関西で話題を集めていたバンドの元メンバーを中心に結成された5人組バンド・(夜と)SAMPOが、メジャー1stアルバム「モンスター」をリリースした。
(夜と)SAMPOは“何かを選ぶために、何かを捨てなくてもいい”という意思のもと活動する社会人バンド。昨年11月にシングル「変身」で、ワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビューを果たした。
アルバム「モンスター」発売を記念して、音楽ナタリーはバンドの中心メンバーである吉野エクスプロージョン(G)と、お笑いトリオ・トンツカタンの櫻田佑による対談をセッティング。かねてから(夜と)SAMPOをプッシュしており、お笑いナタリーのコラムでもオススメの楽曲として同バンドの「革命前夜」を紹介していた(参照:トンツカタン櫻田のオススメ曲)櫻田に、アルバムを聴いた感想を率直に語ってもらった。また対談内では、櫻田がオーディエンスとしての実感を交えつつ、吉野へMCについて指南する場面も。和気あいあいとしていながらも、核心へと迫っていく2人の会話を楽しんでほしい。
取材・文 / 張江浩司撮影 / 山口真由子
出会いは「革命前夜」
──櫻田さんが(夜と)SAMPOを知ったのはいつ頃ですか?
櫻田佑 インディーズのバンドをいろいろ聴いていく中で、「いかつい経歴のメンバーが組んだバンドがあるらしい」という情報を耳にして。みんな噂している感じだったんですよね。「アベンジャーズみたいなバンドだ!」と(笑)。で、初めて聴いたのが「革命前夜」。とんでもない曲だと思いますよ、本当に。今日はこのアルバムの曲だけじゃなく、これまでのすべての曲について話したいくらいです。
吉野エクスプロージョン うわー、うれしいです。どんな立場の人でも聴いてもらえるのはもちろんうれしいんですけど、櫻田さんは前からいろんなところで拝見していた方なのでなおさら。僕はお笑いマニアというほど詳しくはないんですが、トンツカタンさんのネタは、英会話塾のコントとかすごく好きです。あと、「大喜る人たち」(YouTubeなどで公開されている大喜利番組)とかも観ているので、不思議な気持ちというか、恐縮です。音楽が好きな芸人さんはいっぱいいますけど、櫻田さんはXを見ててもすごく詳しいのが伝わるし、僕の身内ばっかり出てくるんですよね(笑)。
──例えばヒップホップやアイドルが好きな芸人さんはたくさんいて、「アメトーーク!」のテーマになったりもしていますが、現行のインディーギターロックに詳しい人となると、櫻田さんが芸人代表なんじゃないかと思います。どうやって掘っているんですか?
櫻田 今はサブスクでどんどん関連アーティストを追っていく感じですね。HOLIDAY! RECORDSのアカウントとかもチェックしてますし。お笑いライブで新宿に行くことが多いので、そういうときは空き時間にタワーレコードに寄っていろんなバンドの曲を試聴しています。初全国流通盤みたいなCDを片っ端から聴いて、気になったらSNSをフォローして、ライブに行く、という。
吉野 すごい……! ひと昔前はみんなやっていたことですけど、今はそこまでやってる人はほとんどいないですよ。
櫻田 新宿タワレコはちょっと前にバンドの売り場が縮小されちゃって、すごく残念なんですよね……。
左から吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)、櫻田佑(トンツカタン)。
(夜と)SAMPOに感じる起承転結
櫻田 (夜と)SAMPOの曲は、なんというか“おとぎ話”みたいで、そこが好きなんです。
吉野 お、おとぎ話?
櫻田 現代語訳おとぎ話というか。これは曲や歌詞だけでなく、(なかの)いくみ(Vo)さんの声からも感じることなんですが、起承転結がすごいんですよ。ちゃんと1つひとつがドラマチックで、お話を聞いているような気持ちになるんです。
吉野 ストーリーテラーみたいな?
