──今回はパスピエの結成10周年をおいする企画として、ゆかりのある5人に「あなたにとってパスピエは◯◯派?」というお題に答えてもらいました。皆さんには誰からのコメントが届いているのかお伝えしていません。まずはこちらのコメントです。
大胡田なつき(Vo) オークラさん! このコメントを見るとやっぱり“闇深系”だね、パスピエは(笑)。
成田ハネダ(Key) もともと僕はお笑いが大好きなんですけど、芸人さんの中でもバナナマンさんの大ファンで。ネタはもちろん、テレビやラジオも含めてバナナマンさんの活動をずっとチェックしていて。それが届いたのかわからないんですけど、2014年にバナナマンさんが毎年やってる主催ライブ(「bananaman live 2014『Love is Gold』」)のオープニング曲をパスピエが担当させていただく機会があったんです。それで「Love is Gold」という曲を作って。オークラさんとはそのときに初めてお会いしました。
──そこからプライベートな付き合いも?
成田 そうですね。僕はオークラさんに飲みに連れて行ってもらったり。オークラさんは放送作家としてバナナマンさんの冠番組「バナナ炎(バナナファイア)」も担当されていて。神奈川だとtvkで放送していて毎週観ていたんです。その番組ではバナナマンさんが周りの裏方さんたちと一緒に旅行に行ったりしていたんですね。で、オークラさんも作家さんなんだけど番組の中で顔を出している人だったので知っていて、僕としては初対面のときにスーパースターに会ったような感覚でした(笑)。「うわ、オークラさんだ!」って。
──オークラさんが寄せてくれたこのコメントはどうですか。
成田 意外な感じもするし、でもオークラさんしか言えない言葉だなとも思いますね。
大胡田 言葉のチョイスが独特。
──「ダークサイドの青春」っていいですね。
成田 パスピエはそうなんでしょうね。メンバーは当事者だからバンドについて口にできないことがあるじゃないですか。
──自分たちで「ダークサイドの青春みたいな音楽をやってます」とは言わないですもんね(笑)。
成田 そうそう(笑)。例えそれが真実だとしても自分たちで言ってしまったら演出が入っちゃう気もするし。人に言われて「そうか」と思ったりする。このフレーズもオークラさんだから言えることなのかなって。
──なつきさん、「童貞派」という定義についてはどうですか?(笑)
大胡田 童貞かキラキライケイケ野郎かと聞かれたら、完全に童貞ですよね(笑)。郷愁じゃないですけど、ノスタルジックな気持ちをパスピエの音楽で喚起させられているのかなとプラスにとっておこうと思います(笑)。そのうえで「心地いい」と言ってもらえているのもうれしいです。
露崎義邦(B) ここまで踏み込んだコメントをいただけることがうれしいです。「童貞派」もそうですし、「ダークサイドの青春」もさすがの視点というか。全部的を得てる感じがします。
三澤勝洸(G) 僕はこのコメントを見た瞬間に、僕の青春のことかな?と思いましたね。
大胡田 パスピエって三澤さんの青春だったの?(笑)
三澤 音楽好きの青春には楽器にのめりこんじゃう時期があると思うんです。僕はそれがちょうど中学、高校くらいだったんですけど、家にこもって練習したりとか内側に入っちゃってたんですよ。
──インナーワールド。
三澤 そう、そんな時期を経て育ってきた人間なので、いい意味でそういうニュアンスが自分の演奏やサウンドにも影響しているのかなと思いました。
大胡田 三澤さんは男子高だしね(笑)。
──次はなつきさんが大好きなあの人です。
大胡田 うわ! 佳穂ちゃんだー! うれしいー!
成田 ありがたいですね。
──もともと佳穂さんとは、どういうつながりなんですか?
大胡田 私がすごく好きなんですけど。なんて言ったらいいんだろう……。
成田 いや、ちゃんとしゃべれよ(笑)。
大胡田 佳穂ちゃんのサポートメンバーと私が知り合いで。私がその人に「中村佳穂ちゃんのファンで」とアピールしていたら、今年の3月に赤坂BLITZであったGRAPEVINEと佳穂ちゃんの対バンライブに呼んでいただけたんですよ。それで、ライブ後に楽屋に挨拶に行って、好きすぎていきなり私から佳穂ちゃんをハグするという(笑)。もう本当に大好きなんですよ。
──そこまでなんですね(笑)。佳穂さんの音楽、あるいは人となりのどんなところに惹かれていますか?
大胡田 自分とは全然違う表現をしているところと、中村佳穂という人間自体がエネルギーだと感じるところです。エネルギーそのものみたいな。
──“全身音楽”という感じですよね。
大胡田 本当にそうですよね。彼女が音楽を表現するとそのまま「中村佳穂」という形になるんだろうなと思います。何もかもが自然なんですよね。今度、新しいアルバムをお渡ししたいなと思っていたんですけど、もう聴いてくださったんですね。まだ連絡先も知らないんですけど、今後は積極的に関わっていきたいです(笑)。
──なつきさんが特定のアーティストにここまで熱狂してる感じは新鮮ですね。
大胡田 私自身も新鮮です。ここまで好きになったのはずっと崇拝している小川美潮さん以来ですね。
──これは対バンするしかないですね。
大胡田 いや、待って。えー!?
