トム・ミッシュや奥田おくだ民生たみおのレコーディング模様もようも　宅たく録ろく／多重たじゅう録音ろくおんの今いまを伝つたえる5作さく

　今回こんかいのテーマは「宅たく録ろく／多重たじゅう録音ろくおんの今いまを伝つたえる5作さく」。新譜しんぷをキュレーションする前まえに、まずはYouTubeから二ふたつ紹介しょうかいしましょう。

　一ひとつ目めは、英えい『FACT Magazine』による「Against The Clock」。これはプロデューサーたちのスタジオ／ベッドルームにお邪魔じゃまし、10分ぶんの制限せいげん時間じかん内ないでトラック制作せいさくに挑いどんでもらうというもの。十人十色じゅうにんといろのノウハウやレコーディング環境かんきょうを覗のぞき見みしつつ、制作せいさく現場げんばに居合いあわせたかのような臨場りんじょう感かんも味あじわえる、非常ひじょうにナイスな企画きかくです。

　本稿ほんこう執筆しっぴつ時点じてんで168本ほんもアップされていますが、ここではサマーソニックに出演しゅつえんしたばかりのトム・ミッシュを。ビートを組くみ立たてて、バイオリンやギターの音色ねいろを加工かこうしたりなど、Logicを自在じざいに操あやつる姿すがたはデジタルネイティブならでは。同どう企画きかくでは他ほかにも、韓国かんこく人じんプロデューサーのYaejiが声こえを駆使くししたレコーディングを披露ひろうしたり、今いまをときめくヒップホップ／トラップ系けいトラックメイカー・Zaytovenが4分ふん足たらずでトラックを完成かんせいさせたり、出演しゅつえん者しゃの個性こせいも垣間見かいまみえるハイライトが満載まんさいです。

　二ふたつ目めは、奥田おくだ民生たみおによる宅たく録ろくプロジェクト「カンタンカンタビレ」。同氏どうしがアーティストに提供ていきょうしてきた楽曲がっきょくを、一人ひとり多重たじゅう録音ろくおんでセルフカバーしていくこの企画きかくでは、8トラックのオープンリールレコーダーTEAC 33-8を筆頭ひっとうに、往年おうねんのアナログ機材きざいをフィーチャー。マスター音源おんげんもカセットテープに収おさめる徹底てっていぶりで、古ふるき良よき宅たく録ろくの魅力みりょくをアピールしています。

　さらに、本人ほんにんの解説かいせつも交まじえつつ、各かくパートの演奏えんそう／録音ろくおん工程こうていを収おさめた動画どうががアップされているのですが、これがまたおもしろい。なかでも、防音ぼうおん対策たいさくで布団ふとんを被こうむってボーカルを録ろくる、折おりたたみ傘かさの袋ふくろやバーガー箱ばこで自作じさくした「謎なぞドラム」をプレイ、奥深おくふかいタンバリンの録ろくり方ほうなど、遊あそび心ごころと熟年じゅくねんのスキルが光ひかる“神かみ回かい”は必見ひっけんでしょう。出来上できあがった楽曲がっきょくはデジタル配信はいしんされており、それらを纏まとめたアルバム『カンタンカンタビレ』も9月がつ26日にちにリリース予定よていです。

　そんな感かんじで、ベテランが己おのれと向むき合あった力作りきさくから、若手わかてによるDIY宅たく録ろくの最新さいしんモードまで幅広はばひろくセレクトしてみました。

Spiritualized『And Nothing Hurt』

　まずは奥田おくだ民生たみおと同おない年どし（1965年ねん生うまれ）のジェイソン・ピアース率ひきいる、Spiritualizedの6年ねんぶり新作しんさく『And Nothing Hurt』から。1997年ねんのUKロック金字塔きんじとう『宇宙うちゅう遊泳ゆうえい（Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space）』を筆頭ひっとうに、サイケデリックでスペーシーな音おと世界せかいを拡張かくちょうさせてきた彼かれら。かつては100人にん超ちょうのミュージシャンを動員どういんしたりしていましたが、ニューアルバムでは予算よさんの都合つごうもあり、ジェイソンが一人ひとりで自室じしつにこもって制作せいさくを行おこなっています。

　当初とうしょはオーケストラ作品さくひんを構想こうそうしていたそうですが、理想りそうと現実げんじつの折おり合あいをつけるため、慣なれないコンピューターと格闘かくとうしつつ制作せいさくを続つづけること数カ月すうかげつ。音おとの鳴なりに徹底てっていしてこだわり抜ぬいた結果けっか、極上ごくじょうのサウンドスケープが広ひろがる一いち枚まいとなりました。とりわけ印象いんしょう的てきなのは、自身じしんの老おいや制作せいさく環境かんきょうの変化へんかがもたらしたのであろう、アンニュイで哀愁あいしゅう漂ただようムード。往年おうねんのトリッピーな作風さくふうはそのままに、ミュージカルからロードムービーへと舞台ぶたいを移うつしたような“枯かれた”味あじわいがたまりません（過去かこ作さくも含ふくめて、シューゲイザー好すきにも大だい推薦すいせん！）。アルバムは9月7日にちリリースで、同月どうげつ26日にちには来日らいにち公演こうえんも控ひかえています。

デイヴ・グロール「Play」

　続つづいては、Foo Fightersのデイヴ・グロールによるソロ・プロジェクト「Play」。こちらは7種類しゅるいの楽器がっきを一人ひとりで演奏えんそうし、23分間ふんかんのインスト曲きょくを完成かんせいさせるブッ飛とび企画きかくで、彼かれは2本ほんのギターとベース、ドラム、パーカッションのほか、これまで演奏えんそうしてこなかったキーボードとビブラフォンにも挑戦ちょうせんしています。それだけでも十分じゅうぶん凄すごいのに、演奏えんそうをミスったら最初さいしょからやり直なおしという、曲尺かねじゃくを考かんがえるとマゾすぎるペナルティもあり（しかも譜面ふめんなし！）。「子供こどもが楽器がっきを覚おぼえるのと同おなじように、49歳さいになった今いまも演奏えんそう（Play）の可能かのう性せいや喜よろこびを追求ついきゅうしたかった」といったことを本人ほんにんは述のべていますが、たしかに修行しゅぎょうのようなチャレンジだといえるでしょう。

　同どう曲きょくのドキュメンタリー映像えいぞうでは、準備じゅんび段階だんかいを捉とらえた前半ぜんはんパートのあと、7人にんのデイヴがスタジオ入いりしてパフォーマンスを披露ひろう。世界せかい屈指くっしのロックドラマーであるアドバンテージを活いかしつつ、抑揚よくように富とんだ多重たじゅう録音ろくおんアンサンブルを繰くり広ひろげています。サウンドのほうはFoo Fightersの近作きんさくに通つうじる実験じっけん性せいもうっすら滲にじませつつ、組曲くみきょく形式けいしきやキーボードの響ひびきもあいまって、どこかプログレハードっぽい趣おもむきも。自身じしんが初はつ監督かんとくを務つとめた映画えいが『サウンド・シティ - リアル・トゥ・リール』もそうですが、デイヴは“音楽おんがくが簡単かんたんに作つくれる時代じだい”への問といかけをずっと続つづけていて、その音楽おんがく愛あいに溢あふれたスタンスに惚ほれ惚ぼれします。