大勢おおぜいの人ひとに見送みおくられながら村むらを出立しゅったつする孫まごの背中せなかを、大おおきくなったものじゃと感慨かんがい深ふかげに見みつめていた。

「行おこなったのう…」

「行おこなったな…」

隣となりで同おなじような思おもいでいるのは儂わしの数すう十じゅう年来ねんらいの友人ゆうじんのサトリ、この皇すめらぎ(・)国くに(・)の(・)元もと(・)宰おさむ(・)相そう(・)である。

「シリュウなら大丈夫だいじょうぶだろう、あの子こは聡さといし、お前まえのような武ぶもある。少すこし幼おさなく夢見ゆめみがちなところはあるが、見識けんしきを深ふかめれば、大成たいせいするんじゃないか」

「おうおう、元もと宰相さいしょう様さまにそう評ひょうされるとわが孫まごながらむずかゆいのう」

「お前まえは仕込しこみすぎたのだ…16歳さいでエクトエンド樹海じゅかいの魔ま獣じゅうを狩かりれる奴やつがこの国くにに何人なんにんおる？」

「…そんなにかのう？」

「これだから軍ぐん上あがりは…エクトエンド樹海じゅかいの魔ま獣じゅうは冒険ぼうけん者しゃギルドの依頼いらいランクに拠よればBランクは固かたい。魔ま獣じゅうによってはAに分類ぶんるいされる奴やつもいるくらいだ。それを兎うさぎか猪いのししかのように日常にちじょう的てきに狩かっている。それに実戦じっせん経験けいけんと称しょうして、何なん回かいか盗賊とうぞく討伐とうばつに駆かり出だしただろ？そのせいで人ひとを斬きることの抵抗ていこうもあの年齢ねんれいでほとんどない。俺おれが帝国ていこくの諜報ちょうほう員いんなら”目録もくろく”に掲載けいさいすることを皇帝こうていに進言しんげんするだろうよ」

※目録もくろくとは各国かっこくで呼よび名なは異ことなれど所有しょゆう・管理かんりしている「要注意ようちゅうい人物じんぶつリスト」のことである。兵士へいしとして敵国てきこくの目録もくろくに掲載けいさいされることは誉ほまれであり、目録もくろくに掲載けいさいされている人物じんぶつのことは一角いっかくの人物じんぶつとして「烈れつ国士こくし」と呼よばれている。目録もくろくは定期ていき的てきに更新こうしんされ、どの国くにも公開こうかいしている。

「シリュウには…魔術まじゅつの才能さいのうが全まったくなかったのじゃ…ならばせめてもの武ぶはと思おもい仕込しこんだのじゃ…」

「まぁ確たしかにそれは驚おどろいた。お前まえの血ちが濃こいのだろうか。あの子この母親ははおやは当代とうだい随一ずいいちの魔術まじゅつ使づかいであったのにな。魔術まじゅつの才能さいのうは血統けっとうが全すべてであることは一般いっぱん常識じょうしきだが、それでも全まったく才能さいのうがなかったのは不思議ふしぎだな」

「それでもただ教おしえるだけではこのような武ぶを持もつ少年しょうねんにはならなかったじゃろう。それはシリュウの努力どりょくの賜物たまものじゃ。魔術まじゅつの才能さいのうはなくとも、努力どりょくする才能さいのうはあったようじゃ」

「それと信念しんねんだな。大成たいせいした烈れつ国士こくしは、才能さいのうはなくても信念しんねんはあったものだ」

「うむ…この『最果さいはて村むら』に来きたことは果はたして良よかったのか…それは神かみのみぞ知しるじゃな」

「ただ朽くちていくだけの俺おれたちに彩いろどりと潤うるおいをもたらしてくれた。シリュウにとってはどうかはわからんが俺おれたちにとってはシリュウがこの村むらに来きてくれて最良さいりょうだったのだよ」

「そうじゃのう…」

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このエクトエンド村むらは、実じつは新興しんこうの村むらである。

10年ねん前まえに勃発ぼっぱつした第だい4次じ烈れつ国大こくだい戦せんは皇国こうこく・帝国ていこく・王国おうこくの各国かっこくに深ふかい爪痕つめあとを残のこした。

その際さいに皇国こうこくでは大だい規模きぼな体制たいせい刷新さっしんが行おこなわれ、長年ながねん皇国こうこくを支ささえてきた人材じんざいが皇国こうこくを去さることになった。

このエクトエンド村むらはその時ときに皇国こうこくを去さった要職ようしょくに就ついていた者ものたちが、余生よせいを過すごすために開拓かいたくした村むらである。

主おもにコウロンとサトリの2人ふたりが主導しゅどうし、このエクトエンド村むらを開拓かいたくしたのであった。

もともと皇国こうこくの要職ようしょくに就ついていた者もの達たちなので、元もと宰相さいしょうや元もと大将軍だいしょうぐんはもとより、大臣だいじんであったもの、将軍しょうぐんであったもの、外交がいこう官かんであったもの等ひとし、歴戦れきせんの烈れつ国士こくしがこの村むらに集つどっていた。

開拓かいたくした1年ねん後ごに、トリスリーの悲劇ひげきが起おこり、シリュウがこのエクトエンド村むらに来きた。

村人むらびとたちはコウロンの孫まごであり、この村むら唯一ゆいいつの子供こどもであるシリュウをたいそう可愛かわいがったのだった。

サトリ「刷新さっしんされたのではなく、俺おれ達たちは自みずから見限みかぎって職しょくを敷しいたのだがな」

コウロン「第だい4次じ烈れつ国大こくだい戦せんは悲惨ひさんじゃった。それに少すこし疲つかれてしまったのじゃな」