阿部真央「NOW」インタビュー|11枚目にしてスタート地点、“自分で自分を変えた”日々

昨年さくねん事務所じむしょからの独立どくりつ自主じしゅレーベル設立せつりつ経験けいけんした阿部あべ真央まおおおきな環境かんきょう変化へんか彼女かのじょは、ニューアルバム「NOW」のジャケットのように、パッとれやかな表情ひょうじょうでデビュー15周年しゅうねんイヤーをすすんでいる。

「NOW」はストレートなタイトルどおり、阿部あべ真央まおというアーティストの“いま”をリアルにったアルバムだ。あらたなアレンジャーをむかえて追求ついきゅうされているシンプルなサウンドや、多用たようされている英語えいごなどに、既成きせい概念がいねんに捉われないかろやかさと自由じゆうさがあらわれている。

ほんさく仕上しあがりには、幼少ようしょうからいていた“とある感覚かんかく”を克服こくふくした、阿部あべ自身じしんの“改革かいかく”がおおきくかかわっているという。自分じぶんととことんい、「NOW」を完成かんせいさせた阿部あべはなしいた。

取材しゅざいぶん / もりひでゆき撮影さつえい / Yuji Sakai(MOUSTACHE)スタイリスト / HALKAヘアメイク / たちばなぼう(étrenne)

「ここにいない感覚かんかく」がずっとあった

──ニューアルバムの制作せいさくはいつごろからスタートしたんですか?

すんではつきょくの「Keep Your Fire Burning」と「I've Got the Power」以外いがいきょくは、5月に配信はいしんした「すすむために」をふくめて今年ことしの2がつ以降いこうにバババーッといたかんじでしたね。で、レコーディングがはじまったのが5月くらい。

──比較的ひかくてき短期間たんきかんでたくさんのきょくいたことで、ご自身じしんいまのモードが鮮明せんめい感覚かんかくもあります?

うん、すごくてるとおもいます。1きょくの「Hands and Dance」は、自分じぶんがどうきていくかという人生じんせいかんたいしてのいま心持こころもちをうたってますしね。今回こんかいはけっこう恋愛れんあいきょくおおいんですけど、それはこのはるくらいにひととのわかれがいろいろあったことが影響えいきょうしていたり。だから基本きほんてきにはきょくつくった時期じきのことがそのまんま反映はんえいされているかな。

──きょくそろった段階だんかいで、今回こんかいのアルバムの全体ぜんたいぞうとしてどんなものをかんじましたか?

やっぱり「NOW」という、あるしゅ安直あんちょくなタイトルがてきたことがおおきかったようながします。その起点きてんとなっているのが、2きょくの「Somebody Else Now」と7きょくの「すすむために」。どちらも恋愛れんあいきょくなんだけど、“自分じぶんからえらぶ”ということがキーになっているんです。自分じぶんえらんで相手あいてはなれて、いまがあるという。だからすごく能動のうどうてきなんです。この2きょくができたときは、本当ほんとうにしっかり気持きもちをって、あしをつけてわらっていられる自分じぶんがいたので、アルバムの全体ぜんたいぞうだけでなく、アートワークまでえてきたんですよ。

──アートワークは、ジャケ写じゃけしゃもアーうつしおもわら阿部あべさんがフィーチャーされていますよね。

そうそう。いまわたしはこんなにしんからわらえてるんだよっていう。で、そういう気持きもちは恋愛れんあいだけにかぎらないなと気付きづいたところもあって。去年きょねん独立どくりつしてからのながれも、まさにそうなんですよ。自分じぶんめて、あたらしい場所ばしょみずかつくった。そしていまわたしはこうやってわらっていられる。今回こんかいのアルバムにはそんないまわたしをちゃんとむことができたので、「NOW」というタイトルがいいなとおもったんです。あともう1つ、このタイトルにした要因よういんもあるんですけど。

──になります。

わたしむかしから「ここにいない感覚かんかく」というのがずっとあったんですよ。それは、ちょっとさきすぎたり、過去かこに捉われすぎたりして、カッコよくうと「いまきていない感覚かんかく」でもあって。その感覚かんかくにけっこうくるしめられることがおおかったんだけど、ここ2、3ねんくらいでそこからすことができたんです。そんな変化へんか最初さいしょのアルバムになったという意味いみでも、タイトルは「NOW」以外いがいにはないようながした。

阿部真央「NOW」ジャケット

阿部あべ真央まお「NOW」ジャケット

阿部あべ真央まお自分じぶん改革かいかく

──「ここにいない感覚かんかく」からは、意識いしきてきしたんですか?

