無敗でWBA世界フェザー級の新王者となったニック・ボール陣営が井上尚弥に挑戦状を叩きつけた(写真・ロイター/アフロ)
(RONSPO)
プロボクシングのスーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(31、大橋)にまた新たな挑戦状を叩きつけるチャンピオンが現れた。WBA世界フェザー級の新王者になったばかりのニック・ボール(27、英国)だ。米専門サイト「ボクシング・シーン」が報じたもの。ボールは6月1日(日本時間2日)にサウジアラビアで開催されたビッグイベントでWBA世界フェザー級王者のレイモンド・フォード(25、米国)に挑戦して2−1判定で勝利したが、陣営のヘッドトレーナーであるポール・スティーブンソン氏が「この先本当にやりたいのは井上尚弥だ。ニックは彼を動揺させることができる」と豪語したもの。陣営はフェザー級のタイトルを統一して井上が転級してくるのを待ちたいという。
ボールは超好戦的な突貫ファイターでフェザー級で2団体統一を目指している
またしてもモンスターへの挑戦状が届いた。今度は1階級上のWBA世界フェザー級王者になったばかりのボールだ。
ボールが拠点としている「エバートン・レッド・トライアングルジム」のヘッドトレーナーを長年務めているスティーブンソン氏が、米専門サイト「ボクシング・シーン」のインタビューに答えて、今後の計画について、こう明かした。
「ニックに本当に戦ってもらいたいのは井上尚弥だ。私たちが、今後のニックの戦いを計画する上で、井上尚弥との戦いが最大の戦いになるだろう」
スティーブンソン氏がボール陣営を代弁する形で挑戦状を叩きつけた。
ボールは20戦19勝(11KO)1分けと無敗を誇り、1m57とフェザー級にしては小さい体でガンガンぶつかってくる“突貫ファイター”。6月1日(日本時間2日)にサウジアラビアで行われた英国2大大手プロモーション「マッチルーム」と「クイーンズベリー」の所属ボクサーによる「5対5対抗戦」に「クイーンズベリー」代表として出場。無敗の王者だったフォードに挑戦して、序盤から攻め続けて圧倒。終盤に挽回され、最終回には右フックのカウンターやアッパーをもらって危ない場面もあったが、最後まで手を出し続けて2−1の僅差判定で勝利して念願の世界のベルトを腰に巻いた。
「ボクシング・シーン」によると、スティーブンソン氏は、どこからでも攻撃のできる超好戦的スタイルのボールと、まるで外科医のように精密な攻撃力を持つ井上との戦いは、互いに正面で殴り合うことになって“噛み合う”と見ており、「どんな戦いになるだろうね。おそらく爆発的な展開になるだろう」と予測する。
そして同氏は「井上は今のボクシング界で最高の選手だ」と認めた上で、こう豪語した。
「ニックは井上を動揺させる大きなチャンスを持っていると思う。我々は彼を信じている」
将来的に井上が転級してくるのをフェザー級王者として待ち受けることになるのだが、その前に進めておきたい構想がある。WBC世界同級正規王者レイ・バルガス(メキシコ)との統一戦だ。
この3月にサウジアラビアで開催された元ヘビー級3団体統一王者アンソニー・ジョシュア(英国)VS総合格闘技「UFC」の元ヘビー級王者フランシス・ガヌー(カメルーン)の異色マッチのアンダーカードでバルガスのWBC王座に挑戦。8回、11回と2度ダウンを奪いながらも三者三様のドロー判定となり、王座奪取の機会を逃していた。陣営は、この試合は「勝っていた」とみなしており、統一戦としてバルガスとの再戦を求めている。
また昨年11月には元WBO世界スーパーバンタム級王者でWBCフェザー級の2位だったアイザック・ドグボエ(ガーナ)を3−0判定で下しており、スティーブンソン氏は、ボールのフェザー級最強論を主張する。
「ニックは、この12週間で2人の世界チャンピオンと戦ってきた。バルガスはフェザー級で最高峰の1人して広く認められているボクサーだ。フォード戦ではアンダードックとして扱われたが、彼は素晴らしい仕事をした。ニックは2人をこてんぱんにやっつけた。ヘンリー・アームストロングの時代以来、このようなボクサーは見たことがない。まして今のイギリスのボクシング界にそういうボクサーはいない」
陣営では、バルガスとの再戦を実現してフェザー級の2団体統一王者となった上で井上を待ち受けたいと考えている。
井上の転級を巡っては、IBF世界同級王者のルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)が、自ら「ドリームファイト」と称したフェイクポスターを作ってXに投稿するなどして挑戦状を叩きつけている。
ロペスをプロモートしているトップランク社のボブ・アラム氏も、フェザー級転級の際の最有力対戦候補としてロペスの名前をあげていた。だが、井上がスーパーバンタム級に転級した際にWBCとWBOの2つのベルトを持っていたスティーブン・フルトン(米国)に挑戦したように、もしボールがフェザー級の2つのベルトを持っていれば、有力候補になるのは間違いない。
「ボクシング・シーン」も「誰もが認めるスーパーバンタム級のチャンピオン(井上)が最終的にフェザー級にステップアップした場合、ボールが“井上を126ポンド(フェザー級)で待っている男”になる可能性が高まっている」との見解を伝えた。
スティーブン氏は、こう夢を語った。
「井上とニックの2人は今ボクシング界で最高の存在だ。もちろん私たちも井上のような選手を目指しているが、2人のアプローチは似ている。決してナンセンスじゃない。彼はただ、そこに入り、ベストの相手(井上)と戦い、そして(我々は)戦いを見守る。その戦いでは井上とニックの心が通じ合うことになるだろう。それは素晴らしいことだよ」
だが、一方で井上は、まだフェザー級への転級は決断しておらず、転級を求める海外の世論や、上の階級のボクサーから次から次へと舞い込む挑戦状に対して、ある意味、気分を害している。
「それに関しては言いたいことが色々ある。スーパーバンタム級に敵がいないから(階級を)上げろ!というのもおかしい。そんなに対戦したいならおまえらが(階級を)下げてこいという話だし、ボクシングは階級制のスポーツなんだから自分にも限界はある。フェザー級にいく準備はしているが、そこ(いつのタイミングか)はまだなんとも言えない」
今なおパウンド・フォー・パウンド1位論争が噴出するなどしている井上の強さと、軽量級では異例とも言える高額なファイトマネーは階級の枠を超えて世界のボクサーの垂涎の的となっている。井上は9月に元IBF世界スーパーバンタム級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)と防衛戦を行うことが濃厚だ。