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【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才少女は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~ - 思惑
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書籍しょせき・コミカライズ】無自覚むじかく天才てんさい少女しょうじょ気付きづかない~あらゆる分野ぶんや努力どりょくしても家族かぞくまっためてくれないので、家出いえでして冒険ぼうけんしゃになりました~ 作者さくしゃまきぶろ

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思惑おもわく



「クソッ!! バカが! こんな簡単かんたんこと失敗しっぱいしやがって!!」

「ヒィッ……! で、でもおれおれがしくじったんじゃ、」


 つくえうえものけられた下男げなんのドンコはふとももにペーパーウェイトをらって悲鳴ひめいげた。あーウルセェ、おれもいるのにんな大声おおごえしてんじゃねぇよクソ野郎やろう

 チッとおもいつつ親父おやじるが、くちして文句もんくをつけるとめんどくさいことになるのでんでおく。

 つたえにきただけ、自分じぶん失敗しっぱいじゃない、といいわけする卑屈ひくつわなくて、おれからもひざうら一発いっぱつりをお見舞みまいした。


なんだ? 文句もんくあるのか?」

「ヒッ……な、なんでもありません」


 おれられてみっともない格好かっこういつくばったドンコは、いた謝罪しゃざいもしないままおれ親父おやじうかがうようにチラチラとてきた。それがまたイラついて、ドンコの背中せなかかる蹴飛けとばす。

 やとぬしにまともな言葉ことばづかいも出来できないなんていやになる。うとしても「なにもございません」だろうが。あまりにもみっともなくて苛立いらだつが、これ以上いじょうはなしさきすすまなくてはこまる。イライラするのを我慢がまんして親父おやじ言葉ことばつづきをいた。


工房こうぼうにもいえほうにも巡察じゅんさつたいっててもうれない。かぎパクってきてまえぬしおどしてバレずにぬすせるはずが、こうなっちまったらそれも出来できないだろうが!」


 恫喝どうかつする親父おやじ大声おおごえ野良犬のらいぬみてぇにおびえるドンコは、うら家業かぎょうほう使つかってる人間にんげんだが元々もともとあたまわるくて仕事しごとおぼえもわるいし使つかえないからと一番いちばんしただった。連中れんちゅう全員ぜんいんつかまっちまったせいで、普段ふだん備品びひん横流よこながししたのをいてる倉庫そうこ整理せいりしたりろしをしているだけのえないやつをこうしておれいえれる羽目はめになるなんて。

 つかまったグロッグたち仕事しごと失敗しっぱいと、こんな事態じたいになった責任せきにんをしっかりらせないとだ。


 ことはともかく、いままえ問題もんだい解決かいけつしないと。取引とりひきするはずの外国がいこくおとこはもうすぐまちいちまうのに、まだ人工じんこうせきつくかたはいっていない。

 従業じゅうぎょういんけなかった。つーかそもそも一番いちばん重要じゅうようところつくかたをあいつらはだれらないらしくて、無駄むだこと時間じかんだけかかってからってとんでもなくはらったし。

 かぎぬすんで、工房こうぼうまえぬし協力きょうりょくさせるまでは上手うまくいってたのに。あのじいさんはくちふうじにころして、ぬすんだことにも気付きづかれないまま今頃いまごろ国外こくがいげてるはずが、どうしてこうなっちまったんだよ。


 いや、原因げんいんかってる。あのおんなとフレドのせいだってことは。元々もともとあいつわないおとこだったんだよな、まえからおれ邪魔じゃまばっかりしやがって。そもそもあのリアナっておんなおれがあのまま口説くどいてれば、ぬすまなくてもれる機会きかいなんてたくさんあったのに。そしたらこんなにヤバい状況じょうきょうめられることなんてなかった。

 ギルドのなかであんなさわぎにしてあいだはいってきた、アレがなければ。

 つくづくあたまにくる野郎やろうだよ。いつもヘラヘラしてるから余計よけいに。全部ぜんぶあいつらのせいだ。

 二人ふたりともおれはじをかかせたおれいにとんでもなくいたせないとまない。しかしそれも、人工じんこうせき製造せいぞう方法ほうほうれてからのはなしだ。いまはその方法ほうほうかんがえないと。


