コメディアンを夢見る孤独で心優しい男は、なぜ狂気あふれる悪のカリスマ・ジョーカーに変貌したのか? その衝撃の真実を描いた「ジョーカー」が10月4日に日米同日公開となる。これまでにジャック・ニコルソンやヒース・レジャー、ジャレッド・レトといった歴代アカデミー賞俳優が演じてきた映画史上もっとも有名なヴィランであるジョーカーに扮するのは、早世したリバー・フェニックスの弟としても知られる実力派俳優ホアキン・フェニックス。トロント国際映画祭のディレクターは彼の演技を「キャリア史上最高」と評した。また、ヴェネツィア国際映画祭では最高賞にあたる金獅子賞を獲得し、アカデミー賞などの賞レースでの期待も高まっている。
映画ナタリーでは、アメコミ好きかつジョーカーの大ファンであり、本作の公開を心待ちにしていたという劇団ひとりにインタビューを実施した。主人公アーサーが夢見る“コメディアン”として活躍するだけでなく、自身が原作を手がけた「青天の霹靂」の監督、「映画クレヨンしんちゃん 爆睡! ユメミーワールド大突撃」の共同脚本を担当するなど、映画のクリエイターでもある劇団ひとり。彼はジョーカー誕生の衝撃の物語をどう見たのか? 若き日の自身のエピソードを含め、鑑賞後の熱い思いを語ってもらった。
取材・文 / 小澤康平 撮影 / 後藤壮太郎
孤独だが純粋で心優しい男アーサー・フレック。コメディアンを夢見る彼は、「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という一緒に暮らす母の言葉を胸に、都会の片隅でピエロメイクの大道芸人として働く。同じアパートに住むソフィーにひそかに恋心を抱いている。
緑の髪と真っ白な肌のピエロメイクが特徴的な唯一無二の<悪のカリスマ>。超人的な力は持たないが、優れた頭脳、予測不能の凶行、邪悪な笑いのセンスで人々を戦慄させ、世界のすべてを狂わそうとする。
めっちゃめちゃ面白かった!
大人が楽しめる映画だと思いました
──「ジョーカー」は、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を獲得するなど、すでに世界中で話題沸騰の注目作品です。今回は同作を楽しみにしている劇団ひとりさんに、ジョーカーの大ファンとして試写を観ていただきました。いかがでしたか?
いやあ、めっちゃめちゃ面白かったですね。すごくなかったですか!?
──すごかったです。今作では、孤独な男アーサーが悪のカリスマ・ジョーカーに変わっていく過程がとても丁寧に描かれていますね。
僕、ヒット作の前日譚を描いたエピソード0みたいなものをどこかでちょっとなめていたんですよ。でも今作は「はいはい、辻褄合ってますね」なんかではまったく終わらない。孤独だけど優しい男がとんでもない悪のカリスマになっていく物語として、1カ所も疑問に思わなかったのはもちろん、とにかくアーサーの運命が切なくて完全に見入っちゃいました。
──ジョーカーはアメコミのキャラクターではありますが、今回の映画のストーリーは完全オリジナルになっています。
そうなんですよね。なんか世界観がマーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」を彷彿させると思いました。ロバート・デ・ニーロ演じるトラヴィスが鏡の中の自分に話しかける場面とリンクするようなシーンもありましたし。
──監督のトッド・フィリップスが、本作は「タクシードライバー」「キング・オブ・コメディ」といった作品に影響を受けていると話しているみたいですね。
あ、やっぱり!? そうじゃないかと思ってたんだよな……もっと先にはっきり言っておけばよかった(笑)。デ・ニーロが出演している理由の1つでもありそうですよね。1つひとつの出来事が生々しくて心に響いてくるけど、いい意味でぶっ壊れてもいてすごく面白かったです。そういう意味で近年流行っているいわゆるアメコミものとはかなり違ったテイストの映画だなと思いますね。
──違いと言いますと?
正義のヒーローが力を合わせて悪を倒す、みたいな話ではまったくないですからね。個人的には、これは大人が楽しめる映画だと思いました。なんと言うか、中学生には早い気がする!(笑) この映画が響くのは高校生以上かなと感じました。世の中の悲哀みたいなものがわかるようになってからかなと。