うん。自分じぶん意思いしえたよね。めっちゃ大変たいへんだったんだから!(笑) きっかけは、前回ぜんかいのインタビューでもはなしましたけど、「まだいけます」というアルバムをつくったあと、もう限界げんかいだなとおもったから(参照さんしょう阿部あべ真央まおすすむために」インタビュー)。天井てんじょうえてしまったから。ようまわりがもとめるイメージに自分じぶんわくをはめすぎていたんですよ。わたしつね自分じぶん俯瞰ふかんしてているようなところがあって、まわりのことばかりをかんがえすぎてしまう。自分じぶんなか自分じぶんがいないというか。あたまうえからてはいるんだけど。

──なるほど。それはまさに「ここにいない感覚かんかく」ですよね。

そうそう。もちろん、それはいい部分ぶぶんもあるんです。自分じぶん活動かつどう客観きゃっかんしたり、冷静れいせいはあるから、問題もんだいてんがすぐわかったりとかね。そういう目線めせんがあるからこそ、10代のころから大人おとなわたってきたられたんだともおもうし。でもベーシックな部分ぶぶんにおいて、自分じぶん大事だいじにするという感覚かんかくがないわけ。

阿部真央

──そのうらには、主観しゅかんだけでうごくこと、本来ほんらい自分じぶんとして他人たにん対峙たいじすることへのこわさがあるんですかね?

あるとおもう。ただね、「こうったらこうおもわれそうでこわい」のまえに「こううごいたほうがかれるよな」という気持きもちがさきるんです。だからこわさは大前提だいぜんていきらわれない、うとまれない、うざったいとおもわれないようにうごくことをまずかんがえてしまっていたんですよね。今風いまふうえば「自己じこ肯定こうていかんひくい」ってことだとおもうんですけど。ちっちゃいころからずっとそうやってきてきたので当然とうぜん音楽おんがくたいしてもそうなりますよね。自分じぶんなかにある本当ほんとうにやりたいこととうことをサボり、ファンの目線めせんりすぎてしまった。わたし本当ほんとうにやりたいことをもとめてくれるファンがいたこともわかっていたはずなのに、俯瞰ふかんすることがやめられなかった結果けっかきょくけなくなった。いろんな気持きもちがこんがらがっちゃって、なにけばいいのかがわからなくなってしまったんです。

──「まだいけます」のリリース、コロナ突入とつにゅうしたことでいろいろなものをこわせたと前回ぜんかいおっしゃっていましたよね。

そう。チャンスだとおもって、いろいろやりはじめました。とはっても、やることはめっちゃ地味じみでしたよ。ちっちゃなこともふくめ、自分じぶんいやだったことに全部ぜんぶった。たとえば、わたしひと相談そうだんができない人間にんげんなんです。それは自分じぶんよわさをせるのがいやなのではなく、相手あいて時間じかんうばってまでわたし人生じんせいはなしをするのがいやなの。そこで「なんで自分じぶんはそうかんがえるのかな」と、いちいちっていくんだよね、全部ぜんぶ事柄ことがらたいして。そうやって1つひとつ自分じぶんなりのこたえをつけていったやく3年間ねんかんで、徐々じょじょに「ここにいる感覚かんかく」をつけていったかんじ。一事いちじ万事ばんじ、すべてがわってきた印象いんしょうがありましたね。

──その変化へんかは、ご自身じしんからまれる楽曲がっきょくにも影響えいきょうおよぼしましたか?

影響えいきょうしたとおもう。正確せいかくうならば、てくる言葉ことば一緒いっしょでも、いままではすくいげていなかったものをえらべるようになりました。まえはとにかくわかりやすくないといけないとおもってたから、自分じぶん本位ほんいきょくくことをけていたところがあったんですよ。アウトプットのかたちとしてわかりやすさを重視じゅうしするのは、プロとしてすごく大事だいじなことではあるんだけど、全体ぜんたいのバランスをくずすほどそこばかりに意識いしきけるのは本末転倒ほんまつてんとうなわけで。いまわたしは、すこ唐突とうとつかもしれないけど、「自分じぶんとしてどうしてもこうきたいんだ」とおも言葉ことば選択せんたくできるようになった。そこがおおきな変化へんか。デビュー当時とうじはそれができていたはずなんだけど、いつのにかできなくなってしまっていたので。

阿部真央

──でも今回こんかいのアルバムをかせていただくと、どのきょくもすごくストレートにかれていて、阿部あべさんのおもいが明確めいかくつたわってきましたけどね。

あー、うれしいですね。

──ということは、まわりの視線しせん意識いしきしすぎず、ご自身じしんからてくるものを素直すなお表現ひょうげんしたとしても、つたわりづらくなることがないという証明しょうめいにもなっているような。

皮肉ひにくなもんで(笑)、わたしもそれはすごくかんじました。面白おもしろいよね。そこに気付きづけてよかった。気付きづくまでがながかったけど(笑)。

──英語えいご歌詞かしおおいのも「自分じぶんきたいこと」のあらわれなんですかね?

まさに。以前いぜんならそもそも英語えいご使つかうという選択せんたくをしなかったとおもうし、使つかったとしてももっと分量ぶんりょうらしていたとおもう。でも今回こんかいは「このきょく英語えいごきたい」というおもいをとおせたというか。それもいい変化へんかの1つだとおもいますね。

──いろんな意味いみほんさくは、阿部あべ真央まおというアーティストの“いま”をリアルにり、あらたないちきざんだ作品さくひんになりましたね。

本当ほんとうにそうおもう。いままでの作品さくひんたちにもけっしてウソはないし、どれもが大切たいせつなものではあるけど、「NOW」をつくれたことで「やっとはじまったな」という気持きもちがあります。アルバムでえばもう11まいなのにね。ホントながかった(笑)。