東京事変 オールタイムベストアルバム「総合」発売記念特集|東京事変を愛する8名選曲のプレイリスト

東京とうきょう事変じへんが12月22にちはつのオールタイムベストアルバム「総合そうごう」とオールタイムミュージックビデオしゅう「Prime Time」を同時どうじリリースする。

総合そうごう」は東京とうきょう事変じへんしてきた楽曲がっきょく総合そうごうてき見地けんち網羅もうらしたオールタイムベストアルバム。2まいぐみほんさくにはCDおよびデジタル配信はいしん上位じょうい位置いちするヒットきょくと、ライブでの人気にんききょく中心ちゅうしんにセレクトしたぜん28きょくくわえ、「原罪げんざい福音ふくいん」「ふつだけ徒歩とほ」という2きょく新曲しんきょくかくディスクの冒頭ぼうとう収録しゅうろくされる。ミュージックビデオしゅうには、これまでに制作せいさくされたすべてのMVと新曲しんきょくのMVをパッケージ。“再生さいせい以降いこうのティザー映像えいぞうや、昨年さくねん9がつ配信はいしんされたライブ「東京とうきょう事変じへん2O2O.7.24うるうvision特番とくばんニュースフラッシュ」のスクリーン映像えいぞうなど、ボーナスコンテンツもたっぷりとおさめられる。

音楽おんがくナタリーではこれらの2作品さくひん発売はつばい記念きねんして、東京とうきょう事変じへんのヒストリーをかえるとともに、かれらをあいする8めいがそれぞれのテーマで選曲せんきょくしたプレイリストを掲載けいさいする。

取材しゅざいぶん / 永堀ながほりアツオ


教育きょういくはじまり、アダルト、バラエティ、スポーツ、ディスカバリー、カラーバー、深夜しんやわくて、ニュース、ミュージック、そして総合そうごうへ。テレビ(メディア)の「チャンネル」というストーリーをじくにした、あらたなバンドが産声うぶごえげたのは2004ねん9がつ。1998ねん5がつにソロのシンガーソングライター(自作じさく自演じえん)としてデビューした椎名しいな林檎りんごは、音楽おんがくのみならず、ビジュアル、パフォーマンス、物言ものいいやいのすべてが“ニュース”になるほどのセンセーションをこした。かえってみれば、すでに彼女かのじょ自身じしんが“メディア”していたわけだが、椎名しいなは2003ねん2がつにリリースした3rdアルバム「なんじもと 精液せいえき ぐりはな」の完成かんせいをもって、「自分じぶんのエゴを全開ぜんかいにさせていただきました。いま段階だんかいでは、ひとりきりでつく音楽おんがくはやりえてるとおもってます」とかたり、ソロ活動かつどう一時いちじ休止きゅうし決意けつい同年どうねん8~9がつった全国ぜんこくツアー「椎名しいな林檎りんご 実演じつえんツアー そうろくエクスタシー」のバックバンドのメンバーであった亀田かめだ誠治せいじよんげん)、刄田つづりしょく太鼓たいこ)、ひるうみみきおんろくげん)、HM(鍵盤けんばん)の4にんこえをかけ、「日本にっぽんのポップスとしてなくてはならない、ただえんじりっぱなしの音楽おんがく平均へいきんてき体温たいおんでできる音楽おんがくをおとどけしたい」というおもいのもと5人組にんぐみバンド“東京とうきょう事変じへん”を結成けっせいした。

「教育」ジャケット

教育きょういく」ジャケット

2004ねん11月リリースのデビューアルバム「教育きょういく」は、「新宿しんじゅく豪雨ごうう」とうたはじめる1stシングル「群青ぐんじょう日和びより」やあかい“林檎りんごあめ”を今生こんじょう闊歩かっぽする「御祭騒おまつりさわぎ」をはじめ、ソロ活動かつどうの“お得意とくいさま”への気配きくばりや親切心しんせつしん提供ていきょうしつつ、「もっとこのバンドでやりたい。もっとみんなのいろんなプレイがきたい」という椎名しいな純粋じゅんすいおもいに随順ずいじゅんした内容ないように。ロックやポップはもちろん、ジャズ、ファンク、サンバ、ボサノバ、ブラジリアン、マーチング、ブルース、シャンソンと多種たしゅ多様たようなジャンルを独自どくじのブレンドでミックスした、クロスオーバー思考しこうつよ作品さくひんとなっていた。

