WOWOWが5人にんの俳優はいゆうと短編たんぺん映画えいがを制作せいさくする「アクターズ・ショート・フィルム」。青柳あおやぎ翔しょう、玉城たまきティナ、千葉ちば雄大たけひろ、永山ながやま瑛あきら太ふとし、前田まえだ敦子あつこが参加さんかした第だい2弾だんの放送ほうそう・配信はいしんが2月がつ6日にちにスタートする。映画えいがナタリーでは伊藤いとう沙すな莉を主演しゅえんに迎むかえ「あんた」を監督かんとくした千葉ちば、役所広司やくしょこうじを主演しゅえんに迎むかえ「ありがとう」を監督かんとくした永山ながやまにインタビュー。それぞれが監督かんとくとしての立場たちばで語かたる映画えいがに込こめた思おもいとは。

取材しゅざい・文ぶん / 奥富おくとみ敏晴としはる（千葉ちば雄大たけひろ）、イソガイマサト（永山ながやま瑛あきら太ふとし）撮影さつえい / 間庭まにわ裕ひろし基もと

腹はらをくくった監督かんとくと主演しゅえん

──今回こんかい監督かんとくのオファーを引ひき受うけた理由りゆうを教おしえてください。

監督かんとくをやろうと思おもった理由りゆうは「脚本きゃくほんを書かけるから」ですね。なんで僕ぼくだったのか、わからないですけど（笑）。この企画きかくに僕ぼくが売うり込こんだとかはないですよ。

──もともと脚本きゃくほんを書かきたい気持きもちがあったのでしょうか。

わりと文章ぶんしょうを書かくのが好すきで、エッセイやコラム寄よりの文章ぶんしょうは書かき溜ためていました。その中なかから題材だいざいを選えらぼうかとも思おもったんですが、何なにをやってもいい自由じゆうな企画きかくだったので新あたらしいお話はなしにチャレンジしました。自分じぶんが好すきなことと、がんばらなきゃいけないことのバランスが取とれるのが脚本きゃくほんかなと思おもっていて。セリフに起おこしたり、ト書とがきでどういう状況じょうきょうか示しめしたりは難むずかしいですが、そこに楽たのしみを見出みいだしてます。

──では監督かんとくよりも、脚本きゃくほんへのこだわりが強つよい？

その脚本きゃくほんの世界せかい観かんを具体ぐたい化かするのが監督かんとくの仕事しごと。僕ぼくはどっちかと言いうと、広ひろげる作業さぎょうより、脚本きゃくほんを書かくのが好すきなんです。だから「監督かんとくかあ、どうしようかなあ」と悩なやみました（笑）。いろんな人ひとに相談そうだんしたとき「やらない理由りゆうなくないですか？」って言いわれて。そこで「確たしかに」と思おもいました。

──では、けっこう前向まえむきに？

え、もちろん前向まえむきですよ。いやいや監督かんとくやらされているとかないです（笑）。めちゃくちゃ楽たのしんでやってます。

──この「アクターズ・ショート・フィルム」の企画きかくで監督かんとく・主演しゅえんの兼任けんにんは千葉ちばさんが初はじめてです。初はつ監督かんとくで主演しゅえんのプレッシャーはありましたか？

自分じぶんが主演しゅえんすることに関かんしては「こうしたい」というイメージを人ひとに伝つたえるのが難むずかしい部分ぶぶんもあって。企画きかくのルールとして、監督かんとくである自分じぶんがどっちみち出演しゅつえんしなきゃいけない。そうなったとき、あの役やくしかない。ただ脚本きゃくほんを書かいているうちに、純粋じゅんすいにこの役やくやってみたいなという思おもいは生うまれてはいました。

──脚本きゃくほんを書かいているときも主演しゅえんをやるとは決きまってなかったんですね。

書かいてから、ですね。そんな中なか、周まわりの大人おとなたちの「千葉ちばさんやるよね？」の一声いっせいが背中せなかを押おしてくれて。自分じぶんが脚本きゃくほんを書かいて監督かんとくをして主演しゅえんをやると「ああ、この人ひとは普段ふだんこういうことを考かんがえてるな」とか、「こういうことをやりたかったんだな」と思おもわれるだろうなとは考かんがえてたし、その怖こわさや煩わずらわしさはありました。でもプロフェッショナルとして仕事しごとをして、腹はらをくくってどっちもやったつもりです。

