御伽おとぎ創そう思おもえ

 とある世界せかいのおはなし。 オフィス街がいの片隅かたすみに無口むくちな大将たいしょうの居酒屋いざかやがあった。 カウンターしかない小ちいさな居酒屋いざかやだが、常連じょうれん客きゃくも多おおくけっこう繁盛はんじょうしていた。 ある日ひ、２０代だいらしき男女だんじょが訪おとずれた。 カウンターの端はしに座すわり、まずはのビールを注文ちゅうもんした後のち、女おんなのほうが「彼氏かれしができた」と話はなしはじめた。 男おとこ友達ともだちは「それはおめでとう」と嬉うれしそうに祝福しゅくふくしたが、彼氏かれしの名前なまえを聞きいて表情ひょうじょうが曇くもった。 女おんなはそれに気きづかないのか、新あたらしい彼氏かれしがどれほど素晴すばらしいか話はなし続つづける。 たまりかねた男おとこ友達ともだちは「あいつはよせ」と話はなしを止とめ、その彼氏かれしを以前いぜんから知しっているが、どれほどひどい奴やつか見聞みききしてきたことを語かたった。 しかし女おんなは「そんなことはない」「私わたしには違ちがう」と反発はんぱつする。男おとこ友達ともだちはなんとか説得せっとくを試こころみ、次第しだいに雰囲気ふんいきも悪わるくなり、女おんなは黙だまってうつむいてしまった。 それからあまり時間じかんもたたないうちに二に人にんとも帰かえってしまった。 それから数日すうじつ後ご、女おんなは別べつの女おんな友達ともだちと来店らいてんした。 前回ぜんかいと同おなじようにカウンターの端はしに座すわり、女おんなのほうが「彼氏かれしができた」と話はなしはじめた。 女おんな友達ともだちも「やったー、おめでとう」と嬉うれしそうに祝福しゅくふくしたが、彼氏かれしの名前なまえを聞きいて表情ひょうじょうが曇くもった。 女おんなはそれに気きづかないかのように、新あたらしい彼氏かれしがどれほど素晴すばらしいか話はなし続つづける。 たまりかねた女おんな友達ともだちは「その人ひとはやめたほうがいい」と話はなしを止とめ、その彼氏かれしを以前いぜんから知しっているが、どれほどひどい奴やつか見聞みききしてきたことを語かたった。 しかし女おんなは「そんなことはない」「私わたしには違ちがう」と反発はんぱつする。女おんな友達ともだちはなんとか説得せっとくを試こころみ、次第しだいに雰囲気ふんいきも悪わるくなり、女おんなは黙だまってうつむいてしまった。 それからあまり時間じかんもたたないうちに二に人にんとも帰かえってしまった。 さらに数日すうじつ後ご、女おんなは別べつの男おとこ友達ともだちと、また数日すうじつ後ご、さらに別べつの女おんな友達ともだちと訪おとずれた。 そしてカウンターの端はしに座すわり「彼氏かれしができた」と話はなしはじめた。 どの友達ともだちもはじめは嬉うれしそうに祝福しゅくふくするが、彼氏かれしの名前なまえを聞きくと表情ひょうじょうが曇くもる。 そして彼氏かれしとの付つき合あいを止とめようとするが、女おんなは黙だまってうつむいてしまい、あまり時間じかんもたたないうちに帰かえってしまう。 だがその数日すうじつ後ごに来きた別べつの女おんな友達ともだちは違ちがった。 いつものようにカンターの端はしに座すわり「彼氏かれしができた」と聞きいて祝福しゅくふくするのは同おなじだが、彼氏かれしの名前なまえを聞きいても「イケメンだね」「優やさしそうでいいな～」と調子ちょうしを合あわせる。 女おんなもこれまでとは違ちがい嬉うれしそうに彼氏かれしがいかにいい人じんかを話はなし続つづけた。 しばらくして女じょ友達ともだちがトイレ

  とある世界せかいのおはなし。 お金かねの好すきな王様おうさまがいました。城しろの中なかに貯ためられたお金かねを眺ながめて、いつも嬉うれしそうに笑わらっていました。 そしてもっと貯ためたくて、なにかと理由りゆうをつけて民みんからお金かねを取とり立たてます。 道みちをつくるからと税ぜいを取とり、耕作こうさく地ちを広ひろげるからと税ぜいを取とり、城しろをなおすからと税ぜいを取とりました。   でも道みちをつくり終おわっても、別べつの道みちをつくるからと税ぜいを取とり続つづけます。 耕作こうさく地ちを広ひろげ終おわっても、別べつの耕作こうさく地ちを広ひろげるからと税ぜいを取とり続つづけます。 城しろをなおし終おわっても、別べつの場所ばしょをなおすからと税ぜいを取とり続つづけます。 