親父おやじ、もうすここえおさえろよ。ここの使用人しようにんはこっちの事情じじょうらないやつのがおおいんだから」

「デューク! おまえなに他人事たにんごとにしてるんだ! たいしたことないはずじゃなかったのか!」

「はあ? たいしたことないフレドにさんにんがかりでけたアイツらがよわすぎるんだろ? ならもっとまともなやつ使つかえばかっただろうが」


 誘拐ゆうかい失敗しっぱいしたときにん工房こうぼうよんにん手駒てごまうしなっている。きたな仕事しごとをさせられるのはいえかわせたさんにん以外いがいにはもうこのドンコしかいなかったんだろうが、かねすなりなになりしてうでやつやとえばかっただけのはなしだ。

 必要ひつようところでケチりやがって、クソ親父おやじ。だから最初さいしょから全部ぜんぶおれまかせとけばかったのに。

 は、またあのおんな採掘さいくつじょう使つかったみたいな卑怯ひきょう魔道まどう用意よういしていたんだろう。ありるな。じゃなきゃおれおな程度ていどうでのフレドがさんにん相手取あいてどってたたかっててるわけない。

 フレド相手あいてならアイツらでもてるし、のちはお手伝てつだいのおんなと、獣人じゅうじんつってもまだ一人ひとり依頼いらいけらんねぇ実力じつりょく冒険ぼうけんしゃ見習みならいのガキだけだから楽勝らくしょうだったはずなのに、ほんと使つかえねぇ。

 

 あたまわるいドンコはても邪魔じゃまなのだが、他所よそ連絡れんらくれるやつがこいつ以外いがいにいないし、だからとって屋敷やしきなかをうろつかせるわけにはいかない。

 こんな、パッとただけでまちのゴロツキだってかるようなやつ出入でいりしてたなんてモリックのやつはなしっちまったらまた面倒めんどうことになるからな。


 クソ、名前なまえしたらおもしてまたはらってきた。「わたし貴方あなたたちではなくベタメタール子爵ししゃくやとわれているので」とアイツのりて、うちのいえ仕事しごと仕切しきったになってえらそうなかおをしてるあのおとこにもなにかしてやりたいが……いまはタイミングがわるい。

 本当ほんとうなら、このまちだってジェームズじゃなくておれのもんだったはずだったのに。大昔おおむかしおれのじいさんから卑怯ひきょう当主とうしゅうばったディミニクって老人ろうじんにくくてたまらない。


 ああ、畜生ちくしょう、あいつらが失敗しっぱいしなければ。またグロッグたちもどっていかりがきそうになったが、なにとかあたまえてつぎ必死ひっしかんがえる。


 巡察じゅんさつたいにもこっちのいきかってるやつ何人なんにんかいるが、しょくってるやつ自分じぶんよごしたがらない。日和ひよりってる馬鹿ばかどもにはムカつくが、まぁこっちもそんな弱味よわみせるつもりはない。アイツらはあくまでも「協力きょうりょくしゃ」でしかないから。

 それに、こっちの仲間なかまにできるほどよわみをにぎっているやつ巡察じゅんさつたいにいない、ふかはなしられるのはリスクがたかすぎる。

 こちらにさからえないくらいのこまじゃないと、おれたちがどれだけこわいか想像そうぞう出来できずにことこすまえろうとするバカがかねない。


 おれ仲間なかま手伝てつだわせるか、と一瞬いっしゅんかんだがそれもボツにする。一応いちおう冒険ぼうけんしゃだがたいしたうでもないし、おれがいないとなに出来できないようなやつらしかいない、アイツらを使つかっても成功せいこうするえなかった。

 おれ使つかったのちおんなをおがりでやったり、いいおもいをさせたうえ共犯きょうはんにしてるから裏切うらぎ心配しんぱいはないが、実行じっこうする能力のうりょくがないんじゃはなしにならねぇ。


