細野 ほその ゼミ 10コマ目 め (後編 こうへん )
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細野 ほその 晴臣 はるおみ とテクノ
テクノをテクノたしめるものとは何 なに か? 細野 ほその 晴臣 はるおみ の体験 たいけん をもとに定義 ていぎ する
2022年 ねん 10月 がつ 28日 にち 20:00
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活動 かつどう 50周年 しゅうねん を経 へ た今 いま なお、日本 にっぽん のみならず海外 かいがい でも熱烈 ねつれつ な支持 しじ を集 あつ め、改 あらた めてその音楽 おんがく が注目 ちゅうもく されている細野 ほその 晴臣 はるおみ 。音楽 おんがく ナタリーでは、彼 かれ が生 う み出 だ してきた作品 さくひん やリスナー遍歴 へんれき を通 つう じてそのキャリアを改 あらた めて掘 ほ り下 さ げるべく、さまざまなジャンルについて探求 たんきゅう する連載 れんさい 企画 きかく 「細野 ほその ゼミ」を展開 てんかい 中 ちゅう だ。
ゼミ生 せい として参加 さんか しているのは、氏 し を敬愛 けいあい してやまない安部 あべ 勇 いさむ 磨 すり (never young beach )とハマ・オカモト(OKAMOTO'S )という同 どう 世代 せだい アーティスト2人 にん 。毎回 まいかい さまざまなジャンルについてそれぞれの見解 けんかい を交 まじ えながら語 かた っている。10コマ目 め のテーマとしてピックアップしているのは「テクノ」。全 ぜん 3回 かい にわたる回 かい の最終 さいしゅう 回 かい では、細野 ほその のテクノ観 かん の変化 へんか 、新 あら たな世代 せだい によるテクノミュージックに対 たい する印象 いんしょう について聞 き く。
※「細野 ほその 晴臣 はるおみ とテクノ」前編 ぜんぺん はこちら 。中編 ちゅうへん はこちら 。
取材 しゅざい ・文 ぶん / 加藤 かとう 一陽 いちよう 題字 だいじ / 細野 ほその 晴臣 はるおみ イラスト / 死後 しご くん
ダンスをさせない”音楽 おんがく が好 す きだった ──ここまで2回 かい にわたって、YMOの話 はなし を中心 ちゅうしん にテクノについて学 まな んできました。テクノ編 へん の最終 さいしゅう 回 かい となる今回 こんかい は、1990年代 ねんだい 頃 ごろ から台頭 たいとう してきた“ダンスミュージックとしてのテクノ”だったり、2000年代 ねんだい 以降 いこう のトピックだったりに触 ふ れながら、まとめに入 はい っていきたいと思 おも っています。
細野 ほその 晴臣 はるおみ “ダンスミュージックの人 ひと ”って、例 たと えばどういう人 ひと たち?
──例 たと えば、デリック・メイやジェフ・ミルズなどのデトロイトテクノの面々 めんめん などはシンボリックかと……。
細野 ほその そのあたり、あまりわからないな。だってYMOとは全然 ぜんぜん 違 ちが うものだからね。
ハマ・オカモト ……教 おし えてくれる人 ひと がいない!(笑) 僕 ぼく ももう、赤 あか 点 てん をもらう気 き で来 き てますよ。そのあたりの学 がく はないですね。
安部 あべ 勇 いさむ 磨 すり 僕 ぼく もまったくハマくんと同 おな じです(笑)。何 なに もわからずに来 き てしまいました。
──あとは、以前 いぜん このゼミで名前 なまえ が挙 あ がったAutechreやエイフェックス・ツインだったり、細野 ほその さんとも関連 かんれん が深 ふか いThe Orbだったり、あるいはrei harakamiさんなどの話 はなし もいいかもしれません。“ダンス”とくくるのが適当 てきとう ではないかもしれませんが。
細野 ほその 彼 かれ らの音楽 おんがく は聴 き いてたよ。でもそれは“アーティスト”としてだね。“踊 おど りたい”じゃなくて、“音楽 おんがく を聴 き きたい”っていう気持 きも ちで聴 き いたから。ダンスミュージックと言 い うと違和感 いわかん がある。ダンスミュージックって、四 よっ つ打 う ちのイメージになってしまうしね。それにEDMなんかもそうだけど、今 いま はDJの人 ひと たちの音楽 おんがく でしょ。そうなってくると、僕 ぼく らミュージシャンにはあまり関係 かんけい ないから。
──四 よっ つ打 う ちは、ディスコやハウスをはじめ、ダンスミュージックで多用 たよう されるリズムです。もちろんテクノでもたくさん使 つか われています。
安部 あべ そうか、“踊 おど りたくて音楽 おんがく を聴 き いている人 ひと ”がいるのか。音楽 おんがく が好 す きというだけじゃなくて、音楽 おんがく も好 す きなんだけど、“踊 おど りたい”が勝 か つ。
細野 ほその でもYMOの初期 しょき 、特 とく に1枚 まい 目 め (「イエロー・マジック・オーケストラ」)は、ディスコでかかることを想定 そうてい していたんだよ。みんなに聴 き いてもらいたいために、あえてね。でもそれも1年 ねん も続 つづ かないくらいの短 みじか い期間 きかん 。それから完全 かんぜん に逸脱 いつだつ しちゃったのが「BGM」だね。「BGM」で踊 おど ってる人 ひと は見 み たことがない。だからYMOはほとんど四 よっ つ打 う ちはやってないんだ。四 よっ つ打 う ちが嫌 きら いになっちゃったからね(笑)。
安部 あべ 嫌 きら いになるきっかけはあったんですか?