──千葉ちばさんが演えんじた男性だんせいの人物じんぶつには、どれほどご自身じしんを投影とうえいされているんでしょうか。

1人ひとりの人間にんげんが作つくってるわけだから、重おもなる部分ぶぶんはあると思おもいます。きっかけとしては、ある出来事できごとを軸じくにしてるんですけど、そこから広ひろげて作品さくひんにしていて。バランスとしては難むずかしいところですが、基本きほん的てきにエンタテインメントのショートフィルム。それをドキュメンタリーとして捉とらえるような撮とり方かたやお芝居しばいは心こころがけてはいました。別べつに自叙伝じじょでんとかではないです（笑）。

自分じぶんに近ちかいから、すごく怖こわい

──キャスティングはどのように進すすめたのでしょうか。

普段ふだんはされる側がわですから、キャスティング自体じたいが初はじめてで（笑）。もちろん、それぞれ理由りゆうはあります。伊藤いとう沙すな莉さんは完全かんぜんにお芝居しばい。沖田おきた修一しゅういちさんの役やくは物語ものがたりに溶とけ込こんでほしいと思おもっていて、お芝居しばいというより、普段ふだんの自然しぜんな佇たたずまいからお願ねがいしました。全部ぜんぶめぐり合あわせ、みたいなところはありますよね。

──伊藤いとうさんとはドラマ「いいね！光源氏ひかるげんじくん」でも共演きょうえんされていますが、事前じぜんにどういった演技えんぎをされるか予想よそうはしていたのでしょうか。

いや、全然ぜんぜんそんなことないですよ。お互たがいどう来くるかわからない。 “お芝居しばいやってます”という空気くうきではなく、自然しぜんな雰囲気ふんいきで撮とりたかった。だからセリフじゃないところ、セリフとセリフの間あいだの余白よはくを意識いしきしていました。脚本きゃくほんにセリフがなくてもキャッチボールできる関係かんけい性せいだったのは助たすかりました。

──お二に人にんがすごく自然体しぜんたいで、普段ふだんからこんな空気くうきなのかと錯覚さっかくするような演技えんぎでした。キャンプ場じょうの撮影さつえい現場げんばも見学けんがくしたのですが、本番ほんばん前まえと本番ほんばん中ちゅうの雰囲気ふんいきに差さがなくて。

そうですね。いつも役やく作づくりしてないけど、今回こんかいはより何なにも考かんがえてない（笑）。自分じぶんに近ちかいから、すごく怖こわいですよ。でもセリフは決きまってるから、お芝居しばいじゃないわけではない。自分じぶんであって、どこか自分じぶんじゃない。不思議ふしぎな感かんじでした。

──監督かんとくとして振ふる舞まううえで意識いしきされたことはありましたか？

役者やくしゃって監督かんとくからちゃんと（芝居しばいを）見みてもらえてるんだなと思おもえる瞬間しゅんかんがうれしくて。俳優はいゆうがやりづらそうなところを察さっして「自分じぶんはこういうときこう思おもうんだけど、どう思おもう？」とか。まだ的確てきかくな表現ひょうげんはできないから漠然ばくぜんとした感かんじだけど、そういう世間せけん話ばなしみたいな感覚かんかくでやってました。基本きほん的てきに楽たのしい現場げんばが好すき。意識いしきしたわけじゃないですけど、結果けっか的てきに楽たのしい現場げんばにできました。自分じぶんが演えんじた男おとこは情緒じょうちょ不安定ふあんていなところもあるので、散々さんざん泣ないたあとに1人ひとりで「カット」とか言いってましたね（笑）。

──演出えんしゅつを付つけるというより、現場げんばの雰囲気ふんいきを作つくっていた？

空気くうき作づくりも別べつにした覚おぼえはないんですけど（笑）。監督かんとくって選択せんたくの連続れんぞく。衣装いしょうやメイク、髪型かみがたにしても、どっちがいいですか？ どうしますか？と聞きかれるし。初はじめてだからわからないことも多おおいし、僕ぼくから「どう思おもいます？」と全部ぜんぶの部署ぶしょに聞きいてました。でも自分じぶんの軸じくはある。決きめるときは決きめなきゃいけない。人ひとに委ゆだねるところと自分じぶんで決きめるあんばいは、意識いしきしてました。

──スナックのママの男性だんせいを演えんじた沖田おきた監督かんとくには、何なにか相談そうだんされたりはしましたか。

相談そうだんはしてないです。けど、沖田おきたさんを演出えんしゅつしたときに「それ、僕ぼくも言いった覚おぼえがあるな」と言いっていて。いつの間まにか、お返かえししてました。

