという大嘘をついた。それが見事で意外だった」と回答。同作の参加者は「リモートだから相手のことがよりわからないし、作品の形も見えない状態でやっていました。ピアノや帽子など、1人ひとりが『自分が一番うまく撮れるもの』を詰め込んだ作品だと思います」と述べ、別の参加者も「会ったことないのに、お互いの意見をぶつけ合うだけで1本の映画ができあがったことに驚きました。誰かが撮影してる間、パソコンの前で楽しみに待ってることもありました」と話した。
2021年からは、謎のオンラインミーティングへ招待された4人の中学生が不思議な出来事を経験する「紙ひこうき」を上映。この年はオンラインと対面を使い分ける形も模索されたが、日々変わる感染状況を考慮し前年と同じく全工程がオンラインとなった。「紙ひこうき」は東京・豊島区の近所に住んでいることがわかった4人が、近くの神社で待ち合わせをしようとする物語。全員が神社に集まるものの彼らが出会うことはなく、代わりに紙飛行機が時空を超えてリレーされていく。瀬田は「過去、未来、現在、パラレルワールドなどが絡む、すごく壮大な話」と紹介。そして講師の経験を「偶然出会った人たちと映画を作ることはなかなかないこと。みんなが何かを発見していく過程を少し離れたところから見ていると、私も一緒に作りたいなと思いました。本当に面白い体験をさせていただけた」と振り返った。
最後に諏訪は「毎年の作品から関わった監督の存在を確かに感じて、口で言わなくても何かが子供たちに伝わって映画ができている。無意識的なことかもしれないけど、講師や参加者たちのいろいろな物語や経験が映画に作用している。だからこそ単に映画を上映するだけじゃなくて、こういう場でいろいろな営みを共有するのは重要なことだと思いました」と明言。2022年の講師を務めた早川は「子供たちが作ったビギナーの映画を見る目ではなくて、同じ映画を作るものとして、こんなに斬新なことをするんだ!という驚きがありました。それぞれが才能を持った素晴らしい映画を作る人。この映画教室がいい出会いになっていたら」と呼びかけた。
(c)2022 TIFF