 工房こうぼうにもあのおんないえにもいま巡察じゅんさつたいがいる。よるすこ手薄てうすになるだろうし、手引てび出来でき程度ていど役職やくしょくってるやつ心当こころあたりもある。巡察じゅんさつたい制服せいふく夜番よばんまぎれて工房こうぼうなかさがすか? 賄賂わいろえに色々いろいろ情報じょうほうながさせているデルバートというおとこかおおもかべた。

 いや……おれかおられてるから、全員ぜんいんこっちのいきかってるやつにしないとだが。これをやるにはデルバートにしんくをられぎてしまう。

 どうする。もう取引とりひき相手あいてには前金まえきんってて、おれすで使つかっちまってるのに。借金しゃっきんもある。用意よういできなければこっちがタダじゃまなくなるのに。


 あんおもかばずムシャクシャしながらはいってきた情報じょうほうとおすも、上手うまはそうおもかない。

 そもそもあのおんないまどこにいるんだとおもって調しらべさせると、いえ事件じけんきて巡察じゅんさつたい捜査そうさもあるからと一時いちじてきにホテルに避難ひなんしていた。しかもこのまち一番いちばん格式かくしきたかいホテルの一番いちばん部屋へや

 じいさんから地位ちいうばったおとこまご、このまち子爵ししゃく手配てはいしたのだとおもうと余計よけいはらつ。自分じぶんちかられた権力けんりょくじゃないクセにそれを得意満面とくいまんめん使つかってるんだろうな。

 おなどしなのにおれよりちいさくて、あたまわるかったくせに。

 アイツらも事件じけん口実こうじつたけわない贅沢ぜいたくをしてるのをってまたムカついたけど、おかげひとおもいついた。



錬金術れんきんじゅつギルドから、人工じんこうせき秘匿ひとく特許とっきょについてわせが?」

「え、ええ、工房こうぼう規模きぼがかなりおおきくわるから、自分じぶんくわしくからないんですですけど……契約けいやく魔術まじゅつ更新こうしん必要ひつようらしくて」

たしかにそうですね」


 侵入しんにゅうしゃたのをきっかけに錬金術れんきんじゅつリオの工房こうぼう改築かいちくする。そのはなし後援こうえんしてる子爵ししゃくのジェームズ・ルッシェ・ベタメタールがかねすからもっと堅牢けんろうでデカい工房こうぼうつくれとぐちした、これは事実じじつだ。

 おれはこれを利用りようすることにした。実際じっさいすうにん営業えいぎょうしてるような工房こうぼうから、はなしすすんでるような、錬金術れんきんじゅつすうじゅうにんやとうようなデカい工場こうじょうにするなら。技術ぎじゅつ秘匿ひとく使つか契約けいやく魔術まじゅつそのものをえる必要ひつようがある。

 そのときには契約けいやくしばるもの、この場合ばあい人工じんこうせき製法せいほうや、つくとき使つかうという魔力まりょく操作そうさする魔道まどうとやらの設計せっけいみたいなものも用意よういしなければならない。

 今回こんかい本物ほんもの錬金術れんきんじゅつギルドの職員しょくいんであるトバルクを、いままでった賄賂わいろ横領おうりょうをネタに強請きょうせい(ゆす)って協力きょうりょくさせている。散々さんざん上手うましるわせてやったんだから、最後さいごにこのくらいやくってもらおう。


「あのようおそろしい事件じけんがありましたし、そと物騒ぶっそうですから。ベタメタール子爵ししゃくと、錬金術れんきんじゅつギルドのギルドちょうがこちらのホテルにあしはこんでくださるそうです」

「いつまでに用意よういすればいですか?」

きゅうですが、工房こうぼう改装かいそう開始かいし近付ちかづいていますし、できたら今夜こんやと……むずかしいようでしたら明日あした以降いこうでもかまわないそうですが。子爵ししゃくていほうに、日時にちじ指定していした連絡れんらく寄越よこすようにとおっしゃってました」

