「残存ざんそんマッシュルーム、あと二に機きです！　ガンマ線がんませんを突破とっぱしました！」

　司令しれい室しつの緊張きんちょうは最高潮さいこうちょうに達たっしていた。次々つぎつぎと撃墜げきついされていく様子ようすに期待きたい感かんが高たかまっていたけれど、やはり全ぜん機きが撃墜げきついされないことには安心あんしんできない。

「デルタ線せんも突破とっぱされましたっ！」

「機雷きらいを射出しゃしゅつしろ！　迎撃げいげきミサイル発射はっしゃ！　絶対ぜったいに撃うち落おとせぇぇっ！！」

　クェンティンが大声おおごえで指示しじする。先さきの破壊はかい力りょくを見みてしまっては冷静れいせいに対処たいしょできるはずもなかった。

「一いち機きは撃墜げきつい！　残のこる一いち機きは基地きち側面そくめんを通過つうかしていきます！」

　集中しゅうちゅう砲火ほうかを浴あびせ難なんなく一いち機きを撃墜げきつい。だが、最後さいごの一いち機きは操縦そうじゅうを誤あやまったらしく、イプシロン基地きちの正面しょうめんまで旋回せんかいしきれない。

「マッシュルーム起爆きばく！　揺ゆれますっ！！」

　ところが、最後さいごのマッシュルームは基地きち側面そくめんで爆発ばくはつ。明確めいかくなダメージを与あたえられないと分わかっていただろうに起爆きばくしてしまう。

　爆発ばくはつ地点ちてんはそれなりの距離きょりがあったはず。しかし、イプシロン基地きちは再ふたたび激はげしい揺ゆれに襲おそわれている。

「被害ひがい報告ほうこく急いそげ！　近隣きんりん区画くかくの隔壁かくへきを閉鎖へいさしろ！」

「ＩＰＶ００８８から００９６の区画くかくが巻まき込こまれました！　被害ひがい規模きぼは壊滅かいめつ！　隣接りんせつ区画くかくにも多大ただいなるダメージ！」

　距離きょりがあったというのに被害ひがいは深刻しんこくだった。八やっつの区画くかくが吹ふき飛とび、隣接りんせつ区画くかくも無事ぶじではない模様もようだ。

　クェンティンはらしくない憂鬱ゆううつな表情ひょうじょうをして小ちいさく顔かおを振ふった。この度たびの戦闘せんとうは前回ぜんかいとまるで異ことなっている。戦況せんきょうこそ有利ゆうりに運はこんでいたけれど、受うけた被害ひがいは次つぎ戦せんを考かんがえられないほどに甚大じんだいであったのだ。

「アーチボルト……。次つぎ戦せんはあると思おもうか？」

　弱気よわきとも取とれる発言はつげんが小ちいさく伝つたえられた。現状げんじょうは彼かれにできる全すべてを出だし尽つくした結果けっかである。けれど、それは彼かれにとって受うけ入いれ難がたいものであった。

「自爆じばくを強要きょうようするくらいですからね……。話はなし合あいで解決かいけつするとは考かんがえにくいです。統轄とうかつ本部ほんぶには現状げんじょうの被害ひがいと補充ほじゅうの要請ようせいを伝つたえました。次つぎが同おなじような大戦たいせんとなったとき、我々われわれはもう守護しゅごしきれないだろうと……」

「助たすかる……」

　アーチボルトはＧＵＮＳ統轄とうかつ本部ほんぶと通信つうしんしていたようだ。艦隊かんたい６０２１隻せき、航こう宙ちゅう機きの総そう機き数すう九きゅう万まん以上いじょうという大だい軍勢ぐんぜいを相手あいてにした結果けっかを正確せいかくに伝つたえていた。

　嘆息たんそくするクェンティンにアーチボルトは掛かけるべき言葉ことばを探さがしている。だが、口くちをついたのは慰なぐさめの言葉ことばではなく、他愛たあいもない話はなしだった。

「私わたしは幼少ようしょうの頃ころ、並行へいこう世界せかいがあるものと信しんじていました。並行へいこう世界せかいはあらゆる銀河ぎんがに存在そんざいしている。一ひとつ一ひとつの銀河ぎんがに少すこしずつ異ことなった世界せかいがあると考かんがえていたのです」

　雑談ざつだんにしては唐突とうとつすぎる。また参謀さんぼうである彼かれが関係かんけいのない話はなしをするとは考かんがえられない。

「まさか貴様きさまはカザインがそれだというつもりか？」

　直すぐに察知さっちし、クェンティンが眉まゆを顰しかめた。ただでさえ解決かいけつすべき問題もんだいが山積さんせきしていたというのに、つまらぬ話はなしに付つき合あおうとは思おもえない。

「遠とおく離はなれた銀河ぎんがにあり、人類じんるいと瓜ふり二ふたつ。ゲノム解析かいせきでは９９．９９％同一どういつであると判定はんていがでています。幼おさなき日ひに考かんがえた私わたしの推論すいろんはあながち否定ひていできないのではないですかね？」

　ニヤリとするアーチボルトに、クェンティンはフンと鼻息はないきを鳴ならす。だが、表情ひょうじょうには少すこしだけ笑えみが戻もどっていた。

「貴様きさまは顔かおに似合にあわずロマンチストだったのだな？」

「顔かおのことはお互たがい様さまでしょうに……」

　気きの利きいた返かえしにクェンティンはクックと笑わらい声ごえを漏もらす。本当ほんとうにどうでも良よい話はなしであったが、何なんだか思考しこうをリセットできた気分きぶんだ。

「戦線せんせんを押おし上あげろ！　補給ほきゅう明あけの小隊しょうたいは前線ぜんせんへと入いれ！　一気いっきに勝負しょうぶを決きめるぞ！」

　どうやらクェンティンも吹ふっ切きれたようだ。今いま考かんがえるべきことは次つぎなる交戦こうせんについてではなく、この一いち戦せんの被害ひがいを少すこしでも抑おさえること。いち早はやく戦闘せんとうを終結しゅうけつさせることに違ちがいなかった。

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