成田 当人がそれでどうするの(笑)。
大胡田 いや、ほんとにダメダメ(笑)。好きすぎてどうにかなっちゃうかも。ニヤニヤして歌えないかもしれない。
──このコメントについてはどうですか?
大胡田 「散り散りになってるものをつかまえる」という表現は、私がしてほしいパスピエの聴き方なんですよ。何回も聴いて自分のお気に入りのポイントを見つけてほしいと前々からずっと思っていたので、うれしい……。
──まるで佳穂さんの歌のようなコメントですよね。
大胡田 ドラマチックですよね。
──露崎くんはこのコメントについてどう思いましたか?
露崎 「ギラギラと光り流れて」という表現にすごくハッとします。「キラキラ」ではなく「ギラギラ」なのがうれしいですね。僕らの音楽のクセのある部分を感じとってもらえてるのかなって。
──濁点が付くだけで響きが全然違いますもんね。
露崎 違いますよね。歌手としての言葉のチョイスがさすがだなって思いますし。
三澤 僕はこの「時を追うごとに濃さが増してく」というフレーズにグッと来ますね。今年僕らは結成10周年で、今作はフルアルバムとしても5枚目になるので、このタイミングでこういうコメントをもらえるのはすごくうれしいです。
成田 中村佳穂さんは本当に音楽クリエイターとして嫉妬するくらいの才能を持っている人だし、僕は勝手に音楽を作る人として対極だと思ってるんです。
──いい、悪いじゃなく。
成田 そうそう。佳穂さんがどんな考えで曲を作ってるのかわからないけど、自分と対極だからこそ、あそこまで自由度に満ちた音楽表現をしていることに刺激を受けますね。僕らはスタイルやフォーマットを選んできたバンドだからよりそう思います。
──続いてはこちらの方からのコメントです。
大胡田 わ、瑞紀ちゃん!
成田 バンドの中で交流があるのは僕になるのかな。うちのバンドも女性ボーカルなので、女性バンドのことは意識するんですよね。僕らは勝手に彼女たちのクリエイティビティやパフォーマンスに刺激をもらってきたし。それは、ねごとだけじゃなくて赤い公園もそうだし、tricotもそう。あと、個人的には瑞紀ちゃんを作曲家としても意識しています。パスピエも新体制になって、今作では(正式メンバーとしては)ドラマーがいないからこそ打ち込みを積極的に導入しましたけど、ねごとは率先してそういうアプローチにチャレンジしていたバンドだから。作品が出るたびに「次はどういうサウンドなんだろう?」と気にかけていましたね。僕らはニューウェイブやプログレで武器を身に付けていって、ねごとはダンスミュージックに特化して攻めていったと思うんですよ。さっきの中村佳穂さんの話にもつながるけど、衝動的に生まれている音楽に対して僕らは緻密に音楽を作らざるを得ないところがあって。そこは僕もねごとに対して感じていることでもありますね。僕はねごとも「緻密フェチ派」だと思います(笑)。
──解散の報せを受けたときも複雑だったのでは?
成田 やっぱり思うところはありましたね。そういう選択をしたんだなって。
──なつきさんは、どうですか。
大胡田 コメントを見て、こうやってパスピエのことを見ていてくれたんだとわかってうれしいです。実は私、ねごとと対バンするときはいつもメンバーが全員女性でうらやましいなと思っていたんですよ(笑)。
──楽屋の感じとかね(笑)。
大胡田 そうですね。やっぱり曲を作るときも同性だから理解できることもあると思うし。
──歌詞のニュアンスもきっとそうですよね。
大胡田 そうそう。パスピエはこの体制だからできることがたくさんあるんですけど。でも、私の知らない音楽の作り方やメンバーとの通じ合い方を知ってる瑞紀ちゃんに対してうらやましいところがありますね。
三澤 ねごとはけっこう前から対バンをする機会が多くて。彼女に対してはライブを観るたびに同じギタリストとしてリスペクトするし、そんな人から「変態集団」と言われるのは光栄です(笑)。「緻密フェチ派」というのもまさにその通りだと思います。
露崎 僕らがアマチュアの頃からねごとの名前をいろんなところで聞いてたんですよ。
大胡田 先輩だよね。
露崎 うん。女性ボーカルバンドとしても目標にしていたし、ライバル視もしていて。対バンをさせてもらえるようになってからは、ねごと特有の魅力に嫉妬していた部分もありました。(藤咲)佑ちゃんとベーシストの同志として最近飲みに行ったんですけど、彼女はシンセベース(鍵盤でのベースパート演奏)を導入したり、フレキシブルに演奏と向き合っているのでそういったところにも頭が下がる思いでした。解散するのはやっぱり寂しくもありますね。
パスピエは…
でも、それが心地 いい。そのモヤモヤにテンションが上 がる。