「こちらの都合つごう子爵ししゃくさま予定よていばしていただくわけには……かりました、今夜こんやちしてますとおつたえください」


 よし、あんじょう平民へいみん相手あいて貴族きぞくってだけで下手へたるからな。貴族きぞくいえ使つかいをるだけでもおそおおいだなんていやがるから、ああわれてべつ出来できわけがない。


錬金術れんきんじゅつギルドのほうで、必要ひつよう書類しょるい魔術まじゅつ用意よういしていきますので、最後さいごにそうってた」


 ホテルのそと合流ごうりゅうしたトバルクから個室こしつのある料理りょうりはなしく。ローブをせて錬金術れんきんじゅつ助手じょしゅのフリをさせていたドンコから、たしかにそうっていたか、余計よけいことってなかったかを確認かくにんした。


「なぁ、これで錬金術れんきんじゅつギルドにはだまっててくれるんだろ? おれにも迷惑めいわくがかからないようにやってくれるんだよな?」

「それを約束やくそくできるのは、ちゃんと人工じんこうせき製法せいほうはいってからかなぁ〜、ま、安心あんしんしろよ、上手うまくやるから」


 きずりの犯行はんこうにしかえないようにするとってあるが、まぁ無理むりだろうな。トバルクは犯罪はんざいしゃになるしかない。明日あしたにはまちからちが身分みぶんれてるおれ親父おやじには無関係むかんけいだが。

 これの実行じっこうはん出来でき手駒てごま手配てはいできなかったが、どのみちすぐこのまちからいなくなるんだからからバレようがもうどうでもいい。こっちが釈放しゃくほうけてうごいてないとられたら、巡察じゅんさつたいつかまってるやつらもいつ白状はくじょうしちまうかからないし。むしろすぐげないとこちらのあぶない。

 てたもとカノたちおれ逆恨さかうらみして事件じけんにするとか、うったえるとかいいだしてて元々もともとそのときからしばらくまちはなれる予定よていだったし。もどってくる予定よていがなくなっただけ……ほんとダルいな、合意ごういだったじゃねーか。

 


 事件じけん失敗しっぱいしたせいで警戒けいかいムードだけのこってるのが面倒臭めんどうくさいな。アイツらの失敗しっぱいうらんでも今更いまさらどうにもならないけど、はらつのは仕方しかたがない。

 調しらべたが、ホテルでアイツらを警備けいびしている巡察じゅんさつたいさんにん全員ぜんいんいてわけにもいかないからてもにん。うちいちにんはちょっとしたたのごとならことかせる用意よういがある。

 一番いちばん面倒めんどうなリアナのほう別件べっけん冒険ぼうけんしゃギルドからすように手配てはいしたので、アイツはられない。

 契約けいやく魔術まじゅつ更新こうしん必要ひつようになる、人工じんこうせき製法せいほう。それがしるされたノートは工房こうぼうなか金庫きんこ保管ほかんされてて、それを実家じっかからついてきた信頼しんらいのおける侍女じじょってやつけられる、そこまで調しらべた。

 今夜こんやるお貴族きぞくさま予定よていわせるためには、工房こうぼうにアンナっておんなってりにかせるしかない。フレドがいてくるかもしれないが、そのくらいはどうとでもなる。

 ……はぁ、それにしても。こいつもけられるなら、最初さいしょからもと錬金術れんきんじゅつじいさんじゃなくてこっちのおんなほうねらっておけばかった。おんなならだれかとちしたようにせておけばらくせただろうし、よるまで監禁かんきんしておくあいだたのしめたのに。


 物陰ものかげっていると、工房こうぼうかうために目当めあての人物じんぶつた。ついて巡察じゅんさつたい一人ひとりきり。

 やっとうんいてきた、とおもった。

 二人ふたりうしろを距離きょりをあけてあるきながら、時折ときおりうしろも警戒けいかいする。だれかがついてきてる様子ようすはなかった。警戒けいかいしすぎか? いや、今度こんどこそ失敗しっぱいできないんだから、冒険ぼうけんしゃもしているプロとしてはこのくらいは当然とうぜんだろう。

 工房こうぼう到着とうちゃくして、「アンナさん」と顔見知かおみしりになってるらしいなかにいた巡察じゅんさつたい会話かいわをしてるのがこえてきた。なにしゃべってるんだ、さっさとかえれよとイライラしながら様子ようすうかがう。

