「THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE（夜行やこう性せいのかたつむり達たちとプラスチックのブギー）」

「止とめる人ひともなくイエローモンキー業界ぎょうかい入いり」。音楽おんがく雑誌ざっしに載のったキャッチコピーを懐なつかしく思おもい出だすが、裏うらを返かえせば「止とめられても仕方しかたない」バンドだったとも言いえるわけで。マーケティング戦略せんりゃくとセールス至上しじょう主義しゅぎのCDバブル時代じだいが始はじまりつつあった1992年ねんに、デヴィッド・ボウイ直系ちょっけいのグラムロックを掲かかげて世よに出でたTHE YELLOW MONKEYは明あきらかに異質いしつだった。メタルにもビートロックにもV系けいにも区分くわけしづらい個性こせいに業界ぎょうかいが戸惑とまどったか、当時とうじはチャートの順位じゅんいも評価ひょうかも高たかくなかったが、HM/HR出身しゅっしんメンバーの確たしかな演奏えんそう力りょく、線せんの細ほそい中性ちゅうせい的てきな声質せいしつが魅力みりょく的てきな若わかき吉井よしい和哉かずやの演劇えんげき的てき歌唱かしょう、そしてアルバム全体ぜんたいを貫つらぬく洋楽ようがくロック＋歌謡かよう曲きょくの美学びがくは今いまこそ新鮮しんせん。デビューシングル「Romantist Taste」も収録しゅうろくされている。

「EXPERIENCE MOVIE（未み公開こうかいのエクスペリエンス・ムービー）」

ニューウェイブ期きのボウイを彷彿ほうふつさせるクールでハードな「MORALITY SLAVE」から、吉井よしいの渾身こんしんの熱唱ねっしょうが聴きけるソウルバラード「シルクスカーフに帽子ぼうしのマダム」まで、65分ふんにわたって繰くり広ひろげられる背徳はいとくと懺悔ざんげのロックショー。演奏えんそうも歌うたも前作ぜんさくよりパワーアップし、「審美しんび眼めブギ」のホーンセクション、「4000粒つぶの恋こいの唄うた」のアコーディオンなどアレンジもグレードアップ。先日せんじつの東京とうきょうドーム公演こうえんで吉井よしいが「260万まん枚まいを売うり上あげる予定よていだった」と自虐じぎゃく的てきに紹介しょうかいしたポップなシングル曲きょく「アバンギャルドで行いこうよ」も、現在げんざいもライブ終盤しゅうばんの定番ていばん曲きょくとして君臨くんりんする「SUCK OF LIFE」も収録しゅうろくされている。ヒットを欲ほっしつつも時代じだいにおもねることなく、アートとしてのロック美学びがくを追求ついきゅうする姿勢しせいは次つぎ作さくまで続つづく。

「jaguar hard pain」

このアルバムのツアーを中野なかのサンプラザで観みたが、観客かんきゃくは盛もり上あがるというよりも食くい入いるように舞台ぶたいを見みつめていたように記憶きおくする。本ほん作さくは「1944年ねんに戦死せんししたジャガーが、50年ねん後ごにタイムスリップして恋人こいびとマリーを探さがす」というコンセプトのアルバムで、ボウイの「ジギー・スターダスト」に影響えいきょうされた者ものとして、吉井よしいは一いち度どはこうした作品さくひんを作つくらずにはいられなかったのだろう。壮大そうだいなバラードで始はじまりバラードで終おわる重厚じゅうこうな聴きき応ごたえだが、「A HENな飴あめ玉だま」「ROCK STAR」などライブでノれる曲きょくもある。注目ちゅうもくは「悲かなしきASIAN BOY」。歌謡かよう曲きょく的てきなサビのメロディでアジアのロックバンドとしてのプライドを掲かかげた、昔むかしも今いまも絶対ぜったいの代表だいひょう曲きょく。ここまで3作さくでバンドの「初期しょき」は終おわる。