「大人」ジャケット

大人おとな」ジャケット

しかし2005ねんひるうみみきおんとHMが脱退だったい。9月には椎名しいなのソロアルバムにも参加さんかしていた浮雲うきぐも(G)と、スリーピースバンド・あっぱの伊澤いさわ一葉かずは(Key)がしんメンバーとして加入かにゅうした。3rdシングル「修羅場しゅらば」のカップリングにのみ収録しゅうろくされたピアノバラード「落日らくじつ」でぜんメンバー2にん脱退だったいした心境しんきょう吐露とろする一方いっぽうで、バンドのシンボルマークをづるから孔雀くじゃく変更へんこうし、現在げんざいにまでつながるだい2東京とうきょう事変じへん始動しどうしん体制たいせいによって2006ねん1がつにリリースされた2ndアルバム「大人おとな(アダルト)」では「スーパースター」や「透明とうめい人間にんげん」をはじめとした亀田かめだ誠治せいじ作曲さっきょくによる楽曲がっきょくでポップさをしたメロディが採用さいようされ、リズムには日本人にっぽんじんなりの解釈かいしゃくとおしたファンクビートがちりばめられている。ベースとドラムからなるてい音域おんいき色彩しきさいゆたかなこえうた、そして歌詞かしつく意味いみかさなってまれる濃密のうみつゆたかなグルーヴに、“大人おとな”ならではのたのしみとあじわいぶかさ、バンドとしての成熟せいじゅくかんじる傑作けっさくとなった。

「娯楽」ジャケット

娯楽ごらく」ジャケット

2007ねん9がつには3まいのアルバム「娯楽ごらく(バラエティ)」をリリース。前作ぜんさくまではおも椎名しいな作詞さくし作曲さっきょくになっていたが、同年どうねん2がつ椎名しいな斎藤さいとうネコとのアルバム「平成へいせい風俗ふうぞく」をリリースしたこともかさなり、このアルバムから彼女かのじょ歌唱かしょう作詞さくしてっし、メンバー個々ここった楽曲がっきょくをもとに作品さくひん構成こうせいするスタイルへと変化へんか浮雲うきぐも作曲さっきょくのカオティックなポップロックナンバー「OSCA」、伊澤いさわ作曲さっきょくでピアノがスイングし、ギターがトリルをすソウルポップ「キラーチューン」など、クラシックとジャズの素養そよう伊澤いさわと、フォークやカントリー、ソウルやラップなど幅広はばひろがける浮雲うきぐものソングライターとしての比重ひじゅうした。さらに1きょくなか浮雲うきぐも伊澤いさわ椎名しいなとボーカリストが変化へんかしていく「ぼう都民とみん」も誕生たんじょうし、トリプルボーカルという、バンドとしてのあたらしい特質とくしつ獲得かくとく同年どうねん11がつには、亀田かめだ自身じしんしん内側うちがわからがってくる音楽おんがくへの情熱じょうねつ活写かっしゃした「閃光せんこう少女しょうじょ」を映像えいぞうきのシングルDVDというパッケージでリリースする。メンバーそれぞれが自身じしんのクリエイティビティやセンス、スキルをパワー全開ぜんかい発揮はっきするようになったが、強烈きょうれつ個性こせい集団しゅうだんせい共存きょうぞん共栄きょうえいたされており、あくまでも「東京とうきょう事変じへんのアルバム」という印象いんしょう仕上しあがっていた。また、アルバムのタイトルを「娯楽ごらく(バラエティ)」としたのは、“バラエティにあふれた”という意味いみではなく、メンバーの「娯楽ごらく」としてのセッションをテレビのバラエティ番組ばんぐみるような感覚かんかく気楽きらくたのしんでほしいという気持きもちのあらわれであったという。