 変装へんそうはしてるしあのアンナってほうおれかおらないだろうけど、目立めだ真似まね出来できない。工房こうぼうならぶこのあたりでとおりすがりをえんじるのはキツイ。

 店先みせさきちいさな商品しょうひんってる木工もっこうてんまえ物色ぶっしょくしているフリをして、時間じかんつのがおそいとまどろっこしくおもいながらひたすらつしかなかった。


 くそ、やっとかよ。

 イライラしすぎてどうにかなりそうなくらいたされて、キレそうになる寸前すんぜんにようやくた。それを待機たいきしていたドンコに合図あいずす。

 予定よていしていたとおり、巡察じゅんさつたいのこってるかぶとから十分じゅうぶんはなれたところ小銭こぜにわたして指示しじをしてあったスラムがいのガキがすうにんてきてさわぎをこす。警備けいびしていたやつがそっちを警戒けいかいする様子ようすせたすきをついて、反対はんたいがわからおんなかばんうばってはしした。


「キャアアッ!!」


 かばんつかんだはずみでおんなきずりたおされたが、おれったことではない。追跡ついせきされないように使つかった、煙幕えんまく魔道まどうかないなか自分じぶんだけはゴーグルで視界しかい確保かくほしてそこからはしけた。



「はぁ……クソ。なんでおれがこんな、犯罪はんざいしゃみたいな真似まねを……ちくしょう……」


 さわぎからだいぶはなれたところ路地ろじうらはいって、だれいえからないはいったゴミ箱ごみばこなかてた外套がいとうとさっきうばったかばんてる。

 巡察じゅんさつたいだまされてくれるのを期待きたいして、なかはいっていた財布さいふはそのあたりにいた物乞ものごいにくれてやった。目印めじるしになりそうなもの手放てばなすと、ようやく一安心ひとあんしん出来できる。

 なかはいってたノートと、設計せっけい……これで人工じんこうせきつくるのに必要ひつよう魔道まどうつくるのだろう。聖書せいしょみたいな無駄むだこうそうな装丁そうていのノートのほうたが……おれ錬金術れんきんじゅつじゃないので所々ところどころからない言葉ことばもあるけど、しっかりとどうつくるか、材料ざいりょうまでこまかくしるされていた。


 なるほど……あのかたいんだかやわらかいんだかよくからない感触かんしょく人工じんこうせきとやらは、樹液じゅえきかためてつくるらしい。勿体もったいぶってつくかた秘密ひみつにしてるわりには、随分ずいぶんやす素材そざい簡単かんたんつくれるんだな。おれでもつくれるんじゃないか?

 これをアイツらにわたせばいまのクソみたいな状況じょうきょうからして、あたらしい場所ばしょでイイらしが出来できる。そうかんがえると気分きぶん一気いっきあかるくなった。

 ……そうだ。これうつしておいて、こうでいたらべつのやつらにもりつけよう。そしたらばいもうかる。

 かえったら祝杯しゅくはいげようかな。クソ親父おやじはアレでもおれ父親ちちおやだし、いま機嫌きげんいから一緒いっしょいわってやってもかまわない。

 銘柄めいがらさけってかえるか、ジェームズのやつにツケろってえば……そうかんがえておもいとどまる。子爵ししゃく勝手かってにツケたらつぎ通報つうほうするって商店しょうてんがい顔役かおやくから面倒めんどうことわれてたな……。

 しょうがない、いま大事だいじ荷物にもつもあるし、目立めだちそうな真似まねはやめておこう。


「おかえりなさいませ」

「ああ」


 いえにいる年増としまのメイドに普段ふだん挨拶あいさつなんてしないんだが、今日きょう機嫌きげんいので返事へんじをしてやった。

 ヤキモキした様子ようす屋敷やしきってたらしい親父おやじ部屋へやはいると、おれかおるなり「人工じんこうせきのノートは?」とそれだけいてきやがってムカついた。一緒いっしょ祝杯しゅくはいをあげてやってもいいとおもってたのに、そのぶんまるごと苛立いらだちにわる。