細野 ほその そういう音楽 おんがく にあまり興味 きょうみ が湧 わ かなかったから。あとは、“踊 おど らせよう”という音楽 おんがく には作意 さくい があるじゃない? それが嫌 いや だったんだ。だから僕 ぼく は音響 おんきょう 系 けい にいっちゃったんだよね。Autechreだって音響 おんきょう 系 けい で、踊 おど るってものでもない。
──確 たし かに本 ほん 連載 れんさい のエレクトロニカ編 へん で、細野 ほその さんはAutechreのことを「踊 おど らせるための音楽 おんがく じゃない、リスニング系 けい 」とおっしゃっていました。
細野 ほその そう。そしてその頃 ころ は、“ダンスをさせない”音楽 おんがく が好 す きだったんだよ。ただ、The Orbはクラブでアンビエントハウスという音楽 おんがく をやって出 で てきた。ドラッグカルチャーもすごく濃 こ いジャンルで、要 よう するにチルアウトとダンスを分 わ けないでトランス状態 じょうたい にさせる……“踊 おど りながら沈静 ちんせい していく”みたいな、すごく呪術 じゅじゅつ 的 てき な音楽 おんがく 。これと関連 かんれん してアシッドハウスもあるけれど、それらは四 よっ つ打 う ちじゃないと嫌 いや だったね。
ハマ その四 よっ つ打 う ちは嫌 いや じゃなかったんですね(笑)。
細野 ほその そう考 かんが えると、僕 ぼく の嫌 きら いな四 よっ つ打 う ちは“ある狭 せま いジャンル”だけの話 はなし かもしれない(笑)。
ハマ それはもう、“体感 たいかん ”ですよね。「これがこうだからいい、悪 わる い」っていうものでもない。
──ダンスというところに焦点 しょうてん を当 あ てると、ポピュラーミュージックと踊 おど ることは切 き り話 はな せない側面 そくめん はありますよね。細野 ほその さんのブギウギのライブでも踊 おど っているお客 きゃく さんをよく見 み かけます。OKAMOTO’Sやネバヤンのライブも、お客 きゃく さんが踊 おど っていますし。
ハマ そうですね。
安部 あべ 動 うご いたほうがただ楽 たの しい、っていうだけなんですけど。
細野 ほその 僕 ぼく も音楽 おんがく を聴 き き始 はじ めた頃 ころ は、踊 おど りながら聴 き いていたからね。
ハマ そういえば、我々 われわれ がデビューした頃 ころ の日本 にっぽん のロックフェスって、本当 ほんとう に四 よっ つ打 う ちがすごかったよね。
安部 あべ ロックバンドの曲 きょく がみんな四 よっ つ打 う ちで。
ハマ 聴 き かされすぎて嫌悪 けんお 感 かん を抱 いだ くくらいに……って、これナタリーに載 の るんだよ。怒 おこ られますよ。僕 ぼく 自身 じしん は当時 とうじ もそういう発言 はつげん をしてすごく反感 はんかん を買 か ったことがあるから、かまわないんだけど。
安部 あべ 「これを言 い っちゃだめ」みたいになっているのがよくない。あの当時 とうじ は、四 よっ つ打 う ちに快楽 かいらく を求 もと めて、そっちに走 はし りすぎて思考 しこう 停止 ていし になってるみたいな状況 じょうきょう があったよ。
ハマ 創造 そうぞう 性 せい もなく、「これが一番 いちばん 盛 も り上 あ がるから正義 せいぎ だ」っていう。
安部 あべ 単純 たんじゅん に下品 げひん だったんですよ。でも細野 ほその さんの言 い うような、上品 じょうひん な四 よっ つ打 う ちもある。音響 おんきょう 的 てき に工夫 くふう されていたりして、カッコいいのもあるから。
ハマ チャットモンチー の「シャングリラ」は超 ちょう カッコいいわけだからね。ああいうものじゃなくて、愛情 あいじょう みたいなものが見 み えないものが嫌 いや だったのかもしれない。
──これはこれで面白 おもしろ いんですけど、話 はなし を戻 もど しましょう(笑)。
安部 あべ ちなみに細野 ほその さんはディスコやクラブは好 す きだったんですか?