櫻田 そうです。1曲1曲に起承転結があると思うし、アルバム全体を通して聴いてもそう感じる。
櫻田佑(トンツカタン)
吉野 それは目指してるところではありますね。僕や加藤(秋人 / B)が作ったものを、ボーカルであるいくみちゃんがストーリーテラーとしていかに表現するか、という。彼女自身も、その表現力を上げるのが今の目標だと言っているので、そう捉えていただけるのはとてもうれしいです。
櫻田 リスナーに届いてるということです。
吉野 めちゃくちゃ芯を食った感想をいただいています(笑)。そこは悩みでもあるんですけどね。特にライブをやるとなったら、“ニン”がどれだけ出るかが大事だと思っていて。芸人さんもそうだと思うんですけど、言っている内容よりも「この人、本当にこういう人だな」と思ってもらうことのほうが重要というか。それが、ボーカル以外が作詞をしている(夜と)SAMPOの課題だなと。
櫻田 それで言うとですね、「プラズマクラシックミュージック」の「あやまちには激励を お仕事にはユーモアを」という歌詞。この「お仕事」がいいんですよ。たぶん、いくみさんは「仕事」とは言わない。「お仕事」って言いそうなんです。キャラクターがちゃんと歌詞に反映されている気がして、この丁寧さはうれしい。
吉野 すごいところに着目しますね!(笑) 確かに、この部分はチャーミングに歌ってますしね。でも、歌詞は当て書きしているわけじゃないんですよ。当て書きすると、かえって嘘臭くなる気がしていて。本人が本人のモノマネするのって変じゃないですか。曲を作ってるときに「誰がしゃべってるイメージなん?」といくみちゃんによく聞かれるので、この曲は「リクルートスーツを着ている20代前半の黒髪の女の子が、カバンをバンッ!って置いてワー!と叫んでる感じ」と説明しました。
櫻田 なるほど。ファンはね、当て書きじゃなくても勝手に感じるんですよ。勝手に解釈して歌の世界を広げていくんです(笑)。吉野さんと加藤さんは歌詞のイメージを話し合うことはあるんですか?
吉野 正直これまでは歩調を合わせることはなかったんですけど、この作品はコンセプチュアルに作ろうと思ったので、いくみちゃん含めて3人で歌詞会議をしました。平日の21時くらいからリモートで「この歌詞どう思う?」って聞いたり。
吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)
櫻田 加藤さんの歌詞はすごく丁寧ですよね。ちゃんと伝えたいことがわかるというか。吉野さんの歌詞はね、例えば「ロケットガール」の「捏ねゴネするパンと理屈なんて」の「パン」は別に必要ないんですよ。「捏ねる理屈」だけで意味は通じるけど、あえて「パン」を入れる。でも実際に聴くと、その言葉がないといけないように思えてくる。そこがずるいですよね。
吉野 本当にき込んでくれてる! ありがとうございます。確かに2人の歌詞のアプローチはちょっと違いますね。僕は感覚派で、加藤はもっと理路整然としている。人間性もそんな感じなので、それがそのまま出ていると思います。
櫻田 どちらが歌詞を書くかはどのタイミングで決めているんですか?
吉野 そもそも、曲自体を2人が持ち込むんですよ。それが採用されたら、基本的には作曲者が歌詞も書きます。
湧き上がる高揚感、でもまだ本番ではない前夜感
櫻田 まだまだ好きな曲の話をしていいですか?
吉野 なんて至福の時間なんだ……。脳汁が出まくります(笑)。
櫻田 まず「春」。これはバトル系アニメのエンディングに使われてほしい。「ストマック」はディスコティックなイントロがいいんですよ。ちょっとダサいディスコで歌ってるいくみさんに、メンバーみんなが振り回されるミュージックビデオが頭に浮かびました。映像が見えてくるのがいいんだよな。「変身」は傑作です。
吉野 傑作にしたいと思って作りました(笑)。
櫻田 「夜を間違えにいこう」なんて、こんなエロい歌詞は普通書けない。
吉野 エロいって言われたのは初めてです(笑)。
櫻田 「革命前夜(2024 Version)」はいくみさんがより感情的というか。
吉野 うん、ライブ的になりましたね。
櫻田 吉野さんのギターは抑えめだと思ったんですけど、ソロは泣き感が強くなってますよね?