「スポーツ」ジャケット

「スポーツ」ジャケット

椎名しいなのソロデビュー10周年しゅうねんというアニバーサリーイヤーをはさみ、東京とうきょう事変じへんは2010ねん10がつに4まいのアルバム「スポーツ」をリリース。椎名しいながグリコ「ウォータリングキスミントガム」CMにてクラシカルで上品じょうひん洋装ようそう楚々そそとしたムーンウォークを披露ひろうしたことでも話題わだいになったなま演奏えんそうニュージャックスウィングの「能動のうどうてきさん分間ふんかん」や、どうCMだい2だん使用しようされた全編ぜんぺん英語えいご歌詞かしのスイートソウル「いくさ」など、「スポーツ」というテーマのもと、メンバーそれぞれが“自分じぶんなりのスポーツ”を追求ついきゅうした作品さくひんとなった。携帯けいたい音楽おんがくプレイヤーがブームとなり、音楽おんがくかたがCDからダウンロードへと変化へんかしていった過渡かとでもあったこともテーマに影響えいきょうしている。さきの「閃光せんこう少女しょうじょ」もふくめ、アルバムにはネットで情報じょうほうだけがられれば十分じゅうぶんという時代じだいにこそ身体しんたいせい回復かいふく必要ひつようだというメッセージもめられており、バンドメンバーはそのをもって、音楽おんがく肉体にくたいせい実現じつげんした。「からだしんとが、はなれてしまった」という歌詞かし聖歌せいかたいのような多重たじゅうコーラスで表現ひょうげんし、オペラのようなダイナミックな展開てんかいせる「きる」は、しんよりも自在じざいからだうごきや発声はっせいがそのままおとになってききてさぶり、アスリートの試合しあいのような緊張きんちょうかんをはらんだ演奏えんそうからはバンドの充実じゅうじつかんつたわってくる。また、このとし全国ぜんこくツアー「東京とうきょう事変じへん live tour 2010 ウルトラC」では、5にんのプロフェッショナルな演奏えんそう一発いっぱつにすべてがばされるような衝撃しょうげきけた。メンバーのかおえないほどのほのかなあかりのなかからかびがってくる、うつくしく情熱じょうねつてき音楽おんがくみみませていると、身体しんたい全体ぜんたいみみになってしまったかのような錯覚さっかくおぼえ、10ねん以上いじょうったいまでもわすれられないほどの濃密のうみつ余韻よいんのこしてくれた感動かんどうてきなライブであった。

「大発見」ジャケット

大発見だいはっけん」ジャケット

「color bars」ジャケット

「color bars」ジャケット

バンドとして、楽器がっき演奏えんそうしゃとしてのあぶらった最高さいこう状態じょうたいまわったツアーをえた2カ月かげつ、2010ねん7がつにはドラマ「熱海あたみ捜査そうさかん」の主題歌しゅだいかで、ヴィブラフォンとグロッケンのあやしい音色ねいろまくける「天国てんごくへようこそ」と、「キスミント」のだい3だんCMソング「ドーパミント!」を配信はいしんリリース。2011ねん5がつには、「キスミント」のだい4だんCMソングで、伊澤いさわがピアノではなくギターをいた亀田かめだきょくそらっている」と、椎名しいな出演しゅつえんした資生堂しせいどう「マキアージュ」のCMソングで、東京とうきょう事変じへんでははじめて外部がいぶのアレンジャーとなる服部はっとり隆之たかゆきまねいた「おんなだれでも」をコンパイルしたシングルをリリースした。同年どうねん6がつかくメンバーが未開みかいとびらひらいた6まいのアルバム「大発見だいはっけん」を発表はっぴょう。これまでの作品さくひんにはテーマやコンセプトがもうけられていたが、ほんさくはこれまでの活動かつどう総括そうかつした作品さくひんとなり、サウンドのはばもビッグバンドにまで拡大かくだい。のちに、この作品さくひんだい2東京とうきょう事変じへんにおける「起承転結きしょうてんけつ」の“ゆい”と位置付いちづけられていたことがかされ、翌年よくねんとなる2012ねん1がつ11にちにバンドの解散かいさん発表はっぴょうされた。1月18にちにはメンバーそれぞれが1きょくずつ新曲しんきょくろしてったアルバム「color bars」をリリース。そして2がつ29にちうるう東京とうきょう日本武道館にほんぶどうかん開催かいさいされたライブをもって東京とうきょう事変じへんやく7ねんはん活動かつどう終止符しゅうしふち、かくメンバーはあらたなへと旅立たびだっていった。

