トラウマが遺伝子のオン・オフを変化させ、世代を超えて受け継がれる可能性があることを示唆する科学的証拠が集まりつつある。(PHOTOGRAPH BY TEK IMAGE, SCIENCE PHOTO LIBRARY)
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最新科学の知見によると、戦争や大量虐殺から虐待や環境要因まで、さまざまなトラウマの影響が世代から世代へと受け継がれている可能性があるという。
「あなたのお母さんやお父さんが経験した深刻なトラウマが、自分に影響を及ぼしているような気がすることはないでしょうか?」と、米マウントサイナイ医科大学の精神医学と神経科学の教授で、トラウマについて研究しているレイチェル・イェフダ氏は問いかける。氏の研究は、人生を変えるほどのトラウマが、「エピジェネティックなシグナル」として子孫に受け継がれることを示している。
「エピジェネティクス(後成遺伝学)」は、遺伝子のオン・オフのしくみを研究する学問分野だ。具体的には、DNAにメチル基などの化学タグを付けたり取ったりすることで(エピジェネティックな変化)、DNAの塩基配列を変えることなく遺伝子の働きを抑えたり高めたりするしくみだ。イェフダ氏は、このメカニズムによって親のトラウマが子孫に受け継がれていると考えており、数々の研究がそれを示唆している。
受け継がれるトラウマの影響
イェフダ氏は、ホロコーストを生き延びた人々とその子孫の遺伝子にエピジェネティックな変化があることを発見した。
氏は2015年の研究で、32人の生存者とその成人した子どもについて、不安症などのメンタルヘルスの問題に関連している「FKBP5遺伝子」を調べた。
すると、ホロコーストの生き残りとその子どもたちでは、エピジェネティックな変化が起きたのに対して、ヨーロッパ以外の地域に住んでいてホロコーストを経験しなかったユダヤ人とその子どもたちには変化がないことがわかった。
イェフダ氏は2020年にはより大規模な研究を行い、ホロコーストを経験した親の性別や年齢などの要素に注目して、子どもたちのDNAメチル化のパターンを調べた。
その結果、ホロコーストを生き延びた母親を持つ人々のFKBP5遺伝子のDNAメチル化率が、ホロコーストを経験しなかったユダヤ人の母親を持つ人々に比べて低いことが明らかになった。
FKBP5遺伝子のDNAメチル化率の低さは、成人のPTSD(心的外傷後ストレス障害)などのリスクの高さと関係していることが、他のいくつかの研究で報告されている。これは、母親のトラウマが、たとえそれが幼少期に受けたものであっても、卵子の遺伝子にエピジェネティックな変化を引き起こし、生まれてくる子どものメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性があることを示唆している。(参考記事:「つらい記憶のフラッシュバックは「テトリス」をやると減る、研究」)
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