吉野 ライブで回数を重ねるとそういう感じになっていくんです。「革命前夜」はバンドの方向性も何も決まっていない時期に作った曲なんですけど、ライブで演奏するごとに、みんながこの曲についてきてくれる実感があって。じゃあギターソロもエモくしちゃおうかな、みたいな。
櫻田 お笑いナタリーのコラムにも書いたんですけど、イントロですごくワクワクするんです。湧き上がる高揚感、でもまだ本番ではない前夜感。こう感じるのは何か音楽的な理由があるんですか?
吉野 ありますね。
櫻田 え! あるんですか!?
吉野 最近はイントロが10秒くらいしかなくて、すぐ歌に入る曲が多いじゃないですか。この曲はそれに逆行して、“2段イントロ”という仕組みにしています。抑えめのイントロが20秒くらいあって、そこからもう1段ギアが上がったイントロが始まるという。そうすると、みんなエモくなります。
櫻田 うわー、そうなんだ。
吉野 ストレートにめっちゃ盛り上がる曲を作ろうと思ったので、こういう構成にしました。これは内緒にしといてください(笑)。
櫻田 まんまと引っかかってます。僕が知らないだけで、音楽には方程式があるのかもしれないと思っていたんですけど、やっぱりあるんだ。
吉野 ちょっとオーバーに言いましたけど、ある程度はあるかもしれませんね。特にこういうイントロは、ライブだと「キタキタ!」と思ってもらいやすいんじゃないかなと。今回のアルバムはアレンジャーさんにガッツリ入っていただいたのもあって、サビに入る前にブレイクして、サビの1拍目に「バーン!」とインパクト音を入れることでサビ感を強調する、みたいな部分を細かく詰めることができました。
左から吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)、櫻田佑(トンツカタン)。
“先行配信”についての葛藤
櫻田 今回のアルバムには先行配信されている曲もいくつかありますけど、改めて聴いて、どの曲もアルバムの一部だったんだなと思いました。そもそも先行で配信リリースするのって、どういうメリットがあるんですか?
吉野 生々しい話ですけど、先行リリースすることで曲やアーティスト名を知ってもらうきっかけを増やすということですね。僕たちは会社員だからどうしてもリソースに限界があるし、頻繁に話題を作ることは難しい。なのでタッチポイントを多くする必要があるんです。
櫻田 なるほど。個人的にはもったいないと思っちゃうんですよね。いきなりアルバムで聴いたほうが、インパクトがあるから。
吉野 その気持ちもすごくわかります。
櫻田 ちょっと前に僕がパーソナリティのラジオ番組が始まったんですけど(ABSラジオ「秋田ねねねフェス実行委員会」)、20代のアシスタントの子と「どういう手段で音楽を聴いているか」という話になって。僕は20代の頃は主にMDで聴いていたんですけど、彼女はYouTubeとかなんですよね。なので、最初はアルバムという概念すら知らなかったと。もう衝撃で。そう考えると、今は1曲ずつリリースするほうがいいんでしょうね。でも、それがちょっとショックでもあり……。
吉野 僕も正直悩んだところではありますね。
左から吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)、櫻田佑(トンツカタン)。
櫻田 個人的には、アーティストはアルバムにこそ力を入れるものだというイメージもあって。
吉野 わかります。僕は高校生の頃、Dream Theaterというプログレバンドをよく聴いていて。アルバムで1つの物語を表現するような、そういう感じが好きだったんです。だから、アルバム発売前に収録曲をリリースするのがいいかは、悩んだところではあります。でも、今回は1曲1曲強い曲ができたと思うし、先行リリースでたくさんの人に(夜と)SAMPOを知ってもらうきっかけを作って、最後にアルバムを聴いてもらえればいいかなと。
櫻田 先行シングルも、アルバムを念頭に置いて作ったんですか?
吉野 「革命前夜」と「春」以外はそうです。配信シングルのジャケットも、共通のストーリーを持ったデザインにしています。