「smile」

ここからの3作さくは、アーティスティックな初期しょき衝動しょうどうの時期じきを脱だっし、ヒットチャート上位じょういを狙ねらうポピュラーなバンドへの転身てんしんを図はかった彼かれらの挑戦ちょうせんと成功せいこうの軌跡きせきだ。中ちゅうヒットを記録きろくした「熱帯夜ねったいや」「Love Communication」「嘆なげくなり我わが夜よるのFantasy」を筆頭ひっとうに、より単純たんじゅん化かされ強力きょうりょく化かしたリフ、メジャーコードのキャッチーなサビ、カラオケ向むきの歌うたいやすいメロディがぐっと増ふえた。オリコンチャートでも過去かこ最高さいこうの4位いを獲得かくとく。ボウイの「レッツ・ダンス」と比較ひかくできそうな出世しゅっせ作さくだが、冒頭ぼうとうの意味深いみしんなナレーション、前作ぜんさくの残のこり香がのような「争あらそいの街まち」、あまりに悲かなしいバラード「Hard Rain」など、軽かるく聴きき流ながすことを許ゆるしてはくれない。あくまでアルバムアーティストでありたいという意識いしきを強つよく感かんじる。

「FOUR SEASONS」

1995年ねん4月がつに初はつの武道館ぶどうかん公演こうえんを経へて、2大だいヒット曲きょく「追憶ついおくのマーメイド」「太陽たいようが燃もえている」を収録しゅうろくし、当時とうじのヒットの指標しひょうだったオリコンチャートで念願ねんがんの1位いを獲得かくとくした作品さくひん。“まず僕ぼくは壊こわす”と、破壊はかいと創造そうぞうを賛美さんびするアンセム「Four Seasons」で始はじまる11曲きょくは、ひと言ことで言いえば自信満々じしんまんまん。初はつの海外かいがい・ロンドン録音ろくおん作さくで、楽器がっきやボーカルの整理せいりされたクリアさは素晴すばらしいが、アレンジやサウンドが極端きょくたんに変化へんかしたようには感かんじられない。日本人にっぽんじんに向むけた日本にっぽんのロックバンドであるという自覚じかくのなせるわざだろう。吉井よしいが私的してきな感情かんじょうをさらけ出だす「Father」、菊地きくち英昭ひであきが初はじめて単独たんどくで作曲さっきょくを手てがけた「空そらの青あおと本当ほんとうの気持きもち」と、ラスト2曲きょくのエモーションの高たかまりは何なん度ど聴きいても格別かくべつ。

「SICKS」

TRIADからファンハウスへ移籍いせきした本ほん作さくもチャート1位い、過去かこ最高さいこうのセールスを記録きろくし、吉井よしいも「最高さいこう傑作けっさく」と自負じふする1作さく。シングルは「楽園らくえん」のみで、Led Zeppelinばりのリフがカッコいい「TVのシンガー」、ブルージーな「紫むらさきの空そら」などダークで攻撃こうげき性せいの高たかいサウンドがずらり。廣瀬ひろせ洋一よういちが作曲さっきょくに関かかわった「HOTEL宇宙船うちゅうせん」も、明あかるめの曲調きょくちょうのわりにポップというよりはヘヴィ。洋楽ようがくロックの質感しつかんと邦くにロックや歌謡かよう曲きょくを折衷せっちゅうする美学びがくは、ここに1つの完成かんせい形がたを見みたと言いっていい。が、先日せんじつの東京とうきょうドームでも重要じゅうような位置いちで歌うたわれた「人生じんせいの終おわり（FOR GRANDMOTHER）」、そして「天国てんごく旅行りょこう」の鬼気きき迫せまる吉井よしいの歌うたには成功せいこう者しゃの余裕よゆうの欠片かけらもない。バンドの新あらたなる破壊はかいと衝動しょうどうをすでに暗示あんじしているようだ。