おれ全部ぜんぶやらせてってただけのくせに、おつかさまくらいえないのかよ」

「はぁ? なんだおまえ父親ちちおやかってその言葉ことばは」


 しばらくあらそいをしていたが、こんなごと時間じかんをかけてる場合ばあいじゃないとおれ大人おとなになってやることにした。……てよ。ノートも設計せっけいおれがこのままって、親父おやじいてってやろうかな。

 おれはチラリと親父おやじかおる。一人ひとりげたほう身軽みがるだし、おれぶんえるな。そもそも結局けっきょくこうしてうごいたのはおれなんだから全部ぜんぶもらう権利けんりがあるんじゃないか?


「どうしたんだ、デューク。はやせろ……まさか失敗しっぱいしてってこれなかったんじゃないだろうな?」

「は? だれってるんだよ。こん巡察じゅんさつたいろうれられてるバカどもじゃあるまいし、おれ無様ぶざま失敗しっぱいするわけないだろ」


 言葉ことばられて、おれふくした密着みっちゃくするようににつけられる、貴重きちょうひんようのボディバッグからノートと設計せっけいしてまえきつけてやった。

 まあいい。一度いちどただけでこのノートの中身なかみおぼえられるようなあたまはしてないのはってるし。


「これがあの……人工じんこうせきの……これさえ、これさえあればかねが」

「おい、さけれたきたなさわるなよ。インクがにじんでめなくなったらどうすんだ」

 

 買取かいとり価格かかくげられたらどうするんだ。まだうつすのも出来できてないし、価値かちげられたらこまるんだが?

 親父おやじうでつかんでめたところで、ノックもなしにとびらひらいた。


「……おい! んでないのに勝手かってはいるんじゃねぇ!」


 親父おやじんだのか? 人払ひとばらいしとけよ、かるだろ。

 かくさなければ、と一瞬いっしゅんビビりそうになったが、がくのない使用人しようにんではこれがなになのかもからないだろう。あまりせたくないのはたしかなので、すぐようそうととびらほうかえって怒鳴どなってやった。

 見覚みおぼえのない使用人しようにん……だれだ? そもそもこんなわかおんななんて、うちにはいなかったはず……。


「ベルヌークさまいたとおりです。今日きょうつづけにきた職人しょくにんがい住宅じゅうたく事件じけん、それにさきほどわたし被害ひがいにあった強盗ごうとう犯人はんにんであると、いいのがれようのないたしかな証拠しょうこになるとおもいますが」

「ええ、まことに。これで親戚しんせきだからといままであま対応たいおうをしてきたジェームズさまめるでしょう」


 使用人しようにん……じゃない。使用人しようにんのお仕着しきせにえないワンピースをた、さっき……ずっとあとをつけてたおんなだった。

 そいつと一緒いっしょ部屋へやなかはいってきたモリックをて、あたまからあしのつまさきまで一気いっきつめたくなるような、そんな感覚かんかくがした。


「……モリックさん、なんばなしですか? ちょっといまったはなしをしてるので、のちにしてください。あ〜っと……出資しゅっししてた錬金術れんきんじゅつあたらしい発明はつめいをしたと、その内容ないようてたところなんですよ」

「ゴードさん、いいのがれても無駄むだですよ。となり部屋へやでベルヌークさま一緒いっしょにさっきのはなしいていたので」

「えっと、おれには内容ないようえないんですけど……本当ほんとうなんばなしで?」


 この部屋へやにはちゃんと結界けっかいってあるんだから、そんなカマにっかかるとおもってるのか?

 このなにとかしのげばい、それでおれちだ。よるまでかくれて、取引とりひきをして、明日あしたにはもういない。おれ余裕よゆうめて、人当ひとあたりのみをかべながらおんなた。

 色気いろけのないひっつめたかみにそばかすのいたほお。でもおれまえもって調しらべてたときより……ちいさくて、美人びじんえる。

 あれ? このアンナっておんな……紫色むらさきいろだっただろうか。

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