細野 ほその 昔 むかし はニューウェイブ系 けい のクラブがけっこうあって、好 す きだったよ。その後 ご の80年代 ねんだい だと、六本木 ろっぽんぎ のディスコで照明 しょうめい が落 お ちる事故 じこ なんかがあって(※1988年 ねん 1月 がつ にトゥーリアで発生 はっせい した照明 しょうめい 事故 じこ )、それからディスコブームがちょっと静 しず かになっちゃった印象 いんしょう がある。それまではわりと面白 おもしろ かった時代 じだい が数 すう 年 ねん あった。DJもざっくばらんで、好 す きな曲 きょく しかかけない。ダンス系 けい に限 かぎ っていないからニューウェイブとかもかける。そういう時代 じだい があったんだよね。新宿 しんじゅく のとあるディスコにYMOがKraftwerkを連 つ れていって、踊 おど っていたこともあるよ。
安部 あべ へええ。
ハマ そのくらいの頃 ころ は、細野 ほその さんも行 い かれていたんですね。
細野 ほその そうそう。一方 いっぽう で、そのうちにジュリアナ東京 とうきょう みたいなところも出 で てくるでしょ。ああいう感 かん じだと僕 ぼく らミュージシャンには関係 かんけい ないから……。
ハマ シンパシーはないんですね、そこに(笑)。
現代 げんだい は“何 なに かをどこかに置 お き忘 わす れている世界 せかい ”──では、比較的 ひかくてき 最近 さいきん のトピックに触 ふ れていきます。Daft Punkなどはいかがですか? デビューは90年代 ねんだい ですが、2000年代 ねんだい に世界 せかい 的 てき にヒットして、見 み せ方 かた もコンセプチュアルで、電子 でんし 音楽 おんがく をやる。前々回 ぜんぜんかい で名前 なまえ が挙 あ がったジョルジオ・モロダーとの共演 きょうえん 作 さく 「Giorgio by Moroder」も話題 わだい になりましたよね。
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安部 あべ Daft Punkをテクノだと思 おも って聴 き いたことないんだよな。
ハマ “Daft Punkとして”だよね(笑)。でも、本当 ほんとう にカッコいい。なんかわからないけどカッコいいなって。
安部 あべ そう。“カッコいい、スペイシーな人 ひと たち”みたいな。
細野 ほその 僕 ぼく はあまり知 し らないんだ(笑)。うっすら耳 みみ に入 はい ってきたけどダメだったな、歳 とし だからだと思 おも うけど。
安部 あべ 意外 いがい ですね。
ハマ Daft Punkのトーマ・バンガルテルのお父 とう さんが、70年代 ねんだい にYamasukiっていうグループをやっていたんです。どこで聞 き いたのかわからないような日本語 にほんご を危 あや うい感 かん じで曲 きょく に取 と り入 い れている変 へん なグループなんだけど、不思議 ふしぎ な魅力 みりょく があって。細野 ほその さんに聴 き いてみてほしいな。でも、細野 ほその さんはDaft Punkの存在 そんざい は知 し りつつも、あまり聴 き く感 かん じではなかったんですね。
細野 ほその そう。だいたい、最近 さいきん テクノがあまり好 す きじゃなかったんだよね。
ハマ モードってありますからね。
細野 ほその テクノに責任 せきにん はないんだけどね。というのも、最近 さいきん のテクノロジーがあまり好 す きじゃないんだ。メタバースじゃないけど、どんどんそういう方向 ほうこう に社会 しゃかい が行 おこな ってるでしょ。それが嫌 いや でね。テクノ自体 じたい をやりたいと思 おも うときはあるけど、そういうことが頭 あたま によぎって、どうも手 て が出 で ない。KreftwerkやYMOの頃 ころ はロマンがあったんだよ。未来 みらい に。
安部 あべ メタバースみたいな言葉 ことば を聞 き くと、前向 まえむ きな気持 きも ちよりも、「やりすぎじゃない?」「どうなの?」っていう気持 きも ちになるんですかね。
細野 ほその うーん……というか、嫌 きら いなんだよ。
安部 あべ 嫌悪 けんお 感 かん (笑)。
細野 ほその ネットショッピングもあまり好 す きじゃない。物 もの がないのが嫌 いや なんだ。五感 ごかん が衰 おとろ えるから。指 ゆび で触 さわ ったりとか、五感 ごかん を大事 だいじ にしないと人間 にんげん が衰退 すいたい しちゃう。そういう意味 いみ でも、最近 さいきん のテクノロジーと、それが中心 ちゅうしん になっている社会 しゃかい の仕組 しく みが気持 きも ち悪 わる くて。
──そもそもはテクノロジーに対 たい する理解 りかい 度 ど が高 たか いほうなのに。
ハマ そうですよね。テクノロジーの進化 しんか を自分 じぶん が面白 おもしろ いと感 かん じる物差 ものさ しにうまく乗 の っけていらっしゃったわけじゃないですか。だからこそ、今 いま の状況 じょうきょう が気持 きも ち悪 わる いっていうのは、ただの悪口 わるぐち とは違 ちが う説得 せっとく 力 りょく があります。
細野 ほその ただの悪口 わるぐち だよ(笑)。嫌 いや なことがいろいろある中 なか の、中心 ちゅうしん にあるのがテクノロジーなんだよね。今 いま は、“何 なに かをどこかに置 お き忘 わす れている世界 せかい ”だね。それをすごく感 かん じる時代 じだい になってきちゃった。