「PUNCH DRUNKARD」

3作さく連続れんぞくでロンドン録音ろくおん、チャート1位いも3作さく目め。ダーティなガレージロック「PUNCH DRUNKARD」で幕まくを開あける本ほん作さくは、前々まえまえ作さくの勢いきおいと前作ぜんさくのすごみを踏ふまえ、トップバンドの自信じしんみなぎるパフォーマンスがしっかりとパッケージされている。オリコンチャート1位いを獲得かくとくしたロックバラードの金字塔きんじとう「球根きゅうこん」をはじめ、「LOVE LOVE SHOW」「BURN」「離はなれるな」と、ヒット曲きょくも満載まんさいだ。が、一方いっぽうではエロティックな妄想もうそうまみれの「見みして見みして」、シュールな表現ひょうげんが飛とび交かう「クズ社会しゃかいの赤あかいバラ」「セックスレスデス」など、歌詞かしのぶっ飛とび具合ぐあいが一気いっきにエスカレート。吉井よしいのポエトリーを波なみ音おんとピアノに乗のせた「SEA」も、美うつくしい幻想げんそうというよりは不穏ふおんな感覚かんかくが先さきに立たつ。ぎりぎりの危あやういバランスが本ほん作さくの魅力みりょくだ。

「8」

エイトではなくハチ。113本ほんに及およぶ前作ぜんさくのリリースツアーと長ながめの休養きゅうようを経へて、約やく半数はんすうの曲きょくで外部がいぶプロデューサーを起用きようして新あらたな音おと作づくりにトライしたアルバムだ。当時とうじは賛否さんぴ両論りょうろんあったらしいが、グルーヴィなオルガンが映はえる「バラ色ばらいろの日々ひび」、メランコリックなピアノと歌うたが絡からみ合あう「聖せいなる海うみとサンシャイン」、アダルトなラテン風味ふうみの「SHOCK HEARTS」など、楽曲がっきょくとしての魅力みりょくを引ひき出だすいいアレンジだと思おもう。この時期じきの彼かれららしいダーティな攻撃こうげき性せいを持もつ「サイキックNo.9」や、メランコリーと疾走しっそう感かんがしっかりと絡からみ合あう「パール」など、忘わすれがたい佳けい曲きょくも多おおい。結果けっか的てきにバンドはこのあと解散かいさんを決きめるが、ある意味いみ未み完成かんせいに終おわったからこそ、このアルバムの4人にんの挑戦ちょうせんは今いまも新鮮しんせんに聴きこえる。

「9999」

前作ぜんさくから19年ねんぶりにリリースされた9作さく目め。再さい集結しゅうけつ初期しょきに作つくられた「砂すなの塔とう」や「ALRIGHT」、菊地きくち英昭ひであきが初はじめて単独たんどくで作詞さくし作曲さっきょくを手てがけた「Horizon」など7曲きょくは日本にっぽんでの録音ろくおんで、「I don't know」など6曲きょくはLA録音ろくおん。前者ぜんしゃは過去かこのTHE YELLOW MONKEYやソロ活動かつどうの延長線えんちょうせん上じょうにある曲調きょくちょう、後者こうしゃは2010年代ねんだいアメリカンロックに接近せっきんしたガレージ感かんがあるざらついた音おと作づくりで、アルバム全体ぜんたいが再さい集結しゅうけつの過程かていをたどるドキュメンタリーのような作品さくひんに仕上しあがった。復活ふっかつ作さくとして文句もんくなしの傑作けっさくだが、注目ちゅうもくは歌詞かしの変化へんかで、「50代だいの人間にんげんが歌うたうロックンロールとは？」と考かんがえた結果けっか、「“愛あい”が多おおいアルバムになった」と吉井よしいは語かたる。19年ねん前まえの葛藤かっとうはもうない。4人にんがのびのびロックしているのが何なによりうれしい。