父ちちが死しんでから数日すうじつ後ご、クラン挙兵きょへいの報告ほうこくが私わたしの耳みみに飛とび込こんできた。

　クランは挙兵きょへいをする際さいに檄文げきぶんを書かいており、ローベント家かのような弱小じゃくしょう領主りょうしゅの家いえにも届とどいていた。

　檄文げきぶんの内容ないようは、とにかく弟おとうとバサマークを非難ひなんするものだった。

　まず暗殺あんさつの黒幕くろまくをバサマークと断定だんてい（明確めいかくな証拠しょうこはない）。さらにバサマークの欠点けってんをそこまで言いうかというくらいに書かいてあった。バサマークには総督そうとくたる器うつわはなく、自分じぶんこそふさわしいと強調きょうちょうしていた。

　そして、バサマークが現在げんざい州都しゅうとアルカンテスを手中しゅちゅうに収おさめていることを非難ひなんしていた。何なん度ども州都しゅうとを明あけ渡わたすよう要求ようきゅうしたが、その要求ようきゅうは飲のまれなかったため、今回こんかい挙兵きょへいをすることにしたようだ。

　しかし、アルカンテスは現在げんざいはバサマークの手中しゅちゅうにあるのか。

　アルカンテスは州都しゅうとというだけあって、ミーシアン州しゅうの中なかで一番いちばん人口じんこうが多おおい都市としである。

　当然とうぜんそれだけに動員どういんできる兵力へいりょくも多おおくなる。

　ミーシアンには、アルカンテスのほかに三みっつ大都市だいとしがある。

　西側にしがわ、ランベルクから一番いちばん近ちかい場所ばしょにある大都市だいとしマサ。

　南側みなみがわにあるセンプラー。

　東側ひがしがわにあるベルツド。

　ちなみにアルカンテスはミーシアン中央ちゅうおうにある。

　クランは現在げんざいセンプラーを治おさめている。

　センプラーは海うみに面めんしている都市としだ。船ふねでの貿易ぼうえきが盛さかんに行おこなわれており、ミーシアンの中なかでももっとも富とみを生うみ出だしている都市としだ。

　資金しきんを使つかって傭兵ようへいを雇やとえば、人口じんこうでは負まけていても兵へい数すうでは負まけずに戦たたかえるかも知しれないな。

　問題もんだいは残のこりの大都市だいとしマサと、ベルツドの領主りょうしゅがどちらに付つくかである。

　この二ふたつの領主りょうしゅがどちらに付つくかまだ私わたしは知しらない。今回こんかいの挙兵きょへいでどう動うごくか、早はやいうちに見極みきわめる必要ひつようがあるな。

「アルス様さま、ルメイル様さまより書状しょじょうが届とどいております。恐おそらくカナレ城じょうへ登城とじょうせよとの事ことでしょう」

　リーツがそう報告ほうこくしてきた。

　読よんでみると、リーツの予想よそう通どおりだった。

「やはりそうなるか。カナレ城じょうでは何なにを話はなし合あうのだろうか」

「恐おそらく戦せんの戦略せんりゃくについてですかね。もしかしたら、クラン様さまより指示しじを貰もらっているかもしれません」

「ふむ、今回こんかいの戦せんでカナレ郡ぐんとしては、どう動うごくことになるだろうか……」

「そうですね。状況じょうきょう次第しだいというしかないでしょうね。現時点げんじてんでミーシアン西側にしがわの領主りょうしゅたちがどちらにつくのか、分わかっておりませんし。ただマサ郡ぐん長ちょうが弟おとうとの方ほうに着つくとなれば、中なか々厄介やっかいなことになるかもしれませんね」

　西にしの大都市だいとしマサがある、マサ郡ぐんはカナレ郡ぐんとも領地りょうちが少すこしだが接せっしている場所ばしょにある。場所ばしょはカナレ郡ぐんの北東ほくとう方向ほうこうだ。

　カナレ郡ぐんの数すう倍ばいの規模きぼを誇ほこる郡ぐんであり、まともに戦たたかっても勝かち目めは薄うすい。

　カナレ郡ぐんの東ひがし隣となりにあるペレーナ郡ぐんは弟おとうとに付つくという情報じょうほうがあるし、仮かりにマサが弟おとうとに付つくとなると、カナレ郡ぐんも弟おとうと側がわに付つかざる得えない状況じょうきょうになるだろう。

「まあ、カナレ城じょうに行いけばどういう状況じょうきょうかはある程度ていど知しることができるか。これが私わたしの領主りょうしゅとしての初はつ仕事しごとになるな」

「そうですね。まあ、以前いぜん代理だいりで行いかれているので、初はじめてと言いう感かんじはしませんがね」

「そうだな」

　以前いぜんの話はなし合あいは簡単かんたんなものだったので、今回こんかいはだいぶ複雑ふくざつなやりとりをする可能かのう性せいが高たかいから、やはり初はじめての仕事しごとみたいなものであるが。

「そうだ。町まちに行いくが、この前ぜんリーツの言いっていた『シャドー』という傭兵ようへい団だんと、コンタクトを取とることはできるか？」

　父ちちが亡なくなり領主りょうしゅになったため、傭兵ようへいを雇やとうか雇やとわないかの判断はんだんは、これからは私わたしが行おこなう。

　何人なんにんかの兵へいたちに、情報じょうほう収集しゅうしゅう役やくとして訓練くんれんは積つませているが、やはり時間じかんがかかるので今いますぐにでも情報じょうほう収集しゅうしゅう役やくが欲ほしいと思おもっていた。

　これからどうするか考かんがえれば考かんがえるほど、やはり情報じょうほうが必要ひつようだと思おもってくる。どれだけ知略ちりゃくの高たかいものがいても、情報じょうほうがなければ適切てきせつな判断はんだんをすることは出来できない。

「カナレの町まちからコンタクトを取とることは可能かのうですよ。しかし、彼かれらは金かねだけで動うごくタイプではないので、雇やとえるかどうかは分わかりません」

「傭兵ようへいなのに金かねだけで動うごかないのか？」

「ほとんどの傭兵ようへい団だんは報酬ほうしゅう次第しだいですが、稀まれにそうじゃない傭兵ようへい団だんもいますよ。シャドーの団長だんちょうは変かわり者ものですから、どういう基準きじゅんで選えらんでいるのかはよく分わからないんですがね」

「そうなのか。とにかく雇やといたいから、カナレ城じょうで話はなしを聞きいた後のち、私わたしをシャドーの団長だんちょうと会あわせてくれ」

「了解りょうかいしました」

　その後ご、私わたしは同行どうこうするものを選えらぶ。

　前回ぜんかいと同おなじくリーツとシャーロットと何なん名めいかの家臣かしん、そして今回こんかいはロセルも連つれて行いくことにした。

　今回こんかいは本格ほんかく的てきな軍ぐん議ぎが行おこなわれる可能かのう性せいもある。

　ロセルが良よい意見いけんを言いってくれる、と思おもっているわけではなく、将来しょうらい軍師ぐんしになるなら早はやいうちに経験けいけんを積つませたい、と思おもったから連つれて行いくことにした。

　私わたしは家臣かしんたちと共ともに屋敷やしきを出でて、カナレ城じょうへ向むかった。