何なにもできない私わたしだけど、なぜか音楽おんがくだけはできた

──ナタリー初はつ登場とうじょうということで、まずは簡単かんたんにHITOMINさんに自己じこ紹介しょうかいをしていただきたいです。

いきなりこんな話ばなしで恐縮きょうしゅくなんですが、私わたしは複雑ふくざつな家庭かてい環境かんきょうで育そだちまして。よくわからない理由りゆうでしょっちゅう怒鳴どなられたし、それ以上いじょうのこともありました。そういう現実げんじつから逃にげたくて、小ちいさい頃ころから空想くうそうにふけったり、本ほんを読よんだりするのが好すきだったんです。今いま思おもうと、私わたしが音楽おんがくやエンタテインメントを好すきになったきっかけは自分じぶんの家庭かてい環境かんきょうだったと思おもいます。特とくに好すきだったのが、ディズニーチャンネルで放送ほうそうしていた「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」というドラマ。「こういう世界せかいっていいなあ」と憧あこがれを抱だいてしました。

──それは何なん歳さいくらいの頃ころですか？

いつだったかな。ちっちゃい頃ころです。私わたし、16、17歳さいで実家じっかを父親ちちおやに追おい出だされてるからその前まえですね。

──追おい出だされた？

ええ。普通ふつうの家庭かていでも親おやと喧嘩けんかして「出でていきなさい！」みたいなことってあると思おもうんですけど、うちはちょっと変かわってたから本当ほんとうにリュック1個いっこだけで放ほうり出だされたんです。私わたしも父親ちちおやとは一緒いっしょにいたくなかったので、そのまま出でていきました。仲良なかよしの友達ともだちに連絡れんらくしたら、その子このご両親りょうしんがいろいろご苦労くろうされた方ほうで、私わたしの状況じょうきょうを理解りかいしてくれたのでしばらくその家いえに泊とめてもらいました。でもさすがにずっと居候いそうろうするのは申もうし訳わけなくて。私わたし自身じしんも徐々じょじょにやんちゃな感かんじになっていき……。以降いこうはかわいいエピソードが皆無かいむです（笑）。

──そんな中なか、10代の最後さいごにタイガの「Girls Have Fun」を日本語にほんごで歌うたった動画どうががSNSでバズを生うんでアーティストとしての第一歩だいいっぽを踏ふみ出だすことになりました。

ありがたいことに。2019年ねんから2022年ねん頃ごろまでタイプライターさん主宰しゅさいのBTB ENTに所属しょぞくさせていただき、現在げんざいは独立どくりつして基本きほん的てきに1人ひとりで活動かつどうしています。マネージャーもいないんですよ（笑）。ツアーの内容ないようを決きめたり、会場かいじょうを押おさえたり、スケジュール管理かんりをしたり、グッズを発注はっちゅうしたりとかも自分じぶんでやってます。周まわりにいるのは、メールの返信へんしんをしてくれたりする人ひと、昔むかしから映像えいぞうや写真しゃしんを撮とってくれてる人ひと、バックDJやダンサーの女おんなの子ことか6、7人にん。少数しょうすう精鋭せいえいですが、信頼しんらいできるいいメンバーに恵めぐまれて活動かつどうしております。

──昔むかしからの仲間なかまですか？

いえ、音楽おんがく活動かつどうをする中なかで知しり合あった人ひとたちです。この業界ぎょうかいで長ながく関係かんけいを築きずけたり、忖度そんたくなしでいられる人ひとはすごく少すくない。何なん度ども裏切うらぎられてきたし。でも、もう慣なれました。今こん一緒いっしょにやってる人ひとたちはとても信頼しんらいできる仲間なかまたちです。

──クリエイティブの制作せいさくと実務じつむを並行へいこうされてるんですね。

そうなんです。自分じぶんで担になっている責任せきにんが大おおきいので、交渉こうしょうするときに関係かんけい者しゃの方ほうにも強つよく当あたってしまって嫌きらわれたりっていうのもあるかもしれないのですが、クリエイティブとビジネスの両方りょうほうを見みれてるからこそ、フラットになれてる部分ぶぶんはあると思おもいます。ただ、お金かねの部分ぶぶんは無頓着むとんじゃくなので損そんしているかもしれないですね（笑）。

──そもそも音楽おんがく制作せいさくを始はじめたきっかけは？

「Girls Have Fun」のカバーがバズって、BTB ENTから声こえをかけてもらったときに「曲きょくを作つくってきて」と言いわれたんですよ。でも作つくり方かたなんてわからない。そしたら友達ともだちがケータイでも作つくれるVolocoというアプリを教おしえてくれたんです。それを使つかってなんとなくやってみたら意外いがいと形かたちになったので、BTB ENTにデモとして持もって行いったら「じゃあこれをちゃんと録ろくり直なおしてみよう」となりました。私わたし、何なにもできないんですよ。マジで。でもなんか音楽おんがくだけはできた。

──「ハンナ・モンタナ」の音楽おんがくが刷すり込こまれてたのかもしれないですね。

そうそう。これまで聴きいてきた曲きょくの影響えいきょうはあるのかも。音楽おんがくが作つくれるのは自分じぶんでも変へんな感かんじ。びっくりしました。

──HITOMINさんが影響えいきょうを受うけたアーティストは？

やっぱりマイリー・サイラスですね。「ハンナ・モンタナ」が私わたしのルーツなので。日本にっぽんだったら藤井ふじい風ふうさんや宇多田うただヒカルさん。お二に人にんの哲学てつがく的てきな世界せかい観かんがすごく好すきです。ただ、海外かいがいの楽曲がっきょくを中心ちゅうしんに聴きくことが多おおいかもしれないですね。それも、アーティスト単位たんいではなく、曲きょく単体たんたいでいろいろ聴きいてます。最近さいきんは友達ともだちが好すきで教おしえていただいたフレッド・アゲインがすごくカッコよくて聴きくようになりました。

──音楽おんがく活動かつどうを始はじめた当初とうしょからメジャーデビューは意識いしきされていたんですか？

どうだろう。当時とうじのレーベル的てきには考かんがえてたのかも。「歌詞かしの言葉ことば遣づかいに気きを付つけてほしい」というのは言いわれていました。でも、私わたしとしてはずっと自分じぶんらしい歌うたを歌うたいたいと考かんがえてますね。

──そういうスタンスは曲きょくからにじみ出でてると思おもいます。

本当ほんとうですか！ 私わたし、引ひきこもりなのでめったに外出がいしゅつしないんですね。でもたまに出でかけると声こえをかけてもらったり、ライブでみんなに観みてもらえるのはいまだにすごく変へんな感かんじ。みんな「そういうことはいつか慣なれるよ」と言いってくれるけど、まだ全然ぜんぜん違和感いわかんがあります。もちろん大前提だいぜんていとしてありがたいという気持きもちです。でもちょっと高たかいステージに立たって、マイクを握にぎってるときは、照明しょうめいが当あたってキラキラして見みえるかもしれないけど、私わたしは本当ほんとうにみんなと変かわんないんです。