──具体ぐたい的てきには、なんと？

それは秘密ひみつです（笑）。スナックのシーンの現場げんばでは、沖田おきたさんとYOUさんの掛かけ合あいもどうなるのか未知数みちすうで。もっとアダルトな空気くうきになるかと思おもったら、すごく温あたたかい大人おとなのかわいさが映はえるシーンになりました。あの2人ふたりの関係かんけい性せいが皆みなさんの目めにどう映うつるのか気きになります。

“あんたはあんたのままでいい”

──千葉ちばさんと伊藤いとうさんが演えんじた男女だんじょは、恋人こいびとではないし、ただの友人ゆうじんと言いうには軽かるい。これから恋人こいびとになる男女だんじょとも違ちがいますね。この定義ていぎしづらい関係かんけいにいる2人ふたりを描えがきたかった理由りゆうを教おしえてください。

幼おさない頃ころから女おんな友達ともだちが多おおいほうなんです。昔むかしから一緒いっしょに遊あそんでるだけで「え、付つき合あってるの？」とか「なんで女子じょしとばっかりいるの？」と言いわれることがあって。「普通ふつうに友達ともだちなんだけど、面倒めんどうくさいな」と思おもって育そだってきました（笑）。そういうのってなんだろうな？という違和感いわかんやモヤモヤを物語ものがたりの軸じくにしてみようと思おもいました。

──なるほど。

脚本きゃくほんを書かいた段階だんかいで伝つたえたいことは明確めいかくにありましたけど、それをお客様きゃくさまがどう受うけ取とるかは自由じゆう。2人ふたりの先さきに何なにがあるのかなって思おもったときに、自分じぶんたちだけがわかっていればいいよね、と。男おとこと女おんなの関係かんけいを描えがき始はじめたら、その先さきの関係かんけいが見みえてきた感かんじでした。

──タイトル「あんた」はどういった意図いとで……？

タイトルは完全かんぜんにあと付づけなんですよ。「線香せんこう花火はなび」とか、いろいろ考かんがえていたんですけどしっくりこなくて。仮かりでもいいから提出ていしゅつしなきゃいけないときに、パッと「あんた」が思おもい付ついたんです。締しめ切きりの日ひに何なにも浮うかばなかったから、そのまま「あんた」になりました（笑）。でも、めちゃくちゃ気きに入いってるタイトルで、観みる人ひとが自由じゆうに意味合いみあいを持もたせてくれたらうれしいです。でも、もともと役名やくめいは付つけたくないなと考かんがえていて。そうなると相手あいてを呼よぶときには「あんた」がいいかな、と。

──普段ふだんから「あんた」をけっこう使つかいますか？

僕ぼくは使つかうんですよ。仲良なかよくなってくると、ですけど。

──「あんた」は、どこか親密しんみつな感かんじがしますね。

僕ぼく的てきに「あんた」は愛あいのある言葉ことばです。

──ちなみに、男女だんじょに役名やくめいを付つけたくなかった理由りゆうは？

「あんたはあんたのままでいい」ってセリフがあるんです。ここに誰だれかの名前なまえを付つけちゃうと、例たとえば「千葉ちばくんは千葉ちばくんのままでいい」になる。それは“千葉ちばくん”だけのこと。でも「あんた」だと、目めの前まえにいる人ひとも、言いってる自分じぶんも肯定こうていされる気持きもちになる気きがしたんです。いい言葉ことばですよね。

──最後さいごに本ほん作さくを作つくるうえで、もっとも影響えいきょうを受うけた作品さくひんなどがあれば教おしえて下ください。

作品さくひんじゃないんですけど……、人ひととの会話かいわをボイスレコーダーで録音ろくおんすることがあって。寝ねる前まえの寂さびしいときにラジオ代かわりに聞ききたいからって、回まわさせてもらうんです。仲なかいい数すう人にんの友達ともだちだけですけど。そこでの会話かいわは意識いしきしていました。作品さくひんの流ながれというより、自分じぶんの口癖くちぐせみたいなところ。僕ぼくが仲なかいい人じんをそう呼よぶから「あんた」にしたし、ふざけて会話かいわをはぐらかす癖くせとかも入いれています。あとは会話かいわの返かえしとかにも反映はんえいされてる。き返きかえしながら脚本きゃくほんを書かいていたわけじゃないですが、迷まよったときに、ちょっと聴きいてましたね。