「ニュース」ジャケット

「ニュース」ジャケット

音楽おんがくつづく。きみたちのなかおれたちの音楽おんがくはぐくまれている。それでもりないとおもったら、椎名しいなさんに連絡れんらくしてください」いう伊澤いさわのMCからやく8ねんとなる2020ねん東京とうきょう事変じへん閏年うるうどし元旦がんたんに“再生さいせい”を表明ひょうめいし、フューチャーディスコ「えらばれざる国民こくみん」の配信はいしん全国ぜんこくツアー開催かいさい発表はっぴょうした。2020ねん2がつ29にちうるう開幕かいまくしたツアーは新型しんがたコロナウイルス感染かんせんしょう拡大かくだい影響えいきょうけ、ほとんどの公演こうえん中止ちゅうしとなってしまったが、同年どうねん4がつにはメンバー5にんがそれぞれ作曲さっきょくした5きょく収録しゅうろくした8ねんぶりの新作しんさく「ニュース」をリリース。そのはドラマや映画えいが主題歌しゅだいか、ゲームのプロジェクトソングなどを次々つぎつぎ発表はっぴょうし、2021ねん6がつ9にちの“ロックの”に10ねんぶりとなるオリジナルアルバム「音楽おんがく」を発表はっぴょうした。椎名しいなのソロ6まいのアルバム「さんどく」と呼応こおうする構成こうせいとなっているほんさくからは、テレビドラマ「わたしたちはどうかしている」の主題歌しゅだいかあか同盟どうめい」と、現代げんだいきるすべてのひとおくるエールソングで、“自由じゆう”へのあいたからかにうたげる「緑酒りょくしゅ」がオールタイムベストアルバムに収録しゅうろくされている。

「総合」ジャケット

総合そうごう」ジャケット

オールタイムベストアルバムのかくディスクには新曲しんきょくとして、教会きょうかいかねおとひびきわたる人間にんげん讃歌さんか原罪げんざい福音ふくいん」と、浮雲うきぐも椎名しいながデュエットするサイケデリックなニューウェーブ「ふつだけ徒歩とほ」(回文かいぶんになってる! このユーモアといったら……)が収録しゅうろくされている。あらためて、「群青ぐんじょう日和びより」から「緑酒りょくしゅ」までのぜん28きょく新曲しんきょく2きょくいてかんじたのは、つうそう低音ていおんとして、あいせいいたみやくるしみ、せつなさやかなしみやよろこびがっていたということだ。そして、なま歓喜かんき恐怖きょうふ野性やせい理性りせい善意ぜんい悪意あくい社会しゃかい個人こじんという、相反あいはんする要素ようそあいだうごきながらも「人間にんげんの“尊厳そんげん”とはなにか?」をうてくるのだ。1人ひとり人間にんげんとして、自由じゆうあいし、おごそかでたっと気高けだかきたいとねがい、そのためにちょっとだけがんばってみる姿勢しせいこそが、このバンドがはな最大さいだいのメッセージになっているのではないか。“尊厳そんげん”といて、“いきる”とむ。東京とうきょう事変じへん場合ばあいは、きっとそうだ。