それどころか、また別べつの理由りゆうで新あたらしい税ぜいを取とり立たてます。おかげで民みんは、どんなに働はたらいてもほとんど税ぜいで取とられてしまいます。   これでは勤勉きんべんで働はたらき者ものの民みんたちも疲つかれてしまい、どんどん国くにを捨すてて逃にげてしまいました。 おかげで民みんは減へっていき、王おうに納おさめられる税ぜいも少すくなくなっていきます。 「民みんが減へってはお金かねが貯たまらないではないか！　もっと民みんを増ふやさねば」 そこで外国がいこくから人ひとを呼よび込こめば民みんが増ふえると考かんがえました。外国がいこくから人ひとが来きやすいように、３年間ねんかんは無税むぜいにしました。 その費用ひようを賄まかなうため、また新あらたな税ぜいを取とり立たてました。   おかげでさらに民みんは逃にげ出だし、どんどん人ひとは減へります。 また外国がいこくから来きた人ひとたちも、無税むぜいの期間きかんが終おわれば国くにに帰かえっていきました。 結局けっきょく、この国くには民みんが減へり、税ぜいを納おさめる人じんがいなくなり、王様おうさまは貧まずしくなってしまいました。   一方いっぽう、逃にげ出だした民みんが移うつり住すんだ先さきの王おうは、とにかく子供こどもが好すきな王おうでした。子供こどもたちが幸しあわせに暮くらせるよう考かんがえていました。 親おやも子育こそだてで働はたらけないだろうと、国庫こっこを開ひらき援助えんじょしました。おかげで親おやたちは安心あんしんして子育こそだてできます。 だからどんどん子供こどもが増ふえていきました。   １０年ねん後ご、２０年ねん後ご、その子供こどもたちも大人おとなになり、一生懸命いっしょうけんめい働はたらきます。ひとりひとりが納おさめる税ぜいはわずかでも、たくさんの人ひとが納おさめればたくさんのお金かねになります。 また若わかい人ひとほどよく働はたらき、よく買かい物ものもするので、国くに全体ぜんたいが活気かっきのある豊ゆたかな国くにになっていきました。 王おうは増ふえた税収ぜいしゅうをまた子供こどもたちのために使つかい、また人ひとが増ふえ、豊ゆたかになり、気きが付つけば周辺しゅうへんでいちばん大おおきな国くにとなっていました。

 とある世界せかいのおはなし。 若わかきIT起業きぎょう家かは考かんがえた。 「選挙せんきょの投票とうひょうをスマホからできれば若わかい人ひとの投票とうひょう率りつが上あがる！」 さっそく試作しさくアプリの開発かいはつをはじめた。 成なりすましでの投票とうひょうを防ふせぐため、マイナンバーと生年月日せいねんがっぴを利用りようしようと考かんがえた。 投票とうひょうした結果けっかを役所やくしょの住民じゅうみんデータと照合しょうごうすれば、投票とうひょう権けんを持もつ人ひとの判別はんべつもでき、集計しゅうけいも瞬しばたく間あいだに終おわり予算よさん削減さくげんにもつながる。 これは一石二鳥いっせきにちょうだと考かんがえた。 若わかきIT起業きぎょう家かはこれを地域ちいきの選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かいに売うり込こんだ。 担当たんとう者しゃは提案ていあんをひととおり聞きき呟つぶやいた。 「同おなじ人じんが何なん度ども投票とうひょうできちゃうじゃない」 「２回かい投票とうひょうできないようロックできますし、最後さいごの投票とうひょうを有効ゆうこうにするルール設定せっていもできます」 「スマホの画面がめんの名前なまえだけで投票とうひょうするって、正まさしく選えらべるとは思おもえないな」 「候補者こうほしゃの名前なまえとサイトをリンクすれば、その場ばでどういう人じんかも確認かくにんでき、よりよい選択せんたくができます」 「サイト？　リンク？？　まあしかし、若わかい人ひとが投票とうひょうするかね」 「投票とうひょう所しょに行いかなくてもよいので投票とうひょう率りつは上あがると思おもいます。もし投票とうひょうした人ひとにマイナポイント等とうを付与ふよすれば、より高たかい効果こうかが期待きたいできます」 「マイナポイントは私わたしの管轄かんかつじゃないから…まあしかし、マイナンバーを使つかうって適当てきとうに入力にゅうりょくして当あたったらどうするの」 「マイナンバーは１２桁けた1兆ちょうパターンあります。これに誕生たんじょう日びの月日つきひ３６５パターンを組くみ合あわせれば、３６５兆ちょうパターンとなり『適当てきとう』は無視むしできる確かく率りつです」 「そうは言いってもねえ…そういえばスマホ投票とうひょうで個人こじん情報じょうほうが漏洩ろうえいしたら大変たいへんだよ」 「投票とうひょう結果けっかはクラウド上じょうに保管ほかんされますが、マイナンバー１２桁けたと誕生たんじょう年月としつき４桁けたの組くみ合あわせで個人こじんを特定とくていすることは不可能ふかのうです。この投票とうひょうデータをコピーし、ネットと切きり離はなされた役所やくしょ内ないで住民じゅうみんデータと照合しょうごうし、投票とうひょう結果けっかを集計しゅうけいすれば問題もんだいありません」 「しかしね、それでも漏洩ろうえいしたらどうするんだ」 「３６５兆ちょうパターンから個人こじんを特定とくていするなど、そもそも個人こじん情報じょうほうが漏もれていなければ不可能ふかのうです。なので住民じゅうみんデータが漏洩ろうえいしていないかげりありえません」 「それでも、それでもだよ、漏洩ろうえいしたらどうするんだ」 「それは事前じぜんに漏洩ろうえいがあったことが前提ぜんていです。事前じぜんに漏洩ろうえいしていたことが大だい問題もんだいです」 「しかし人ひとがやることだから……そうだ！　これ誰だれが誰だれに投票とうひょうしたかわかっちゃうんじゃない。そんなことできるとマスコミが黙だまってないよ」 「それはコンプライアンスの問題もんだいで

 とある世界せかいのおはなし。 中央ちゅうおうから離はなれた貧まずしい村むらがあった。日々ひびどうにか暮くらしていたが、およそ娯楽ごらくや贅沢ぜいたくとは縁遠えんどおい村むらだった。 どの家いえもお金かねはなく、なにかあればたちまち食たべる物ものにも困こまる状態じょうたいだった。 その為ため、困こまっている家いえがあると『明日あしたは我わが身み』と村人むらびとたちは助たすけあった。 なにか不足ふそくしている家いえがあれば、皆みなで持もち寄より貸がし与あたえた。子こどもは村人むらびと全員ぜんいんで育そだてた。病気びょうきや年老としおいて働はたらけない者ものがいれば当番とうばんを決きめ世話ぜわをした。 おかげで村人むらびとたちには『何なにかあっても皆みなが助たすけてくれる』という安心あんしん感かんはあり、人々ひとびとは不安ふあんなく明あかるく、そんな大人おとなたちのした子こどもたちも笑わらっていた。 ある男おとこが村むらを出でて中央ちゅうおうへと移うつり住すんだ。 継つがせる財産ざいさんがない家いえでは、子供こどもが村むらを出でて生計せいけいを立たてるのはよくあることだった。 それから月日つきひが流ながれ、男おとこは中央ちゅうおうで成功せいこうし帰省きせいした。幼おさないころ面倒めんどうを見みてくれた村むらの人々ひとびとにも多おおくの土産みやげを持もって帰かえった。 村人むらびとたちは『立派りっぱになった』『村むらの誇ほこりだ』と口々くちぐちに褒ほめたたえ喜よろこんだ。 喜よろこんでもらうと男おとこも嬉うれしくなる。さらに仕事しごとに精せいを出だし、成功せいこうし、土産みやげを持もっては帰省きせいするようになった。 以前いぜんの男おとこのように、村むらを出でる若者わかものがいれば中央ちゅうおうで住すむ場所ばしょや働はたらく先さきを世話せわした。 中央ちゅうおうの役人やくにんに働はたらきかけ、村むらに新あたらしい道みちを引ひいたり、病院びょういんを建たてたりもした。 私財しざいを投なげうち工場こうじょうを建たて、若者わかものが村むらを離はなれなくても働はたらける場所ばしょを造つくった。 村むらの生活せいかつは格段かくだんに豊ゆたかになり、人々ひとびとは『まるで天子てんし様さまだ』と男おとこに感謝かんしゃした。 生活せいかつが豊ゆたかになると、村人むらびとたちは多少たしょうの貯たくわえもつくれるようになった。 お金かねを貯ため、必要ひつような物ものや欲ほしい物ものを買かうようになった。 するとされに別べつの欲ほしくなり、それが次つぎのやる気きとなり、さらに稼かせごうと働はたらいた。 おかげでますます豊ゆたかになり、いつしか男おとこの手てを離はなれ自力じりきで発展はってんしていったが、忙いそがしさのあまり、徐々じょじょに周囲しゅういの人ひとを気きにしなくもなっていた。 その後ごも村むらは発展はってんし続つづけ、すでに多おおくの村人むらびとが必要ひつような物もの、欲ほしい物ものを手てに入いれていた。 各かく家いえで持もっている物ものの差さはほとんどなく、以前いぜんんのように貸かし借かりをすることもなくなっていた。 それでも『何なにかあったら』と人々ひとびとはお金かねを貯ためつづけ、いつしか貯ためるために働はたらくようになっていた。 気きが付つくと村人むらびとたちは『あの家いえは稼かせいでいる』『この家いえは貯ため込こんでいる』と噂うわさするようになっていた。 一所懸命いっしょけんめいに働はたらいているのに陰かげで噂うわさされると気分きぶんが悪わるくなる。噂うわさされた家いえは徐々じょじょに距離きょりをおくようになる。 する

 とある世界せかいのおはなし。 少年しょうねんは軍ぐんに入はいり短たん槍やり隊たいに配属はいぞくされた。 この世界せかいの戦争せんそうは、弓ゆみ隊たいが矢やを射いかけ敵てきの動うごきを止とめ、その間あいだに長ちょう槍やり隊たいが横よこ一いち列れつに前進ぜんしんして距離きょりを詰つめ、騎馬きば隊たいが突撃とつげきして敵てきの陣形じんけいを崩くずし、短たん槍やり隊たいが接近せっきんで仕留しとめる流ながれになっている。 騎馬きば隊たいと短たん槍やり隊たいは敵てきとの距離きょりも近ちかく危険きけんでもあるが、そのぶん花形はながたともいえた。 そんな短たん槍やり隊たいの中なかでも、少年しょうねんが配属はいぞくされた部隊ぶたいの隊長たいちょうは小柄こがらで優やさし気き、およそ軍人ぐんじんのイメージからは遠とおい雰囲気ふんいきの持もちぬしだった。 訓練くんれんこそ他たの部隊ぶたいより厳きびしいが、いつも隊員たいいんを気きにかけ、およそ怒おこったり怒鳴どなったりするところを見みたことがない。 その為ためか先輩せんぱい隊員たいいんたちも気きさくな人ひとが多おおく、少年しょうねんもすぐ馴染なじみメキメキ腕うでをあげ、若手わかてのホープとして期待きたいされるようになった。 そんな少年しょうねんにはひとつ悪わるいクセがあった。槍やりを横よこに持もってしまうのだ。 槍やりは使つかう時とき以外いがいは縦たてに持もち、穂先ほさきを上うえに向むける。これは周囲しゅういの人ひとに穂先ほさきが触ふれ傷きずつけないようにするため鉄則てっそくだ。 少年しょうねんも当然とうぜん理解りかいしており、普段ふだんから意識いしきもしている。しかし疲つかれたり、ふと意識いしきが緩ゆるんだ瞬間しゅんかん、つい横よこに持もってしまう。 隊長たいちょうから何なん度ども縦たてに持もつよう言いわれ、先輩せんぱいたちからも注意ちゅういされる。罰ばちとして腕立うでたてやランニングを課かせられることもあったが、それでもなかなか直なおらないまま数すうヵ月かげつが過すぎた。 ある日ひ、厳きびしい訓練くんれんを終おえヘトヘトになった時とき、またつい横よこに槍やりを持もってしまった。 その途端とたん、いつも優やさし気きな隊長たいちょうが鬼おにの形相ぎょうそうで駆かけ寄より少年しょうねんを殴なぐり飛とばし『いい加減かげん、槍やりを横よこに持もつことを覚おぼえろ！』と怒鳴どなった。 少年しょうねんはもんどりうって地面じめんに転ころがったが、慌あわてて立たちあがると槍やりを縦たてに持もち謝罪しゃざいした。 隊長たいちょうが立たち去さったあと、先輩せんぱいたちが心配しんぱいして駆かけ寄よってきた。口々くちぐちに『あの隊長たいちょうを怒おこらせたのはお前まえが初はじめてじゃないか』と冗談じょうだんを言いった。 少年しょうねんも殴なぐられた痛いたみより、優やさしい隊長たいちょうを怒おこらせたことがショックだった。 それ以来いらい、槍やりを手てにするたびに隊長たいちょうの顔かおがうかび、横よこに持もつことはなくなった。 そして１０年ねんの月日つきひが流ながれた。少年しょうねんも青年せいねんとなり、幾多いくたの戦場せんじょうを生いき抜ぬいてきた。 立派りっぱな短たん槍やり兵へいとしていくつか手柄てがらも立たて、副ふく隊長たいちょうに出世しゅっせし隊長たいちょうを補佐ほさしていた。 ある日ひ、若手わかての訓練くんれん報告ほうこくを終おえた後のち、ふと槍やりを横よこに持もつクセが直なおらず殴なぐられたことを思おもい出だした。 おかげでクセがなおりましたと礼れいを言いうと、隊長たいちょうも思おもいだしてほほ笑えんだ。 「あのクセだけは何なん度ど言いっても直なおらなかったからな。クセを直じき